22話 世界は永遠ではない
シン達はナガリオを出発し、ヨミをシュトラス国に連れていくためにヒメノ国の王城へと向かっていた。
「嫌だ!」
「いい加減うるさいですよ」
「アル、僕が王子扱いされるの嫌って知ってるよね?」
「慣れてください」
「王子って言っても王位継承権は持ってないんだよ!」
「シン様は普通の王子ではないのですよ?」
「普通って…」
「シン様は重要な存在です」
(なるほど…神の後継者か…)
「はぁ」
シンは荷が重いとため息を吐いた。
「それでは身分を隠せばいいのでは?」
「隠せるの?」
「名前だけを覚えてもらえればいいのですよ」
「でも、貴族の学園なんでしょ?」
「貴族だけではありませんよ、学園の試験に合格できれば貴族以外でも入学できます」
「そうなんだ」
(ほうほう…試験ねぇ…わざと落ちれば行かなくて済むんじゃ…)
「言っておきますがシン様達は手続きをして入学が決まっていますよ」
「なっ!」
「学園に入学しても問題ない実力と知識がありますからね」
「ぬぐぅ!」
悔しそうにシンは唸った。
「シン様、学園に入学すればきっとお喜びになるものがありますよ」
「僕が喜ぶ?」
「はい、学園がある都市には魔法や様々な分野の研究施設があり、なんと言ってもダンジョンがあります」
「ってことは、魔法に関する知識が豊富に学べてダンジョンまで潜れるの?!」
「はい」
「ウッヒョォォ!」
シンは喜びの声を上げた。
「なら行こう!」
「シンちゃん…セリーの話術にかかったわね…」
「人聞きの悪いことを言わないでください」
「はぁ」
ルシアは喜んでいるシンを見てため息をついた。
「それとね、シンちゃん、学園がある都市にはあなたのお姉ちゃんがいるわよ」
「シーナ姉様がいるんですか?」
「シーナちゃんじゃないわよ」
「あの方ですか…」
セリーは何とも言えない表情をして言った。
「初耳なんですけど…」
「あれ?そうだったかしら?」
「他にはいないですよね?…」
「大丈夫よ、あの子で全員よ」
シンは疑いの視線をルシアに向ける。
「本当よ!」
「僕、ガイが護衛だなんて知らなかったですよ?」
「忘れてた訳じゃないわよ…」
ルシアは目を逸らした。
「はぁ、その学園がある都市はどこにあるんですか?」
「う〜〜ん、見てからのお楽しみ!」
「大丈夫なんですか?それにいつまでに行かないと行けないんですか?」
「えっと…2週間後までに…」
「シュトラス国まで何日かかります?」
「2週間…」
「遅れても大丈夫なんですか?」
「ダメ…」
「…」
「「…」」
ルシアの言葉のあと無言の時間が続いた。
「ハクちゃん!ベガちゃん!急いで!」
「ハク、ベガ!後で唐揚げ作ってあげるから!」
「ウォンー!」
「ヒヒーン!」
そうして、シン達は大急ぎでヒメノ国へと向かうのだった。
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【ウィル・視点】
シン達がナガリオを出発して翌日の朝、ウィルは執務室で政務をしていた。
「ふぅ、この時期は申請書類が多いな…」
ウィルは山積みになった書類を見やる。
「これもルシアが飛び出したせいだ!ルシアの政務も私が片付けなければならんとは…」
コンコン
ウィルがボヤいていると執務室の扉がノックされた。
「入れ」
「失礼いたします」
「どうした?」
ウィルは入ってきた騎士に尋ねた。
「冒険者ギルドから手紙が届いております」
そう言って騎士は厳重に封をされた手紙をウィルに渡した。
「ご苦労、下がって構わない」
「ハッ!」
そう言って騎士は執務室を後にし、ウィルは手紙を読んだ。
「ルシアが行って正解だったか…しかし、あの方のお子を攫うとは、ヤミの読み通り【アビス】の仕業か…あやつめどれだけ悪行を重ねるつもりだ!」
バン!
