第27話 沈黙の開幕 ― 全国生放送 ―
いつも読んでいただきありがとうございます。
スタジオに入ると、
よく見るスタジオ風景とは違う、異様な雰囲気を感じた。
各テレビ局のカメラが入り、
通常の5倍はスタッフがひしめき合っている。
香坂は
「異様な光景だな…」
そう呟いて、スタジオに入って行った。
司会進行の石原 研二が、香坂に近づいてきた。
「香坂さん、ご無沙汰です
なんか、大変な状況になりましたね…」
香坂は少し笑みを浮かべて
「石原さん…悪いね、大変な仕事をお願いしてしまって、
でも…石原さんしか思いつかなかったんだよ、
この状況を冷静に捌ける司会者なんて…」
石原は香坂の肩を叩いて、
「光栄ですよ、香坂さんにそう言ってもらえたら、精一杯頑張りますよ。」
香坂は遠目に、スタジオ入りする芦田さゆりと橘国政を見ていた。
二人は冷静に、会話して落ち着いた雰囲気だった。
片山は、まだスタジオ入りしていないようだ、
香坂の隣りに、
富士山テレビの安西が座っていた。
誰かと打ち合わせすることも無く、
どっしり座っていた。
香坂はそれを見て、
いつまでそうやって余裕でいられるかな…?
香坂は自分の席に座り、
耳に入れたインカムの通信テストをした。
(…迅、梓、聞こえるか?…)
《…聞こえてます、大丈夫ですよ…》
その時だった、
橘国政の秘書、片山洋介が現れた。
橘に歩み寄ると、何かを小声で話している。
橘の秘書なんだから、当たり前なんだが…
片山洋介が裏切るとわかっているだけに、
滑稽だな…
参加全員が席に着いた、
スタジオ中央の円卓。
カメラが一度、引きの画に切り替わる。
カウントダウンが始まり、
スタジオ照明が、明るく切り替わった。
10秒前 …5-4-3…2. 映ります!
司会の石原研二が、深く一礼した。
「本日の討論会は、
異例の形式で進行いたします」
「政治の当事者だけでなく、
報道、実務、そして“死者とされた人間”
を含めた全員参加型の討論です」
モニターに、参加者の名前が一人ずつ表示される。
香坂 ひろし
スタジオが、どよめき
その声に、会場内にざわめきが走る。
「……生きてたのか」
「JBSのディレクターだろ……?」
香坂は、無言で席に座っている。
痩せた頬、だが視線は鋭い。
(……俺がここに出た意味は一つだけだ)
報道が、どこで殺されたのか
それを語るために。
司会席の隣に座る坂下すずは、
彼女の前には、
視聴者からリアルタイムで届く質問が流れている。
〈誰が指示した?〉
〈いつから壊れてた?〉
〈まだ隠してることあるだろ〉
坂下は、それを見て討論会に、
問いかける役割も与えられていた…
そして――
高山洋子。
彼女は、終始うつむいていた。
(私は、逃げ続けてきた…
書類を作り、嘘を整え、
「問題ありません」と言い続けてきた。
今日、初めて
“問題だらけだった”と口にするであろう…
周囲の圧力が高山を追い詰めていた。
木下 芳樹
野党第一党党首。
いつもなら、ここが彼の見せ場だった。
だが今日は違う。
(俺は、追及する側じゃない)
そう理解していた。
「……では」
司会者が言う。
「最初の発言者として
改めて、
芦田さゆり首相からお願いします」
だが、芦田が話し出す前に、
香坂が、静かにマイクを入れた。
「待ってくれ、」
一瞬、すべてが止まる。
「この討論会で、
一番最初に話すべきなのは、
“政治家”じゃない」
香坂の視線が、カメラを貫く。
「報道だ」
坂下すずが、息を呑む。
香坂は続けた。
「俺たちは、何を知ってて、
何を黙ってきたのか、正直に行きたい」
その言葉は、
討論会の“主導権”を
完全に奪い取る宣言だった。
片山が、わずかに笑う。
(ここまで来たら、もう引き返せない)
スタジオの空気が、目に見えない重さを帯びていた。
香坂ひろしの「報道だ」という一言は、
討論会の前提そのものを、静かに破壊していた。
司会の石原が言葉を探している間も、
カメラは香坂から離れない。
坂下すずには、イヤーピース越しに飛び込んでくる
制作側の焦った声がうるさかったが無視をしていた。
(……今更もう遅い…)
香坂は、ほんのわずかに目を伏せた。
「“伝えるべきは事実”だ」
スタジオのモニターに、
過去のJBS報道映像が映し出される。
政治資金疑惑。
