↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ、ハルミのカオスな日常へ!  作者: あじせ
家庭内混乱マニュアル:初心者版!
PR
113/113

第113話 あやうく一世代にトラウマを植えつけるところでした

【緊急速報】誕生日パーティーの準備は完了しました。問題は、ゼリーで作った娘の頭と、玄関に現れた母親です。


――風船は飾りたい。ロボットも動かしたい。娘のトラウマだけは避けたい。すべて解決したはずの午前9時46分、最後の恐怖がやって来る。――

ハルミの家のリビングは、もはや別の国だった。


床に風船。


天井に風船。


廊下にも風船。


ベランダにも風船。


植木鉢の横には、そこに住み着く気らしい風船が一つ。


イズミはベランダにいた。


ロボットたちと。


説明書と。


人生の選択を間違えたような顔で。


「止まって」


ロボットに言った。


ロボットは左へ進んだ。


「止まってって言ったの」


ロボットは右へ進んだ。


「……自分の意志があるんだね。尊重するよ。でも止まれ」


サイコはリビングにいた。


風船と。


肺と。


いや、肺の残りと。


「ハルミちゃん」


息が切れて、いったん言葉を切った。


「何、これ」


「ちょっと多いだけだよ!」


キッチンからハルミが答えた。ゼリーで手はべたべた。髪は結び目からはみ出し、エプロンには三色のシミ。


「ちょっと!?」


サイコは両手に風船を一つずつ掲げた。法廷で証拠品を提出するみたいに。


「ハルミちゃん、これ日本中に配っても余るよ!」


「大げさだって」


「輸出までできるよ!!」


「……はい。いっぱいあります」


「肺に対する犯罪だよ、これ!!」


ベランダのイズミは、説明書から目も上げずに言った。


「二人とも、手より口のほうが動いてるよ。こっちなんか、このロボットたちが全然言うこと聞いてくれないんだから」


「イズミちゃんも文句言ってるじゃん!」


「私は事実を述べてるだけ」


サイコは口を開けた。


閉じた。


反論できなかった。


解決したのはハルミだった。


キッチンを出て、途中で風船を三つかわし、廊下の収納からあるものを持ってきた。


小さくて。


何の変哲もない。


ボール用の空気入れ。


下にバネがついている、足踏み式のやつ。


サイコの前に置いた。


沈黙。


サイコは見た。


まばたきした。


もう一度見た。


目が、ゆっくり輝き始めた。


「……ハルミ」


「はい」


「……これって」


「うん」


神聖な沈黙。


「この発明、アカデミー賞ものだよ!!」


サイコは両手で受け取った。聖遺物でも手にしたように。


「ノーベル賞!! 世界遺産!!」


「……」


「……おかしいでしょ」


サイコはもう、足元に空気入れをセットしていた。


「私が市長になったら、こんっなに風船を買った人には、これをおまけでつけてあげるからね、ハルミちゃん!」


「えへへ……」


ハルミは少し気まずそうに、首の後ろをかいた。


「うん……ほんとごめん」


サイコはもう踏み始めていた。


力強く。


決意を込めて。


どう見ても、個人的な恨みを原動力に。


プシュッ。プシュッ。プシュッ。


「お前らなんか、私の敵じゃなぁぁい!!」


風船に向かって叫ぶ。


「うわはははは!!」


ベランダから、イズミ。


「こわ」


