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まともな一座に保障が来た

優利恵座が有名になるにつれ、

皮肉な問題も起き始めていた。


「優しい劇場」は、

利益が薄い。


優利恵は、

無理な公演を断った。


病人を休ませる。

怪我人を切らない。

新人を潰れるまで働かせない。


当然、

短期利益は落ちる。


昔ながらの興行主たちは笑った。


「甘い」

「綺麗事だ」

「そんな経営は続かない」


だが王クラークは、

別のものを見ていた。


王都西区の犯罪率低下。


酔客同士の暴力減少。


戦争帰りの兵士の自殺減少。


孤児の流入減少。


優利恵座は、

ただの劇場ではなくなっていた。


“社会の圧力を緩和する緩衝材”

になっていた。


ある日、

財務大臣が報告した。


「優利恵座、

 資金繰りが危険域です」


王は静かに書類を見る。


理由は単純だった。


「切らない」から。


普通の一座なら、

病人も老人も解雇する。


だが優利恵座は抱え込む。


結果、

常に収支が苦しい。


側近の一人が言った。


「……潰れますな」


王は少し黙った。


そして低く言った。


「潰してはいけない」


部屋が静まる。


クラークは続けた。


「優利恵座は、

 芸人保護制度の象徴だ」


彼は窓の外を見た。


「人は制度だけでは信じない。

 “実際に存在している成功例”を見る」


静かな声だった。


「もし優利恵座が潰れれば、

 民はこう言う」


“結局、優しさでは食えない”


“理想は負ける”


それは王が最も避けたいことだった。


数日後。


王国議会に新提案が出された。


『登録芸能一座・最低維持保証制度』


一定条件を満たした一座へ、

毎月最低運営費を支払う。


条件は厳しかった。


・違法契約禁止

・暴力禁止

・最低生活保証

・未成年保護

・会計公開

・休養制度整備


つまり、

“まともな運営”をした一座だけを守る制度だった。


王は言った。


「これは娯楽保護ではない」


会議場が静まる。


「社会安定維持だ」


意外なことに、

側近たちの反対は少なかった。


それどころか、

軍務卿が口を開いた。


「北方帰還兵の問題が減っています」


警備総監。


「酒場暴動も減少傾向です」


教育官僚。


「孤児の受け皿として機能しています」


皆、

現実を見ていた。


優利恵座が生み出していたものは、

“笑い”だけではない。


壊れた人間が、

社会へ戻るための中間地点。


それを理解し始めていた。


ただ一人、

老貴族だけが苦々しく言った。


「芸人など下層の仕事でしょう」


すると王は静かに返した。


「下層を支える者を軽視した国は、

 最後に土台から崩れる」


誰も反論できなかった。


制度は可決された。


その知らせを聞いた日、

優利恵はしばらく黙っていた。


そして、

深く頭を下げた。


「……救われました」


王は苦笑した。


「いや」


彼は劇場を見回した。


義手のロイ。


歌う片目の少女。


舞台練習する孤児たち。


笑い声。


失敗。


拍手。


「救われているのは、

 むしろ国の方だ」


優利恵は、

その意味を少し理解できるようになっていた。


昔は、

“役に立つから価値がある”

と思っていた。


今は違う。


人が壊れず、

少し笑えて、

また明日を生きられる。


それだけで、

社会はかなり救われる。


その夜。


劇場の入口に、

新しい木札が増えた。


『休める場所は、社会を壊れにくくする』


それを読んだ若い芸人が、

ぽつりと言った。


「変な劇場だなあ」


ロイは笑った。


「だから残ってるんだろ」


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