24話 怖い…
小国バボロの跡地にて黒い靄が溢れていた。
「タスケテ…」
「あ…ああ…」
「アツイ!」
「イタイ…」
黒い靄から多数の声が聞こえた。
「コロシテヤル!」
その言葉と同時にバボロ国跡地に溢れていた靄は、一か所に収束していき、しばらくすると黒い靄は人の形を成した。
「コロシテヤル!」
そう呟くと、その者は黒い霧を引きながら姿を消した。
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ヒメノ国から出立してから一週間が経った頃、シン達はシュトラス国首都にたどり着いたのだった。
「シン様!」
「シン様、お戻りになったのですね!」
「ただいま!」
検問所の騎士達の言葉にシンは手を振りながらそう言った。
そうして、シン達はハクとベガが引く馬車に乗って人々の歓声を受けながら城壁へと到着した。
「我が家に到着!」
シンはそう言いながら馬車を降りると、シンに向かって少女が走って来ていた。
「シン兄様!」
「グへっ!」
少女は勢い良くシンの胸に飛び込み、シンは衝撃を受けた。
「アリス、ただいま」
「シン兄様、おかえりなさい!」
アリスはシンに頭を撫でられ、嬉しそうに笑った。
「シン、おかえり」
シンにそう言ったのは婚約者の一人であるリアだった。
「リア、ただいま」
「随分遅かったのね?」
リアはシンに疑いの目を向けた。
「あ、遊んでいた訳じゃないよ!」
「ダンジョンに行ってたんでしょう?」
「い、や、そのう…」
「後で説教よ」
「…はい」
(はぁ、尻に敷かれるってこういうことか…)
シンはそう思いながら肩を下ろすのだった。
「シ、シ、シン様」
「ん?」
シンを呼びかけたのは竜であるリーシアだった。
「君はリーシアだったよね?」
「はひぃ…」
「どうしてここにいるの?」
「私も学園に入学するからです」
「そうなの?竜域ってやつから離れて大丈夫なの?」
「はい、多少離れても大丈夫ですし、それにもうすぐ竜域に入れますので」
(もうすぐ入れる?)
シンが疑問に思っていると城からウィルが出てきた。
「シンよ、よく戻った」
「父様、ただいま戻りました」
「今帰ったところですまないが、話がある」
「分かりました」
シンはハクとベガを庭で休ませ、荷物などはメイドであるセリー達に任せて、シン達はダイニングの席に着いた。
「単刀直入に言う、お前達には学園に入学してもらう」
「分かりました!」
「え?」
シンの即答にウィルは唖然とした。
「ごねると思って魔導書を用意したのだが…」
「それはありがたく貰いますね!」
「はぁ」
笑顔で言うシンにウィルはため息を吐き、呆れた。
「それと、ガイとライについても、ドラシエル国王から許可が出ている。しばらくは城でゆっくりして行ってくれ」
「「お気遣い感謝いたします」」
ガイとライはそう言ってウィルに頭を下げた。
「え!?ガイが敬語を使ってる…」
「まるで王子みたいですね…」
「これでも王子なんだよ!」
「ウフフ」
シンとアルの驚きの言葉にガイが言い、ライはガイの隣で笑っていた。
「では、学園に行くまでは時間は少ないが準備を頼むぞ」
「「はい!」」
そう言ってウィルは席を立ち、ダイニングを出た。
「よーし!早速魔導書を読もうっと!」
「待ちなさい」
『ガシッ!』
シンは魔導書を持ってダイニングを出ようとしたとき、リアに肩を掴まれた。
「…一応旅から帰ったばかりなんですけど…」
「いいから来なさい!」
「ちょっと!」
『ズズズズズ』
リアはシンを引きずりながら庭に出た。
庭で待っていたのはリーシア達だった。
「どうしたの?」
「実はねリーシアさんも貴方の婚約者になったわよ」
「え!?」
(なんか、勝手に婚約者が決められているんだが?)
