第86話 十年分の話は、一晩じゃ終わりません!
【緊急速報】十年ぶりの再会、一晩じゃ話し足りない!?
― 大沢ハルミ、親友との夕食で“昔と今”が大渋滞!! ―
店内。
満席。
暖かい。
にぎやか。
そして。
周りの客にとって。
少しだけ。
危険だった。
理由。
声の大きさという概念を。
あまり理解していない女性。
二名。
ハルミと。
サイコ。
席に着く。
ほぼ。
同時。
ハルミ。
スマホ。
取り出す。
「ちょっとだけ待ってて!」
家に。
電話。
プルルルル……。
プルルルル……。
ガチャ。
『もしもしぃぃぃ!?』
元気。
ものすごく。
元気。
メイだった。
ハルミ。
その声だけで。
ふっ。
自然に。
笑顔。
「メイちゃん!」
「もう晩ご飯食べた?」
『ん~~……』
沈黙。
メイ。
考える。
さらに。
考える。
『タケルくんがね~』
『台所で何かしてるよ』
その奥。
遠くから。
『誰? “メイちゃん”』
タケル。
メイ。
電話口。
こそこそ。
ものすごく。
可愛らしく。
『ハルちゃん……』
その瞬間。
台所。
どさっ。
野菜。
置かれる音。
『メイちゃん、そのまま置いといて!』
『俺が出るから!』
ばたばたばたっ。
そして。
ガッ。
『うわっ』
段差。
たぶん。
つまずいた。
『先に風呂入って!』
『髪、土だらけだからちゃんと洗えよ!』
『はぁ~~い!!』
てててててっ。
メイ。
廊下。
走っていく。
遠ざかる。
足音。
そして。
ガチャ。
タケル。
電話。
交代。
『もしもし』
少し。
間。
『何かあった?』
「……」
ハルミ。
胸。
きゅっ。
なぜか。
罪悪感。
そして。
ちょっと。
言いづらい。
「あ、あのね……」
「昔の友達と」
「今、ご飯食べてて……」
「だから……」
「今日は一緒に晩ご飯食べられないの」
「……」
沈黙。
返事。
なし。
ハルミ。
『……』
『悲しんでる。』
そう。
確信。
一方。
電話の向こう。
タケル。
『……』
内心。
よし。
今日は。
静かに。
料理ができる。
しかし。
もちろん。
言わない。
こほん。
『別にいいよ』
「ご、ごめんね!!」
「21時までには帰るから!!」
『……』
『もう21時43分だけど』
「…………」
ハルミ。
停止。
「…………」
タケル。
待つ。
その横。
サイコ。
店員へ。
元気よく。
「すみませーん!!」
手。
上げる。
「生ビール一つお願いしまーす!!」
ハルミ。
「!!」
スマホ。
手で塞ぐ。
「サイコぉぉぉ!!」
電話の向こう。
タケル。
深いため息。
『そんなに気にしなくていいから』
「でも……」
『家のすぐ近くだろ』
「……」
ハルミ。
窓。
見る。
「……」
本当に。
近かった。
ものすごく。
近かった。
電話なんて。
使わなくても。
頑張れば。
ハルミの声。
家まで届きそうだった。
「分かってるけどぉ……」
「それでもなんか申し訳な――」
プツッ。
「……」
切れた。
「…………」
ハルミ。
スマホを見る。
信じられない。
もう一度。
画面を見る。
切れている。
ショック。
裏切り。
そして。
捨てられた気分。
その頃。
家。
『タケルく~~ん!』
風呂場から。
メイ。
『髪洗うの手伝って~~!!』
『今行くー!』
タケル。
向かう。
メイ。
気になったらしい。
『ハルちゃん、何だって?』
少し。
間。
『ママ――』
ぴたっ。
『……じゃなくて』
『ハルミさん、何だって?』
タケル。
「……」
『俺に絡んできただけ』
そして。
レストラン。
ハルミ。
ぷくぅぅぅ。
巨大。
ものすごく。
巨大。
ほっぺ。
「……切られた」
サイコ。
見る。
「……」
耐える。
「……っ」
頑張る。
「……ふっ」
無理だった。
「アハハハハハハハ!!」
「笑わないでよぉぉぉ!!」
「電話切られてるじゃん!!」
「怒ってるんだよ!!」
「違う違う!」
サイコ。
笑いながら。
届いたばかりの。
ビール。
ごくっ。
