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ようこそ、ハルミのカオスな日常へ!  作者: あじせ
家庭内混乱マニュアル:初心者版!
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第52話 たぶん月曜日のせい

――保護者って難しすぎる!?治美、大混乱!!そして黒沢、盛大な勘違いをしていたことが判明する――


学校。


書類。


電話。


責任。


突然リアルになった現実に、


治美のHPが削られていく!!


そんな中――


黒沢圭、珍しく真面目モード発動!!


治美を救う一言を放つが……


数分後。


もっと大事なことに気付いてしまう。


「え?」


「子どもたちって娘じゃないの?」


遅い。


遅すぎる。


ちなみに廊下では青井が観察していた。


全部。


月曜日。


 


会社はいつも通りだった。


 


灰色。


 


静か。


 


整理整頓されすぎている。


 


古い書類と。


 


温め直したコーヒーの匂い。


 


なにも起きない場所。


 


普通なら。


 


大沢治美が来なければ。


 


だが今日は違った。


 


叫ばない。


 


ドアも蹴らない。


 


誰かのヒゲも褒めない。


 


正直。


 


みんな少し心配した。


 


受付を通る。


 


軽く会釈。


 


そして。


 


鞄を落とした。


 


本人は気付いていない。


 


「……おはようございます」


 


声も小さい。


 


給湯室のお茶担当おばちゃんが眉をひそめた。


 


「大丈夫?」


 


「はい……ただ……」


 


治美。


 


遠い目。


 


「月曜日なので……」


 


全員納得した。


 


月曜日なら仕方ない。


 


黒沢圭も顔を上げる。


 


そして。


 


違和感に気付いた。


 


歩くのが遅い。


 


目の下にうっすら隈。


 


そして。


 


コーヒーを持つ手。


 


まるで人生最後の希望みたいだった。


 


「おはようございます、大沢さん」


 


「おはようございます、課長」


 


笑った。


 


でも。


 


疲れている。


 


黒沢は思った。


 


(なにがあった)


 


かなり珍しい。


 


大沢治美が元気じゃない。


 


それだけで異常事態だった。


 


席に着く。


 


パソコン起動。


 


動いた。


 


逆に怖い。


 


最近は色々ありすぎた。


 


手帳を開く。


 


十月八日。


 


月曜日。


 


「……八日」


 


特に意味はない。


 


本当にない。


 


なのに。


 


頭の中ではずっと同じ言葉が回っていた。


 


学校。


 


学校。


 


学校。


 


連絡先はある。


 


住所もある。


 


時間も調べた。


 


スマホにも保存した。


 


準備は全部終わっている。


 


なのに。


 


電話できない。


 


いや。


 


違う。


 


本当は。


 


電話が怖いわけじゃなかった。


 


現実だった。


 


書類。


 


手続き。


 


保護者。


 


責任。


 


全部が急に現実になった。


 


治美は小さく息を吐く。


 


(本当にこれでいいのかな……)


 


タケル。


 


芽衣。


 


新しい生活。


 


新しい環境。


 


新しい名前。


 


みんな。


 


自分が決めた。


 


その事実が急に重くなる。


 


(わたし……)


 


手が止まった。


 


(勝手だったかもしれない)


 


二か月。


 


毎日が楽しかった。


 


幸せだった。


 


二人がいてくれた。


 


だから。


 


気付かなかった。


 


(ちゃんと聞いてない)


 


二人がどう思っているか。


 


本当に聞いていない。


 


治美は顔を上げた。


 


そして。


 


自分に言い聞かせる。


 


「今夜聞こう」


 


小さく頷く。


 


「ちゃんと話そう」


 


よし。


 


少し元気出た。


 


その瞬間。


 


「大沢さん」


 


呼ばれた。


 


黒沢だった。


 


「少し手伝ってもらえますか」


 


治美。


 


即起立。


 


「もちろんです!!」


 


元気になったり。


 


落ち込んだり。


 


忙しい人だった。


黒沢の部屋。


 


相変わらずだった。


 


整いすぎている。


 


机。


 


綺麗。


 


書類。


 


綺麗。


 


ペン。


 


平行。


 


怖い。


 


大沢治美が何年働いても理解できない領域だった。


 


治美は椅子に座る。


 


黒沢は書類の山を指差した。


 


「会議用です」


 


「はい」


 


「仕分けしてホチキス留めを」


 


「任せてください!!」


 


