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地底の未来  作者: Spumante Rock


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第20話   橘 国政 ― 封印された影  ―

いつも読んでいただきありがとうございます。

永田町の夜は、異様な静寂に包まれていた。

国会周辺を包む街灯の白い光は、どこか冷たく、

世界そのものが硬直しているように見える。


橘国政は、議員会館の自室の窓から、

黒塗りの車が次々と夜の道路へ消えていくのを眺めていた。


逃げる政治家たち。

逃げるべきだと囁き続ける恐怖。


それでも足を動かせないのは、罪の重さが肩に張り付いたまま離れないからだ。

机の上には、桧山あかりの資料が開かれたままになっている。


その横には、封じられた“もう一つの資料”がある。

茶色い封筒。

差出人の欄には、ただ一つ、短い記号が書かれていた。


― ELD-02 ―

橘だけが知るコード


“プロジェクト・エリドゥ”


国家の裏側で長らく存在を秘匿されてきた超秘匿組織。

表向きには「国家安全保障局の特別分析班」と記されているが、

実態はまったく違う。


――人間ではない者たちの管理と観察。

――“彼ら”との接触を持つ政治家の監視。

――そして、万が一人類に敵意を見せた場合の対処。


梓と同じ種族──レプテリアン

その存在を、橘は“偶然”知ってしまった。


いや、むしろ、知る立場に“選ばれてしまった”と言った方が近い。


封筒の中には、

梓の過去の痕跡が記された極秘資料が入っている。


読み返すたびに胃が痛むほどの内容で、

橘はそれを開くことすら躊躇した。

「……俺は、どこまで知ってしまったんだ……」


桧山あかりの死。


その背後にちらつく、エリドゥの影。

そして、梓が“人ではない”という真実。

橘はそれを公にすることができなかった。


何故なら

その情報を暴くことは、世界の秩序そのものを揺るがす行為だからだ。

しかし今、片山洋介が引き起こした連鎖反応によって、

世界の方が橘より先に崩れ始めている。


暴動寸前の国民。

公開された政治家の個人情報。


逃亡する政治家たち。

討論会を“裁きの場”に変える片山。


そして、

エリドゥが沈黙を保っている。


沈黙ほど、恐ろしいものはない。


特に“彼ら”の沈黙は。

机のスマホが震えた。


画面に表示されたのは、

エリドゥの連絡担当者からのメッセージだった。


【状況は予定外。梓個体の行動はリスクレベル3へ移行】


【橘議員、討論会へ参加せよ。あなたの役割は変わらない】


橘の喉がひりついた。

(……やはり、見ているんだな)


通話機能は常に一方的。


質問は許されない。

返事を返さなくてもいい。

だが、逆らえない。


彼らは“国家の上にある存在”だ。


たとえ国家を見捨てることになっても、

目的だけは変わらない。


橘の背筋を冷汗がつたう。

「梓さんは……迅くんは……どうなる……」


“梓個体”。

エリドゥが彼女をそう呼ぶ以上、

彼らは当然、彼女の生存と行動を監視しているはずだ。


桧山あかりが死んだ夜、

橘が受け取った曖昧な警告も、エリドゥの介入だった。

(……俺は、どちらに立つべきなんだ?

 人間か。

 国家か。

 それとも……彼らか?)

橘の胸に、これまでで最も重い迷いが生まれた。


政治家たちのグループチャットが、逃亡先の相談で騒がしい。

その裏で、エリドゥは橘に“一つの指示”を課した。

討論会に出ること。


そして、梓の動向を“観察”すること。


――観察。

それが何を意味するのか、橘は知っていた。


彼らは不要と判断すれば切り捨てる。

その手段が人道的かどうかなど、関係ない。

喉の奥に、金属を噛むような不快感が広がる。


「……俺は……」


椅子から立ち上がり、橘は静かにスーツの上着を羽織った。


討論会へ向かう覚悟ではない。

もっと深いところ、

“逃げ続けた自分を終わらせる覚悟”だった。


エレベーターの前で足を止める。


永田町の夜風が窓から吹き込む。


その冷たさに、橘はようやく息を吸えた。

「……せめて、人としての答えだけは……間違えたくない」

エリドゥの視線が背後にある。


片山の正義が前方にある。

そして、迅と梓──失われたあかりの影が胸の中にある。


すべてが絡み合い、世界は静かに壊れようとしていた。


橘国政はその中心へ歩き出した。

自分が“どちら側の未来”に組み込まれているのかも知らないまま。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


引き続き次回もお楽しみ、いただけると幸いです。

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