第95話 価格戦争
【緊急速報】“誰も死なない料理”を検索するところから始まりました。
― レシピ不明、材料不明、カートは反抗期。それでも二人はレジを目指す!! ―
冒険は。
調味料売り場から。
始まった。
……たぶん。
少なくとも。
二人は。
そこを。
調味料売り場だと。
思っていた。
ハルミ。
棚から。
一つ。
袋を取る。
妙に。
おしゃれ。
シンプルなデザイン。
きれいな文字。
そして。
レモンの絵。
どう見ても。
ちょっと。
高級そう。
「見て。」
ハルミ。
自信満々。
「これ。」
「絶対。」
「ちょっと高級な。」
「調味料だよ。」
サイコ。
受け取る。
くんくん。
匂いを嗅ぐ。
眉をひそめる。
「……」
「なんか。」
「強くない?」
「濃縮タイプなんだよ。」
「すっごい。」
「濃縮されてるけど。」
その時。
店員が。
通りかかった。
袋を見る。
二人を見る。
一瞬。
止まる。
「……」
何か。
言おうとする。
でも。
やめた。
そのまま。
歩いていった。
ハルミ。
満足そうに。
うなずく。
「ほら。」
「店員さんも。」
「何も言わなかった。」
「普通の商品だよ。」
サイコ。
袋を。
くるっ。
裏返す。
読む。
ぱちっ。
瞬き。
もう一回。
読む。
「……ハルちゃん。」
「ん?」
「これ。」
「……多目的。」
「油汚れクリーナー。」
沈黙。
ハルミ。
考える。
「……キッチン用?」
「キッチンを。」
「掃除する用。」
「……」
「私たち。」
「料理に。」
「洗剤入れるところだったよ。」
ハルミ。
一秒。
考える。
「でも。」
「衛生的には――」
「ハルミ。」
「はい。」
「戻します。」
「戻します。」
二人。
ものすごく。
自然な顔で。
商品を。
棚へ。
戻した。
何も。
起きてません。
そんな顔。
隣では。
調味料を選んでいた。
一人の。
おばあさん。
二人を。
じーっ。
見ていた。
まるで。
人生に迷った。
若者たちの。
ドキュメンタリーを。
見ているような。
そんな。
優しい目だった。
五分後。
曲がるカート。
買い物リスト。
なし。
自信。
ほぼ。
なし。
「ねえ。」
サイコ。
ついに。
聞いた。
「私たち。」
「結局。」
「何作るの?」
「アイデアは。」
「あったよ。」
「……あった?」
「今は。」
「もうちょっと。」
「概念になった。」
「ハルミちゃん。」
「落ち着いて。」
「落ち着くのは。」
「私の方だよ。」
ハルミ。
スマホを。
取り出す。
検索。
入力。
そして。
売り場の。
ど真ん中で。
止まった。
「大人数。」
「安い。」
「簡単。」
「誰も死なない。」
「料理。」
サイコ。
真顔。
「完璧な。」
「検索ワードだね。」
「でしょ?」
検索。
ぽちっ。
「……あ。」
「出た。」
「何?」
「これ。」
「おいしそう。」
「作れる?」
「無理。」
「私。」
「作れる?」
「無理。」
「……」
「じゃあ。」
「どうするの?」
ハルミ。
真顔。
「覚える。」
サイコ。
真顔。
「なるほど。」
二人。
こくっ。
頷く。
まるで。
これから。
歴史に残る。
失敗をする。
二人の。
科学者だった。
「材料。」
「玉ねぎ。」
「トマト。」
「鶏肉。」
「クリーム。」
「簡単。」
「簡単。」
「簡単。」
「簡単。」
開始。
玉ねぎ。
四個。
理由。
特になし。
トマト。
いっぱい。
理由。
なんとなく。
鶏肉。
大きいパック。
一つ。
……からの。
もう一つ。
「足りなかったら。」
「困るから。」
クリーム。
二種類。
「どっち?」
「分かんない。」
「じゃあ。」
「両方。」
合理的。
たぶん。
カート。
すでに。
いっぱい。
そして。
相変わらず。
キィィィィ……。
鳴いていた。
次の売り場。
サイコ。
曲がる。
そして。
ぴたり。
止まった。
「……ハルミちゃん。」
「なに?」
「今。」
「見ないで。」
「もう見てる。」
「見ないで!!」
「だから。」
「もう見たって。」
サイコ。
顔面。
蒼白。
「あそこ。」
「生徒いる。」
「どの子?」
「……」
「ハルミちゃん。」
「分かるわけないよね……。」
