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ようこそ、ハルミのカオスな日常へ!  作者: あじせ
家庭内混乱マニュアル:初心者版!
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73/84

第73話 言ってはいけない言葉

【速報】ゴキブリ一匹のはずでした。

― 気づけば上司、黒猫、ねずみ、全員参戦していました ―


深夜四時。


眠れない竹流が見つけたのは、

一匹のゴキブリ。


それだけのはずだった。


……本当に。


それだけのはずだった。


しかし。


なぜか黒沢はスリッパを装備。


春海は叫び。


近所の黒猫は壁を越え。


気づけば家中が大騒ぎ!!?


たった一言が引き起こす、

午前四時の総力戦が始まる!!

 


午前四時三十七分。


 


静かだった。


 


家の中。


 


しん。


 


平和。


 


何事もない。


 


……少なくとも。


 


その瞬間までは。


 


竹流は。


 


キッチンの流し台に寄りかかり。


 


水を飲んでいた。


 


ぼーっと。


 


半分。


 


眠ったまま。


 


ほとんど。


 


自動運転だった。


 


ごく。


 


ごく。


 


「……」


 


その時。


 


床の隅。


 


何かが。


 


ちょろっ。


 


動いた。


 


竹流。


 


コップを止める。


 


「……」


 


目を細める。


 


暗い床を。


 


じぃっ。


 


もう一度。


 


ちょろっ。


 


「……ゴキブリ?」


 


コップを。


 


そっと置く。


 


ことっ。


 


眠気。


 


消滅。


 


ミッション開始。


 


竹流は。


 


近くにあった布巾を取った。


 


右手に。


 


布巾。


 


左手で。


 


椅子を引く。


 


ゆっくり。


 


音を立てないように。


 


慎重に。


 


ぎ……


 


竹流。


 


止まる。


 


床を見る。


 


動かない。


 


もう少し。


 


椅子を引く。


 


ぎぎ……


 


「……よし。」


 


布巾を構える。


 


「おいで……」


 


小声で。


 


「おいで……」


 


もちろん。


 


ゴキブリが。


 


素直に来るはずはない。


 


それでも。


 


呼んだ。


 


その頃。


 


居間。


 


黒沢圭。


 


片目だけ。


 


開けた。


 


「……」


 


物音。


 


ぎ……


 


少し間。


 


ぎぎ……


 


また。


 


物音。


 


黒沢は。


 


天井を見る。


 


まだ暗い。


 


時計を見る。


 


午前四時三十九分。


 


人間が。


 


活動する時間ではない。


 


ましてや。


 


椅子を引きずる時間でもない。


 


黒沢の頭は。


 


風邪薬のせいで。


 


少し。


 


ぼんやりしていた。


 


なお。


 


その風邪薬は。


 


本来。


 


飲む必要がなかった。


 


ぼんやりした頭で。


 


考える。


 


深夜。


 


不審な物音。


 


家の中。


 


誰かがいる。


 


導き出された答え。


 


――侵入者。


 


黒沢。


 


ゆっくり。


 


体を起こした。


 


周囲を見る。


 


武器。


 


何か。


 


武器になるもの。


 


手を伸ばす。


 


掴んだ。


 


スリッパ。


 


「……」


 


黒沢。


 


スリッパを見る。


 


もちろん。


 


犯罪は。


 


解決できない。


 


それでも。


 


持った。


 


今は。


 


これしかなかった。


 


黒沢は。


 


音を立てずに立ち上がる。


 


右手に。


 


スリッパ。


 


裸足で。


 


ゆっくり。


 


廊下へ。


 


一歩。


 


また一歩。


 


物音は。


 


キッチンから。


 


ぎ……


 


黒沢。


 


壁に背中をつける。


 


息を整える。


 


角の向こう。


 


誰かがいる。


 


スリッパを。


 


少しだけ。


 


高く構える。


 


そして。


 


勢いよく。


 


角を曲がった。


 


「あ――」


 


竹流。


 


振り返る。


 


「あ――」


 


二人。


 


固まった。


 


沈黙。


 


黒沢圭。


 


スリッパ装備。


 


竹流。


 


布巾装備。


 


午前四時四十分。


 


二人とも。


 


自分が。


 


何をしているのか。


 


