9.星見の丘で
星見の丘は最近のハーリーのお気に入りだ。背の高い草がほとんど生えなくて、白詰草がじゅうたんのように広がっている。そこで景色をながめたり、お弁当を食べたり、お昼寝をしたり。背の低いハーリーにとって、景色を見下ろすことはなんだかとても新鮮で、飽きることがない。
今日もハーリーは小さい体をちょこまかと動かしながら星見の丘にいた。
「見つかった?」
引率役としてついてきたトーマがひなたぼっこをしながらハーリーに声をかけると、ハーリーは振り向きもせずに、
「まだ。ぜんぜんみつからないの」
と返事を返して一生懸命に四つ葉のクローバー探しを続けている。風はそよそよと二匹をあおって、やわらかい毛をなびかせた。
「小さな森の子よ、そろそろお帰り」
通りすがりに風がささやいていく。気が付けば日が少しかたむきだして、目印の丘にかかっている。
「ハーリー、じきに風が冷たくなるよ。今日はもう帰ろう」
「やだ。ぼく、よつばのクローバーをみつけるまでかえらないもん」
「すぐにみんなが家に帰ってくるよ?」
「だからなの。みせたいんだもん」
「わがまま言ってもさ、暗くなったら余計に見つからないよー」
そうはいってもハーリーは夢中でなかなか帰ろうとしないから、仕方ない、とトーマも四葉のクローバーを探し始めた。見つけないと帰ってくれそうにない。無栗と起き上がってハーリーに視線を投げたところで、ハーリーの足元に見つけてしまった。我ながらもの探しは早い方だと思いながら、ハーリーに声をかける。
「じゃあハーリー、ちょっとこっち向いて」
「なにー?」
毛玉のように丸まっていたハーリーが起き上がってトーマを振り返る。ただ、少し機嫌が悪いようだ。
「はやくしてね。ぼく、まださがしたいから」
「うん。今日のおやつはなんだと思う?」
「わかんない。かんけいないはなしはあとにしてよ」
そう言って元の姿勢に戻ろうとしたところで、トーマが見つけていた四つ葉のクローバーを目の端にとらえて、
「あった! トーマ、あったよ!」
ハーリーがはしゃいだ声を上げ、トーマは安どのため息をもらした。
「それどうするの?」
「おうちでかざるの。きれいだよね、クローバー」
ハーリーの無邪気な笑顔に、トーマの顔がほころぶ。
「よかったね。ほら、もう帰るよ」
「うん! これみんなにみせてあげるの」
嬉しそうに、ぴょこぴょことハーリーのしっぽが揺れた。
家に帰ると、早速自分のコップを出してきて、ハーリーは四つ葉のクローバーを挿すと、机の上に置いたままうっとりと眺めて、ほかのことなど目にはいらないお様子なのがトーマの失笑を買った。自分のコップに挿してしまったら、なにも飲めなくなるのにとは思ったけれど、その時になってから考えればいいかとトーマはお茶の準備を始める。やかんは大きすぎて持てないから、茶葉を出したり、お茶請けはなにがあったかなと探すのが役目で、これが結構気に入っている。その日の天気やみんなの仕事や体調に合わせて茶葉を選ぶのはとても楽しくて、喜んでもらえると嬉しさは倍増。みんながおいしいねってほほえむ顔を想像するだけでうきうきしてくる。今日もみんなが笑顔になりますように。
ああでもない、こうでもないと、トーマがお茶の缶とにらめっこしていると、勢いよく扉が開いてベリルとアランとコナーが帰ってきた。
「ただいま。あれ、ルリは?」
「まだだよ。そういえば今日はちょっと遅いね」
「あいつ、またお菓子で悩んでるのかな」
「かもしれませんね。おかげで私たちはいろんな美味しいものを食べさせてもらえるんだから、そんな言い方をしたら失礼ですよ」
「ベリル、ちょっと子供っぽいよ」
「アラン!」
「うそうそ。からかってみただけだよ」
「今日はお前のおやつ抜き!」
「ひどい~」
一気に家の中が賑やかになって、ハーリーが夢からさめたようにみんなを見つけると、
「みて! よつばのクローバーみつけたの!」
と得意満面な笑顔で迎えて、全然会話が成り立っていないのにみんながみんな、クスリと笑ってた惜しい空気が家の中でまじりあっていく。
「じゃあお茶の用意をしてルリを待ちましょう」
やかんが火にかけられて、トーマの用意した茶葉がポットに入れられる。
コンコン、とノックが聞こえたかと思うや否や、またもや勢いよくドアが開いてルリが飛び込んできた。
「遅れてごめんなさい! 今日はメープル味のグラハムクッキー持ってきたよ」
メープルシロップの味も香りもみんな大好きだから、その一言で全員がわぁと色めき立ったところで、まだ夢うつつなハーリーにルリが気付いた。
「ハーリー、なにかいいことあった?」
「あ、ルリ! みてみて! このよつばのクローバー、ぼくがみつけたの!」
「いいもの見つけたね。みんなが幸せになれるのかな?」
「うん。ぼくがみんなにしあわせをあげるの!」
嬉しそうにしているハーリーは本当に天使のようで、見ているとこっちまでうれしくなってくる。
「ありがとう。このままだとお茶が淹れられないよ。どうする?」
「みんなにみてもらったし、ぼくもじっくりみたから、こうするの」
そう言ってクローバーをコップから取り出すと、そのままひょいと口の中へ放り込んで食べてしまった。
「このままにしておくと、かれちゃうでしょ。だからこのしあわせをぼくがたべてからだにいれて、みんなのしあわせがつづくようにおいのりするの」
「ハーリーは優しいね。ありがとう」
ルリがハーリーを抱き上げてそっと抱きしめると、ハーリーは嬉しそうに頬ずりしてくれる。
「ルリ、だいすき」
「あたしも大好き」
ハーリーのふわふわの怪我ほほにくすぐったいくらい優しくふれてきて、ずっと抱きしめていたくなる。
「ほらほらふたりとも、お茶がはいりましたよ。ハーリーのコップをください」
お茶の香りがほんのりと家の中に充満していた。