ハルミは満足してキッチンへ戻った。


任務完了。


ゼリーもできあがっていた。


そこで、ハルミはじっと見つめた。


考えた。


あの顔で。


とんでもなく予想外なことをしでかす時の、あの顔で。


イズミが手を拭きながらベランダから戻ってきた。


「うまくいったよ。ロボット、もう――」


止まった。


「……お姉ちゃん」


「ん?」


「何してるの」


質問ではなかった。


差し迫った危険を確認する声だった。


「まだ何も」


ハルミの手には、すでに別のボウルがあった。


「その『まだ』が怖いんだけど」


ハルミは答えなかった。


混ぜ始めた。


丁寧に。


真剣に。


舌をちょっと出しながら。


サイコが入ってきた。


「風船どもは順調に手なずけ――何それ?」


「何でもない」


ハルミとイズミの声がそろった。


「なんで二人同時に答えたの!?」


誰も答えなかった。


四十分後――


「できたぁぁぁぁ!!」


キッチンからの叫び声に、天井の風船が少なくとも二つ揺れた。


サイコとイズミがやってきた。


ゆっくりと。


ハルミがあれほど喜んでいる時は、まず様子を見たほうがいい。二人はもう、身をもって学んでいた。


キッチンの入り口に着く。


止まる。


沈黙。


サイコがまばたきした。


「……」


イズミもまばたきした。


「……」


調理台の上に。


頭が一つ。


ゼリーでできていた。


大きくて。


丸い。


グミで作った目が二つ。どっちも曲がっている。


マシュマロの口は、少し左に傾いていた。


髪はイチゴソース。


頭だった。


どう見ても、メイを再現しようとしていた。


「それ、目の前からどけてぇぇ!!」


サイコが飛びのいた。


「な、何これ、ハルミぃぃ!?」


その芸術作品を、爆弾でも見つけたように指さす。


ハルミは作品を見た。


それから二人を見た。


「あれ……うまくできてない?」


「できてない」


「メイちゃんそっくりじゃない!?」


ハルミは納得がいかない。


「似てない!!」


ハルミは首をかしげ、厳しい目で自分の作品を見直した。


「……まあ、目はちょっと左右で違うけど――」


「ハルミ」


「髪も、思ったよりオレンジっぽくなったけど――」


「ハルミ」


「ちょっと首を傾けて見れば――」


「あの子、一生悪夢見るよ!!」


サイコがゼリーを指さした。


「もう二度と鏡見たくなくなるよ!!」


イズミも続いた。


「ちょっと待って、そんなにひどい!?」


二人は頭を見た。


ハルミを見た。


もう一度、頭を見た。


「うん」


声がそろった。


ハルミは腕を組んだ。


本気でしょんぼりしていた。


「えぇ……私の頭の中では、すごくいい出来だったのに」


「ハルミちゃんの頭の中でしょ!!」


サイコが両手を広げた。


「メイちゃんの頭の話をしてるの!!」


「文字どおりね」


イズミが場を和ませようとした。


「でも、いいアイデアだったんだよ!」


「どういうアイデアなの、それ!?」


イズミはまだ理解が追いついていない。


「なんでメイちゃんの頭を作ろうと思ったの!?」


ハルミは両手を広げ、さも当たり前のように説明した。


「ほら、『ピポとゼリーのほし』で、人間が市長の頭をゼリーで作る回があるの。それがピポたちの世界に出てきてね。メイちゃん、あの回ですっごく笑ってたから、私もって――」