「あ。」
「そうだった。」
ハルミ。
ぱあっ。
笑顔。
「じゃあ。」
「挨拶しよ――」
「正気!?」
サイコ。
全力。
阻止。
「いい!?」
「教師の。」
休日。」
「第一ルール。」
「学校の外で。」
「生徒と。」
目を合わせない!!」
「えっ。」
「そんな。」
「重大なルールなの?」
「重大です。」
「見られた?」
「分かんない!!」
「じゃあ。」
「しゃがんで。」
「え?」
「しゃがんで。」
サイコ。
即。
しゃがむ。
カートの後ろ。
完全に。
隠れる。
ハルミも。
なぜか。
緊張。
仲間が。
焦っていると。
自分まで。
焦る。
そういう。
タイプだった。
きょろきょろ。
何か。
隠すもの。
何か。
何か。
何か――
「あった!」
手に取る。
ホールトマトの缶。
それを。
サイコの顔の前へ。
すっ。
「変装。」
「これ。」
「変装じゃない。」
「トマトソース。」
「ないより。」
「マシ!」
その子。
七歳くらい。
母親と。
一緒。
何も知らず。
歩いてくる。
ぼんやり。
周りを見る。
その視線が。
二人の方へ。
通り過ぎる。
……はずだった。
ぴたっ。
戻った。
サイコを見る。
「……」
サイコ。
完全停止。
口の端だけで。
呼吸。
顔の前。
ホールトマト。
ぷるぷる。
震えている。
「……」
少年。
首を。
かしげる。
眉を。
ひそめる。
もう一秒。
見る。
そして。
何事もなく。
歩いていった。
二人。
動かない。
待つ。
まだ。
待つ。
数秒後。
サイコ。
小声。
「……たぶん。」
「バレてない。」
ハルミ。
同じく。
小声。
「壊れたカートの後ろで。」
「トマトを顔に当ててたからね。」
「……」
「効いた。」
「完璧な。」
「変装だった。」
サイコ。
ゆっくり。
立ち上がる。
「でも。」
「学校で。」
『スーパーで先生が隠れてた』って。」
「言われたら。」
「どうしよう……。」
ハルミ。
即答。
「双子の妹。」
「私。」
「双子の妹いない。」
「今日から。」
「いる。」
「……」
サイコ。
少しだけ。
考えた。
「なるほど。」
納得。
してはいけない。
二人。
深呼吸。
一回。
任務。
再開。
「よし。」
サイコ。
気持ちを。
切り替える。
「集中。」
「あと。」
「何が必要?」
ハルミ。
スマホを見る。
じーっ。
「……」
「これ。」
「読み方。」
「分かんない。」
「見せて。」
「パ……」
「プリ……」
「カ……?」
「パプリカ。」
「……」
「必要?」
「分かんない。」
「取る?」
「取ろう。」
取った。
「じゃあ。」
「これは?」
「何それ。」
「分かんない。」
「取る?」
「取ろう。」
取った。
「これは?」
「……」
「なんか。」
「重要そう。」
「取る?」
「取ろう。」
取った。
結果。
カート。
満杯。
重い。
曲がる。
そして。
精神的にも。
不安定。
ハルミ。
深く。
ため息。
「ねえ。」
「家を出た時は。」
「もっと。」
「簡単だと思ってた。」
サイコ。
遠い目。
「いつも。」
「そうだよ。」
「……」
「私たち。」
「できるかな。」
サイコ。
カートを見る。
ハルミを見る。
店内を見る。
そして。
「……」
「料理してから。」
「分かる。」
「それも。」
「そうだね。」
キィィィィィィィィ……!!
カート。
大声。
反対意見。
二人。
無視。
「よし。」
「これ以上。」
「変なもの増やす前に。」
「レジ行こう。」
「行こう。」
二人。
カートを。
押し始める。
その瞬間。
ぐいっ。
左。
「……」
「この子。」
「行きたくないって。」
「会計が。」
「怖いんだよ。」
「私も。」
「怖い。」
「でも。」
「行くしかない。」
「うん。」
そして。
二人は。
進んでいった。
二人の女性。
怪しい計画。
反抗期のカート。
そして。
料理になるのか。
まだ。
誰にも分からない。
大量の。
食材。
完成するのは。
夕食か。
それとも。
料理史に残る。
大惨事か。
それは。
まだ。
誰にも。
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