13.目をまわした星くず
近くによっただけではわからないのに、一歩足を踏み入れると、水晶の光と落ちてきた星くずの明かりで、水晶林はどっても不思議な空間に変わる。
「磁気嵐で目をまわした星が落ちてきてるから、それを探すんだよ。ポイントは小さめの粒」
アランが説明してくれるけれど、やっぱり星くず探しは難しい。星くずそのものが小さいから、人間の自分より、からだの小さいアランたちに向いている、とルリは思った。
「いつもの星くずとどう違うの?」
「えーっとね、お茶やジュースに入れると溶けてはじけて、夏におすすめの飲み物になるんだ。ミントとかあうよ。口の中がしゅわーっと泡でいっぱいになって、のどにちょっと刺激が気持ちいいの。あわが強いから強いから、大きい星くずは厳禁だよ。飲めなくなっちゃうからね」
「アラン、ぼくにもおしえてよー」
「ハーリーは、まず星くずの形に慣れることからはじめようね」
二匹は水晶の間にたまっている星くずの中に分け入っていった。
ちょこん、とトーマがルリの横に立ったまま取り残されているのが不思議。
「トーマは行かなくていいの?」
「うん、だってここはぼくの森じゃないもの」
「ハーリーは?」
「ハーリーはこの森にいることを望んでる。アランも認めた。だからここはアランとハーリーの森なの。ぼくはお友達でいられたらそれでいいの」
「家族じゃなくて?」
「家族には言いにくいけど、友達なら話せることっていうのもあるかなって思ってる」
「すごい。いろいろ考えてるんだ」
「そうでもないよ。仲良くしていけたらいいなって思ってるだけ。家族になっちゃうと大変なこともあるから、それから逃げてるだけとも言えるし」
「難しいね」
「そだね」
「あたし、がんばる。この森を守るためにあたしができることを探すことにする。だから苦手な古語もがんばる」
「うん、みんな喜ぶよ。古語ならコナーに教えてもらったら? ベリルはコナーに教えてもらってるよ」
「あ、それいい! ここに来てもいい口実がひとつ増える」
「ママに怒られた?」
「じつは、成績が下がるようなら外出禁止にするわよって言われたばっかりなの。フィールドワークよって言ったんだけど」
「どっちも大事。コナーにいろいろ教えてもらったら? 森のことをよく知ってる人だし。ぼくたちじゃ言葉にしにくいことも上手に教えてくれると思う」
抱き上げると、トーマもふかふかの毛並みで暖かくって気持ちがいい。
「ありがとう、トーマ、あったかいね」
「ぼくたち友達でしょ」
そう言ってくれる笑顔は宝物。
「もしかしたら、みんなからはもう家族だと思われてるかもよ?」
「そう? それはそれで構わないよ。だって僕たちは仲間でしょ。ルリもね」
うれしい言葉に、ルリがトーマに頬ずりをすると、くすぐったいと言ってトーマが笑う。
「ルリー!」
ハーリーの弾んだ声がする。
「みてみて! これぼくがとったの! きょうのおちゃにこれいれるんだ!」
星くずを手に、ハーリーが満面の笑みで走ってくる。
「ベリルが元気になるといいね」
「なるもん! ぼくがはじめてとったほしをあげるんだから」
とことこと後をついてきたアランは、満足祖王な笑顔でルリ達を見た。
「ルリはこのお茶はじめてでしょ。一緒に飲もうね」
「あのね、ふたつめにとったほしはルリにあげる!」
と言うが早いか、ててて、とハーリーがルリの体にのぼって抱きつく。二匹を抱きしめて、ルリはなんだかくすぐったいような嬉しさと暖かい気持ちで、
「ありがとう」
としか言えなかった。
みんなが幸せになりますように。
ずっと一緒に幸せでいられますように。
「ルリどうしたの? なみだがでてるよ。かなしいことがあったの?」
「ううん、ちがうの。ハーリーのプレゼントが嬉しいだけ」
「ぼく、いったでしょ。よつばのクローバーのしあわせを、みんないあげるって」
「うん、そうね」
守りたい。
「そろそろ帰ろうか。ふたりが首を長くして待ってるから。ハーリーはその星くず、ベリルにあげるんでしょ」
「うん! これできっとベリルはげんきになるよ。ぼくのはじめてのほしだから」
「うん。きっと喜んでくれるよ。楽しみね」
無邪気に笑うハーリーが、ルリにはとてもまぶしく見える。自然は時にものすごく怖いけれど、こんなにやさしくもあるんだ。
「ベリルもルリもぼくのかぞくだから!」
ハーリーの言葉にルリが驚いてまじまじと見つめると、
「ちがうの? トーマはとっくにかぞくなのに、ルリもかぞくじゃないなんてことないよね」
当然、と言い切るハーリーにトーマが慌てるのを、アランが笑ってみている。
「あたしの家は別にあるよ?」
「だって、ぼくたちおおうちはルリのおうちの『はなれ』なんでしょ? ルリのおうちが『おもや』? っていうやつで」
「どこからそんな話が出てきたの?」
アランもトーマも目を真ん丸にしてハーリーを見ているから、彼らが言い出した話ではないらしい。
「えっとね、ふくろうのおじさんと、ルリのパパとママだよ。ルリのパパとママが、いつになったらいっしょにおはなしできるかなって、たのしみにしてたよ。ぼく、まどのそとできいたの」
は?
その場にいた全員がハーリーを凝視する。
「だから、あっちも、こっちも、るりのおうちなの。みんながみんなどうし、だいすきで、いっしょにいたいねっておもいながらくらしているから、ぼくたちはかぞくなの」
それは家族の定義にしては広すぎるんじゃないかな、とルリは思ったけれど、ハーリーの今の理解力ではこれが精いっぱいなのかもしれない。
「あ、いまちがうっておもったでしょ。そんなことないんだよ。ぼくたちはだいすきで、いちばんいっしょいくらしたいひとたちどうしがいっしょにいきていく、なかまいじょうのかぞくになるんだから」
「離れて暮らしていても?」
「かわらないよ。だって、かえってくるのはここでしょ。いつだってぼくたちはここにいて、みんなのかえりをまつもの。ぼくたちはこれからかぞくになるの。ずっとずっとかぞくになるの」
ハーリーがどこまで事情を知っているのかはさっぱりわからないけれど、その言葉はルリの心の奥深くにずしんと響いた。
「ありがとう、あたしたち、家族なのね」
「うん!」それにぼく、もうじきあらしへいきだよ。はじめてでびっくりしただけだから、しんぱいしないでね」
こぼれでた涙を、トーマがそっとぬぐってくれて、ルリがもう一度二匹をぎゅっと抱きしめると、足元でアランがにこにことほほえんでいた。




