第98話 ソラだけが知っている曲がり角
【緊急速報】魚を買いに行くだけなのに、なぜか命がけです。
――自転車で爆走!坂道で絶叫!そして迷子!二人は無事に魚を買って帰れるのか!?――
計画は。
簡単そうだった。
二人の頭の中では。
ものすごく。
簡単だった。
「高峰まで。」
「まっすぐ行って。」
「ある角を左に曲がれば……」
「着く!」
ソラ。
そう言いながら。
もう。
自転車を。
門の外へ。
押していた。
自信満々。
道を。
分かっている人の顔。
……では。
たぶん。
なかった。
タケル。
腕を組む。
「『ある角』は。」
「目印とは言わない。」
「言うよ。」
ソラ。
即答。
「見たら。」
「絶対分かるから。」
「お前。」
「頭おかしいだろ。」
うまくいった。
……少なくとも。
最初は。
ソラ。
自転車へ。
またがる。
その姿。
まるで。
今から。
プロのレースに。
出場する人。
「乗って!」
「ほら。」
タケル。
アイスを。
差し出す。
「お前の分。」
「……自転車乗りながら。」
「アイス食える?」
ソラ。
受け取る。
そして。
なぜか。
誇らしげ。
「なんで食えないの?」
「お前。」
「問題あるから。」
「……」
ソラ。
しゅん。
一瞬で。
顔が。
曇った。
「大丈夫。」
ぼそっ。
「腕にヒビ入ってるの。」
「僕じゃないし。」
「……」
タケル。
じーっ。
殴る。
たぶん。
あと少しで。
殴る。
そんな顔。
それでも。
後ろへ。
乗った。
少し。
不安。
かなり。
不安。
「できれば。」
「生きて着きたい。」
「だぁぁぁいじょーぶ!!」
ソラ。
出発。
ものすごい勢い。
びゅぅぅぅぅぅぅっ!!
速い。
ものすごく。
タケルの顔。
風。
直撃。
目。
細くなる。
「ソラぁぁぁ!!」
「俺のアイスが――!!」
「大丈夫!!」
「全部!!」
「コントロールしてるからぁぁぁ!!」
していなかった。
たぶん。
道。
上り坂。
上る。
さらに。
上る。
もっと。
上る。
ソラ。
必死。
こぐ。
こぐ。
こぐ。
呼吸。
ぜぇ。
ぜぇ。
「……お前……」
「近いって……」
「言ったよな……」
「近いよ……!」
ぜぇ。
「この……坂を……」
「越えれば……!」
「どの坂だよ!?」
「これ!!」
「見れば分かるでしょ!!」
そして。
坂の次。
下り坂。
ものすごい。
下り坂。
見ただけで。
お腹。
ふわっ。
喉まで。
上がってきそう。
「ソラ――」
「つかまってぇぇぇぇ!!」
びゅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!
自転車。
発射。
風。
もう。
風ではない。
暴風。
ソラ。
笑う。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
「これ!!」
「めっちゃ楽しいぃぃぃぃ!!」
「やっべぇぇぇぇ!!」
「最高ぉぉぉぉ!!」
テンション。
最高潮。
その時。
ソラ。
両手。
ぱっ。
ハンドルから。
離す。
「見て!!」
「手放し――」
「ソラぁぁぁぁぁ!!」
ぐらっ。
自転車。
揺れる。
「……」
「……」
「……」
ソラ。
そっと。
ハンドル。
握る。
タケル。
深呼吸。
「俺たちが死んだら。」
「お前。」
「絶対。」
「化けて出てやるからな。」
「ははははは!!」
そして。
タケル。
突然。
「ソラ。」
「ちゃんと持ってろ。」
「俺。」
「立つから。」
「……」
「は?」
一秒。
理解。
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
「お前が!?」
「そんなことすんの!?」
「無理無理無理――」
常識。
完全に。
無視。
タケル。
立った。
ペダルの上。
ソラの肩。
ぎゅっ。
そのまま。
立つ。
自転車。
まだ。
下っている。
ソラ。
目。
見開く。
