第85話 入れ替わったハンカチと、確定した問題
【最新ニュース】10年ぶりの親友との再会、5分で全てが元通り!?
―大沢はるみの真面目な同窓会は、友情と涙とゴシップの海へと一変!―
はるみはついに子供たちの入学手続きの相談を始めた。
子供たちにとって初めての学校生活。
不安でいっぱいの彼女。
でも、友達はもういるはず!?
…少なくとも、そう思っていた。
ところが、その友達はみんなトラブルメーカーばかり!?
さらに、10年ぶりに親友のサイコと再会した直後、
ティッシュを交換し、涙を流してからわずか数分後―
「あんたってゴシップ好きでしょ!」「あんたってチクり屋!」
まるで昔のように、二人の言い争いが再び始まる!
二人の友情は完全に復活!
二人は夕食に出かけた――
ということは、次は間違いなくゴシップ会だ!?
校長は机に両手をついた。
深く息を吸う。
そして――
説明した。
短く。
分かりやすく。
簡潔に。
全部。
子どもたちがやって来たこと。
家の状況。
書類のこと。
ハルミがこれまでしてきたこと。
全部。
「……」
沈黙。
ハルミ。
ぱちっ。
もう一度。
ぱちっ。
「……校長先生」
「はい?」
「……私、昨日」
「はい」
「電話で二時間かけて、それ全部説明したんですけど」
「そうですね」
「……先生、今三十秒くらいでしたよね?」
校長。
プロフェッショナルな微笑み。
「経験です」
ハルミ。
胸に手を当てた。
「すご……さすが先生……」
その向かい側。
サイコ。
すでに。
目が。
うるうる。
サイコがハルミを見る。
ハルミもサイコを見る。
「……」
「……」
二人とも。
ぷるぷる。
感動。
鼻。
ずびっ。
そして。
同時に――
ハンカチを取り出した。
「……」
「……」
止まる。
見つめ合う。
そして――
交換。
ハルミ。
サイコのハンカチ。
サイコ。
ハルミのハンカチ。
そのまま。
涙を拭く。
「ハルミが絶対、感情大爆発系のお母さんになるって思ってたぁぁ……!」
ずびっ。
「サイコちゃんがこんな仕切りたがりの先生になるなんて思わなかったぁぁ……!」
ずびっ。
校長。
「……」
半秒だけ。
目を閉じる。
すぅー。
はぁー。
「……はい。二人とも泣き終わりましたね」
その瞬間。
サイコ。
ターボモード復帰。
「で!? いつから来るんですか!?」
「月曜日!?」
「明日!?」
「今日!?」
「テスト作ります!?」
「教材は!?」
「あと私――」
「落ち着きなさい」
「はい」
即。
沈黙。
校長は続ける。
「少し特殊な状況です」
「二人とも、これまで正式な学校教育を受けたことがありません」
ハルミの表情も。
少し真剣になる。
「ですから、年齢に合わせて通常のクラスに入ってもらいますが――」
「しばらくは、こちらでも注意深く様子を見ます」
ハルミ。
こくり。
そして。
「あっ!!」
思い出した。
「あの子たち、友達います!! それって助けになりますよね!?」
校長。
ペンを取る。
「誰ですか?」
ハルミ。
何も知らず。
無邪気に。
「アオカゼくんと、ゴロウマルくんと、ハナビラくんと、シリガネくん!」
「それからメイちゃんには、ウミナリちゃんとモモハラちゃんがいます!」
「……」
校長。
停止。
サイコ。
ゆっくり。
視線を逸らす。
その顔。
『うわぁ……』
「……よりによって」
校長。
ぼそっ。
「ん?」
ハルミ。
首を傾げる。
「どうしたんですか?」
サイコ。
こほん。
「えーっと……なんて説明したらいいかな……」
少し考える。
「……あの子たち」
「はい」
「全員、問題児。」
「え?」
サイコ。
なぜか。
ちょっと楽しそう。
「全員!!」
「全員!?」
「あのクラス、本当に大変なのよ! ハルミ知らないでしょ!? 先週なんて――」
「月城先生」
「黒板消し隠したの!」
「月城先生」
「扇風機の中に!」
「月城先生」
「しかも扇風機、回ってたの!!」
「月城先生」
「だからスイッチ入れた瞬間――」
「月城。」
「……」
沈黙。
サイコ。
すっ。
姿勢を正して座る。
「……すみません」
校長。
何事もなかったように続ける。
「……ですが」
「すでに友達がいるというのは良いことです」
「学校生活に慣れるうえでも、大きな助けになるでしょう」
ハルミ。
ちょっと考える。
「……じゃあ」
「いいこと……なんですね」
「ええ」
校長は。
一冊のファイルを差し出した。
「こちらを」
ハルミ。
受け取る。
「制服について」
一枚。
「教材一覧」
一枚。
「時間割」
一枚。
「部活動について」
一枚。
ハルミ。
めくる。
ぺらっ。
ぺらっ。
ぺらっ。
まだある。
ぺらっ。
「……多くないですか?」
「多いよ」
サイコ。
