第二話 新人合同自主トレと出会い
寮に入ってから1週間程が経過した。
お正月も過ぎてだことで冬もかなり本格化してきて、凍てつくような寒さが身を包んでいる。
そして、少し前から新人合同自主トレが始まった。
同期の選手との交流を深める目的や、プロの練習に体を慣らしていくのが目的だそうだ。
俺はというと、今回のドラフトで育成含め8人の選手が指名されたのだが、ピッチャーが俺ともう1人だったので、その人に話しかけにいったところ、とても良い人で、すぐに仲良くなることができた。
最初は寮生活に慣れる事に精一杯だったが、同僚とコミュニケーションを取るくらいの余裕は出てきた。
合同自主トレが終わると、次は2月1日から始まる、春季キャンプが待ち受けている。
待ち受けているとは言ったものの、まだ1週間ほど先の話なので、そこまで暇を持て余していた。
強いて言えば大学の課題くらいか。
個人で自主トレをしようにも、使える場所は有限で、場所が取れるかもわからない。
どうしたものかと頭を抱えていると部屋がノックされた。
急な訪問者に、体がベットから飛び起きる。
「おーい高見澤ーいるかー?」
「はい、ちょっと待ってください、今出ます」
扉を開けるとそこにいたのは同期入団の、橋本悠真さんだった。
どうして同期なのに敬語なのかって?
橋本さんは社会人出身の24歳で自分より2歳年上なのだ。
橋本さんは敬語はいらないよ、と言ってくれるのだが、タメ口だとどうも落ち着かない。
「橋本さんどうしたんですか?」
「今日練習オフだしメシでも食べにいかないか?良いところ知ってるんだよ」
とてもありがたい申し出だった大学の課題も終わらせてしまったことで、何もやることが無かったので助かった。
「良いですね、暇なので行きましょう!」
「じゃあ決まりだな準備出来次第下連絡してくれ、下のロビーで集合な」
「了解です」
特に準備することもないので10分ほどで支度を済ませて、1回のロビーに向かう。
ロビーには受付と、何人かが座れるソファーが用意されているのでそこに腰掛けながら、橋本さんの到着を待った。
このソファーふかふかでお気に入りだ
2、3分ほど待った後に橋本さんが到着した。
「悪い。待たせちゃったな」
「対して待ってませんよ。さぁいきましょうか」
少し名残惜しさもありながらソファーにお別れを告げる。
外に出ると顔が刺されるような寒さに襲われる。
「そう言えば、おすすめのお店ってどんなところですか?」
「ここから徒歩5分くらいだな、2軍球場と今いる寮の間くらいにあるな。詳しい内容はついてからのお楽しみって事で」
「結構近いんですね、そんな場所知らなかったです」
「実は俺地元がここの近くでさ、結構詳しいんだよ。
ドラフトの時も地元枠みたいな感じだったしな」
「へぇそうだったんですか。俺の地元遠いので羨ましいです」
俺の地元は名古屋で、寮があるのが横須賀なので土地勘などはからっきしだ。
他愛のない話をしているうちに、直ぐに目的の場所に辿り着いた。
「ここだな」
目的地は大通りから少し外れた路地裏にひっそりと
佇んでいるモダンな雰囲気を醸し出している木造建築の平屋だった。
看板にはカフェ、プラシッドと英語で書かれている。
周りには観葉植物などで緑に囲まれているとても落ち着いた雰囲気だった。
「よし入るか、ちなみに看板娘が結構可愛いんだよ」
「なんですかその情報、寒いので早く入りましょうよ」
「そうだな」
そう言って木製のドアを押す。
そうするとチャリンチャリンと鈴の音が響く。
店内の雰囲気はとても落ち着いていて、ゆったりとしたBGMが店内を包んでいる。
外から見えた観葉植物が、光をところどころ遮り、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「いらっしゃいませー!」
元気よく挨拶の声が店内に響く。
「お席にご案内するので少々お待ちください!」
彼女はテーブルを拭きながらこちらを視線で捉えていた。
彼女は店のチェック柄のシャツとエプロンの仕事着を身に纏っている。
そんな彼女は綺麗な長い黒髪でとても元気そうだが、少し大人びた雰囲気を纏っていた。
「橋本さん!お久しぶりです。今日はお連れの方もですか?」
「あぁ前にドラフト指名されたって話ししただろ、こいつ同期入団の高見澤勇人」
「どうもご紹介されました高見澤勇人です。どうぞお見知りおきを」
「だぁかぁらぁー高見澤ー硬いって。こうもっとカジュアルにさぁ出来のないもんなのか?」
そう言って肩をどつかれる
「いゃぁどうも落ち着かなくて……」
橋本さんに向けて「ははは」と苦笑いを向けていると彼女の方から話しかけてきた。
「高見澤君ねーよろしく!」
「私はここのカフェのオーナーの早坂渚です!よろしくお願いします!」
ばっと両手を握られ、ニコッと笑顔を向けられて反射的に目を逸らしてしまった。
その目線の先にいた橋本さんから、「な、可愛いだろ」と聞こえたような気がして、少しムカついた。