「うわっ!!」
「すげぇぇぇぇぇぇ!!」
「俺のアイス。」
「落ちる――」
「僕もやる!!」
「やるな!!」
ソラ。
立とうとする。
自転車。
ぐらっ。
怪しい。
ものすごく。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
「座れ!!」
「座った!!」
「ちゃんと座れ!!」
「もう座ってる!!」
「二度と立つな!!」
「立たない!!」
「……」
「……」
静か。
車輪。
からからから。
それだけ。
「……今。」
「死にかけたな。」
「でも。」
「楽しかった。」
「……」
タケル。
少し考える。
「……確かに!!」
ソラ。
ちらっ。
タケルを見る。
何か。
企んでいる顔。
「帰り。」
「僕が後ろ乗りたい!!」
「ダメ。」
即答。
「えぇぇぇぇぇぇぇ!!」
下り坂。
終了。
そして。
次。
また。
上り坂。
「……」
ソラ。
こぐ。
こぐ。
こぐ。
こぐ。
……止まった。
「……」
「……」
「……」
自転車。
降りる。
「歩こう。」
タケル。
耐えられない。
ふっ。
笑う。
「チャンピオン。」
「疲れた?」
「作戦。」
「はいはい。」
「坂が急すぎる。」
「はいはい。」
「あと。」
「余計な重さがある。」
「……」
タケル。
止まる。
「お前。」
「俺が重いって。」
「言ってる?」
「うん。」
「……」
即答。
二人。
自転車を押す。
てくてく。
てくてく。
数分後。
タケル。
辺りを見る。
「ソラくん。」
「ん?」
「そろそろ。」
「その『ある角』。」
「見えてもいい頃じゃないか?」
「いやいや。」
ソラ。
前を見る。
「もうすぐ。」
さらに。
五分。
「ソラ。」
「ん。」
「俺たち。」
「同じパン屋。」
「二回通ったぞ。」
「偶然。」
「窓のおばあちゃんも。」
「また手振ってくれた。」
「優しい人なんだよ。」
「ソラくん。」
「……」
「迷ったな。」
沈黙。
ソラ。
前を見る。
横を見る。
後ろを見る。
「……」
「ちょっとだけ。」
「ちょっとぉ!?」
二人。
道行く人へ。
聞き始める。
「すみません。」
「この辺に。」
「魚のお店ってありますか?」
「魚?」
「はい。」
「水槽とか。」
「そういう……」
「あぁ。」
通行人。
少し考える。
「大通りの近くに。」
「確かあったと思うけどねぇ。」
「どの大通りですか?」
「大きい通り。」
「……」
「……」
役に立たない。
別の人。
「魚のお店?」
「あぁ。」
「君たち。」
「だいぶ遠いよ。」
「どのくらいですか!?」
「歩いて。」
「十五分くらいかな。」
「……」
ソラ。
タケルを見る。
タケル。
ソラを見る。
「……」
「……」
「行こう。」
十五分後。
二人。
汗。
だらだら。
疲労。
限界。
髪。
ぼさぼさ。
息。
ぜぇぜぇ。
そして。
角を。
曲がる。
「……!」
あった。
水槽。
いっぱい。
ショーウィンドウ。
色とりどりの。
魚。
すいすい。
きらきら。
看板。
そして。
目的地。
魚のお店。
ソラ。
腰に。
両手。
ぜぇ。
ぜぇ。
でも。
顔。
誇らしげ。
「ほら。」
「言ったでしょ?」
「ちゃんと。」
「着いた。」
タケル。
膝。
両手。
呼吸。
整える。
「俺たち……」
「街を……」
「一周しただろ……」
「でも。」
ソラ。
にこっ。
「着いた。」
「……」
タケル。
深呼吸。
姿勢。
戻す。
店を見る。
「……よし。」
一拍。
「お前が。」
「『帰りは特別な近道がある』とか。」
「言い出す前に。」
「魚。」
「買うぞ。」
ソラ。
にやっ。
「約束はできない。」
「……」
タケル。
ため息。
「だと思った。」
そして。
二人。
ようやく。
本当に。
ようやく。
魚のお店へ。
入っていった。
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