第109話 すべて順調。ゼリー以外は。
【緊急速報】完璧な誕生日計画、開始5分で崩壊の危機!?
― 大沢ハルミ、人生初のゼリー作りで予想外の大混乱!! ―
日曜日の朝、大沢家。
招待客の到着時間も、サプライズの段取りも完璧!
あとは料理と飾りつけを終わらせるだけ――
のはずが。
キッチンから響く悲鳴!
次々と起こる謎のトラブル!
そして、なぜか消える「青」!?
果たして三人は、無事に準備を終えられるのか!?
芽衣の誕生日まで、残された時間はあとわずか!
なお、パーティーはまだ始まってすらいない!!
ハルミの家が、大混乱になっていることを除けば。
穏やかな一日だった。
ようやく、晴れそうだった。
誰も、溶けずに済むくらいの陽気で。
ただし。
さっきも言った通り。
ハルミの家は、別だった。
「ぎゃああああ!!」
ハルミが、時計を見た。
「どういうこと!?もう朝の九時三分!?」
サイコとイズミが、驚いてハルミを見た。
どうやら。
『サプライズパーティー直前発作』
のようなものを起こしていた。
「あああ、ご飯の準備!!」
走り出した。
台所へ、消えた。
「……うわ」
イズミは、すでに身構えていた。
これから来る、竜巻に。
扉。
戸棚。
引き出し。
どんっ。
ぱんっ。
がちゃっ。
二秒後。
戻ってきた。
変身して。
まとめた髪。
バンダナ。
エプロン。
料理人の、立ち姿。
「……別人になった」
イズミが、その場で言った。
「台所の忍者になったね」
サイコが、続けた。
ハルミが、手の中でスプーンを回した。
「よし!始めるよ!!」
沈黙。
「……怖い」
イズミが言った。
「私も」
サイコが認めた。
「聞こえてるんだけど」
「聞こえるように言ったんだよ」
ハルミは、もう台所で袖をまくっていた。
人生で最高のゼリーを作るために。
そして。
人生で、初めての。
鍋をかき混ぜる。
袋を開ける。
物を落とす。
その間、サイコは恐ろしい風船たちを任された。
イズミは、メイへの小さなサプライズを担当することになった。
風船とゼリーより。
ずっと、手のかかるものだった。
「月城さん、箱を取ってくるので、車の鍵を貸してください!」
イズミが、玄関から手を振った。
「いいよ!!」
サイコが、ポケットから鍵を出す。
「はい!」
ハルミは、聞き逃さなかった。
驚いて、振り向く。
「は、箱って……どういうこと??」
「ちょっとした……」
サイコが、変な顔をした。
何かをやらかした人の、あの顔。
「サプライズ!」
「……分かった」
『絶対、危険なやつ……』
ハルミは、十代の頃を思い出し始めた。
サイコの『ちょっとしたサプライズ』は。
何一つ、普通ではなかった。
『まあ、大事なのは気持ち……だよね!?』
イズミが、箱を抱えて戻ってきた。
ものすごく、カラフルだった。
何のサプライズなのか、箱だけで分かった。
「サイコちゃん、それって、もしかして!?」
サイコとイズミが、小さく笑った。
「そう!!見て、これ買ったの!」
大きな箱だった。
中には。
『ピポとゼリーのほし』の仲間たちの、小さなロボット。
キャラクターに、そっくりだった。
しかも。
歩く。
話す。
沈黙。
情報も。
興奮も。
ハルミ一人の心臓には、多すぎた。
「うそおお!?すっごい!!サイコ、最高!!」
「へへ、いいでしょ!?」
「月城さん、電池も買いましたよね……?」
イズミが、箱を縁側へ運びながら聞いた。
「買った!」
サイコが、頭をかいた。
「というか、家にあったのを何本か持ってきた……!」
「……」
「イツキくんは、使えるって言ってた!何かあったら、あの人のせいだから!」
遠く離れた場所で。
イツキの耳が、むずむずした。
だんだん、赤くなっていた。
『誰か、俺の噂してる!?』
イズミは、縁側へ向かった。
この家の誰も、好きではないことをするために。
あるいは。
できないことを。
説明書を読む。
ロボットの初期設定をする。
電池を入れる。
一方、ハルミは。
ゼリーに、ものすごく集中していた。
サイコが流した音楽は、少し怖かった。
軍事訓練のBGMみたいだった。
テレビでは、まだニュースがついていた。
アナウンサーが、天気を伝えていた。
その横で。
「鍋のふた、どこ!?」
「どうして床にゼリーがあるの!?」
「誰、私のスプーン動かしたの!?」
「自分で動かしたでしょ」
「あっ」
サイコは、まだ一袋目の風船と格闘していた。
肺の空気が、もう残っていなかった。
風船を膨らませながら。
サプライズパーティーにとって、とても大事なことを聞くことにした。
「ハルミちゃん」
「何!」
「みんな、何時に来るの?」
ハルミが、止まった。
ここが。
輝く時だった。
ゆっくり、振り向く。
エプロンを、整える。
咳払い。
仕事のできる人の、姿勢。
「こういう予定にしました」
敬意を払った、沈黙。
「招待客は、十一時から十一時半の間」
縁側のイズミが、手を止めた。
顔を、上げる。
「アイコちゃんとヒナちゃんは、メイちゃんと一緒に十二時」
沈黙。
想像上の、劇的な風。
「……」
「……筋が通ってる」
イズミが言った。
「……すっごく、筋が通ってる」
サイコが続けた。
ハルミが、笑った。
「私、人事の仕事してるんだから」
「だよね」
「会議の時間くらい、決められるから」
「最低限だね」
「私の段取りを尊重して」
その後も、三人は頑張って働いた。
一生懸命に。
五分間だけ。
「あああ、沸騰しすぎてる!!」
鍋が、ぐつぐつ。
ゼリーが、あふれる。
色も、怪しかった。
ハルミが、かき混ぜようとした。
粉を、こぼした。
「ダメ、ダメ、ダメ――」
「青い粉、どこ!?」
沈黙。
「……青、なくした」
「色って、どうやってなくすの!?」
「分からない!!」
冷蔵庫を、開けた。
止まった。
「……入らない」
沈黙。
「……何も、入らない」
サイコが、後ろへ来た。
「……いくつ作ったの?」
「……分からない」
イズミも、来た。
「……どうして容器が五十個あるの?」
「みんなに、いっぱい食べてもらうため!!」
沈黙。
「……どうする?」
サイコが聞いた。
ハルミが、考えた。
玄関を、見た。
二人を、見た。
「……私たちの救世主のところへ行こう!」
場面は、飛んで。
サクラおばあちゃんの家の前。
こんこんこん。
「サクラさーーーーん!!」
ドアが、開いた。
サクラが、顔を出した。
穏やかに。
優しく。
三人の、疲れ果てた女性を見た。
日曜日。
朝、九時二十分。
手には、容器。
大量の、容器。
「……おはよう、みんな!」
「助けてください」
五分後。
ゼリーは、整然と並んでいた。
冷蔵庫は、いっぱいだった。
平和。
「本当にありがとうございます、サクラさん!!」
ハルミが、お辞儀をした。
「可愛いメイちゃんのサプライズパーティーのお手伝いなら、喜んで。また、いつでもいらっしゃい」
サクラは、落ち着いて答えた。
ドアが、閉まった。
沈黙。
「……また来るね、私たち」
イズミが言った。
「絶対、来る」
サイコが、息を切らしながら認めた。
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