表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地底の未来  作者: Spumante Rock


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/32

第19話 ― 片山洋介という“孤立した正義” ―

いつも読んでいただきありがとうございます。

国会議事堂の地下通路は、薄暗く、冷たい空気に満ちていた。

議員でさえ、その存在を正確に知る者は少ない。


片山洋介は、その無機質な回廊を一人で歩いていた。

天井の蛍光灯が点滅し、彼の影を長く引きずって揺らす。

足音だけが、静寂の中に規則正しく響いていた。

胸ポケットの奥で、スマートフォンがかすかな温度を残している。


----ほんの数時間前。

香坂からの電話。「お前、国民に政治家を殺させるつもりだろうが」

(……見抜いていたか)片山は、怒りも動揺も感じていなかった。

むしろ、ほんのわずかに笑ってしまった自分に気づいていた。


----地下通路の奥にある、小さな待機室。

かつて秘書時代に使っていた机が、そのまま残されている。

机の上には、政治家たちの情報ファイルと未処理のメモ。


そして、古びた名刺ケース。片山は椅子に腰を下ろし、深く息を吐いた。


(討論会の告知で、国民の怒りは一度“待つ”方へ向かった。

暴動は、確かに止まった)だが、それは一時的な猶予に過ぎない。

そんなことは、誰よりも片山自身が理解していた。


桧山あかりが暴いた真実は、あまりにも深かった。

賄賂、便宜、献金。国を売り、国民を裏切り、自分の利益だけを守る政治家たち。

(犠牲になるべきは、国民じゃない)

(政治家全員だ)それが、片山洋介の揺るぎない正義だった。


同時に…それが、

日本という社会の仕組みを破壊する行為であることも、

彼は承知していた。


(だが、壊さなければ変わらない)

(変わらなければ、腐敗は必ず繰り返される)

長年、政治の裏側を見続けた者だけが辿り着く結論だった。


***/控えめなノック音。「入れ」現れたのは、

私人秘書・高見隼人。情報部出身の、感情を表に出さない若い男だ。


「片山様。政治家の逃亡が始まっています。空港、港、どちらも混乱が拡大中です」


片山は、皮肉に口角を上げた。

「我先に逃げるか。それが“この国を守る者”の姿か?」


高見は表情を変えず、問いを投げる。

「討論会は……本当に実施されるのですか?」

「当然だ。あいつら自身の口で、裏金と腐敗を認めさせる」

「討論会の後、暴動が起きる可能性があります」

「それでいい」高見の瞳が、わずかに揺れた。


片山は机の上のペンを転がしながら、

静かに言った。「俺の目的は“浄化”だ。

腐った組織は、一度壊して洗い流すしかない。


必要な犠牲は……もう決まっている」淡々とした声。


だが、その奥には一切の迷いがなかった。

(狂っていると思われても構わない)

片山は、自分が社会に適合しない人間だと理解していた。


妥協を嫌い、曖昧さを拒む。人が生きる社会には、本来もっと余白が必要だ。


だが片山にとって、その余白は…腐敗の温床でしかなかった。


----机の端に置かれた、古い黒手帳に視線が落ちる。


桧山あかりの名前

彼女が追っていた政治案件の走り書き


片山は、その表紙を静かに撫でた。

「桧山……お前が俺の側につくか、香坂の側につくか……

最後まで分からなかった」


高見が、低い声で問う。


「桧山あかりを殺した判断は……本当に、片山様ご自身のものだったのですか?」


片山は答えなかった。

だが、目を伏せたその横顔が、十分すぎる答えだった。

(殺したくはなかった)

(あいつは……俺と同じ“正義の亡霊”だった)

だが桧山は、破壊ではなく告発を選んだ。


その時点で、二人の正義は決定的に分かれた。


片山の正義は、“国を再生するための浄化”。

桧山の正義は、“真実を伝えること”。

交わることは、もうなかった。片山は手帳を閉じる。


「行くぞ、高見。討論会の準備を進める」

「承知しました」

高見が去り、扉が静かに閉まった。


----片山は一人、椅子に身を沈める。

蛍光灯の下で、ゆっくりと目を閉じた。

(香坂……お前たちは“守りながら変える道”を選んだ)

それを否定するつもりはない。


(だが、俺は違う)

(壊し、痛みを与え、その傷を未来に刻み込むことでしか……変革は生まれない)


彼の正義は、孤立している。

誰にも理解されず、共感もされない。それでも


----その孤独こそが、片山洋介の使命だった。


片山は目を開き、スマートフォンを手に取る。


画面には、香坂の名前。

(俺の正義を止めるなら……覚悟を持って来い)冷たい光が、彼の顔を照らした。


討論会まで、残された時間はわずか。

そして日本は、“最も危険な男”の正義の上を、静かに進み始めていた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


引き続き次回もお楽しみ、いただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