「今ごろ人生最高の夜を満喫してるって!」
「ひどい!!」
ハルミ。
腕。
組む。
完全に。
不満。
サイコ。
もう一口。
ごくっ。
そして。
「で?」
「いつ帰ってきたの?」
「昔の悪ガキどもには、もう会った?」
一拍。
「……じゃなくて」
「みんなには?」
「あ、うん……」
ハルミ。
考える。
「最初に会ったのは、イツ――」
その時。
プルルルル……。
「……」
ハルミ。
見る。
サイコ。
見る。
電話。
でも。
鳴っているのは。
サイコのスマホ。
画面を見る。
サイコ。
「……」
ぼそっ。
「噂をすれば」
通話。
ぽちっ。
そして。
ハルミとは。
まるで。
違った。
「もしもし!?」
「何!?」
ハルミ。
背筋。
ぴんっ。
電話の向こう。
男の声。
少し。
遠い。
『遅いけど』
『まだかかる?』
「……」
サイコ。
深呼吸。
怒り。
そして。
ゼロ。
忍耐。
「私が遅いってことは何かあったってことでしょ!?」
「もし私が何かに巻き込まれてたとして!」
「それで電話してきた第一声が」
「『まだかかる?』だったら――」
「……」
サイコ。
止まる。
考える。
もう少し。
言ってやろうか。
かなり。
真剣に。
考える。
しかし。
「……まあ、いいや」
「今日、私」
「機嫌いいから」
電話の向こう。
『そうみたいだな』
「……」
その横。
ハルミ。
口。
開いている。
目。
見開いている。
興味。
好奇心。
疑惑。
全部。
MAX。
サイコを。
じぃぃぃぃぃ。
見る。
魂まで。
覗きそうな勢い。
サイコ。
完全無視。
「清水くん」
「今日、家で食べないから」
ハルミ。
「……!」
サイコ。
続ける。
「適当に食べて」
「冷蔵庫に卵と鶏肉あるから」
電話の向こう。
『いや、ちょ――』
プツッ。
「…………」
サイコ。
切った。
ハルミ。
「…………」
三秒。
処理。
一秒。
理解。
そして。
爆発。
「なんで今イツキくんと一緒に住んでるのぉぉぉ!?!?」
周囲。
ちらっ。
サイコ。
気にしない。
ビール。
ごくっ。
「一緒に住んでないよ」
「え?」
間。
サイコ。
グラス。
置く。
「あいつが。」
もう一拍。
「私の家に住んでるの。」
「…………」
「えええええええ!?!?」
ハルミ。
身を乗り出す。
「だって二人!!」
「ずっと犬猿の仲だったじゃん!!」
「ああ」
サイコ。
うんざり。
「あのバカ」
「働く時間が毎日バラバラなの」
「それでサクラさんに」
「睡眠の邪魔!!」
「って追い出された」
「…………」
ハルミ。
想像。
一秒。
「ぶっ」
「アハハハハハハ!!」
「そんなことになってるなんて思わなかった!!」
「なったの」
サイコ。
ため息。
「で」
「なぜか私に回ってきた」
「アハハハハ!!」
サイコ。
テーブル。
肘。
つく。
そして。
目。
きらきら。
「さ」
「私の話はいいから」
ぐいっ。
ハルミへ。
近づく。
「全部話してぇぇぇぇ!!」
「えっ」
「あー……」
ハルミ。
記憶。
整理。
「最初は会社の別の事業所に異動になって……」
「それで、ある日スーパーに行ったら」
「あの子たちがいて」
「しかも、ものすっごく寒い日で――」
サイコ。
「そう!!」
突然。
割り込む。
「ていうか、あの八月の寒さ何だったの!?」
ビール。
ごくっ。
ハルミ。
「ねぇぇぇぇ!?!?」
「私もあんなの初めてだった!!」
「今年の十二月は逆にそこまで寒くならないって聞いたけど」
「ほんと!?」
「らしいよ」
「やったぁぁぁ!!」
「私もそれ願ってる!!」
ハルミ。
笑う。
そして。
ふと。
「あっ」
「覚えてる?」
「学校で山に行った時!」
「水道管凍って、お風呂入れなかったやつ!」
サイコ。
「覚えてるぅぅぅ!!」
「あの一週間!!」
「最悪だった!!」
「ほんとに!!」
二人。
爆笑。
声。
大きい。
周り。
ちらっ。
また。
見る。
二人。
気にしない。
まったく。
サイコ。
バンッ!!
