第97話 惨劇の始まり
【速報】「300ならいける」でケーキ作りを続行。
――科学的根拠ゼロ。自信だけは満点。そして小麦粉は空を飛んだ。――
ハルミは。
スマホを。
容器に。
立てかけた。
動画。
開く。
『簡単!ふわふわ完璧ケーキの作り方』
「……」
サイコ。
画面を見る。
「信用できそう。」
「でしょ?」
動画。
再生。
その瞬間。
ずるっ。
スマホ。
落下。
「待って。」
二人。
拾う。
もう一度。
立てかける。
ずるっ。
「……」
また。
落ちる。
ハルミ。
押さえる。
「そこ。」
「そこにいて。」
「動かないで。」
手を離す。
ずるっ。
「い・て。」
砂糖の袋。
どん。
スマホの横。
固定。
「……」
動かない。
「よし。」
勝利。
「じゃあ。」
「サイコちゃん。」
「メモして。」
「砂糖。」
「250。」
「250。」
「……」
ハルミ。
首をかしげる。
「350だった?」
「250。」
「でも。」
「350って。」
「言ってなかった?」
「250。」
「戻してみよ。」
動画。
戻す。
くるくる。
くるくる。
「……」
停止。
二人。
画面を見る。
「……」
「ネット。」
「だね。」
「もちろん。」
沈黙。
ハルミ。
砂糖を見る。
サイコを見る。
「何グラムだと思う?」
「……300で。」
「いけるんじゃない?」
「300なら。」
「いける。」
「300なら。」
「いける。」
「うん。」
「300ならいける。」
決定。
科学的根拠。
ゼロ。
自信。
百。
サイコ。
ハンドミキサー。
持つ。
「つけるよ。」
「うん。」
コンセント。
差す。
その瞬間。
ヴォォォォォォォォォォォォン!!!
「うわぁぁぁぁ!?」
「ちょっ!!」
「切って切って切って!!」
「やってる!!」
「やってるってぇぇぇ!!」
ガチャッ。
……。
停止。
静寂。
二人。
心臓。
ばくばく。
サイコ。
胸。
押さえる。
「……よし。」
「誰も死んでない。」
ハルミ。
「まだね。」
「やめて。」
深呼吸。
料理。
再開。
「最初。」
「液体だったよね?」
ハルミ。
思い出す。
「そうだった。」
卵。
ぱかっ。
ぱかっ。
牛乳。
とぽとぽ。
油。
たらー。
サイコ。
砂糖を見る。
「ねえ。」
「砂糖って。」
「液体?」
「粉?」
「……」
ハルミ。
真剣。
「概念的には?」
「ハルミちゃん。」
「一緒に入れよ。」
「……まあ。」
「いいか。」
ざーっ。
投入。
「次。」
「小麦粉。」
「……」
サイコ。
止まる。
「粉って。」
「粉同士じゃなかった?」
「そうだった。」
「……」
二人。
ボウルを見る。
「もう入れたね。」
「入れた。」
「……」
「もう。」
「いこう。」
「うん。」
サイコ。
ハンドミキサー。
構える。
今度は。
慎重に。
スイッチ。
オン。
ヴォォォン!!
次の瞬間。
ぶわぁぁぁぁぁぁぁっ!!
「!?」
小麦粉。
舞う。
舞う。
ものすごく。
舞う。
髪。
服。
床。
テーブル。
そして。
魂。
全部。
真っ白。
「げほっ!」
「げほげほっ!!」
サイコ。
目。
ぱちぱち。
「これ!!」
「ゆっくり入れるやつだった!?」
「たぶん!!」
ガチャッ。
停止。
……。
静寂。
白い。
何もかも。
白い。
サイコ。
自分の腕を見る。
「……雪。」
「降ってるね。」
ハルミ。
髪の粉。
ぱんぱん。
「冬テーマ。」
「11月だけど。」
「コンセプト。」
「便利だね。」
ハルミ。
チョコレートパウダー。
取り出す。
蓋。
開ける。
容器。
つるっ。
「……あ。」
「待っ――」
ばさぁぁぁぁっ。
「……」
テーブル。
茶色。
全面。
茶色。
「……」
ハルミ。
「……まあ。」
サイコ。
「……うん。」
「うん。」
「うん。」
処理。
終了。
ハルミ。
新しい。
小麦粉の袋。
掴む。
「今度こそ。」
ぐっ。
力。
入りすぎる。
ボフッ!!
第二波。
真っ白。
「……」
「……」
二人。
完全停止。
粉まみれ。
顔。
白い。
髪。
白い。
服。
白い。
目だけ。
ぱちっ。
ぱちっ。
サイコ。
静かに。
「……エプロン。」
「意味あった?」
ハルミ。
少し考える。
「精神的には。」
「そっか。」
「よかった。」
全然。
よくない。
ハルミ。
ボウル。
覗く。
「……」
「サイコちゃん。」
「これ。」
「合ってると思う?」
サイコ。
覗く。
「……」
謎。
生地。
重そう。
でも。
ゆるそう。
どっちなのか。
分からない。
そもそも。
ケーキなのかも。
怪しい。
サイコ。
悩む。
「……ケーキっぽい。」
「だよね。」
「食べられそうではある。」
「たぶん。」
「……オーブン?」
「オーブン。」
決定。
型へ。
どろっ。
どろどろっ。
全部。
入れる。
ハルミ。
スマホを見る。
「何分?」
「……40分?」
「なんか。」
「ケーキって。」
「それくらいじゃない?」
「それっぽい。」
「40分。」
また。
決定。
科学的根拠。
今回も。
ゼロ。
オーブン。
開く。
型。
入れる。
閉める。
カチッ。
「……」
二人。
ゆっくり。
キッチン台へ。
もたれる。
「……」
「……」
ふぅぅぅぅ……。
長い。
ため息。
静寂。
そして。
「……ふふっ。」
ハルミ。
「……っ。」
サイコ。
「ふふふっ。」
「ははっ。」
「アハハハハハ!!」
二人。
笑う。
止まらない。
サイコ。
粉だらけの。
ハルミを見る。
「私たち。」
「何やってるか。」
「全然分かってないよね。」
「全然。」
「本当に。」
「何にも。」
「でも。」
「作ってる。」
「作ってるね。」
ハルミ。
オーブンを見る。
「……成功してる?」
サイコも。
見る。
「分かんない。」
「じゃあ。」
「40分後。」
「答え合わせ。」
「うん。」
「オーブンが。」
「生きてたらね。」
「……」
「……」
二人。
オーブンを見る。
オーブン。
「……」
沈黙。
何も。
言わない。
何も。
起きない。
今のところ。
それが。
逆に。
怖かった。
キッチンに。
静かな。
緊張だけが。
漂っていた。
――惨劇は。
まだ。
始まったばかりだった。
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