02:夏の夜の出会い(その2)
嬉しそうに話すアランを見て、ルリはすぐにその『星くずあつめ』をやってみたくなり、
「ねぇ、あたしにもできるかなぁ?」
と持ち掛けてみると、
「ダメダメ、この時期の星くずにも出来不出来があるからね、これはぼくじゃないと」
自慢げに話すアランに、ルリはむっとした表情を隠せなかった。
けれど、確かに自分の足元を見てみると、不思議なあわい光を放つかけらが無数にあり、それをふまずに立っていることは不可能で、大小さまざまなかけらの選別は素人には難しいのかもしれなかった。だからといって期待の『星くずあつめ』ができなくなることに納得がいくはずもなく、ルリがしょげているのを見て、アランは何をおもったのかぽてぽてと二足で歩いて、そばに置いてあったたもあみを持ち出してきた。
「ほら、これ持って」
アランの差し出したたもあみは、たもあみで、それ以外のなにものでもない。
「なにこれ」
「わからない? たもあみだよ」
「それはわかるわよ。なにに使うの?」
ルリが泣きそうな表情から立ち直ったのを見て、アランは安心すると、
「この先の池でやってほしいことがあるんだ」
と笑った。
「池?」
「うん」
よっこらしょ、と袋の口を閉めて肩にかつぐと、
「ぼくについてきてよ」
森の生き物だから四本足なのかと思ったら、人間みたいに普通に二本の足で歩きだして、アランはルリを先導し始めた。
身体の小さなアランが歩く速さというのは、やはりたかがしれていて、それにしびれを切らしてか、それとも歩くたびにゆれるしっぽと、もこもこしてやわらかそうな姿にたまらなくなったのか、
「ねぇ、あたし、あなたをだいて歩いてみたいな」
とルリがひとこと口にした。
ぴく、とアランのあゆみが止まる。
「ぼくを、だく?」
本当にきょとんとした顔でアランは振り返る。
「うん、だっこしてみたいんだ。だめかなぁ?」
にこにことルリはアランに話しかける。体はないようだと判断して、
「いいよ」
と答えたが、少しびくついているようにも見えた。アランの表情がくもったのに気が付いてルリは、
「なにかいけないこと言っちゃった?」
と不安げな顔になる。アランはただ、慣れてないから、とだけ言って、それでもおどおどとした感じでルリの方に近づいた。瑠璃はできるだけアランの視線の高さに合わせようと、しゃがみこんでアランの不安を消そうと努力してみる。
「ぼく、こういうのって初めてなんだ」
笑顔で手を広げて迎えるルリにアランは言うと、おとなしく抱かれた。するといきなり瑠璃の中に広がる緑のイメージ。めまいさえ覚えそうなイメージに、ルリはアランが妖精の仲間であることを確信する。
わぁ、本当にぬいぐるみみたい。軽いし。
アランを抱きかかけるとルリは歩きだした。
ぽてぽてぽて。
アランはルリをつれて水晶林の奥に進んでから、腕から降ろしてもらうと歩き出した。水晶林と森の境にある池は、水晶からの光の反射を浴びてキラキラと輝いていた。月の光を浴びて水は澄んで、見なぞ尾まで見える。見たこともない風景にルリが驚いているにもかかわらず、アランは慣れた感じで足を進める。
「このあたりがいいかな」
小さな池のほとりで、アランは足を止めるとルリを振り返った。
「たもあみの出番だよ」
水晶林の奥に、小さいけれどこんな池があったなんて、とルリがあたりを見渡していると、
「ルリ、たもあみ」
アランののんきそうな声でさいそくが入った。ルリは我に返ってたもあみをにぎりなおす。
「え? ごめんごめん、これね。どうするの?」
「水面にうつった月をすくってとるんだ。そのとき、できれば一緒に近くの星もとってね」
行けと言っても本当に小さくて、ルリにとっては大したことのない大きさで、水面にうつる月もほんのすぐそばに見えるけれども
、体の小さいアランにとってみれば、たも網でもなければ届かないかもしれない。
「こわさないように、そっと取ってね。これ大事」
アランは注意をつけくわえると、にっこり笑ってルリをうながした。
「波を立てないように、そっとね」
そろり、とたもあみを池の中に入れ、月へと近づける。あみの中に月を入れると、
「そのまま、ゆっくりと引き寄せるようにしながら、近くの星もあみの中に入れて」
アランの指示が飛ぶ。ゆっくり、ゆっくりと引き寄せて、手元まで来たところであみの口をしばってアランに手渡した。すくった月が本当にあみの中に入っているのが信じられない。
「うん、はじめてにしても上出来だよ。ありがとう」
満足そうなアランの笑顔にるりはうれしくなる。
「ほんと? うれしい。やらせてくれてありがとう」
「お礼と言ってはなんだけど、明日のお茶会、ルリも来る?」
思った以上の成果に気を良くしたのか、アランが招待を口にすると、ルリは目を輝かせて大きくうなずいた。
「いいの? まぜてくれるの?」
「うん、ルリなら大丈夫だよ。僕とルリを入れても四人だけのささやかなお茶会なんで、がっかりさせるかもしれないけれど、来てくれるかな?」
無邪気な顔がルリを見る。
「うん、喜んで!」
「じゃあ、明日の晩、月がのぼるころに水晶林で待ってるね」
「わぁ楽しみ。ねぇその月どうするの?」
片手でなんとか大事そうに抱えているあみを見て、ルリはアランにたずねてみた。アランはあみの部分を握りしめて持っているので、柄の部分はどうしても引きずってしまう格好になるのがなんともかなしい。けれどそんなことはおかまいなしに、アランは満足げにあみの口をにぎりしめて、中の月と星を落とさないようにいっしょうけんめいだ。
「これ? 焼いてケーキにするんだ。一緒に救った星は砂糖と蜂蜜で煮詰めてシロップにするんだよ。食べてみたくない?」
きょとんとした顔でルリを見つめてから、すぐに笑っていう。きょとんとしているようなのは、もしかしたらこれが地の顔で、たまたまそう見えるだけなのかもしれない。
「うん! 明日、月がのぼるころね。あたし絶対に行くから、まっててね」
「わかった。ぼくもまってるね」




