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ようこそ、ハルミのカオスな日常へ!  作者: あじせ
家庭内混乱マニュアル:初心者版!
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第64話 それは予定になかった

【発覚】指名手配犯、思ったよりずっと普通の父親でした


―― 大沢ハルミ、完全に構えていたのに全部予想外でした ――


覚悟した。


緊張した。


最悪の展開も考えた。


でも――


ドアの向こうにいたのは、


怒鳴る男でも、


脅す男でもなかった。


ただ少し疲れた、


一人の父親だった。


そして語られる、


タケルが知らない父親の顔。


なお――


大沢ハルミ、


今回も五分で懐きます。

 


見つめ合っていた。


 


沈黙。


 


長かった。


 


とても。


 


はるみ。


 


固まっていた。


 


一時間以上かけて来た。


 


電車に乗った。


 


歩いた。


 


怪しい路地も通った。


 


妙に静かな廊下も歩いた。


 


そして。


 


ようやく会えた。


 


なのに。


 


肝心なことを忘れていた。


 


「……」


 


何を話せばいいんだろう。


 


致命的だった。


 


完全に。


 


男。


 


少し眉をひそめる。


 


「……誰?」


 


低い声。


 


落ち着いた声。


 


怒っていない。


 


威圧感もない。


 


はるみ。


 


少し驚く。


 


想像していた声と違った。


 


もっと怖いと思っていた。


 


もっと荒っぽいと思っていた。


 


でも違った。


 


「あっ――!」


 


ようやく我に返る。


 


「す、すみません!!」


 


慌てて頭を下げる。


 


勢いが良すぎた。


 


危うくドアに頭をぶつけるところだった。


 


「私は大沢はるみです!!」


 


ぺこり。


 


勢いよく。


 


もう一回。


 


ぺこり。


 


男。


 


見ていた。


 


黙って。


 


そして。


 


はるみ。


 


止まる。


 


沈黙。


 


思考停止。


 


完全に。


 


なぜなら。


 


気付いてしまった。


 


今さら。


 


本当に今さら。


 


自己紹介の先を考えていなかった。


 


「……」


 


人生だった。


 


そういうこともある。


 


男。


 


そんなはるみを見ていた。


 


数秒。


 


いや。


 


もっと。


 


そして。


 


静かに息を吐く。


 


「……入れ」


 


「え?」


 


理解する前だった。


 


男。


 


はるみの腕を軽く掴む。


 


そして。


 


ひょい。


 


中へ。


 


「あっ!?」


 


はるみ。


 


引っ張られる。


 


そして。


 


ドア。


 


閉まる。


 


ガチャ。


 


「……」


 


「……」


 


沈黙。


 


再び。


 


はるみ。


 


部屋を見回した。


 


小さい。


 


古い。


 


灰色。


 


生活感はある。


 


でも。


 


どこか疲れていた。


 


部屋全体が。


 


テーブル。


 


古い。


 


椅子。


 


二つ。


 


服。


 


適当に置かれている。


 


灰皿。


 


いっぱい。


 


誰かが頑張って生きている部屋だった。


 


そういう感じがした。


 


「えっと!」


 


はるみ。


 


慌てて口を開く。


 


「お時間は取らせません!」


 


早口。


 


ものすごく。


 


「私、今日は――」


 


深呼吸。


 


そして。


 


本題。


 


「息子さんのお話をしに来ました!」


 


男。


 


ちょうど煙草を咥えようとしていた。


 


止まる。


 


途中で。


 


「……息子?」


 


はるみ。


 


頷く。


 


何度も。


 


本当は。


 


説明しなければならないと思っていた。


 


あなたには息子がいます。


 


その息子は生きています。


 


今こうしています。


 


全部。


 


順番に。


 


説明するつもりだった。


 


でも。


 


男は言った。


 


まるで当然みたいに。


 


「タケルのことか?」


 


沈黙。


 


はるみ。


 


停止。


 


一回瞬き。


 


二回瞬き。


 


三回瞬き。


 


「……知ってるんですか?」


 


男。


 


椅子を引く。


 


座る。


 


そして。


 


向かいの椅子を指した。


 


「座れ」


 


はるみ。


 


言われるまま座る。


 


少しだけ緊張する。


 


今度こそ。


 


本題だった。


 


本当に。


 


「……急な話だとは思うんですが」


 


姿勢を正す。


 


声も真面目。


 


珍しく。


 


とても。


 


「私は今、タケルくんと妹の芽衣ちゃんを預かっています」


 


男。


 


黙って聞いていた。


 


最後まで。


 


はるみ。


 


続ける。


 


「そして今日は――」


 


一度だけ息を吸う。


 


決意。


 


覚悟。


 


緊張。


 


全部込めて。


 


言った。


 


「タケルくんの親権についてお願いしに来ました」


 


まるで。


 


ラスボス戦だった。


 


完全に。


 


