第16話 ― 暴かれる真実、揺らぐ信念 ―
いつも読んでいただきありがとうございます。
国仲あやが画面越しに語り始めた。
接待、脅迫、写真での脅し、金銭の授受、
次々と提示される断片的な事実。
淡々としているからこそ、恐ろしさが倍増する。
香坂は無意識に息を飲み、画面に見入っていた、
やがて表情が柔らかくなり、
目の奥に一瞬、理解と合点が灯るのを迅は見逃さなかった。
「来たか……」香坂が小さく呟く。
その言葉には、驚きでも嫌悪でもない、どこか冷めた納得が含まれていた。
迅もまた、目を細める。二人の中に、危険な共鳴が生まれていた。
国の腐敗を暴くことの意味、その正当性に心が傾いた。
香坂が自分に言い聞かせるように呟いた。
『片山は何も嘘は言っちゃいない。俺たちは何を警戒してる?
同じようなことをしようとしてたじゃないか……』
迅も映像に違和感はなかった。
『国民に真実を伝えたい気持ちは同じだったんですかね……』
だが、映像はさらに進んでいく。
国仲あやの遺書が読み上げられ、全国へと流れる。
その時、急に梓は目を見開いた。
「これはまずいよ……」
「どうしたの?」迅が問う。
梓の瞳がわずかに光る。
「迅くん、この映像を見た国民はどうなると思う?」
「そりゃあ、政治家のことを信頼できなくなるね。」
「……それだけじゃない。殺意すら湧くわ。」
その瞬間、彼女の視界が淡く揺れた。
***未来の断片***
デモ、暴徒化、怒りの群衆。
火炎瓶の光、破られる扉。
政治家たちの自宅が襲われる光景。
梓は息を呑んだ。
「これ……国民の怒りが“行動”になったらどうなるか、わかる?」
迅が言葉を失う。
梓は迅の回答を待たず答えた。
「片山は、確実に政府にダメージを与える方法を選んだ。
国民の手で、政治家を裁かせるつもりなんだよ。」
梓が震える声で続けた。
「もうすぐ画面の隅に白い四角が現れる。QRコードよ。
それを読み取れば、
政治家の名前、住所、スケジュール、裏金の流れが全部出る。」
沈黙
画面の中では淡々とAIで構成された声が流れ続ける。
冷たい電子音。
そして、QRコードが現れた。
香坂の顔が硬くなる。
「これは単なる“暴露”じゃない。民衆を焚き付けるための導火線だ。」
梓は震えながら呟いた。
「これ以上はだめ……これは“真実”じゃなく、“扇動”よ……」
香坂は立ち上がり、窓の外を見つめる。
冬の波が静かに寄せては返す。
「真実を出すなら、人を死なせるわけにはいかない。
桧山は伝えるために動いた。
片山は、暴力を起こさせるためにそれを利用している。
同じ事実でも、使い方が全然違う。」
迅が拳を握りしめ、梓の方を見た。
「梓ちゃん、もし放送の中で“致命的な未来”が見えたら、即座に知らせて。
君の未来の一時間が、誰かの命を守るんだ。」
梓は涙をこらえながら頷いた。
恐怖の中で、決意の炎が灯る。
その頃、片山洋介は内閣総理大臣記者会見の会場に到着していた。
芦田首相の会見が中断され、会場は騒然としていた。
誰もが察していた。
この放送ジャックは、完全な内部犯行だと、
政府の中の“誰か”が、真実を暴こうとしている。
芦田首相が叫ぶ。
『皆さん落ち着いてください!
このようなフェイク映像を信じてどうするんですか!
これは政府を貶めるために偽造された内容でしかない!』
怒号とヤジが飛び交う中、
一人の男がゆっくりと会場の奥から姿を現した。
橘議員だった。
鎌倉の海沿いにある小さなカフェの窓から、
冬の朝日が射し込んでいた。
湯気の立つコーヒーカップの向こうで、
店内のテレビには総理・芦田の緊急会見が映っている。
香坂、迅、梓
三人は言葉を失い、ただ画面を見つめていた。
「……これで国が動き出すだろうな。」
香坂がつぶやく。その声は低く、重かった。
テーブルの上には、亡き桧山あかりが残したSDカード。
迅の膝の上にはノートPC。
画面には無数のフォルダが並び、その一つが光っていた。
“Personal Information”
迅は無言でクリックした。
整然と並んだ膨大な人物データ。
政治家、官僚、大企業の会長、メディア幹部、軍事システムの管理責任者まで……。
迅の指が止まった。
「……あった。片山の番号だ。」
香坂が画面に身を乗り出す。
梓が眉を寄せて、小さく呟いた、
「香坂さん電話を掛けてください!!」
香坂は短く頷いた。
その目には迷いはなかった。
「こいつの目的を……本人の口から聞く。」
その瞬間。
梓が椅子を押しのけるように立ち上がった。
「ま、待ってください……!」
その瞳がふっと遠くを見つめ、焦点を失っていく。
未来が開いていく、
◆梓の見る未来の光景
香坂が携帯を耳にあて、片山と会話している。
その会話の中盤、風景がぐにゃりと歪む。
人々の行動が、意思が、何千もの流れとなって揺らぐ。
ニュース速報、SNS、暴動、議会、メディア……。
未来という一本の線が、捩れ、枝分かれし、霧の中へ消えていく。
そして。
何か大きな“変化”が起きる。
◆梓の身体が崩れ落ちかけ、香坂が慌てて抱きとめた。
