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座員と王の変化

春が来る頃には、

優利恵座の空気は明らかに変わっていた。


以前は、

皆どこか怯えていた。


人気が落ちたら終わり。

失敗したら捨てられる。

笑われなくなったら価値がない。


そういう空気が、

芸人たちの背中に張り付いていた。


だが今は違う。


もちろん苦労はある。

貧しい者もいる。

舞台で滑る日もある。


それでも、

“存在そのものを否定される恐怖”

だけは薄れていた。


優利恵自身が、

それをやめたからだった。


ある日。


若い女芸人ミナが、

舞台裏で泣いていた。


「私、向いてないです……」


客席で噛んだ。

転んだ。

笑いが止まった。


昔の優利恵なら、

無理に励ました。


「大丈夫!頑張れ!」


だが今は違った。


優利恵は隣に座り、

静かに聞いた。


「今、一番怖いのは?」


ミナはしばらく黙り、

小さく言った。


「……要らないって思われることです」


優利恵は目を閉じた。


昔の自分と同じだった。


彼女はゆっくり答えた。


「人はね、

 失敗したから嫌われるんじゃないの」


ミナが顔を上げる。


「壊れたまま、

 周りを傷つけ続けると離れていくの。

 でも失敗は、

 本来そんなに大きな罪じゃない」


優利恵は続けた。


「だからまず、

 ちゃんと休みなさい」


ミナは驚いた。


芸人の世界で、

“休め”と言われることは少ない。


優利恵は苦笑した。


「昔の私は、

 休む=終わりだと思ってた」


窓の外では、

夕方の鐘が鳴っていた。


「でも違った。

 壊れたまま続ける方が、

 もっと終わる」


その頃。


王クラークもまた、

変化していた。


優利恵と出会って以来、

彼は「制度だけでは国は救えない」

と理解し始めていた。


法は必要。


だが、

人格が育っていなければ、

法律は形骸化する。


だから王は、

地方学校へ新しい教育方針を入れ始めた。


・少しできたら認める

・失敗と人格を分離する

・継続を評価する

・感情理解を学ばせる


古い官僚は反発した。


「甘やかしです」


王は静かに答えた。


「壊して従わせた結果が、

 今の腐敗だ」


その言葉は、

徐々に広がった。


一方、

優利恵は自分の中で

さらに奇妙な変化を感じていた。


以前より、

他人の苦しみが“見え過ぎる”のだ。


強がっている人。


怒鳴る人。


偉そうな人。


その奥に、

怯えや劣等感が透けて見える。


昔なら憎んでいた相手に、

「この人も壊れているのか」

と思う瞬間が増えた。


だが同時に、

境界線も覚え始めていた。


全部を助けなくていい。


救えない人間もいる。


距離を取ることも誠実。


それを理解し始めた時、

優利恵は急激に安定した。


信仰が、

“自己犠牲”から

“現実理解”へ変わったのだ。


老神官は笑った。


「やっと地面に立ちましたね」


優利恵は苦笑する。


「昔は空だけ見てました」


「ええ。

 理想だけで飛ぼうとしていた」


神官は温かい茶を飲みながら言った。


「ですが人は、

 地面を理解して初めて、

 本当に空を見上げられる」


その言葉は、

優利恵の胸に深く残った。


夜。


劇場の最後列。


ロイが義足を外しながら言った。


「座長、

 最近なんか雰囲気変わりましたよね」


優利恵は笑う。


「年かな」


「違いますよ」


ロイは静かに言った。


「前は、

 死なないために頑張ってる感じだった」


彼は少し考えた。


「今は、

 生きてる人の顔してる」


優利恵は何も言えなかった。


ただ、

胸の奥が少し熱くなった。


外では、

王都ドリトルの夜風が吹いていた。


笑い声。


馬車の音。


酒場の歌。


その全部が、

昔より少しだけ、

優しく聞こえた。


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