第29話 選別の正体 ― 見せかけの平等 ―
いつも読んでいただきありがとうございます。
橘国政は、ゆっくりと立ち上がった。
スタジオに残るざわめきは、
彼の一言で、再び静まり返っていく。
「まだ、未来を語るには早い…」
低く、はっきりとした声だった。
「我々は今、“何が起きているか”ではなく、
“なぜそうなったか”を理解していない」
橘は円卓を見渡した。
「政治が腐敗した、報道が歪んだ、
官僚が隠した…それは事実だ」
一拍、置く。
「だが、それは“結果”に過ぎない」
香坂が目を細める。
坂下は無言で橘を見つめていた。
「問題の本質は、
この国の仕組みそのものだ」
スタジオの空気が変わった。
「税金は“公平”だと言われている。
だが本当にそうか?」
橘の視線がカメラを貫く。
「年収三百万の人間と、年収一億の人間がいる」
「負担率は違う、確かに“数字上は平等”だ」
「だが、その金が使われる先はどうだ?」
沈黙。
「大企業への優遇、特定産業への補助、
政治献金による政策誘導」
「結果として、
“富を持つ者に、さらに富が流れる構造”が完成している」
迅は控室で息を呑んだ。
「それを我々は“成長戦略”と呼んできた」
橘は続ける。
「だが実態は違う」
「これは“選別”だ」
その一言で、空気が凍る。
「努力した者が報われる社会?…違うな」
「“選ばれた構造に入れた者だけが、
報われる社会”だ」
坂下が思わず口を開く。
「それじゃあ…努力は意味がないって事ですか?」
橘は首を横に振る。
「意味はある」
「だが、“届く場所”が決められている」
スタジオのモニターに、
所得分布と企業内部留保のグラフが映し出される。
「相続税も同じだ」
「強化すれば格差は縮まると言われるが、
抜け道はいくらでもある」
「資産は分散され、法人化され、
世代を超えて守られる」
香坂が小さく呟いた。
「…世襲か」
橘は頷く。
「政治も同じ構造だ」
「地盤、看板、カバン」
「それを持つ者が、
“最初から有利な場所”に立つ」
「これは偶然じゃない」
「仕組みだ」
スタジオの空気が、
重く沈んでいく。
芦田首相が静かに口を開いた。
「では…どうすればいいのですか?」
橘は一瞬だけ、
遠くを見るような目をした。
「壊すしかない」
ざわめきが走る。
「ただし、全部ではない」
「最小の変化で、最大の効果を出す」
梓の言葉が、橘の中で重なっていた。
「まず、政治と金の流れを完全に可視化する」
「企業献金の上限規制と、リアルタイム公開」
「次に、世襲の制限」
「三親等以内の連続立候補を制限するだけで、
構造は大きく変わる」
「そして、税の“使い道”の選択権を、
国民に一部戻す」
坂下が息を呑む。
「そんな事…できるんですか?」
橘は静かに答えた。
「できるかどうかじゃない」
「やるかどうかだ」
その時だった。
片山が、小さく笑った。
「理想論ですね」
全員の視線が片山に集まる。
「その“改革”を実行するのは誰ですか?」
「今まで同じ構造の中で生きてきた、
政治家ですよ?」
橘は、片山を真っ直ぐに見た。
「だから、今ここで壊す」
片山の笑みが、わずかに消える。
「この場で、全てを明らかにする」
「誰が得をし、誰が切り捨てられてきたのか」
スタジオの空気が張り詰める。
橘はカメラに向き直った。
「これは、政治家だけの問題じゃない」
「我々は、“見ないことで成立する社会”を選んできた」
沈黙。
「だが、もう無理だ」
「今、全員が見てしまった」
モニターの向こう、
全国の視聴者へ。
「ここから先は、選択だ」
橘は、ゆっくりと息を吐いた。
「変わるか、このままか」
スタジオの時計が、
やけに大きな音を立てて進む。
その時…
照明が一瞬だけ、ちらついた。
誰も気づかないほどの、
わずかな違和感。
だが梓だけは、
確かにそれを感じていた。
(…未来が、ズレた…?)
遠く、
ビルの屋上で、
蓮が、静かに目を開いた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
引き続き次回もお楽しみ、いただけると幸いです。




