第94話 これは何かがおかしい
【悲報】スーパーのカート、一輪だけ何かに取り憑かれています。
― それでも春海と彩子は3円を節約したい。買い物より先に始まった、謎の節約大作戦!! ―
スーパーのカート。
タイヤは。
四つ。
そのうち。
三つは。
普通だった。
そして。
残りの一つは。
たぶん。
何かに。
取り憑かれていた。
「春海ちゃん……」
彩子。
カートを。
押している。
「これ。」
「勝手に左へ行くんだけど。」
「勝手じゃないよ。」
「個性。」
「私。」
「カートと戦ってるんだけど。」
「自信持って。」
「押せば大丈夫。」
ギィィィィ……。
カート。
鳴く。
斜めになる。
そのまま。
特売品の山へ。
吸い込まれていく。
「ちょっ。」
「ちょちょちょちょ!!」
彩子。
全力で。
軌道修正。
ぎりぎり。
回避。
「……このカート。」
「引退させられたのには。」
「理由があると思う。」
でも。
もう。
遅かった。
ここまで来た。
このカートを。
選んでしまった。
なら。
最後まで。
付き合うしかない。
そして。
何より。
二人には。
使命があった。
節約。
そう。
節約である。
問題は。
この辺りには。
スーパーが。
二つあること。
一つは。
正式には。
二人が住んでいる。
日の出町。
もう一つは。
正式には。
水野町。
ただし。
建物は。
ほぼ隣。
同じ通り。
似たような外観。
なのに。
値段が。
数円。
違う。
数円。
たった。
数円。
しかし。
数円は。
大事だった。
ものすごく。
大事だった。
春海。
真剣な顔。
「作戦。」
彩子。
ぴたり。
止まる。
「彩子ちゃんは。」
「水野の方。」
「私は。」
「日の出の方。」
「電話しながら。」
「値段を比べよう。」
「……」
彩子。
少しだけ。
考える。
「それ。」
「なんか違法っぽい。」
「賢いだけ。」
「めちゃくちゃ面倒くさそう。」
「節約だから。」
「……」
「分かった。」
「説得された。」
こうして。
二人。
分かれた。
まるで。
秘密任務へ向かう。
二人の。
エージェント。
そして。
五分後。
水野町側。
米売り場。
彩子。
値札を。
じーーーっ。
スマホ。
耳。
「春海ちゃん。」
「こっちのお米。」
「298円。」
『え!?』
「298円!」
『348円!?』
「違う!!」
「298円!!」
『電波悪い!!』
「に!!」
「ひゃく!!」
「きゅう!!」
「じゅう!!」
「はち!!」
『348って聞こえる!!』
「どんな世界なら!!」
「お米がそんな値段になるの!?」
『今の物価ならありえるでしょ!!』
ザザッ。
ブツッ。
「……」
電話。
沈黙。
数秒後。
戻る。
『そっち。』
『トマトいくら?』
春海だった。
「120円!」
『720円!?』
「ひゃく!!」
「にじゅう!!」
『700って聞こえた!!』
「700円だったら!!」
「私が泣いてるよ!!」
その横。
一人の。
おじいさん。
通り過ぎる。
ちらっ。
彩子を見る。
スマホ相手に。
まるで。
裏社会のボスと。
交渉しているような。
勢いだった。
彩子。
何事もなかったように。
カートを見る。
カート。
左へ。
行きたがっている。
「次。」
「電話切れたら。」
「もう節約やめる。」
ブツッ。
切れた。
「……」
数秒後。
復活。
「春海ちゃん。」
「結論。」
「水野の方が高い。」
『こっち。』
『日の出の方が安いよ。』
『えっと……』
『待って。』
『今見るから……』
彩子。
待つ。
「……いくら?」
『3円。』
「……」
「3円。」
『うん。』
「……」
「春海。」
『はい。』
「戻る。」
『分かった。』
『じゃあ後で――』
ブツッ。
切れた。
一方。
日の出町側。
春海。
何事もなかったように。
パスタ売り場。
カートを押す。
商品を。
ぽい。
ぽい。
入れていく。
「今日は。」
「あれにしようかな……」
「あの……」
「ソース使う……」
「あれ……」
「あと。」
「何か焼くやつ……」
自分でも。
何を作るのか。
分かっていない。
パスタ。
ソース。
よく分からない袋。
飾りっぽい何か。
そして。
明らかに。
食べ物ではない何か。
全部。
カートへ。
「……」
「まあ。」
「後で分かるでしょ。」
決定。
角を。
曲がる。
その瞬間。
「……」
目の前。
一メートルもない。
距離。
彩子。
「ひゃあああっ!!」
「うわあああっ!!」
二人。
同時に。
小さく。
叫んだ。
隣にいた。
おばあさんまで。
びくっ!!
「さ。」
「彩子ちゃぁぁん!?」
春海。
声を潜めながら。
目を見開く。
「瞬間移動した!?」
「戻るって言ったでしょ!!」
「電話切れたもん!!」
「言った!!」
「聞こえなかった!!」
「だから戻ってきたの!!」
「まだ水野にいると思ってた!!」
「……」
「……」
二人。
しばらく。
見つめ合う。
息。
少しだけ。
荒い。
まるで。
一本の。
アクション映画を。
生き延びた後。
そんな顔。
そして。
春海。
下を見る。
「……」
「なんで。」
「そのダメなカートまで。」
「こっちに連れてきたの?」
彩子。
真顔。
「もう。」
「ここまで一緒に。」
「苦労したから。」
「この子は。」
「私の。」
カート。
ギィィ……。
勝手に。
左へ。
曲がる。
二人。
見る。
「……」
彩子。
結論。
「こいつ。」
「私たちのこと嫌いだ。」
春海。
こくん。
「毒のある関係だね。」
「……」
一拍。
「で。」
春海。
「本当に。」
「日の出の方が安い?」
「3円。」
「……」
「県境越えた甲斐があったね。」
「町境ね。」
「どっちでもいい。」
「節約できたから。」
「それはそう。」
二人。
深呼吸。
一回。
そして。
改めて。
スーパーを見る。
彩子。
真剣な顔。
「よし。」
「ここから。」
「難しいところ。」
春海。
「買う。」
「何を買うか。」
「分かる。」
「買ったものを。」
「どう使うか。」
「分かる。」
「そして。」
「料理できるふりをする。」
「……」
春海。
スマホを。
取り出す。
「スマホが。」
「何とかしてくれる。」
彩子。
スマホを。
取り出す。
「スマホが。」
「何とかしてくれる。」
二人。
真剣に。
こくん。
頷いた。
ギィィィィィ……。
カート。
鳴く。
左へ。
行こうとする。
二人。
同時に。
押さえる。
本当の。
冒険は。
ここからだった。
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