ラスボス戦だった。


 


完全に。


 


少なくとも。


 


はるみはそう思っていた。


 


だから。


 


男が目を丸くした瞬間。


 


身構えた。


 


来る。


 


反対される。


 


怒られる。


 


説明しろって言われる。


 


絶対そうだ。


 


そう思った。


 


そして――


 


男。


 


小さく笑った。


 


「なんだ」


 


「そんなことか」


 


沈黙。


 


はるみ。


 


停止。


 


「……え?」


 


男。


 


椅子にもたれる。


 


自然に。


 


「ああ」


 


「別にいいぞ」


 


沈黙。


 


はるみ。


 


停止。


 


二回目。


 


今日だけで何回目か分からない。


 


「……え?」


 


男。


 


首を傾げる。


 


「だから」


 


「いいぞ」


 


「親権だろ?」


 


「必要ならサインする」


 


沈黙。


 


はるみ。


 


フリーズ。


 


脳。


 


処理中。


 


ぐるぐる。


 


ぐるぐる。


 


そして。


 


処理失敗。


 


「ええええええええええっ!?」


 


立ち上がった。


 


勢いよく。


 


椅子。


 


ガタン。


 


倒れかけた。


 


危ない。


 


とても。


 


「ほ、本当にですか!?」


 


「本当だけど」


 


「えっ!?」


 


「だから本当だって」


 


「ええっ!?」


 


「なんでそんな驚いてるんだ」


 


それは。


 


はるみも聞きたかった。


 


本当に。


 


男。


 


少し笑う。


 


困ったみたいに。


 


そして。


 


机を指で軽く叩いた。


 


とん。


 


とん。


 


とん。


 


「タケルなら」


 


静かな声。


 


優しい声。


 


少しだけ寂しそうな声。


 


「俺なんかより」


 


「お前さんのところにいた方が幸せだろ」


 


沈黙。


 


はるみ。


 


止まる。


 


今度は。


 


ちゃんと。


 


男は笑っていた。


 


でも。


 


どこか諦めた人の笑い方だった。


 


「そんなこと――」


 


言いかける。


 


でも。


 


男は続けた。


 


「会ってないからな」


 


「長いこと」


 


煙草を置く。


 


火はつけなかった。


 


そのまま。


 


指で回す。


 


「俺が父親らしいことなんて」


 


「何一つしてやれてない」


 


「だから」


 


肩をすくめる。


 


少しだけ。


 


「今さらだろ」


 


はるみ。


 


黙る。


 


何も言えなかった。


 


でも。


 


一つだけ。


 


分かることがあった。


 


この人は。


 


タケルを嫌っていない。


 


むしろ。


 


その逆だった。


 


たぶん。


 


ずっと。


 


ずっと前から。


 



 


しばらくして。


 


書類。


 


机の上。


 


男。


 


ペンを持つ。


 


さらさら。


 


さらさら。


 


迷いなく。


 


名前を書く。


 


柴田涼司。


 


最後まで。


 


一度も止まらなかった。


 


「はい」


 


書類を返す。


 


「これでいいか?」


 


はるみ。


 


受け取る。


 


見る。


 


もう一回見る。


 


さらに見る。


 


本当に署名されていた。


 


「……」


 


「……」


 


「うわぁ」


 


思わず出た。


 


男。


 


笑った。


 


少しだけ。


 


「そんなに驚くか?」


 


「驚きますよ!!」


 


即答だった。


 


ものすごく。


 


「私」


 


「もっとこう」


 


手を振る。


 


ぶんぶん。


 


「戦う覚悟で来たんですよ!?」


 


「戦う?」


 


「はい!!」


 


「戦うのか」


 


「戦う予定でした!!」


 


「大変だな」


 


「大変でした!!」


 


まだ何も起きていなかった。


 


でも。


 


はるみの中では。


 


大変だった。


 


とても。


 


男。


 


また笑う。


 


今度は少しだけ自然に。


 


そして。


 


ぽつり。


 


呟いた。


 


「変な人だな」


 


はるみ。


 


頷く。


 


「よく言われます」


 


自覚はあった。


 


ちゃんと。


よく言われます。


 


自覚はあった。


 


ちゃんと。


 


しばらくして。


 


部屋。


 


少しだけ空気が軽くなっていた。


 


さっきまでの緊張。


 


もうない。


 


少なくとも。


 


はるみの方は。


 


完全になかった。


 


そして。


 


それが始まった。


 


「タケルくんは本当に良い子なんです!!」


 


男。


 


少し目を瞬く。


 


突然だった。


 


とても。


 


でも。


 


はるみは止まらない。


 


「すごく優しいんですよ!!」


 


「料理も上手で!!」


 


「面倒見も良くて!!」


 


「私なんか毎日助けられてて!!」


 


息継ぎ。


 


忘れていた。


 


完全に。


 


「この前もですね――」


 


男。


 


