第112話 任務完了(その間に世界はたぶん燃えていた)
【緊急速報】プレゼント購入に成功した5人、帰宅先が無事かどうか分からなくなりました。
― 奇跡の全員一致、包装の達人、突然切れる電話。それでも恐竜だけは勘弁してほしい!! ―
日曜日。
高く昇った太陽。
少年、五人。
回った店、三軒。
買えたプレゼント、ゼロ。
……ここまでは。
「あそこ」
レンが言った。
こぢんまりした店だった。
行列なし。
「ここから先は未知の領域です」とでも言いたげな気配もなし。
壁一面のラメもなし。
ただの店。
普通の。
プレゼントを売っている店。
五人は中へ入った。
そして。
そこで、ついに。
最初に見つけたのはタケルだった。
足が止まる。
タケルが止まったので、ほかの四人も止まった。
「……何?」
ソラが聞く。
タケルは答えなかった。
ただ、見ていた。
四人もその視線を追う。
そして――
沈黙。
いい沈黙だった。
何かを見つけた時の。
店の奥。
壁際に置かれた、小さな棚。
きれいに並んでいた。
色とりどりの。
ヘアピン。
ヘアゴム。
カチューシャ。
柄のついた靴下。
「……」
ケンタが口を開けた。
「……」
ユウがまばたきをした。
「……」
レンが首をかしげた。
「……」
ソラが黙った。
今日、初めて。
タケルが一歩、近づく。
もう一歩。
ほかの四人も、自然についていった。
まるで五人で一つの生き物になって、重大な決断を下したみたいに。
棚の前まで来る。
見る。
そして――
確信した。
説明はいらない。
議論もいらない。
大声で主張する必要もない。
ただ、そうだと分かる。
あの確信。
「……これだ」
タケルが言った。
異論はなかった。
ソラからさえも。
選ぶ時間は、驚くほど穏やかだった。
今日、一番。
「これ」
タケルが手に取ったのは、青いラメ入りのヘアピン。
二個セット。
先端には、小さな黄色い星。
小さくて。
ぴったりだった。
「あと、これ」
ユウが靴下を指さした。
片方。
もう片方。
一足。
紫色の大きな鍋。
笑っているゼリー。
きらきらした二つの目。
そんな絵柄だった。
「『ピポとゼリーのほし』じゃん!!!」
ソラが、ささやき声で絶叫した。
目は喜びでまん丸。
「メイちゃんが見てるやつだ」
ケンタが確認する。
「誕生日会のテーマも、それ」
レンが続けた。
「完璧だな」
タケルが言った。
そこでソラが、ヘアゴムを見つけた。
一つだけ。
表面に凹凸があって。
きらきらしていて。
ピンク色。
ソラはそれを指二本でつまむと、厳かに四人へ差し出した。
秘宝でも献上するような顔で。
「諸君」
敬意に満ちた沈黙。
「……買おう」
ユウが言った。
「採用」
ソラがうなずいた。
レジで。
店員は商品を見た。
五人を見た。
もう一度、商品を見た。
「こちらは……?」
「プレゼントです」
タケルが答える。
「誕生日の」
ケンタが付け足す。
「絶対、喜びます」
ソラは胸に手を当てて断言した。
店員は一秒ほど黙った。
それから、にこり。
この光景がかわいくて仕方ないけれど、口には出さない。
そんな笑顔。
「かわいいですね」
出した。
「知ってます!!」
ソラが答えた。
かわいいと褒められて、感動していた。
うれしかった。
タケルは目を閉じた。
店を出る。
顔に日差し。
手には袋。
任務完了。
しばらくは、ただ歩いた。
黙って。
何時間も苦しんだ末に、ようやく向こう岸へたどり着いた者たちの。
満ち足りた沈黙だった。
そこへ――
「なあ」
レンが言った。
全員が見る。
「……そのスーパーの袋みたいなので渡すのは、やめた方がよくない?」
沈黙。
「え、なんで?」
ケンタ。
「この立派な袋に何か文句でもあるのか、レン!?」
ソラが袋を掲げた。
トロフィーのように。
「女の子は、そういうの喜ばないだろ」
沈黙。
全員がレンを見た。
ゆっくりと。
あの顔で。
「……」
ソラ。
「……」
ユウ。
「……」
ケンタ。
「……」
タケル。
「……レンが」
ソラが口を開いた。
「女心を語ってる」
「新展開!!」
ケンタ。
「生まれつきのモテ男か!!」
ユウ。
「誰か記録しとけ」
ソラ。
「俺には――」
「何も言うな」
レンが先回りして止めた。
「何!? お前には何がいるって!?」
ソラが食いつく。
「何でもない」
「好きな子いるの!?」
「そんなこと言ってない」
「顔に書いてある!!」
「普通の顔してるだろ」
「隠し事してるやつの普通の顔だ!!」
タケルがレンを見る。
レンがタケルを見る。
そしてタケルは、どこまでも落ち着いた声で言った。
「姉ちゃんがいるんだよ」
沈黙。
レンが目を閉じた。
「……ありがとう、タケル」
「どういたしまして」
「皮肉だからな」
「知ってる」
「姉ちゃん!?」
ソラが復活した。
「お前、姉ちゃんいるのに一回も言わなかったの!?」
「話すことないだろ」
「山ほどあるだろ!!」
「例えば?」
「名前とか! 年とか! 俺のことどう思ってるかとか――」
「お前の存在を知らない」
「……それは話が変わってくるな」
ユウがレンの肩をたたいた。
「まあ、ラッピングに詳しい理由は分かった」
