第99話 どうやら魚を飼うには大学院まで出る必要があるらしい。
【緊急速報】「魚を買うだけ」という考えが、甘すぎました。
――知らないことが増える。荷物も増える。そして最後に、二人は重大なことに気づく。――
店に入った瞬間。
ソラは。
迷いなく。
カウンターへ直行した。
ものすごく。
堂々と。
何も分かっていない人間とは。
思えないほど。
「すみませーん!」
「家の石の池に入れる魚!」
「欲しいんですけど!」
店員。
にこっ。
プロの笑顔。
「なるほど。」
「では、そういった池でも飼いやすい」
「一般的な種類からご案内しますね。」
「お願いします!」
店員についていく。
ソラ。
タケル。
そして。
到着。
大きな水槽。
かなり。
大きい。
その中。
ぬぅぅぅ……。
巨大な魚。
太い。
立派。
堂々。
ゆっくり。
泳いでいた。
「こちらは鯉ですね。」
「丈夫なので」
「池で飼うには向いていますよ。」
ソラ。
ぱちっ。
タケル。
ぱちっ。
二人。
もう一回。
ぱちぱちっ。
「……」
「……」
ソラ。
恐る恐る。
「……これ。」
「赤ちゃんですか?」
「いえ。」
「成魚です。」
「……」
「……」
沈黙。
タケル。
慎重に。
「……まだ。」
「大きくなりますか?」
「そうですね。」
「種類や環境によっては」
「かなり大きくなりますよ。」
二人。
鯉を見る。
でかい。
お互いを見る。
もう一度。
鯉。
ソラ。
ぼそっ。
「うちの池……」
「そこまで……」
「皇室仕様じゃないんですけど……」
「……」
店員。
一瞬。
止まった。
でも。
プロ。
説明。
開始。
「まず池の深さを確認していただいて。」
「はい。」
「ろ過設備と酸素供給。」
「はい。」
「水温管理。」
「はい。」
「餌の種類。」
「はい。」
「水質のバランス。」
「はい。」
「新しい魚を追加する場合は」
「病気を持ち込まないための隔離期間も――」
「はい。」
「それから外敵対策。」
「はい。」
「日光の当たり方にも注意が必要ですね。」
「なるほど。」
タケル。
完全集中。
真剣。
「掃除は?」
「部分的な水換えを」
「週に一度くらいが理想ですね。」
「それとアンモニアやpHも」
「定期的に確認してください。」
「pH。」
タケル。
こくり。
「なるほど。」
一方。
ソラ。
集中。
していた。
最初の。
二十秒くらいは。
「……」
ちらっ。
餌の棚。
発見。
「おっ。」
近づく。
じーっ。
「タケルくん。」
「これ見て。」
「魚めっちゃ笑ってる。」
「ソラ。」
タケル。
小声。
「話聞け。」
「聞いてるよ。」
「餌のパッケージ読んでるだろ。」
「大事じゃん!」
「今。」
「店員さん。」
「アンモニアの話してるんだけど。」
「アンモニアも大事そう。」
「じゃあ聞け。」
「すぐ戻る。」
「おい。」
てくてくてく。
行った。
完全に。
観光客。
その間も。
店員の説明は。
続く。
「池の大きさによっては」
「ポンプも必要になります。」
「外部フィルターや」
「底に敷く石。」
「水草などもあるといいですね。」
「……」
タケル。
ようやく。
気づき始める。
自分たちが。
とんでもない世界へ。
足を踏み入れたことに。
「……魚って。」
「水に入れれば終わりじゃないんですね。」
「そうですね。」
「小さな生態系を作るようなものですから。」
「……」
タケル。
遠い目。
「これ。」
「授業ですよね?」
店員。
にこっ。
「よく言われます。」
「……仕事みたいですね。」
「それもよく言われます。」
「…………」
タケル。
深い。
ものすごく深い。
ため息。
ふぅぅぅぅぅぅ……。
そのまま。
店員。
歩き出す。
「餌はこちらがおすすめです。」
ひょいっ。
タケルへ。
「はい。」
受け取る。
「こちらのカルキ抜きも」
「水を作る時に便利です。」
ひょいっ。
「なるほど。」
受け取る。
「網も一本あると便利ですよ。」
ひょいっ。
「確かに。」
受け取る。
「それと」