「梓! どうした!」
「……未来が、歪んでるんです……
香坂さんが電話を手にした瞬間……長い時間の……大きな歪みが……」
呼吸が乱れ、手は震えている。
迅が背中をさすりながら言った。
「どれくらいの規模だ?」
梓は首を振る。
「数百、数千……国民の行動が一斉に変わるほど……。
香坂さんの“ひと言”で、大きな流れが生まれる未来です……。」
香坂は黙り、梓を見つめた。
そして、ふっと笑った。
「なら……その歪みを、こっちの突破口に変えるだけだ。」
迅が机を叩くようにして言う。
「香坂さん、本気ですか!? 片山は政府側の情報機関ですよ!」
「だからだ。やつが動く前に、先んじて狙いを聞く。もう後には引けん。」
梓が深呼吸をし、平静を取り戻す。
「……わかりました。でも、交渉内容は決めておきましょう。未来が揺らぎすぎると、私も視えなくなります。」
「そ、そうだな……何も考えてなかった……」
香坂が頭を掻く。
すると迅が落ち着いた声で提案した。
「討論会をJBSで“完全生放送”でやる、と持ち掛けてください。
芦田首相、橘議員、秘書の片山……全員まとめて。
国民が今欲しているのは“真実”です。暴動よりも、そちらに意識を向けさせられる。」
梓が頷く。
「いい案です。香坂さんなら番組編成くらいできるでしょうし。」
「でも……それで暴動を止められるのか?」
香坂は渋い顔で言った。
迅は、沈んだ声で言う。
「保証はできません。でも……国会の雰囲気を見てください。
国民はもう、何を信じていいかわからない状態です。
討論番組が告知された瞬間、
暴動より“真相を聞こう”という方向に意識は向きます。」
梓が補足した。
「つまり……“番組を組むから告知してくれ”と片山に誘導するんです。
直接じゃなく……私が未来を先読みして、会話を導きます。」
香坂は深く息を吸った。
「……よし、やるか。」
スマホを掴み、片山の番号を押す。
コール音。
1回、2回・・・
通話が繋がった。
:受話器:『俺だ香坂だ』
『……まさかお前からかかってくるとはな、香坂。』
『取引だ、片山。』
その瞬間、梓は未来の“会話”を視た。
そして即座にPCに文字を打ち込み、香坂へ示す。
香坂はその文字をひと目見るごとに、表情を変えながら話し続けた。
未来と現実が、同時進行で動き始める。
梓の入力
《 何故桧山を殺した? 》
香坂は思わず噛みながら叫ぶ。
「な、なんで桧山を殺したんだ……?」
片山は鼻で笑った。
『質問がずれているな……
お前はなぜ、生きている?』
梓
《 桧山の罠にハマった事に気づいてないのか? 》
「桧山の罠に気づいてないのか?」
片山の声が一瞬揺れた。
『……何が言いたい。』
梓
《 国民に政治家を暗殺させるつもりだろ? だが一手足りない…… 》
「国民に政治家を殺させる気だろ? でも……お前は一手足りない……!」
片山
『桧山の伝言か……?』
梓
《 高山洋子を殺したいんだろ? 》
香坂の手が止まり、目が大きく見開かれる。
迅と梓が “早く言え” と無言の圧をかける。
香坂
「高山洋子を……殺したいんだろ?」
片山
『言われなくても考えている。』
梓
《 なら、生放送で全部晒してやれよ。
芦田首相、橘くにまさ、お前も含めて……本番で全て喋らせる番組だ。 》
香坂
「なら、生放送で全部晒せよ! 芦田に橘に、お前もだ!」
梓「そんなに雑な言い方してません……」
片山の息が深くなる。
『国民の意識をそらすつもりか……?』
「ちげぇ。オレも腹立ってんだよ。
今の記者会見のあとで“明日、JBSで討論番組をやる”って言え!」
沈黙。
片山
『……後悔するなよ。』
プツッ・・・
電話は切れた。
三人は、誰も言葉を発せなかった。
そして。
「うまく行ったでしょうか?」
「香坂さん、暴走するから、、」と、梓がクスッと笑った。
店内のテレビが突然速報に切り替わる。
――国会議事堂。
橘議員が、荒れ狂う議場の中央に立っていた。
「慌てるな。国民が政治家の不正を知ったところで、代わりの政府などない。
……我々は国民の“無関心”の上に成り立ってきたんだ。」
議場がざわつき、テレビの音声は震えていた。
橘は続ける。
「だが今日……初めて恐怖している。
国民が“無関心ではなくなった”からだ。」
その目は、どこか清々しくさえ見えた。
カメラを見据え、橘は言った。
「行動しなければ、何も変わらない。」
その直後、片山が記者団の前に立つ映像が流れた。
『状況は最悪です,政治の仕組み自体を問う必要があります。
明日未明、JBSテレビで生放送の討論番組を行います。
芦田首相、橘議員、秘書たちも無作為に選出し、“全て”を話していただきます。』
香坂たちは、その映像に息を呑んだ。
迅がつぶやいた
「結果的には上手く行ったって事だけど、問題が解決した訳じゃない、」
未来は確実に動き出していた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
引き続き次回もお楽しみ、いただけると幸いです。