よく分かっていなかった。


 


先に。


 


口を開いたのは。


 


竹流だった。


 


「……そのスリッパじゃ。」


 


一度。


 


スリッパを見る。


 


「誰も倒せませんよ。」


 


黒沢。


 


瞬きをする。


 


一回。


 


手の中を見る。


 


「……ですよね。」


 


少しだけ。


 


恥ずかしくなった。


 


スリッパを。


 


そっと下ろす。


 


「すみません。」


 


咳払い。


 


一つ。


 


「そういえば。」


 


「ちゃんと自己紹介をしていませんでしたね。」


 


こんな時間に。


 


こんな場所で。


 


こんな装備のまま。


 


それでも。


 


礼儀は。


 


大切だった。


 


黒沢は。


 


姿勢を正す。


 


「黒沢圭です。」


 


「よろしくお願いします。」


 


竹流も。


 


布巾を持ったまま。


 


ぺこり。


 


頭を下げる。


 


「竹流です。」


 


「竹流で大丈夫です。」


 


「よろしくお願いします。」


 


手を差し出す。


 


黒沢も。


 


握り返す。


 


握手。


 


まるで。


 


このキッチンに。


 


正体不明の何かが。


 


潜んでいないかのように。


 


二人は。


 


非常に。


 


礼儀正しかった。


 


黒沢は。


 


握手を終えると。


 


床を指さした。


 


「それで。」


 


「何があったんですか?」


 


竹流も。


 


床を見る。


 


「たぶん。」


 


「ゴキブリです。」


 


「ああ。」


 


黒沢。


 


納得。


 


一匹のゴキブリ。


 


午前四時。


 


確かに。


 


眠れなくなる理由としては。


 


十分だった。


 


「捕まえようとしてました。」


 


「なるほど。」


 


黒沢は。


 


真面目な顔で。


 


うなずいた。


 


二人とも。


 


本気だった。


 


その時。


 


竹流の視線が。


 


黒沢の肩の向こうで。


 


ぴたり。


 


止まった。


 


「……」


 


顔色が。


 


変わる。


 


さっきまでの眠気が。


 


一瞬で。


 


吹き飛んだ。


 


「……黒沢さん。」


 


「はい?」


 


「動かないでください。」


 


「え?」


 


「そのままです。」


 


「……」


 


黒沢。


 


固まる。


 


竹流の表情は。


 


冗談を言う顔ではなかった。


 


「見つけました?」


 


「……はい。」


 


「捕まえられそうですか?」


 


「いえ。」


 


少し。


 


間。


 


「それは。」


 


「難しいです。」


 


「逃げそうですか?」


 


「それも。」


 


「違います。」


 


黒沢。


 


少しだけ。


 


首をかしげる。


 


「じゃあ。」


 


「何が問題なんですか?」


 


竹流。


 


小さく。


 


息を吸う。


 


「……」


 


「思っていたより。」


 


「大きいです。」


 


「大きいゴキブリ?」


 


「はい。」


 


「もっと。」


 


「大きいです。」


 


「どれくらいですか?」


 


竹流。


 


答えない。


 


いや。


 


答えられない。


 


「……」


 


「かなり。」


 


「大きいです。」


 


黒沢は。


 


まだ。


 


ゴキブリの話をしていると。


 


信じていた。


 


「普通に言って大丈夫ですよ。」


 


「竹流くん。」


 


「……」


 


竹流。


 


固まる。


 


思い出した。


 


近所のおばさん。


 


黒猫。


 


そして。


 


春海。


 


この家には。


 


言ってはいけない。


 


言葉がある。


 


言えば。


 


終わる。


 


言わなければ。


 


もっと終わる。


 


竹流。


 


覚悟を決める。


 


ゆっくり。


 


口だけ動かした。


 


「ね……」


 


「ず……」


 


「み……」


 


黒沢。


 


目を細める。


 


「え?」


 


聞こえない。


 


竹流。


 


目を閉じた。


 


観念する。


 


そして。


 


誰にも聞こえないくらい。


 


小さな声で。


 


ささやいた。


 


「……ねずみ。」


 


沈黙。


 


一秒。


 


二秒。


 


三秒。


 


「……」


 


「……あれ?」


 


何も。


 


起きない。


 


「……」


 


「……あれ?」


 


何も。


 


起きない。


 


竹流。


 


瞬きをする。


 


一回。


 


 


二回。


 


「……」


 


助かった。


 


そう。


 


思った。


 


――場面転換。


 


春海。


 


ぐっすり。


 


眠っていた。


 


芽衣を抱きしめたまま。


 


すぅ。


 


すぅ。


 


平和。


 


とても。


 


平和。


 


その時。


 


廊下の向こう。


 


小さな声が。


 


聞こえた。


 


「……ねずみ。」


 


春海。


 


ぴくっ。


 


一秒。


 


「……」


 


がばぁっ!!