元気よく返事。


 


書類を受け取る。


 


ホチキスを持つ。


 


そして。


 


止まった。


 


黒沢は見た。


 


ホチキス。


 


宙に浮いている。


 


一秒。


 


二秒。


 


三秒。


 


長い。


 


これは長い。


 


黒沢は確信した。


 


(今だな)


 


「……大丈夫ですか?」


 


治美。


 


ぱち。


 


ぱち。


 


瞬き二回。


 


そして。


 


「ダメです」


 


即答だった。


 


黒沢。


 


少し驚いた。


 


もっと誤魔化すと思った。


 


でも。


 


今日は違った。


 


叫びもしない。


 


笑い飛ばしもしない。


 


ただ。


 


ぽろっと出た。


 


「学校に電話しないといけないんです」


 


ぽつり。


 


「でも怖くて」


 


そして。


 


少し考える。


 


「……いや」


 


「怖いのとは違うかも」


 


黒沢は席に座る。


 


別の書類を手に取る。


 


話を聞く姿勢。


 


慣れていた。


 


大沢治美という人間は。


 


話し始めると長い。


 


「ここに来てから」


 


ホチキス。


 


カチ。


 


「人生が全部変わっちゃって」


 


カチ。


 


「でも私」


 


カチ。


 


「ちゃんと二人と話してなくて」


 


だんだん声が小さくなる。


 


「書類とか」


 


「学校とか」


 


「色々進んでるけど」


 


「別に嫌がってるわけじゃないけど」


 


「でも」


 


「もし――」


 


止まる。


 


言葉が続かない。


 


黒沢はホチキスを置いた。


 


そして。


 


静かに言った。


 


「大沢さん」


 


「は、はい!?」


 


治美。


 


いつの間にか立ち上がっていた。


 


しかも身振り手振り付き。


 


黒沢は慣れている。


 


今さら驚かない。


 


たぶん。


 


「つまり」


 


黒沢は言った。


 


「その子たちが」


 


「あなたと一緒に生きていくのを嫌がるかもしれないと」


 


「そう考えているんですか?」


 


静かだった。


 


でも。


 


その一言は。


 


真っ直ぐだった。


 


治美は固まる。


 


考える。


 


そして。


 


気付いた。


 


あ。


 


それか。


 


自分が怖かったもの。


 


それだった。


 


同じ問題。


 


でも。


 


違う方向から見た瞬間。


 


急に形が見えた。


 


治美はゆっくり座る。


 


肩の力が抜けた。


 


黒沢は続ける。


 


「大沢さん」


 


少しだけ。


 


優しい声だった。


 


「毎日見ていれば分かります」


 


治美は顔を上げる。


 


「その子たち」


 


「幸せですよ」


 


静かだった。


 


でも。


 


嘘じゃなかった。


 


「二か月です」


 


「たった二か月」


 


「それなのに」


 


「自分を大切にしてくれる人がいる」


 


「帰る場所がある」


 


「毎日笑っていられる」


 


黒沢は少しだけ目を伏せた。


 


まるで。


 


自分自身に言っているみたいだった。


 


「十分すぎます」


 


「むしろ」


 


「その子たちの方が運が良かったんじゃないですか」


 


沈黙。


 


治美。


 


ぽかん。


 


そして。


 


顔。


 


真っ赤。


 


(そうか……)


 


胸が熱い。


 


苦しいくらい。


 


でも。


 


嫌じゃない。


 


(私がそう思っても……)


 


(いいんだ)


 


(あの子たちも……)


 


(私といたいって思ってくれてるかもしれない)


 


目が少し潤んだ。


 


危ない。


 


泣くところだった。


 


数秒。


 


静かな時間が流れる。


 


そして。


 


治美。


 


突然立ち上がった。


 


「理解しました!!!!」


 


黒沢。


 


びくっ。


 


戻った。


 


完全に戻った。


 


大沢治美が。


 


帰ってきた。


「理解しました!!!!」


 


黒沢。


 


びくっ。


 


戻った。


 


完全に戻った。


 


大沢治美が。


 


帰ってきた。


 


「よかったです」


 


黒沢。


 


心から思った。


 


今日は本当に心配だった。


 


元気のない治美は。


 


なんだか調子が狂う。


 


治美は鼻をすすった。


 


そして。


 


照れ隠しみたいに笑う。


 


「やっぱり黒沢さんですね」


 


「……は?」


 