レンは黙った。
それから。
「……三年連続で、姉ちゃんのプレゼント包まされた」
ケンタが、敬意を込めてうなずく。
「苦労は人を育てるんだな」
この問題を解決したのは、ソラだった。
当然のように。
二軒の大きな店に挟まれた、小さな店の前で足を止める。
木の看板。
窓辺の造花。
店の中では、白髪のおばあさんが籠を整理していた。
時間なら、いくらでもある。
そんな落ち着いた手つきで。
「おばちゃーん!」
ソラが入っていく。
自分の店みたいに。
四人も、何も分からないまま続いた。
おばあさんが顔を上げる。
眼鏡を直す。
「ああ、ソラくん。どうしたの」
「プレゼント買った!」
ソラは誇らしげに、袋をカウンターへ置いた。
「なんか、かわいいラッピングない?」
おばあさんは袋を見た。
少年たちを見た。
また袋を見た。
何も言わず、引き出しを開ける。
取り出したのは、小さなラッピング。
ピンクと白のしま模様。
リボンもついている。
それをソラの手に載せた。
「ほら」
「いくら!?」
「いいから行きな」
「おばちゃああん――」
「ほら、行った行った」
しっしっ、と手を振る。
ソラはラッピングを胸に抱いた。
目がきらきらしていた。
「大好き」
「知ってるよ。ほら、出た出た」
五人は店を出た。
おばあさんは籠の整理に戻った。
ケンタがラッピングを見る。
「……ソラ、秘密のおばあちゃんいたんだ」
「俺のばあちゃんじゃない」
ソラが言った。
「完全に孫への対応だったけど」
「……」
長い間。
「俺のばあちゃんです」
帰り道の広場で、五人はプレゼントを包んでいた。
ソラは集中して、舌をちょっと出している。
ユウはリボンを持つ。
ケンタは紙を折ろうとする。
レンは黙って、全部直す。
タケルは見ていた。
「……曲がってる」
タケルが言う。
「完璧だろ」
ソラ。
「斜めになってる」
「そういうデザイン」
「違う」
「現代アート!!」
「貸して」
レンが受け取った。
全員が自動的に下がる。
三十秒後――
完璧。
しわなし。
左右対称。
リボンは真ん中。
一同、感嘆の沈黙。
「……三年分の苦労」
ユウがつぶやいた。
「無駄じゃなかったな」
ケンタもうなずく。
ブブッ。
ユウの携帯が震えた。
画面を見る。
表示は。
【母さん】
電話に出る。
「もしも――」
『ユウくーん!! 今、何時だと思ってるの!?』
そして。
電話の向こう。
さらに、その奥から。
二つの声。
幼くて。
大きくて。
同時だった。
『ママ!! ママ見て!! ママ、これ見て!! お願い、ママ見て!!』
『ママあああ――』
『二人とも!』
ユウの母が何とか言う。
『ちょっと待っ――』
『ママこっち見て!!』
『ママ!!』
『今――』
全員に聞こえた。
スピーカーにしていないのに。
「えっと……」
ユウが口を開く。
『ユウくん、今すぐみんなで大沢さんのおうちに戻って! もう――』
ブツッ。
沈黙。
ユウが携帯を見る。
通話が切れていた。
まばたき。
「……妹たちが、母さんの電話の線切った」
沈黙。
タケルがユウを見る。
「聞こえた」
「……」
「行こう」
タケルはもう歩き出していた。
四人が走って追いかける。
十時五十八分。
少年、五人。
全力疾走。
「なあ、ハルちゃんち、火事にでもなったのかな!?」
ケンタ。
「あり得る」
タケルは足を止めない。
「あのでっかい庭に、宇宙人が着陸したとか!?」
ソラ。
「あり得る」
「黒沢が――」
「あり得る」
言い終わる前に、タケルが切った。
「まだ最後まで言ってない!!」
「言わなくても分かる」
息の上がった沈黙。
「庭に恐竜でも出た?」
レンが、抑揚のない声で言った。
「あり得る」
タケルは即答した。
ケンタがレンを見る。
「お前までそういうこと言うとは思わなかった」
「長い一日だったから」
通りの先に、ハルミの家が見えてきた。
外からは、いつもどおり。
煙なし。
宇宙人なし。
少なくとも、見える範囲に恐竜もなし。
ただ――
「中、騒がしくない?」
ユウが言った。
「いつもだろ」
ソラ。
「いつもより」
タケルが窓を見る。
影が、さっと横切った。
もう一つ。
くぐもった笑い声。
キッチンの方からは、明るくて大きな声。
明らかに、ハルミの声ではなかった。
門の前で足を止める。
四人も、その後ろで止まった。
「……で」
ケンタがつぶやく。
「俺らがいない間に、何があったわけ?」
沈黙。
タケルが息を吸う。
門を開けた。
「確かめるしかないだろ」
そして、五人は中へ入った。
今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!
(*´꒳`*)
皆さまが読みに来てくださること、そして応援してくださることが、本当に嬉しいです!
よかったら、絵文字で今回の感想を教えてくださいね!
★で応援していただけたら、さらに大喜びします!!
ヽ(>∀<☆)ノ
いつも温かい応援を、本当にありがとうございます!
次のお話でも、もっと楽しんでいただけますように!
それでは、また次回お会いしましょう~!!
(。・ω・。)ノ♡




