13.ベリル
視界から木が減ってきて家の屋根が見えた途端に、目に見えて動きがぎくしゃくしてしまったベリルを見て、ルリは思わず笑ってしまった。
「大丈夫だって、怖くないから」
「そうですよ、待たせる方が失礼にあたりますよ?」
言葉も返せず、ただこくんとうなずいてごくりとつばを飲みこむと、ベリルは再び足を動かす。
「ルリなんかにわかるもんか」
小さく毒づかれて、たしかに三年間森の中にだけいたんだから緊張するのは当然かな、なんて思いながら、ルリは自分がベリルの立場だったらと考えてみた。逃げ出すか、緊張でベッドから抜け出せなくなりそうな気がした。さすがに男の子だな、なんて感心する。
「ごめんなさい。でも、パパとママ、本当に楽しみに待ってくれてるから」
「さ、行きましょう。私がついていますよ」
コナーの笑顔はいつも安心をくれるのを見て、ルリはベリルが少しベリルがうらやましくなった。
家の前について、ベリルが何度も深呼吸をするのに、頭ではわかっていてもどうしても笑ってしまいそうになるのをこらえながら、ルリはドアノッカーに手を伸ばす。
「ベリル、おまじない。『大丈夫、なにも怖くない』って言ってみて」
きっ、とにらまれて、さすがに偉そうだったかなぁと反省してそそくさと、
「じゃあ叩くから」
とルリはノッカーを鳴らす。
ドアが開くその瞬間ベリルが息をのむのがわかった。それにしても、そこまで緊張するようなことなんだろうか。
「ようこそ」
ルリの両親がドアを開けてくれた途端、
「あ、あのっ」
ベリルがしゃべりだした。
「お願いだから、俺をここから追い出したりしないでください!」
しん。
みんながみんな、あっけにとられてベリルを見てしまう。それはマナーがなっていないとか、そういうレベルの問題ではなくて、言葉の意味とか、緊張でいっぱいいっぱいになっているベリルの様子のせい。
「あ、あのっ」
なおも言葉を紡ごうとするベリルに、ケビンはにっこりほほえんで、
「せっかく来たんだ、中でお茶でもどうだい」
と招き入れた。最後にルリがドアを閉めようとすると足元に一瞬毛玉が見えて、すぐ消えてしまった。
リビングにはいると、緊張して微動だにしないベリルの膝の上に、ちゃっかりとハーリーが座っていた。
「ハーリー!」
「だってだって、ぼくだってごあいさつしたかったの。ベリルのようすもおかしくて、しんぱいだったの」
ははは、と引きつった笑いを見せながら動けないでいるベリルと裏腹に、ベリルの服にしっかりとしがみついて離れないハーリーは、いつもの陽気で無邪気なだけの雰囲気とはまるで違って、ちょっと睨むようにして大人を威嚇している。
「大丈夫だよ、おチビさん」
ケビンが笑うと少しは警戒がとけたのか、ハーリーはおとなしくベリルの膝にちょこんと座る。
「どうしたんだい?」
ケビンはカップを置くとゆっくりと落ち着いた声で話し始めた。
「あのっ、俺を追い出さないでください!」
ぎゅっとつかまれた服の裾が痛々しくて、言葉の内容と一緒にルリの胸が苦しくなった。
「なんのことだい?」
ケビンはゆっくりと手を組んだ。
「あの、俺を学校に行かせるって聞いて、そのっ、俺が邪魔者なのは知ってます、でもっ」




