第110話 ミッション:プレゼントを買うこと(そして道中で死なないこと)
【緊急速報】少女へのプレゼント購入が、まさかの命がけの大作戦に!?
― 少年5人、計画性ゼロで挑む「メイちゃんへのプレゼント探し」! ―
日曜日。
午前八時十二分。
日の出の青空に、カラスの鳴き声が響いていた。
町は、まだ目を覚まし始めたばかり。
ただし。
とある二人を除いて。
二人はもう、騒ぎを起こしていた。
ドンドンドンドンッ!!
「待ちなさーーーい!」
中から声がした。
扉が開く。
そこにいたのは、ケンタの母親。
五郎丸カスミ。
背筋はぴんと伸びている。
腕は組まれている。
もはや普段着なのではないかと思うほど、自然に着こなされたエプロン。
そして。
にらむだけで壁くらい壊せそうな顔。
「……何の用?」
沈黙。
ソラが固まった。
タケルも固まった。
二人とも、自動的に過去最高の礼儀正しさを発揮した。
「お、おはようございます……」
タケルが口を開く。
「ケ、ケンタくんを誘いに来たんですけど……」
ソラも加勢した。
彼女は、二人を見た。
沈黙。
さらに沈黙。
そして――
「今、ご飯食べてるから」
一拍。
「入りなさい」
そのまま背を向け、歩いていった。
何事もなかったかのように。
二人は顔を見合わせた。
「……怖い」
ソラがささやく。
「いい人だよ」
タケルは中に入った。
「いい人の顔じゃなかっただろ、今!」
そして、ソラも続いた。
早くも自分の家のような足取りだった。
入ってすぐの部屋がキッチンだったので、そのまま顔を出す。
「うわっ!」
ソラは、本気で驚いた。
テーブルが大きい。
ものすごく大きい。
しかも。
食べ物が多い。
ものすごく多い。
五つ星ホテルの朝食みたいだった。
パン。
果物。
牛乳。
ジュース。
名前も分からない何か。
そして、その真ん中に。
ケンタ。
もぐもぐ。
平和だった。
いつも通りの朝。
実際、そうだった。
少なくとも、そのはずだった。
「……すげえ」
ソラは言った。
そして座った。
許可は取っていない。
パンを取る。
「これ、めっちゃうまい」
「このジャムつけたら、もっとうまいぞ!」
ケンタは早速、ジャムを渡した。
「うわ、うまそう!」
タケルは、全部無視した。
「おはよう」
少し離れた席に座る。
ケンタが顔を上げた。
ぱちっ。
「……何しに来たの?」
「重要任務」
ソラは口いっぱいにパンを詰めて答えた。
「メイちゃんのプレゼント、忘れてた」
タケルは単刀直入だった。
沈黙。
ケンタの口が止まった。
「……やべえ」
「うん」
「俺も忘れてた」
「全員忘れてたんだよ!」
ソラが、なぜか怒りながら断言した。
ケンタはすぐに立ち上がった。
「分かった。着替えてくる」
階段を駆け上がる。
二秒ほどの静寂。
ソラは、ケンタの皿を見た。
自分の皿を見た。
もう一度、ケンタの皿を見た。
「いただきます!」
ケンタの残りも、自分の分も食べた。
タケルは顔を覆った。
「俺、お前のこと知らない」
ケンタが戻ってきた。
「行こ――」
止まる。
皿を見る。
ソラを見る。
沈黙。
「……食った?」
「助けてあげた」
「何を!?」
「食品ロスの削減」
沈黙。
「……なるほど」
そして、何事もなく出発した。
次の目的地。
ユウの家。
いや。
ユウの要塞。
三人は、その前で立ち止まった。
高い塀。
閉ざされた門。
完全な静寂。
「……どうやって入るの?」
ソラが聞いた。
「いい質問」
ケンタが答えた。
「来たことないの?」
タケルが二人を見る。
「ない」
「ない」
「……」
タケルは息を吐いた。
「とりあえず、インターホン探せば――」
ソラは、もう塀を見ていた。
計算中。
「ケンタくん」
「ん」
「足、乗せていい?」
「任せろ!」
「タケルくんも、こっち手伝って!」
「人の家に侵入する手伝いはしない!」
「侵入じゃないって。善意で無断入場するだけ」
「それを侵入って言うんだよ!」
その時――
バンッ!!