二人は口を開けたまま、ハルミを見ていた。


怒っているわけではない。


心の底から、信じられなかった。


「……アニメのキャラが市長の頭を作ったから」


イズミがゆっくり言った。


「お姉ちゃんは、メイちゃんの頭を作ったのね」


「そう! そのとおり!」


長い沈黙。


「……まあ、筋が通ってるところも、なくはないよね」


サイコが言った。


「どこにもない」


イズミが返した。


「ほんのちょっとだけなら――」


「ない」


「私、好きだよ、ハルミちゃん!」


「ありがとう、サイコちゃん!!」


二人は大喜びで、ぴょんぴょん跳ねながらくるくる回り始めた。


ハルミは二人を見た。


「で、これどうする?」


頭の行く末が、本気で心配だった。


「すごい量のゼリーだよ」


サイコが手を挙げた。


「ここはおばちゃんに任せなさい!」


ハルミは満面の笑みになった。


「サイコちゃん、ほんとに!? もう、サイコちゃんがいなかったら私どうなっちゃうの!?」


「たぶん、何者でもないね」


「……正直に言ってくれてありがとう」


イズミはもう包丁を手に取っていた。


「細かく切って、それから――」


芝居がかった間。


わざとらしく真顔を作り、ハルミを振り返る。


「メイちゃんを解体します」


「いやああ、言い方が怖いよ、イズミちゃん!!」


「言葉のあやだって!」


「今この場で選んでいい言葉じゃないよ!!」


サイコはもう、目をぎゅっと閉じて頭を押さえていた。


「見てられない!」


「じゃあ見ないで!」


包丁を手に、イズミが言う。


「見なきゃいいだけだよ!!」


ハルミも同意した。


「ああああ、かわいいメイちゃぁぁん……」


そして、事件は起きた。


ハルミは背を向けた。


「私も見てられない!」


「お姉ちゃんが作ったんでしょ」


「私が作ったから見てられないの!!」


イズミは外科医さながらの手際を見せた。


サイコは四十秒で、悲しみの全段階を通過した。


そして最後には――


色とりどりの小さなかけら。


並べ直して。


大きめの器へ。


ここでようやく、サイコの出番だった。


口当たりのやさしいクリームと混ぜ合わせる。


きれいだった。


色鮮やかで。


見ているだけで楽しくて。


トラウマの心配も、まったくない。


「カラフルなゼリーにするよ!!」


サイコが宣言した。


「それいい!!」


ハルミは、直前の五分間なんてなかったかのように、また元気になった。


「あああ、サイコちゃん! 二人がいなかったら私どうなってたの!?」


「怖いゼリーの頭を前に、次の手が何もない人になってた」


サイコはまだ立ち直りきっていなかった。


風船も、ついに手なずけられた。


リビングは風船でいっぱい。


本当にいっぱいだった。


廊下まではみ出し、ベランダにも進出。キッチンへの侵入を試みた数個は、ハルミが丁重に送り返した。


ハルミは一歩下がって、出来栄えを眺めた。


色とりどりの雲みたいだった。


お祭りみたいだった。


風船でできた夢みたいだった。


「きれいにできたぁ!」


ハルミが声を上げた。


「できたねぇ!!」


サイコも同意した。へとへとだったけれど、誇らしかった。


イズミはベランダで、最後にもう一度ロボットを確認していた。


「うまくいったよ」


リビングに戻って報告する。


「ちゃんと歩くし、しゃべるし、ピポは一回も転ばなかった」


「やったぁぁ!」


「いぇーい!」


「最高!!」


三人は顔を見合わせた。


家じゅうが飾りでいっぱい。


ゼリーもできた。


風船も準備完了。


ロボットも動く。


メイの頭は……ずっと人前に出せるものに生まれ変わった。


いい瞬間だった。


任務完了まで、あと少し。


ハルミは深く息を吸った。


満足だった。


穏やかだった。


時計を見た。


まばたきした。


「え、もう九時四十六分!?」


サイコもパニックになった。


「うそぉぉ!! お客さん、もうすぐ来るじゃん!!」


「もうすぐ来る」と聞いたイズミが叫ぶ。


「やばい、今お母さんが来たら私たち――」


コン。コン。コン。コン。コン。


しつこく。


規則正しく。


あの独特の勢いで。


三人とも止まった。


顔を見合わせた。


沈黙。


「……まさか、皆に愛され、敬われるロドリゲスさんでいらっしゃいますか……?」


サイコはもう、声が変わっていた。


ハルミがまばたきした。


「やばっ。お母さんだ」


沈黙。


天井から、風船が一つ落ちた。


ぽとっ。

今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!

(*´꒳`*)


皆さまが読みに来てくださること、そして応援してくださることが、本当に嬉しいです!


よかったら、絵文字で今回の感想を教えてくださいね!

★で応援していただけたら、さらに大喜びします!!

ヽ(>∀<☆)ノ


いつも温かい応援を、本当にありがとうございます!

次のお話でも、もっと楽しんでいただけますように!


それでは、また次回お会いしましょう~!!

(。・ω・。)ノ♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。