「そういうことだから」
「いや、僕らまだ会って間もないんだけど…」
「シ、シン様はお嫌ですか?」
リーシアは不安な眼差しでシンを見た。
「ぐぅ、分かったよ!リーシア、これから婚約者としてよろしくね」
「はひぃ…」
『バタン』
顔を真っ赤にしたリーシアは、そのまま意識を飛ばすように倒れた。
「リーシア様!」
「お気を確かに!」
「喜びのあまりに倒れてしまったわ!」
リーシアのそばに控えていた3人が倒れたリーシアを支えた。
「僕のせいなの?」
「貴方のせいね」
「ごめんね、あの木陰で休ませてあげてくれる?」
「かしこまりました」
そう言って竜達はリーシアを木陰へと運んで行った。
「要件はこのことだけ?」
「ええ、そうよ」
「それじゃ!僕は出かけるね!」
そう言ってシンは城壁に向かおうとしたがリアに止められた。
「待ちなさい!」
「要件は終わったでしょ?」
「王子が護衛も連れずに城を出ちゃダメよ!」
「えぇ〜」
シンは面倒くさそうな表情を浮かべた。
「それなら僕がついて行くよ」
そう言ったのは、リアの父であるレイツだった。
「レイツ兄さん!」
「お父様も次期国王でしょ?」
「いいから、いいから」
「うわっ!?」
「お父様!」
レイツは強引にシンとリアを引っ張って街へと向かった。
「シン達は寮で生活するのかい?」
レイツは街中を歩きながらシンとリアに聞いた。
「そっか、住む場所を考えてなかった…」
「そうね、ここから通うってこともできないでしょうね」
「そうだよ、学生寮にするなら大丈夫だけど家を借りるなら、自分たちで家賃を払わないといけないよ」
レイツは2人にそう言った。
「ぐぬぅ…魔導書とか買いたいし…」
(額にもよるけど、学生寮でいいかなぁ〜)
「多少手持ちがあるけど私は家を借りられそうにないわ」
「贅沢な生活に慣れさせたくないからね大金はあげてないよ」
「じゃあ一択ですよね…」
「学生寮で決まりね」
「分かったよ」
そうして話しているとシンは露店の前で立ち止まった。
「どうしたんだい?」
「どうしたのよ?」
「ち、ちょっと待ってて!」
そう言ってシンは露店に売っている装飾品類を見る。
(そういえば、ヨミだけに髪飾りをプレゼントしている…リアとリーシアにもプレゼントを贈らないと婚約者同士で揉めてしまうかもしれない…それとリーシアには何を贈ればいいんだ!竜だから首輪しか思いつかない…それはダメだ!嫌な思いをしたばかりだ…どうすれば!)
「安心しなよ、リーシアなら人型にもなれるから」
「そうなんですか!?」
レイツがこっそりとシンに教えた。
「そういえばヨミは髪飾りをつけていたわね…」
「ギクッ!」
シンの背後からリアが言った。
「私が一番最初に婚約者になったのにヨミが先に贈り物をもらうなんて嫉妬しちゃいそう」
「…」
シンはリアの言葉に後ろを向けずに硬直しながら、汗をダラダラと流していた。
「…今回は大目に見てあげる…プレゼント期待してるわね…」
「…はい」
凍りつくような声でリアに言われ、シンは震えながらも返事をした。
「これを買います…」
「あいよ」
シンはリアへの髪飾りと、リーシアへの贈り物を購入した。
シンは露店の店主から包みを受け取ると、その場でリアへ差し出した。
「リア、喜んでもらえるか分からないけど…」
そう言ってシンは白い花を基調とした二つの髪飾りをリアに渡した。
「リアはツインテールが似合っているからね」
「嬉しいわ!」
リアは嬉しそうに髪飾りを受け取ると、その場でそっとツインテールにつけた。
「リア、似合っているよ」
「シン、ありがとう!」
レイツの言葉にリアがシンに向かって微笑みながら言った。
「良かった…」
リアの嬉しそうな笑顔を見て、シンは胸をなで下ろした。
(この笑顔を守りたい…神人族は寿命がないだけで、不死というわけじゃない、僕はこの世界のこともまだまだ知らない…もっと、強くなりたい!)
シンは拳を強く握りながら思う。
(なんだろう…前世ではこんなふうに心から何かをしたいって思えたことはなかった…守りたいものを守るために僕は強くなる!せっかく魔法を学んだり、ダンジョンがあるならスキルを手に入れて、スキルレベルをどんどん上げたい!考えるだけでもワクワクするぞ!よし、やり込むぞ!)
そう言ってシンは道のど真ん中で手を掲げる。
「……」
「…恥ずかしいわ…」
そう言ってレイツとリアは痛い人を見るような視線をシンに向ける。
「…行こうか」
そう言ってシンは歩き出した。
(今更だけど、僕は前世で異世界系の物語を読んだり見ていた…そのせいか、すんなりと異世界を受け入れている、だけど普通はありえない…そうだよ、ありえないんだ…なぜ異世界があるんだ?神が必要な理由は?僕を転生させた理由は?スキルもそうだ、まるでゲームだ…この世界はなんなんだ?僕は本当に知らなすぎる…この世界を知るには、どうしたらいいんだ?)
「怖い…」
シンの口から、思わずその言葉が漏れた。
(知らないことでこんなにも恐怖を覚えるなんて…)
シンは未知ということに恐怖したのだった。




