ロボット防衛
その報告は、いつもより静かに王のもとへ届いた。
王城の執務室。
地図の上に、赤い点が増えていく。
スパイ報告書には簡潔にこう書かれていた。
――水源管理への接触増加
――流通網への共同出資提案増加
――土地登記周辺への人材流入
――エネルギー契約への間接介入
そして最後に一行。
「いずれも“所有権の外側”から侵入しています」
王クラーク・デ・トーマスは、
しばらくその文面を見ていた。
感情はない。
だが評価は早い。
「壊しに来ているな」
側近が進言する。
「ロボットに全面移譲すべきです。
出来ません、売りません、守りますの機構へ」
その言葉には焦りがあった。
水。
流通。
土地。
出資。
それは国家の血管そのものだった。
王はゆっくりと視線を上げる。
「既に守っている」
「ですが外部圧が強すぎます。
人間の判断が介入すれば揺らぎます」
沈黙。
この国は今、
“発展”ではなく“防衛段階”に入っていた。
優利恵が呼ばれる。
報告室。
スパイの解析図が広がっている。
ロイが呟く。
「これ、全部“生活の入口”ですね」
ハルク(ガス担当)は地図を見て言う。
「水源は燃料より上位です」
タケル(測量)は低く言う。
「土地が触られると全部崩れます」
メンデル(農業)は静かに言う。
「流通を取られると食料が変わる」
誰も否定しない。
つまりこれは、
“戦争ではなく接続の奪取”だった。
優利恵は小さく言う。
「外の国、戦い方変えてきたね」
その時だった。
資源管理ロボの設計士が呼ばれる。
ダンジョンロボ作成技能士。
彼はいつも通り淡々としていた。
「出来ません、売りません、守りますは動けます」
王が問う。
「どこまで守れる」
設計士は即答する。
「接触点までです」
「それ以上は」
「国の判断です」
沈黙。
王は結論を出す。
「なら拡張する」
側近が驚く。
「ロボットの範囲をですか?」
王は頷く。
「水源・流通・土地・出資」
「全部“守る側”に寄せる」
その瞬間、
国家構造の線が引き直される。
・水は契約ではなく保護対象
・流通は商業ではなく基幹網
・土地は売買ではなく登記固定
・出資は権利ではなく管理契約
つまりすべてが
「市場」から「防衛」へ移る。
優利恵はその言葉を聞いて少し呟く。
「もう経済じゃないね」
ロイが答える。
「インフラ防衛国家ですね」
夜。
資源管理ロボの前。
王は一人で立つ。
ロボットはいつも通り三語を繰り返す。
出来ません
売りません
守ります
王は静かに言う。
「守る対象が増えるな」
ロボットは答えない。
ただ内部で更新される。
――防衛対象追加
――水源ネットワーク
――流通経路
――土地基盤
――資本接続点
王は背を向ける。
「これでいい」
その瞬間、
国は一つの形に固定される。
外から見れば、
異常な構造だった。
だが内部から見れば、
それは単純だった。
「触れさせない国」
夜の王都では、
ガス灯が揺れずに灯り続ける。
水は止まらず流れ、
土地は揺らがず、
物流は途切れない。
その中心にはいつも、
何も言わず立つ鉄機械がある。
出来ません
売りません
守ります
それは命令ではない。
この国の“境界そのもの”だった。