テーブル。
叩く。
「って違う!!」
「子どもたちの話!! 続き!!」
「あっ!」
ハルミ。
「そうだった!」
「忘れてた!」
「忘れないでよ!!」
「それでね!」
「あの日からもう……」
ハルミ。
遠い目。
「サイコちゃん……」
「本当に……」
「いろいろあったの……」
「何!?」
「何があったの!?」
「全部聞く!!」
一拍。
「でも少しずつお願い!」
「一気に聞いたら私が倒れる!」
「アハハハハ!」
ちょうど。
料理。
到着。
二人。
食べ始める。
一口。
昔の話。
もう一口。
今の話。
学校。
仕事。
子どもたち。
昔の友達。
笑う。
話す。
途中で。
割り込む。
そして。
関係ない話へ。
脱線。
戻る。
また。
脱線。
十年分。
当然。
一晩では。
足りない。
そして。
サイコ。
突然。
思い出す。
「ハルミちゃん!!」
「ん?」
「覚えてる!?」
「学校で海行った時!!」
「他校の男子とケンカしたやつ!!」
ハルミ。
「ああああああ!!」
「覚えてる!!」
そして。
一切。
迷わず。
「あれは向こうが悪い!!」
「今でも反省してない!!」
「アハハハハハハ!!」
サイコ。
笑う。
ハルミも。
笑う。
止まらない。
完全に。
カオス。
そして。
懐かしい。
ただ。
楽しい。
昔と。
変わらない。
そんな時間。
その途中。
ハルミ。
ふと。
「そういえば、サイコちゃん」
「ん?」
「日曜日ね」
「メイちゃんの誕生日なの」
「それで――」
「行く」
「……え?」
「何時?」
「…………」
ハルミ。
ぱちっ。
「えっと……」
「早めでもいい?」
「みんなでちょっと豪華なお昼ご飯にしようかなって」
サイコ。
「あー……」
少し。
考える。
「じゃあ清水くんに送ってもらわないと」
「めんどくさ……」
一拍。
「でも行く!!」
「もちろん!!」
「手伝うよ!」
ハルミ。
「ほんと!?」
「当たり前でしょ!!」
二人。
グラス。
カンッ!
「やったぁ!」
笑う。
そして。
数秒後。
サイコ。
「……」
何かに。
気づく。
目。
細くなる。
ハルミを見る。
「……ハルミちゃん」
「ん?」
「今日」
「木曜日だよね?」
「……」
ハルミ。
停止。
「日曜日の準備」
「もう決めてる?」
「…………」
「買い物は?」
「…………」
「お昼の材料は?」
「…………」
「飾り付け」
「…………」
「ケーキ」
「…………」
「それから――」
「だ、大丈夫だから!!」
ハルミ。
叫ぶ。
顔。
笑顔。
心。
大パニック。
サイコ。
じーっ。
分析。
疑う。
ものすごく。
疑う。
しかし。
「……そっか」
信じることにした。
ハルミ。
にこっ。
外側。
平静。
内側。
『何も。』
『準備してない。』
サイコ。
ビール。
ごくっ。
『……』
『この顔。』
『絶対。』
『何も買ってない。』
ハルミ。
『サイコちゃんに。』
『買い物。』
『付き合ってもらおう……』
サイコ。
『……』
『私。』
『この子と。』
『買い物行くことになるな。』
「……」
「……」
目。
合う。
言葉。
必要なし。
十年ぶりでも。
そこだけは。
通じた。
そして。
二人の夕食は。
まだまだ。
続く。
笑い声。
昔話。
どうでもいい話。
そして――
誰にも。
まだ。
見えていない。
日曜日の。
大惨事。
それだけが。
静かに。
近づいていた。
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