「こういう時」


 


「ちゃんと聞いてくれる」


 


「ちゃんと落ち着かせてくれる」


 


黒沢。


 


固まる。


 


治美は気付いていない。


 


全然気付いていない。


 


昔からそうだった。


 


本人だけ。


 


何も気付かない。


 


「ありがとうございます」


 


ぽつり。


 


静かな声だった。


 


今度は。


 


冗談じゃない。


 


本気だった。


 


黒沢は視線を逸らした。


 


少しだけ。


 


耳が赤い。


 


危険だった。


 


この空気は危険だ。


 


非常に危険だ。


 


だから。


 


話題を変える。


 


今すぐ。


 


「大沢さん」


 


「はい?」


 


「確認なんですが」


 


治美。


 


首を傾げる。


 


黒沢。


 


真顔。


 


「その子たち」


 


「娘じゃないんですか?」


 


沈黙。


 


治美。


 


停止。


 


「……はい?」


 


「娘ですよね?」


 


「違います」


 


「え?」


 


「違います」


 


「じゃあ」


 


黒沢。


 


混乱開始。


 


「姪とか」


 


「違います」


 


「親戚」


 


「違います」


 


「妹の子」


 


「違います」


 


「隠し子」


 


「違います!!」


 


どんどん変な方向へ行っていた。


 


黒沢は考える。


 


整理する。


 


そして。


 


最後の確認。


 


「結婚は」


 


「してません」


 


「子供は」


 


「いません」


 


「旦那さんは」


 


「いません」


 


「彼氏は」


 


「いません」


 


沈黙。


 


黒沢。


 


椅子にもたれた。


 


天井を見る。


 


遠い目。


 


「……全部違った」


 


「なにがですか!?」


 


「全部です」


 


本当に全部だった。


 


「市川が」


 


黒沢の顔が険しくなる。


 


「完全に誤解させました」


 


「あああああああ!!」


 


治美。


 


即理解。


 


「やっぱり!!」


 


「絶対わざとだと思ってた!!」


 


「でしょうね」


 


黒沢。


 


納得。


 


むしろ納得しかない。


 


「娘がいて」


 


「親戚の子がいて」


 


「元旦那がいて」


 


「複雑な家庭事情があるのかと」


 


「どんな想像ですかそれ!!」


 


「かなり信じてました」


 


「信じないでください!!」


 


黒沢。


 


静かに呟く。


 


「市川」


 


「はい」


 


「あとで殺します」


 


「私も行きます」


 


即答だった。


 


その頃。


 


廊下。


 


ドア。


 


少し開いている。


 


そこから。


 


二人。


 


見ていた。


 


青井。


 


そして同僚。


 


「喧嘩してる?」


 


「違う」


 


青井。


 


即答。


 


「もっとまずい」


 


「え?」


 


「会話してる」


 


同僚。


 


意味が分からなかった。


 


部屋の中。


 


治美はようやく仕事を始める。


 


ホチキス。


 


カチ。


 


カチ。


 


カチ。


 


やっと本来の目的を思い出した。


 


黒沢はそんな様子を見ながら。


 


ふと。


 


思い出していた。


 


昔のことを。


 


会社じゃない。


 


もっと前。


 


学生時代。


 


夏。


 


校庭。


 


桜の木の下。


 


そこに。


 


治美がいた。


 


笑っていた。


 


いつもみたいに。


 


明るく。


 


元気に。


 


でも。


 


黒沢だけは知っていた。


 


あれは。


 


無理していた笑顔だった。


 


だから。


 


忘れなかった。


 


胸が痛かった。


 


理由は分からなかった。


 


でも。


 


あの日。


 


確かに思った。


 


「ああ」


 


「俺」


 


「この人が好きなんだな」


 


派手な恋じゃない。


 


劇的な瞬間でもない。


 


ただ。


 


気付いた。


 


それだけだった。


 


窓の外。


 


青井が見ていた。


 


腕組み。


 


真顔。


 


数秒。


 


観察。


 


そして。


 


ぽつり。


 


「また惚れ直したな」


 


隣の同僚。


 


「なにが?」


 


「全部」


 


月曜日だった。


 


たぶん。


 


本当にたぶん。


 


でも。


 


月曜日のせいじゃない気もした。


 

楽しんでいただけたら嬉しいです!

もしよければ、ポイントを入れていただけると、とても励みになります

また次回もよろしくお願いします!



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