官僚との癒着。
すべて
途中で終わったニュースだ、、
「この取材は、放送三十分前には
上層部から止められていた、、」
スタジオの外では
モニター越しに討論会を見ていた国民達…
自宅のテレビ、カフェや職場など、
様々な場所から討論会に向き合っていた。
香坂の言葉に、
高山洋子の肩が、びくりと揺れた。
「上からの指示だ。
スポンサー、政権、官僚……
理由は毎回違った」
香坂は、淡々と続ける。
「でも結論はいつも同じ、
“国民にはまだ早い”混乱する…」
その言葉に、
片山洋介が、わずかに目を閉じた。
(……やはり、ここからか)
坂下は、香坂を見つめたまま言う。
「それで、あなたは“死んだ”ことにされた?」
香坂は、初めて苦笑した。
「俺の死を偽造したのは、命を狙われていたからだ、
友人が命と引き換えに守ってくれたんだ、、、」
スタジオの外。
モニター越しに討論会を見ていた国民が、
次第に言葉を失っていく。
SNSの流れが、止まり始めていた。
〈……これ、冗談じゃない〉
〈報道、全部グルだったってこと?〉
〈俺たち、何信じてたんだ〉
坂下は、深く息を吸った。
「……私は、報道に憧れてこの仕事に就きました」
その声は、震えていない。
「でも今日、初めて思います。
私たちは、“何を伝えなかったのか”を
問われる側なんだと」
坂下はイヤーピースを外した。
完全な“生”だった。
「視聴者の皆さん」
坂下は、カメラを真正面から見た。
「もし、ここで語られることが
不都合で、
怖くて、
聞きたくなくても……」
一拍置いて、続ける。
「それは、
“今まで守られてきた嘘の真実”が
壊れ始めた証拠です」
高山洋子が、
ゆっくりと顔を上げた。
「……私も、話します」
その声は、細いが、逃げてはいなかった。
「私は、平泉議員の秘書として、
“問題を問題でなくする書類”を
何度も作りました」
橘国政の表情が、初めて強張る。
「それは、命令でした。
逆らえば、職を失い、
家族が困ると分かっていたから…」
高山は、唇を噛みしめ口を開いた、、
「でも……それで救われたのは、
“政治家”だけでしたよね、、」
沈黙。
誰も、遮らない。
木下 芳樹が、マイクを入れる。
「政治家全てに問題がある訳ではない、
私は逃げない、国民自由党の裏金問題や
企業献金について明確に説明してもらいたい!」
強い口調で切り出した、、
橘議員が静かに口を挟んだ…
「追及するふりをして、
矛先を国民自由党に向けるな…」
「今日は国民と議論する場だ、
秘書も表に出ている異例の討論会だ、
生放送で編集も出来ないから、
内情を知る秘書がこの場に居る事実は…
我々、政治家にとって今正直に話すべきは、
政治のあり方だ、、」
橘がカメラを見て、、語った…
「今の政治は正義を語ることで、
自分たちが安全でいられる場所を
守っていただけだった…」
芦田さゆりは、極めて冷静に
そのすべてに耳を傾けた…
首相としてではなく、
一人の人間として、静かに聞いていた…
(……私は、どこまで見て見ぬふりをしてきた?)
片山洋介が、
ようやく口を開く。
「今、橘先生が話した、これが、
“同調しない正義”の理由だ」
誰かを煽るためではない。
破壊のためでもない。
「嘘の上に立った秩序は、
いずれ、もっと多くの血を流す」
スタジオの時計が、静かに進む。
討論会は、
もはや討論ではなかった。
それは――
国家規模の告白だった。
誰もが、
「もう戻れない場所」に
足を踏み入れたことを理解した、、
だが同時に、
初めて――
言葉が、暴力よりも先に立った瞬間でもあった。
画面の向こうで、
国民はまだ、沈黙している。
だがその沈黙は、
無関心ではない。
考えるための、
初めての沈黙だった。
香坂が仕掛けた。
「俺を殺そうとしたのは、片山さん
あんただよな?…」
ビルの屋上で、一人の男がスマートフォンで
討論会を見ていた。
蓮だった。
「……香坂さん、その導入は良さそうだ。」
彼は小さく呟いた。
強い風が吹き、
屋上の影が揺れる。
蓮はスマートフォンを閉じた。
「……さて」
蓮はゆっくりと瞳を閉じた…。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
引き続き次回もお楽しみ、いただけると幸いです。