ウィルはそう言って拳で机を叩いた。
「ん?」
ウィルは目を閉じた。
「まずいな…もう来られてしまったか…」
ガチャ
ウィルは窓を開け、窓から飛び降り、地面に触れる瞬間に落下が止まりゆっくりと庭に着地した。
「どうしたものか…」
ウィルがそう思っていると庭に向かって複数の竜が飛んできた。
「これは…どっちだろうか…」
そう言ってウィルは身構える。そして、赤竜と青竜が庭に舞い降り、2頭よりも2回り小さい紫竜が降り立ち、紫竜より一回り小さい三頭の竜が紫竜の背後に立ち、紫竜より2回り大きい6頭の竜が赤竜と青竜のそばに控えた。
「ウィルよ、久しぶりですね」
「ええ、10年ほどでしょうか」
「シン様が誕生して間もない時でしたね…」
「シンに会いたいものだ」
サラマとカイルが言った。
「それで今日はどうされました?」
「最初にお礼を言いますよ」
「娘を助けてもらい、感謝する」
「ええ、感謝いたします」
そう言ってサラマとカイルとともに他の竜達も一斉に頭を下げた。
「それはシンに直接言ってください」
「私は直接言えそうにありませんので」
「そうでしたね、シンに伝えておきます」
「頼みましたよ」
「それでは本題をお願いします」
ウィルはそう言って自ら本題を切り出した。
「ウィル、貴殿に問おう」
「あやつの始末は誰がするのだ?」
サラマとカイルの雰囲気が変わりウィルに緊張が走り、サラマ、カイル、ウィル以外の者達が気絶した。
「ご存知の通り我々は制約がございます、ですから制約がかかってないものにあやつの始末を託します」
ウィルの発言にサラマとカイルの雰囲気が更に鋭くなる。
「自分の子を死にさらすつもりか?」
「娘の恩人でもあるのだぞ」
時間が経つごとにその場の空気が重くなっていく。
「あの子が自ら選ぶ道なら私は我が子を信じるのみです」
「制約を解くという選択もあるだろ」
「人類はお主が思っているよりも強い力を持っている」
「わかっておりますが、我々はまだこの世界を知らなすぎるのです」
「否定はせぬ」
「未知というものは侮ってはならんからな」
「ですから、我々は備えるだけです」
「神人族は永遠を生きるが、世界は永遠ではない」
「我々も竜域を離れてしまえば弱ってしまう」
サラマとカイルがウィルに向かって言った。
「人族は知らぬが我々は神人族が最強に到れる存在だと知っている」
「そろそろ神竜族の1頭をテイムできるのではないか?」
「我々をテイムすれば竜域からも自由に離れられる」
「それはできません」
「理由は?」
「1つはシンのテイムスキルレベルが低いのと、現在シンは強力な2頭を従魔にしております」
「何?!」
「我々より先にか?」
「はい、そのため今のシンの魔力では命の危険があります」
「いたし方ないか…」
「だが、まだ子供と言ってもシンは神人族だろう?」
「高い魔力を保有しているでしょう」
「2頭の従魔はシンの魔力を心配して力を抑えています。本来の力を出してしまえばシンは絶命してしまいますから」
「それほどの存在か?」
サラマがウィルへと聞く。
「1頭は聖獣です」
「なるほど聖獣なら納得だ」
「だが、もう1頭は何者だ?」
「あの方のお子様です」
「もしや!!」
「あの種族に選ばれたのか!?」
「どうやら器と認められたようです」
「やっと…希望が現れましたね…」
「…なら、我々は時が来るまで見守ろうとしよう」
その言葉と同時に重い空気が霧散した。
「この話は終わりにしましょう」
「そうだな」
そう言ってサラマとカイルは大きく口を開け、咆哮を上げた。
「「グオオオオオオ!!」」
咆哮はシュトラス国全体に響き、気絶していた竜達が起き出した。
「私は自分の竜域に戻ります」
「我はメーティスで待っていよう」
「分かりましたが…」
ウィルは他の竜達を見やる。
「護衛の竜の6頭は私とカイルとともに行きますが、残りの4頭は学園に通うので、しばらくここで面倒を見てもらえませんか?」
その言葉と同時に、4頭は頭を下げた。
「構いませんよ」
「感謝します」
「それと、あの件なのだが」
「はい」
「娘も了承した」
そう言って紫竜が前に出て口を開く。
「娘のリーシアです、よろしくお願いいたします」
「国王のウィル・シュトラスだ、学園に行くまでゆっくりしていってくれ」
「感謝いたします」
そう言ってリーシアは頭を下げた。
「この子をシン様が助けてくれたのです」
「はい…」
リーシアは顔を赤らめながら返事をした。
「それで、婚約を決めたのですか?」
「はい!」
「なるほど…私は賛成するよ」
「あ、ありがとうございます!」
「リーシア、良かったわね」
「はい!お母様!」
「それじゃあ頑張るのよ」
「はい!」
「ウィルよ、もうすぐあの子が来るぞ」
「やっとか…」
そう言ってサラマとカイル達は飛び去ったのであった。
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シュトラス国から遠く離れた小国、真夜中の王城の天辺にて黒いローブを着た者達がいた。
「ナガリオでは失敗しちゃったけど〜今度はそうはいかないよ〜」
「殺す…殺す…」
「キキキ…キキ…」
そう言い残し、3人の姿は闇へと消えた。




