01:夏の夜の出会い(その1)
夏満月前の夜、ルリは水晶林で不思議なモフモフと出会う。人語を話すモフモフとの出会いはいかに……
今夜は十四番目の月。あたしの一番好きな夜。満月のひとつ手前の、ワクワクする夜。もう十二歳なんだもの、いいよね。なんてったって、こんなに明るくてきれいなお月さまの夜なんだから!
ルリは自分に何回目かの言い訳をして家をこっそり抜け出すと、家の裏にある森の奥、水晶林に向かった。いつもは暗い夜道も、月明かりで青く照らされた道はとっても歩きやすい。
「わぁ!」
水晶林は相変わらずの光で、月の光を受けて、キラキラとそこかしこが輝いていた。反射がさらなる反射を呼び、あふれて、それだけで宝物と呼べる、ルリの大好きな光景だ。
だから夜の散歩はやめられないのよね。
くるくるとまわる瞳をそこら中に向けて、ルリは水晶林を歩いた。迷子になったような、なっていないような、不思議な気分を月はくれる。目の前にあった大水晶に手をかけて日土地機付くと、周りを見渡した。大きいものでは自分の身長くらいにもなる大水晶がたくさん生えているので、この辺りは『水晶林』と呼ばれている。森の中にあるので大人たちは入っちゃいけないと言うけれど、ルリの大好きな、秘密の場所だ。
なんで来ちゃいけないんだろう?
そんな疑問を考えたのも少しの間で、ルリは目の前の景色に見とれて、疑問なんてすぐに忘れてしまう。
もぞ。
……?
目に入る世界の隅で内科が動いた。おそるおそる視線を動かすと、やっぱり何かが動いている。
まさかおばけ? まさか、まさかよね……?
びくびくしながら視界の真ん中に置いてみると、
ぬいぐるみ?
何やらもこもこした動物が背中を向けていた。しっぽらしき丸いものもやっぱりもこもこしていて、とにかくぬいぐるみが動いているようにしか見えなかった。
「あなた、だれ?」
答えはない。もぞもぞと背中が動き、それにしたがうようにしっぽが揺れる。おまんじゅうのようなしっぽ。
「ねぇ、あなた、だれ?」
声を強くしてもう一度声をかけてみると、ようやくその動きが止まった。もそ、と背が高くなってぴょこん、と耳が見える。頭を上げたらしい。きょろきょろと見渡して、周りに誰もいないことを確認して、声をかけられているのが自分だとようやく気づいたらしく、こちらを振り向いた。日本の足で立ち、ぽてっとした体つきは、やっぱりぬいぐるみに見える。ただ、もこもこしているせいで、立っているのか、座っているのかさえわからない。この大きさだと足は短めだろう。茶色い毛におおわれた体、ただ、おなかのあたりだけは白い毛並みで、体長はルリの膝あたりくらいだろうか。ウサギに似ているけれど、それともちょっと違う。耳が短めの太ったウサギというのにも、少し無理がある。でもそれが一番近い。
か、かわいい。うーん、抱きしめたい!
それでもルリの第一印象はこれだった。
「君、ぼくがみえてるの?」
ぬいぐるみがしゃべった!
ルリは、正直座り込んでしまいたくなるほど驚きながらも、水晶にかけた手でこらえて見せた。それよりも、目の前にいる生き物への興味の方が大きかったのだ。
「見えてるの、って見えてるから声をかけたんじゃない」
ぬいぐるみ、もとい、ぬいぐるみもどきは、きょとんと瑠璃を見ていたが、すぐになにかに思い当たったようで、にこりと笑いかけてきた。
「結界はってあるんだけどなぁ。めずらしいんだよ、ぼくが見えるのって。結界に入ってこれたってことは、君、お仲間だね?」
「あなただれ? ここでなにしてたの?」
見たこともない生き物に出くわしたというのに、逃げ出さない女の子を目の前にして、ぬいぐるみもどきはどうしようかと考えたかのように見えたが、すぐにルリの言葉に反応を返してきた。
「ぼく? ぼくはアラン。仲間とひっそり暮らしてる。仲間内ではアランって呼ばれてるんだ。で、人に名前を聞くときは自分から名前を言うものじゃないの?」
さりげないアランの言葉に、ルリははっとしながら、
「失礼。あたしはルリ」
と名乗り、続けて、
「アラン、ここで何をやってたの?」
と質問する。ルリの瞳には好奇心があふれ出しているだけで、警戒心のかけらもないことを見て取ったのか、アランは、
「明日は満月でしょ。明日のお茶会用の星くずを集めてたんだ」
と言ってにっこり微笑んだ。アランの足元には小さな袋があり、そこから小さなかけらがこぼれて見えていた。
「お茶会用の星くず?」
かみ合わない言葉に混乱した瑠璃は、そのままじっと袋を見つめる。
「うん、満月前後の夜には、星くずがこぼれてここに落ちてくるんだ。それをお茶に入れて飲むとね、不思議な味になるんだ。今夜みたいな満月直前の星くずは最高級品だよ」




