第43話 — 最悪すぎる近道
――「ちょっと歩くだけ」の一言から、すべてが崩壊した。
湖へ向かうはずだった。
ただ、みんなで楽しく夏を満喫する――はずだった。
けれど太陽は本気だった。
坂道は敵だった。
水は、出発前にほぼ消えた。
そして誰かが言った。
「バス乗ろう」
その瞬間、希望が見えた。
……ように見えただけだった。
知らない場所で降りて、
見えるのは草。
ひたすら草。
湖? どこ?
それでも子どもたちのテンションは、なぜかまだ死なない。
浮き輪、スイカ、水鉄砲、カウボーイ帽子。
完全装備で突き進む、真夏の大迷子たち。
果たして彼らは湖にたどり着けるのか。
それとも、伝説だけ残して坂を転がり落ちるのか――!?
今日もまた、カオスは元気です。
その日の最初の間違った決断は――
「歩いて行こう」
みんな、うなずいた。
そして七分後、全員後悔した。
太陽は暑いとか、そういうレベルじゃなかった。
彼らの存在に個人的な恨みでもあるのか?
というくらい、本気で照りつけてきた。
袋はどんどん重くなる。
地面は勝手に上り坂になる。
そして空気は……消えた。
男子が前。
女子が後ろ。
そして、誰ひとりとして元気じゃなかった。
「この坂、前からあったっけ……?」
藍子が、麦わら帽子を押さえながら苦しそうに言った。
「ない」
芽衣が、汗だくでゴーグルを斜めにずらしながら答えた。
「今日生まれたの。私たちをいじめるために」
しかも芽衣は、ほとんど空っぽになったクーラーバッグを抱えていた。
なのにその抱え方は、まるで国宝。
なぜなら明らかに――
「まだ飲み物が入ってる」
……いや、まだ坂も登りきってないのに、もうほぼ飲み尽くしていた。
陽菜はその後ろで、少し崩れかけたお団子頭のまま、タオルの入ったバッグと救急セットを持っていた。
中身は――
空の軟膏ばっかり。
「もし誰かケガしたら……助ける気持ちはあるよ」
と、陽菜は宣言した。
みんなは親指を立てた。
それが精いっぱいだった。
坂の途中で、グループは止まった。
沈黙。
重たい、集団の呼吸。
健太だけが、汗をかきながらアイスをなめていた。
「……俺、これより先に溶けそう」
「溶けるって言うな!」
悠が叫んだ。
その瞬間、巨大なフラミンゴ浮き輪に後ろへ引っ張られた。
歩こうとする。
でも浮き輪が言う。
「だめです」
その時――
「おい! バス停!!」
空だった。
もちろん空だった。
みんな一斉に振り向いた。
「……バス」
健が、人生の意味を見つけたみたいな顔でつぶやいた。
「バスならまっすぐ行くじゃん!」
空は、椅子を二脚、ボードを二枚、さらに網まで抱えながら続けた。
「湖の近くで降りればいいんだよ!」
「天才」
蓮が乾いた声で言った。
「公共交通機関、大好き!」
陽菜はもう坂を下り始めていた。
数分後、バスが来た。
空いていた。
静かだった。
そして運転手は、この暑さにはもったいないくらい優しい顔をしていた。
彼はみんなを見た。
椅子を見た。
クーラーボックスを見た。
「……遊びに行くのかい」
「はい!」
全員、速すぎる即答だった。
「そりゃそうだ」
運転手は笑った。
「太陽に連れ去られる前に、早く乗りな」
みんな乗り込んだ。
バスの中は、一瞬で子ども用品倉庫になった。
不安しかない固定の椅子。
膝の上の袋。
ぶら下がるタオル。
転がるボトル。
バスが曲がったことに、誰も気づかなかった。
なぜなら、誰も何も気にしていなかったから。
笑って。
席を替えて。
暑いと文句を言って。
窓を開けて。
閉めて。
また文句を言って。
「こっちの方が暑い!」
芽衣が抗議した。
「バスって熱をためるんだよ」
誰かが、妙に賢そうに答えた。
「私、溶ける」
「溶けるのは後で。今は座って」
運転手が聞いた。
「どこで降りるんだ?」
「湖です!」
「どの湖?」
「……うちの」
運転手はうなずいた。
“深入りしないでおこう”
そんな顔だった。
時間が過ぎた。
かなり過ぎた。
「……ちょっと遅くない?」
女の子のひとりが言った。
「うん」