黙って聞いていた。


 


少し驚いた顔で。


 


少しだけ。


 


本当に少しだけ。


 


嬉しそうな顔で。


 


「そうか」


 


静かな声。


 


ぽつり。


 


それだけ。


 


でも。


 


どこか柔らかかった。


 


はるみ。


 


さらに続ける。


 


「それに芽衣ちゃんにも優しくて!!」


 


「あの二人すごく仲良しなんです!!」


 


「最近は前より笑うようになりましたし!!」


 


「あとですね!!」


 


男。


 


小さく笑う。


 


「あともあるのか」


 


「いっぱいあります!!」


 


即答だった。


 


とても。


 


男。


 


少しだけ視線を落とす。


 


机を見る。


 


そして。


 


呟く。


 


「……そうか」


 


今度は。


 


少しだけ違った。


 


もっと小さい声だった。


 



 


その時。


 


はるみ。


 


思い出した。


 


「あっ!!」


 


突然だった。


 


男。


 


少し驚く。


 


はるみ。


 


鞄を漁る。


 


ごそごそ。


 


ごそごそ。


 


そして。


 


取り出した。


 


小さな袋。


 


「これ!!」


 


机の上。


 


ことん。


 


男。


 


見る。


 


袋。


 


見る。


 


はるみ。


 


見る。


 


「……何だ?」


 


「蒸しパンです!!」


 


元気だった。


 


ものすごく。


 


「タケルくんが作ったんです!!」


 


沈黙。


 


男。


 


止まる。


 


「タケルが?」


 


「はい!!」


 


はるみ。


 


満面の笑み。


 


「料理上手なんですよ!!」


 


「私もよく教えてもらってます!!」


 


男。


 


袋を見る。


 


しばらく。


 


ずっと。


 


何も言わずに。


 


見ていた。


 


そして。


 


少しだけ。


 


本当に少しだけ。


 


口元が緩んだ。


 


「……そうか」


 


三回目だった。


 


でも。


 


今度は違う。


 


少しだけ震えていた。


 



 


さらに。


 


数分後。


 


「写真ありますよ!!」


 


男。


 


顔を上げる。


 


「写真?」


 


「ありますあります!!」


 


はるみ。


 


もう止まらない。


 


携帯を取り出す。


 


操作する。


 


ぽちぽち。


 


ぽちぽち。


 


そして。


 


見せた。


 


「これです!!」


 


画面。


 


タケル。


 


芽衣。


 


二人。


 


並んでいる。


 


男。


 


見る。


 


黙って。


 


ずっと。


 


「これはですね!!」


 


「公園の日です!!」


 


次。


 


「これは初めてみんなで料理した日!!」


 


次。


 


「これは芽衣ちゃんがケチャップ爆発させた日!!」


 


次。


 


「これは――」


 


男。


 


静かに聞いていた。


 


説明よりも。


 


写真を見ていた。


 


ずっと。


 


タケルを。


 


一枚。


 


また一枚。


 


さらに一枚。


 


小さい頃じゃない。


 


赤ん坊でもない。


 


今の。


 


生きているタケルだった。


 


笑っている。


 


少しだけ。


 


でも。


 


確かに。


 


笑っていた。


 


男。


 


視線を落とす。


 


ほんの一瞬だけ。


 


そして。


 


誰にも聞こえないくらい小さな声で。


 


「……大きくなったな」


 


はるみ。


 


聞こえなかった。


 


でも。


 


なんとなく。


 


その顔を見て。


 


何も言わなかった。


 



 


しばらくして。


 


連絡先も交換した。


 


電話番号。


 


登録。


 


完了。


 


「これで写真も送れます!!」


 


「そうだな」


 


「あとですね!!」


 


まだある。


 


当然のように。


 


「いつかうちに来てください!!」


 


男。


 


止まる。


 


「……は?」


 


「お昼ご飯!!」


 


「みんなで!!」


 


「楽しいですよ!!」


 


男。


 


完全に固まった。


 


はるみ。


 


笑顔。


 


百点満点。


 


眩しい。


 


とても。


 


「……考えとく」


 


それが限界だった。


 


完全に。


 



 


その頃――


 


黒沢圭。


 


車を運転していた。


 


少し速い。


 


いや。


 


かなり速い。


 


信号。


 


見る。


 


道路。


 


見る。


 


前。


 


見る。


 


そして。


 


考える。


 


嫌な予感。


 


ずっとしていた。


 


説明できない。


 


理由もない。


 


でも。


 


ずっと。


 


胸の奥がざわついていた。


 


そして。


 


呟く。


 


「大沢さん」


 


誰もいない車内。


 


返事もない。


 


それでも。


 


なぜか。


 


ものすごく嫌な予感がした。




楽しんでいただけたら嬉しいです!


もしよければ、ポイントやブックマークをいただけると、とても励みになります!


また次回もよろしくお願いします!

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