 


勢いよく。


 


飛び起きる。


 


「ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇずみぃぃぃぃぃぃーーーーーーー!!!!!!???」


 


家中に。


 


響いた。


 


竹流。


 


遠い目。


 


「……終わった。」


 


黒沢。


 


「えっ?」


 


まだ。


 


何も。


 


分かっていない。


 


芽衣。


 


片目だけ。


 


開ける。


 


「ん……?」


 


眠そうに。


 


春海を見る。


 


「どうしたの……?」


 


答える暇は。


 


なかった。


 


ばんっ!!


 


障子が。


 


大きく揺れる。


 


「!?」


 


どぉぉぉんっ!!


 


黒い影が。


 


一直線に。


 


家の中へ。


 


突っ込んできた。


 


近所の。


 


黒猫だった。


 


速い。


 


とにかく。


 


速い。


 


ほとんど。


 


ミサイル。


 


障子を突き破り。


 


畳の上を。


 


どりゃぁぁぁぁぁっ!!


 


という勢いで。


 


一直線。


 


目。


 


完全に。


 


狩人。


 


春海。


 


反射で。


 


芽衣を抱き上げる。


 


「芽衣ちゃん!!」


 


「私が守るからねぇぇぇぇ!!」


 


芽衣。


 


こてん。


 


首をかしげる。


 


「うん。」


 


「お願い。」


 


全幅の信頼だった。


 


その頃。


 


キッチンでは。


 


ねずみ。


 


全力疾走。


 


黒猫。


 


全力追跡。


 


椅子。


 


倒れる。


 


鍋。


 


転がる。


 


がたんっ!!


 


ごろんっ!!


 


黒沢。


 


目を回しそうだった。


 


「何を捕まえればいいんですか!!」


 


廊下の向こう。


 


春海の声。


 


「捕まえられる方ぉぉぉぉぉ!!」


 


「どっちでもいいからぁぁぁ!!」


 


竹流。


 


思わず。


 


叫ぶ。


 


「春海さんも!!」


 


「早く来てくださいよぉ!!」


 


春海は。


 


芽衣を。


 


そっと。


 


食器棚の上へ。


 


ひょいっ。


 


「ここなら。」


 


「安全だからね。」


 


芽衣。


 


ちょこん。


 


座る。


 


「うん。」


 


全然。


 


怖がっていない。


 


いや。


 


状況を。


 


よく分かっていなかった。


 


春海。


 


ゆっくり。


 


振り返る。


 


深呼吸。


 


一回。


 


「……」


 


もう一回。


 


「……」


 


真剣な顔。


 


「芽衣ちゃん。」


 


「もし。」


 


「私が帰ってこなかったら……」


 


芽衣。


 


間髪入れず。


 


「帰ってくるよ。」


 


「……」


 


春海。


 


一瞬。


 


止まる。


 


でも。


 


止まらない。


 


「それでも!」


 


「私のお花の世話をお願いね!」


 


芽衣。


 


きょとん。


 


「お花?」


 


少し考える。


 


「ないよ?」


 


「じゃあ!!」


 


春海。


 


勢いよく。


 


両手を広げる。


 


「買ってぇぇぇぇぇ!!」


 


「私の記念にぃぃぃぃ!!」


 


芽衣。


 


こくっ。


 


「分かった。」


 


もちろん。


 


分かっていない。


 


春海。


 


静かに。


 


壁際へ歩く。


 


一歩。


 


また一歩。


 


「……」


 


すっ。


 


手を伸ばす。


 


そこにあった。


 


一本の。


 


ほうき。


 


ぎゅっ。


 


握る。


 


ゆっくり。


 


持ち上げる。


 


「……」


 


完全に。


 


伝説の剣だった。


 


春海。


 


構える。


 


「この家はぁぁぁぁ!!」


 


「私が守るぅぅぅぅぅ!!」


 


その頃。


 


キッチン。


 


ねずみ。


 


ぴょんっ。


 


冷蔵庫の横へ。


 


黒猫。


 


だぁぁぁぁっ!!


