天然ガスが見える芸人
その男が初めて“当てた”のは、ただの偶然だと思われていた。
王都ドリトル南方の荒野。
誰も価値を見いだしていない土地。
そこで男は突然立ち止まり、
地面を指さして叫んだ。
「ここだ!!」
「ここの下に“燃える空気”がある!!」
周囲の調査隊は笑った。
「空気が燃える?」
「また芸人の戯言か」
だが男は引かない。
地面に棒を突き立て、
手で層をなぞるようにして続ける。
「浅い!!
だが広い!!
圧力が逃げない構造だ!!」
彼の名はハルク。
“天然ガス田だけ見える芸人”と呼ばれていた。
本職は地質調査の補助員だった。
だがある日、
地下構造の図を見た瞬間から変わった。
地層の“重なり”ではなく、
“閉じ込められた空間”として見えるようになったのだ。
そこから止まらない。
地面を見るたびに叫ぶ。
「そこに溜まってる!!」
「圧力が抜けてない!!」
「掘れば出る!!」
しかし誰も信じなかった。
その日。
王クラーク・デ・トーマスが
鉱物資源調査の報告を受けて現場に来た。
護衛が言う。
「また危険な妄言者です」
だが王は言った。
「見せろ」
ハルクはいつも通り叫んでいた。
「ここ掘れ!!
深さは違う!!
層が“蓋”になってる!!」
王は静かに歩み寄る。
「どう見えている」
ハルクは一瞬黙った。
そして言葉を探す。
「……穴です」
「穴?」
「ただの穴じゃない。
“閉じた穴”です」
彼は砂に図を描いた。
上層:粘土
中層:岩盤
下層:空洞
「ここにガスが溜まる!!
逃げ場がない!!
だから圧がある!!」
周囲は首をかしげる。
だが王は違った。
「それは資源か」
ハルクは即答した。
「燃料です!!」
その瞬間、
空気が変わった。
王は短く言う。
「掘削は可能か」
ハルクは震えながら答える。
「設計できます!!
深さも!!
方法も!!
機械も!!」
ここで初めて、
彼の“叫び”が“設計言語”に変わった。
王は頷いた。
「やれ」
それだけだった。
後に建設されたのが、
王国初の深層掘削試験基地だった。
最初は誰も信じなかった。
「そんな深さまで掘れるわけがない」
「地面は無限じゃない」
だがハルクは図面を描いた。
掘削塔。
回転ドリル。
泥水循環。
圧力制御。
それはもはや芸ではなく、
機械工学だった。
掘削が始まる。
数日後。
異音。
圧力上昇。
そして——
地面の奥から、
音とともに“気体”が噴き出した。
シューッという音。
火を近づけると、
青い炎が揺れた。
現場は沈黙した。
誰も動けない。
ただ一人、
ハルクだけが呟いた。
「……あった」
それは発見ではなかった。
“証明”だった。
優利恵はその報告を聞き、
珍しく言葉を失った。
「また増えたの……資源見える人」
ロイは笑う。
「もう国家チートですね」
王クラークは静かに言った。
「エネルギーの種類が増えるということは、
文明の速度が変わるということだ」
その意味は重い。
燃料は力であり、
力は時間であり、
時間は文明そのものだからだ。
夜。
ハルクは掘削現場の端に座っていた。
以前なら、
誰にも届かない叫びを繰り返していた。
だが今は違う。
紙の上に、
設計図がある。
深さ。
圧力。
配管。
安全弁。
彼は小さく呟いた。
「見えるのに、
誰にも届かない世界だった」
少し間を置く。
「でも今は、
掘れる世界になった」
遠くで、
ガス炎が静かに揺れていた。
それはもう“戯言の光”ではない。
国の動力になり始めた火だった。