健が答えた。
「もう柵が見えててもいいはず」
「もしかして湖が移動した?」
悠が真顔で提案した。
そして、みんなは決めた。
「ここで降りて、近道しよう」
歴史的なミスだった。
バスを降りた。
みんな、なぜかやる気満々だった。
そして横一列に並んで、無言で景色を見つめた。
その時――まるで映画みたいに、
頭の中の“カメラ”が、一人ずつ映していく。
正式カオス紹介(荷物増量版)
芽衣(9歳)
顔にはゴーグル。
ビキニにハルミのお古のショートパンツ。
巨大浮き輪をベルトみたいに装備。
この大混乱の中で、三つ編みだけは完璧。
クーラーバッグを命より大事そうに抱えている。
その雰囲気は、まさに――
「大丈夫。なんとかなるって」
桃原藍子(10歳)
ビキニ+ハーフパンツ+羽織ったシャツ。
サングラス。
おしゃれな麦わら帽子。
なぜか傘が二本。
(日よけのつもりだった)
シーツをビーチマット代わりに持参。
いつも元気。
真っ先に「なんとかなる!」と言うタイプ。
でもたぶん、グループで一番ケンカが強い。
海鳴陽菜(9歳)
長めのタンクトップにデニムショート。
低めのお団子ふたつ。
なぜかタンバリン。
タオルバッグと、役に立たない医療セット。
なんでも笑う。
意味がわからなくても、とりあえず笑う。
健(13歳)
バレーボール用タンクトップ。
短パン。
スポーツサングラス。
裸足。
持ち物は――
クーラーボックス。
ミミズ入りバケツ。
釣り道具。
そして、水鉄砲。
顔にははっきり書いてある。
「全部嫌い。でも、なぜかここにいる」
青風 空(13歳)
上半身裸。
カオスな短パン。
カウボーイ帽子。
椅子二脚。
ボード二枚。
小さな網。
岳の親友。
(本人だけがそう思っている)
恐怖ゼロ。
カオス百パーセント。
白金 蓮(14歳)
黒のコンプレッションシャツ。
後ろ向きキャップ。
持ち物は――
重いリュック。
さらにリュック。
さらに袋。
そして――水鉄砲三丁。
ひとつは自分の。
ひとつは健太が「なくした」と騒いでいたやつ。
もうひとつは悠が持ってることすら知らなかったやつ。
五郎丸 健太 (ごろうまる けんた)(13歳)
上半身裸。
派手な短パン。
ライフジャケット。
(母の命令)
頭には水泳ゴーグル。
持ち物は――
食べ物の袋。
ボールの袋。
そして――
スイカ。真ん中にスイカ。
「なんか遊ぼうぜ?」
花平 悠(12歳)
妙にきれいめな服。
フラミンゴ浮き輪。
持ち物は――
バケツ。
袋。
尊厳? ない。
小柄で細くて、エネルギーだけ無限。
理由もなく走る。
理由もなく転ぶ。
笑いながら起きる。
そしてようやく、
目の前に広がるものを見て――
草。
ひたすら草。
「……」
「……」
「え?」
「草しかない」
岳と蓮が同時に言って、空気を壊した。
「海の匂いがする!!」
藍子だけが、なぜか元気だった。
「湖だよ」
陽菜はもう疲れ切っていた。
沈黙。
そこで芽衣が、空気を変えようとした。
「だいじょうぶ!!」
「そうだ芽衣ちゃん!! この坂、滑って降りようぜ!!」
「なにで――」
健太の言葉は、空のひらめきにかき消された。
ボード。
そして、道端に落ちていた段ボール。
その瞬間、みんなの目がまた輝いた。
だって――
次の冒険が始まろうとしていたから。
湖はどこにあるのか。
まだ不明。
唯一の手がかりは、藍子が感じた
「海っぽい匂い」
そして――
この坂を、彼らは無事に生きて降りられるのか?
それはもう、絶対にあとで笑い話になる。
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また次回もよろしくお願いします!
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(これまで登場したキャラクターたちも、順次アップ予定なのでお楽しみに!ぜひチェックしてみてください!)
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