塀から、突然、小さなモニターが現れた。
「うわああっ!?」
「何これ!?」
三人とも飛びのいた。
画面の向こうには――
子どもが二人。
双子。
そっくり。
小さい。
椅子の上に立ち、カメラに届こうと背伸びしていた。
「だれーーーっ!?」
片方が叫んだ。
町中に響き渡った。
「何もしてません!!」
ソラは反射で答えた。
「ユ、ユウくんに! ユウくんに用があって!」
「ユウちゃんに何の用!?」
「ちょっと誘いに来ただけ!」
「何に!?」
その瞬間。
片方が、いきなり銃を取り出した。
カメラに向ける。
「うわああああっ!!」
「ふ、ふ、普通のこと!!」
「あなたにとって普通って何!?」
沈黙。
「……確かに、いい質問」
ケンタがつぶやいた。
「とにかく!」
ソラが画面に近づいた。
「ユウくん呼んで!」
二人は顔を見合わせた。
疑いの目。
そして、画面から消えた。
「あいつの妹たち、やばいな」
ケンタの心からの感想だった。
「ユウくん、妹いたの?」
タケルは、それすら知らなかった。
「片方がミコちゃんで、もう片方がマコちゃん。でも、どっちがどっちか、いまだに分かんない」
沈黙。
小さな足音。
そして、勢いよく扉が開く音。
「ぎゃああっ!」
悲鳴。
「何!?」
数秒後。
門が開いた。
ようやく、ユウだった。
「何、さっきからうるさ――」
妹たちが使っていた画面をのぞき込む。
そこに映っていたのは。
三人。
「うわっ!」
また驚いた。
ユウは巨大なテーブルへ行き、リンゴを取った。
リンゴ。
一個。
その後ろには、信じられないほど食べ物の並んだテーブル。
クロワッサン。
パン。
その他、いろいろ。
そして、ようやく三人のところへ来た。
「……何の用?」
ソラは、テーブルを見た。
リンゴを見た。
「……リンゴ一個で来たの?」
「うん」
「家の中にパン屋あるのに!?」
「リンゴ食べたかったから」
沈黙。
「……バカ」
タケルが言った。
「誘いに来たんだよ」
ケンタが説明した。
「メイちゃんのプレゼント買いに」
「……ああ」
ユウは考えた。
「いいよ」
リンゴをかじる。
「行こう」
それだけだった。
最後の目的地。
レン。
一番遠い家。
長い道のりを歩き、ようやく到着した。
インターホンを押す。
扉が開いた。
レン。
ぼさぼさの髪。
何も映っていない目。
毛布にくるまり、枕を抱えていた。
魂は……任意。
沈黙。
「……何の用?」
「街。プレゼント。メイちゃん」
タケルが要約した。
レンは四人を見た。
一拍。
「行こう」
そのまま外に出て、扉を閉めた。
「……お母さんに何も言わなくていいの?」
「分かってるから」
「何で!?」
「俺が存在してるから」
沈黙。
「いいね」
ユウが納得した。
「そのまま行くの!? 毛布と枕持って!?」
「うるさい、ソラ」
「そうだぞ! 叫ぶな、ソラ!」
ケンタが叫んだ。
こうして。
五人は歩き始めた。
太陽は昇る。
一日は始まる。
混乱は……避けられない。
「クマのぬいぐるみとか、いいんじゃない?」
ユウが言った。
「どんなの?」
タケルが聞く。
「輸入物。妹たち、喜んでた」
「正気?」
「ユウくん、マジかよ!」
「次の案」
「車!」
ケンタ。
「子どもに!?」
「かっこいいじゃん!」
「女子は車、好きじゃないだろ」
レンが、豊富な経験に基づいて言った。
「じゃあ、ピンクの車!」
「バービーの!」
ソラが付け足した。
「完璧!」
「完璧じゃない!」
「完璧だって!」
「違う!」
「そうだって!」
そして。
五人は進んだ。
言い争いながら。
叫びながら。
自分たちが何をしているのか、まるで分かっていないまま。
ただ、百パーセントの確信だけはあった。
きっとうまくいく。
……たぶん。
(次回へ続く。たぶん、お店の中で。あるいは、お店から追い出されながら。)
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