 


一直線。


 


黒沢。


 


「猫!!」


 


「待ってください!!」


 


飛びつく。


 


違った。


 


掴んだのは。


 


布巾。


 


「違いました!!」


 


勢い余る。


 


よろっ。


 


「あっ。」


 


危ない。


 


竹流。


 


「リビングだけは!!」


 


「行かせないでください!!」


 


その瞬間。


 


しゃああああっ!!


 


廊下の奥から。


 


春海。


 


滑るように。


 


登場。


 


ほうきを構えたまま。


 


「どいてぇぇぇぇぇぇ!!」


 


「人事だけど!!」


 


一拍。


 


胸を張る。


 


「緊急対応はできますぅぅぅぅ!!」


 


びしっ!!


 


ほうきを構える。


 


黒猫。


 


ぴたっ。


 


止まる。


 


ねずみ。


 


ぴたっ。


 


止まる。


 


黒沢。


 


目を見開く。


 


「大沢さん!!」


 


「危な――」


 


――その瞬間。


 


時間が。


 


止まった。


 


春海。


 


ほうきを構える。


 


ねずみ。


 


動く。


 


黒猫。


 


動く。


 


もちろん。


 


春海も。


 


動く。


 


「そこぉぉぉぉぉ!!」


 


ぶんっ!!


 


ほうきが。


 


勢いよく。


 


空を切る。


 


ねずみ。


 


ひょいっ。


 


避ける。


 


黒猫も。


 


ひょいっ。


 


避ける。


 


完璧だった。


 


春海以外は。


 


「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 


勢い余って。


 


くるっ。


 


一回転。


 


足元。


 


ぐらっ。


 


「わっ……!」


 


黒沢。


 


反射で。


 


腕を伸ばす。


 


がしっ。


 


春海の腕を掴む。


 


ぎりぎり。


 


転倒回避。


 


「ありがとうございます!」


 


「どういたしまして!」


 


返事だけは。


 


爽やかだった。


 


その横を。


 


ねずみ。


 


しゅっ。


 


普通に通過。


 


「あっ!!」


 


竹流。


 


慌てて。


 


布巾を投げる。


 


ふわっ。


 


とても。


 


優しい軌道。


 


当然。


 


当たらない。


 


代わりに。


 


黒沢の頭へ。


 


ぺたっ。


 


「……」


 


「すみません!!」


 


黒沢。


 


布巾を外す。


 


「大丈夫です。」


 


少し考える。


 


「もう。」


 


「慣れてきました。」


 


「慣れないでください!!」


 


その瞬間。


 


黒猫。


 


冷蔵庫の横を。


 


どんっ!!


 


蹴る。


 


勢いそのまま。


 


流し台へ。


 


ぴょんっ!!


 


さらに。


 


食器棚へ。


 


ぴょんっ!!


 


「えっ。」


 


春海。


 


思わず。


 


見上げる。


 


「そこ行く!?」


 


黒沢も。


 


つられて。


 


見上げる。


 


「猫って。」


 


「そんな動き。」


 


「するんですか?」


 


竹流。


 


即答。


 


「今は!!」


 


「考えてる場合じゃありません!!」


 


その頃。


 


食器棚の上。


 


芽衣。


 


足を。


 


ぶらぶら。


 


「……」


 


「すごい。」


 


完全に。


 


映画だった。


 


ねずみ。


 


電子レンジの裏へ。


 


ささっ。


 


消える。


 


黒猫。


 


ぴたり。


 


止まる。


 


じぃぃぃぃぃ。


 


狙っている。


 


静寂。


 


春海。


 


ごくり。


 


竹流。


 


ごくり。


 


黒沢も。


 


つられて。


 


ごくり。


 


一秒。


 


二秒。


 


三秒。


 


黒猫。


 


飛ぶ。


 


「今ぁぁぁぁぁぁ!!」


 


春海も。


 


飛ぶ。


 


「えっ。」


 


黒沢も。


 


飛ぶ。


 


「なんで私も!?」


 


完全に。


 


流れだった。


 


竹流だけ。


 


その場に残る。


 


「えぇぇぇぇぇぇ!?」


 


どたん!!