「pH測定キットは必須ですね。」
ひょいっ。
「大事ですね。」
受け取る。
気づけば。
タケル。
店員の後ろ。
てくてく。
両腕。
いっぱい。
「なるほど……」
「確かに……」
「必要ですね……」
「分かりました……」
完全に。
研修中の新人。
その時。
店の反対側。
「タケルくぅぅぅぅん!!」
「今度は何だ!!」
ソラ。
登場。
両手には。
小さな。
城。
「見てこれ!!」
「海底のお城!!」
「いらない。」
即答。
「あとこれ!!」
ひょいっ。
蛍光色。
人工水草。
「ネオンの草!!」
「ソラ。」
「あと!!」
「まだあるのかよ。」
ソラ。
急に。
声。
小さくなる。
秘密。
みたいに。
「……服。」
「……は?」
「服がある。」
タケル。
嫌な予感。
「何の。」
ソラ。
目。
きらきら。
「魚の。」
「…………」
「魚の服。」
「…………」
「魚の。」
「服。」
タケル。
そっと。
目を閉じる。
宇宙。
神。
仏。
誰でもいい。
力を。
ください。
「魚に服は着せない。」
「でも。」
「サメのフェルト帽子みたいなのあるよ。」
「ソラ。」
「かわいいよ?」
「ソラ。」
「……はい。」
戻した。
ものすごく。
悲しそうに。
そして。
タケル。
現実へ。
「すみません。」
「うちの池なんですけど。」
「だいたい……」
廊下の幅。
両手。
広げる。
「このくらいで。」
店員。
考える。
「ああ。」
「それくらいでしたら」
「七匹くらいは余裕ですよ。」
「……」
「……」
ソラ。
タケル。
同時。
「七匹!?」
「はい。」
沈黙。
二人。
脳内。
計算。
魚。
プラス。
餌。
プラス。
フィルター。
プラス。
pH。
プラス。
網。
プラス。
薬。
プラス。
なんか。
まだ。
いっぱい。
タケル。
ぼそっ。
「……破産する。」
ソラ。
即答。
「七匹もいらない。」
「いらない。」
「三匹で十分幸せ。」
「三匹なら。」
「かなり幸せ。」
店員。
にこっ。
「三匹から始めるのは」
「いいと思いますよ。」
「それでお願いします。」
即決。
しばらくして――
袋。
袋。
また。
袋。
必要な道具。
たくさん。
そして。
慎重に。
バケツの中。
三匹。
魚。
すいすい。
タケル。
必要な物。
担当。
ソラ。
なぜか。
小さな飾り。
担当。
「小さいから。」
「これはノーカウント。」
「何がノーカウントなんだよ。」
店を出る。
二人。
歩道。
ぴたり。
止まる。
お互い。
見る。
次。
荷物。
見る。
三匹の魚。
大量の袋。
そして。
一台の。
自転車。
「……」
「……」
「……」
風。
そよっ。
ソラ。
口を開く。
「……よし。」
「何が。」
「どうやって。」
「これ全部。」
「持って帰る?」
「……」
タケル。
自転車を見る。
自転車。
タケルを見る。
……ような。
気がした。
「……」
タケル。
一つの答え。
「工夫する。」
「工夫。」
「工夫しかない。」
「でも。」
二人。
魚を見る。
すいすい。
「生き物で工夫するの。」
「怖くない?」
「……怖い。」
沈黙。
ソラ。
ふと。
横を見る。
「あ。」
「公衆電話。」
タケルも。
見る。
「……」
ソラを見る。
「……」
そして。
同時。
「大沢さん。」
「大沢さん!!」
だだだだだだだだっ!!
二人。
走る。
公衆電話へ。
まるで。
国家レベルの。
緊急事態。
「怒られるぞ。」
タケル。
「大丈夫!」
ソラ。
ポケット。
小銭。
探す。
「大沢さんなら!」
「先に助けて!」
「あとで怒る!!」
「それ大丈夫じゃないだろ!!」
ちゃりんっ。
硬貨。
投入。
受話器。
がちゃっ。
そして――
ここに。
新たな作戦が。
始まろうとしていた。
その名も。
『自転車一台で、魚三匹と飼育用品一式をどうにかして持って帰る作戦』
なお。
開始前から。
無理そうだった。
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