即答。
「部活、活動、保護者会、行事、文化祭、テスト、発表――」
「ちょ、ちょっと待って……」
ハルミ。
すでに。
目が回りそう。
「分かった……分かったから……あとで読む……」
全部。
ファイルへ。
そっ。
まるで。
宇宙船の操縦マニュアルをしまうように。
校長が言った。
「月曜日から登校して構いません」
「……!」
ハルミ。
立ち上がる。
そして。
深く。
頭を下げた。
「本当に……ありがとうございます、校長先生」
その声だけは。
ちゃんと。
真剣だった。
サイコも立ち上がる。
「ほら、行こ。ドラマチック母ちゃん」
「誰がドラマチック母ちゃんよ!」
「あなた」
「即答!?」
二人は。
一緒に廊下へ出た。
歩く。
しばらく。
沈黙。
足音だけが。
廊下に響く。
十年ぶりに再会した二人。
何から話せばいいのか。
まだ。
ちょっと分からない。
サイコ。
横目でハルミを見る。
「……今、どこ住んでるの?」
「日の出町」
ハルミが答える。
「古い家が多いところの――」
ぴたっ。
サイコ。
止まった。
「……待って」
ゆっくり。
振り返る。
ハルミを見る。
じーーーーっ。
「……まさか」
「?」
「あの廃ホテルの女!?!?」
ハルミ。
ぱちっ。
「……私――って、ホテルじゃないから!!」
「旅館!! 昔は旅館だったの!!」
「じゃあ!!」
サイコ。
指をさす。
「子どもたち引き取って、近所で大宴会したっていうのも!?」
「……私」
「……」
サイコ。
頭を抱える。
「嘘でしょぉぉぉぉ!!」
「何が!?」
「あなただったの!?」
「だから何が!?」
サイコ。
突然。
「……あいつ、何にも言わなかった」
ハルミ。
ぴくっ。
目。
細くなる。
「……あいつ?」
「……」
ハルミ。
さらに。
じーーーーっ。
そして。
「サイコちゃん」
「何」
「……男?」
「違う」
「彼氏!?!?」
「違うって!!」
「サイコちゃぁぁぁぁぁん!!!!」
「違うから!!」
「いるんでしょ!?」
「いない!!」
「話そらさないで!!」
「そらしてるのそっちでしょ!!」
「誰なの!?」
「今それ関係ないから!!」
「関係ある!!」
「ない!!」
サイコ。
強制的に話題を戻す。
「あなた、黒沢くんと同じ会社で働いてるんでしょ!?」
ハルミ。
止まる。
「……」
「……」
「なんで知ってるの!?!?」
サイコ。
ゆっくり振り返る。
その顔。
怪しい。
とても。
怪しい。
「私にはね……」
間。
「情報網があるのよ。」
ハルミ。
腕を組む。
「……ゴシップ好き」
「情報通」
「ゴシップ好き」
「戦略的なの」
「ゴ・シ・ッ・プ・好・き」
「情・報・収・集!」
「……」
「……」
ぷっ。
二人。
笑った。
ようやく。
空気が。
ほどけた。
十年分の空白が。
ほんの少しだけ。
短くなった気がした。
サイコ。
ぱちん!
指を鳴らす。
「あっ、そうだ!」
「ん?」
「日の出町に、すっごく美味しい店あるの」
「私、ちゃんと食べたい時いつも行くんだけど」
ニッ。
「今日、一緒に夕飯どう?」
ハルミ。
考えた。
約。
半秒。
そして。
笑う。
「いいよ! 車取ってくる!」
「よし、決まり!」
二人。
駐車場へ。
到着。
止まる。
見る。
「……」
「……」
そこには。
二台の車。
同じ車種。
同じ形。
基本の色まで同じ。
違い?
サイコの車。
きれい。
無傷。
普通。
そして。
ハルミの車。
ちょっと。
曲がっている。
ちょっと。
疲れている。
ちょっと。
うるさい。
フロントガラス。
一部ない。
シートベルト。
一つない。
そして。
車全体から漂う。
『いろいろあったけど生き残りました』感。
サイコ。
見る。
車。
ハルミ。
車。
ハルミ。
「……友情に送迎は含まれないからね」
「誘ってないけど」
「よかった」
「よかった」
それぞれ。
自分の車へ。
エンジン。
始動。
サイコ。
ヴゥゥン……
静か。
滑らか。
正常。
ハルミ。
ヴァァァァァァ……!!
ゴホッ。
ゴホッ。
……。
ヴルルルルン!!
サイコ。
目を閉じる。
「……教師人生」
ハルミ。
ため息。
「……人事人生」
そして。
二台は。
一緒に走り出した。
しばらくして――
ハルミ。
自分の車から。
大声。
「こっちまで音楽聞こえてるんだけどぉぉぉ!!」
サイコ。
向こうの車から。
さらに大声。
「ごめぇぇぇん!! 最近ちょっと耳遠くなってきててぇぇぇ!!」
「それは見れば分かるぅぅぅ!!」
二人。
笑う。
そのまま。
夜の町へ。
夕飯へ。
ゴシップへ。
そして――
次の騒動へ。
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