 


がたん!!


 


ばぁん!!


 


何かが倒れる。


 


何かが転がる。


 


誰かが叫ぶ。


 


そして――


 


静寂。


 


静かだった。


 


誰も。


 


動かない。


 


春海。


 


ほうきを抱えたまま。


 


床に座っている。


 


黒沢。


 


少し離れた場所で。


 


ぽかん。


 


竹流。


 


一人だけ。


 


きょろきょろ。


 


「……」


 


「あれ?」


 


ねずみは。


 


どこへ。


 


黒猫も。


 


どこへ。


 


「逃げた……?」


 


その時。


 


上から。


 


「にゃぁ。」


 


全員。


 


ゆっくり。


 


見上げた。


 


そこには。


 


食器棚の上。


 


黒猫が。


 


ちょこん。


 


座っていた。


 


前足の間には。


 


ねずみ。


 


ぴくりとも。


 


動かない。


 


「……」


 


「……」


 


「……」


 


春海。


 


ぽつり。


 


「終わった?」


 


黒沢。


 


小さく。


 


うなずく。


 


「……たぶん。」


 


黒猫。


 


満足そうに。


 


しっぽを。


 


ふわり。


 


一回。


 


揺らした。


 


任務完了。


 


そんな顔だった。


 


春海。


 


力が抜ける。


 


「はぁぁぁぁ……」


 


その場に。


 


ぺたん。


 


座り込む。


 


ほうきも。


 


ころん。


 


床へ。


 


「助かったぁ……」


 


竹流。


 


苦笑い。


 


「最初から。」


 


「猫に任せればよかったですね。」


 


黒沢。


 


真顔で。


 


うなずく。


 


「ええ。」


 


「我々。」


 


少し考える。


 


「必要ありませんでしたね。」


 


「言わないでくださいよ……」


 


竹流。


 


思わず。


 


肩を落とす。


 


食器棚の上。


 


芽衣。


 


黒猫を見る。


 


にこっ。


 


「えらいね。」


 


黒猫。


 


「にゃ。」


 


返事までした。


 


春海。


 


両手を合わせる。


 


「ありがとうぉぉぉ……」


 


さっきまで。


 


家に突っ込んできた相手とは。


 


思えないくらい。


 


感謝していた。


 


黒猫は。


 


そんなことなど。


 


気にしない。


 


ねずみをくわえ。


 


くるり。


 


そのまま。


 


開いた障子から。


 


ひらり。


 


夜の中へ。


 


帰っていった。


 


残されたのは。


 


静かな家。


 


倒れた椅子。


 


転がる鍋。


 


散らばった布巾。


 


一本の。


 


ほうき。


 


そして。


 


しばらく。


 


誰も。


 


動かなかった。


 


眠気が。


 


ようやく。


 


戻ってきたからだ。


 


春海。


 


ぼそり。


 


「……もう。」


 


「朝まで起きてようかな。」


 


竹流。


 


首を振る。


 


「あと二時間もしないで。」


 


「朝ですよ。」


 


「……」


 


春海。


 


天井を見上げる。


 


「人生って。」


 


「大変だねぇ……」


 


誰も。


 


否定しなかった。


 


その日。


 


近所では。


 


一匹の黒猫が。


 


大仕事をしたらしい。


 


そんな噂だけが。


 


静かに。


 


広まっていた。


 


もちろん。


 


当の本人は。


 


魚でももらえるか。


 


それしか。


 


考えていなかった。


 


第七十三話 完



読んでいただき、本当にありがとうございます~!!♡♡


もしこの作品で少しでも笑顔になっていただけたら、★で応援していただけると、とっても嬉しいです!


皆さんからいただく評価は、

「もっともっと面白い作品を作りたい!」

と思える大切な励みになっています


(´▽`)


Pixivではキャラクターデザインやイラストも投稿しています!


Pixiv:

https://www.pixiv.net/en/users/121622272


また次回もよろしくお願いします~!!♡♡

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