第108話 「何これ……ガスボンベ!?」
【緊急速報】誕生日準備のはずが、大沢家に謎の段ボール大量発生!?
― 大沢ハルミ、ネット通販の購入履歴と恐怖の再会! ―
午前8時、大沢家。
リビングを埋め尽くす大量の段ボール。
集まったハルミ、サイコ、イズミの三人に課せられた任務は――
「ハルミが何を買ったのか確認すること」。
開けても開けても終わらない箱!
次々と飛び出す予想外の品々!
果たしてこれは誕生日パーティーの準備なのか!?
それとも、ただの通販大惨事なのか!?
芽衣の誕生日大作戦、開始早々すでに雲行きが怪しい!!
静寂。
女、三人。
居間、一つ。
そして。
箱。
大量の、箱。
イズミが、腕を組んだ。
サイコが、指で笛を回した。
ハルミは。
もう、汗をかいていた。
「……よし」
イズミが言った。
「やろう」
「やろう」
サイコが答えた。
「やろう!!」
ハルミが続いた。
三人が、コーヒーカップを取った。
顔を見合わせる。
深呼吸。
そして。
一気に、飲み干した。
ショットみたいに。
ぱんっ。
沈黙。
「……苦い」
サイコが言った。
少し、震えていた。
「魂を感じた」
イズミが、感想を述べた。
「これがエネルギーよ!!」
ハルミは、もう戦う準備ができていた。
手を、叩く。
「任務!!私が何を買ったのか、突き止める!!」
「覚えてないの!?」
イズミが、即座に振り向いた。
「覚えてるよ……銀行の明細で!!」
「……それ、もっとひどい」
「かなり、ひどい」
サイコも、認めた。
沈黙。
箱を、見た。
「……お姉ちゃん」
イズミが、ゆっくり言った。
「この前、街で買い物した時より、買ってるよね?」
「それがね……」
ハルミが、説明を始めた。
「ネットで、ちょっと可愛いものを見つけて……そのあと、セールがあって……そのあと、テレビのアニメを見て……つい、気持ちが高ぶっちゃって――」
「私も見た!!」
サイコが、手を上げた。
「すっごく好き!!メイちゃん、いい趣味してる!」
イズミが、目を閉じた。
運命を、受け入れた。
「……分かった」
手を叩く。
「ここ、整理するよ」
一箱目。
終わりの、始まり。
サイコが、最初の箱を引き寄せた。
重い。
ものすごく。
「……ハルミ」
「何?」
「どうしてこの箱、車くらい重いの?」
ハルミが、固まった。
二秒。
三秒。
「……開けてみて」
サイコが、開けた。
止まった。
見た。
瞬いた。
「……これって――」
イズミが、近づいた。
「……ガスボンベ?」
ハルミが、指を一本立てた。
「ガスボンベじゃない」
沈黙。
「風船を膨らませるための、ガスを入れるやつ」
沈黙。
「……これ、買ったの?」
イズミが聞いた。
「買った!!」
「どうして?」
ハルミが、深呼吸した。
準備は、できていた。
説明は、すでに舌の先まで来ていた。
「つまりね……厳密に言うと、お店で膨らませてもらう方が安いとは限らないの。交通費。時間。一個あたりの料金」
劇的な、間。
「……ただし……」
沈黙。
「……お店に行った方が、楽だったかもしれない」
沈黙。
サイコが、腕を組んだ。
イズミが、目を閉じた。
「だから、朝八時から二人に来てもらったの!!」
ハルミが、二人を指さした。
説明、終了。
沈黙。
「……帰る」
イズミが、背を向けた。
「戻ってきて!!」
二箱目。
風船の、黙示録。
イズミが、別の箱を開けた。
そして。
止まった。
「……ない」
サイコが、覗いた。
「……それは、ない」
ハルミが、笑った。
「あるの!!」
そこに、あったのは。
風船。
の。
山。
カラフル。
きらきら。
形のあるもの。
形のないもの。
星。
ハート。
そして。
ちょっと、解釈に困るもの。
「ハルミちゃん」
サイコが、ゆっくり言った。
「これ、町内を風船で埋められるよ」
「大事なパーティーなの!!」
「結婚式?」
「違う……でも、結婚式だったらって考えてみて!?」
イズミが、一つ取った。
「これ、暗いところで光る」
もう一つ。
「これ、音が鳴る」
さらに、一つ。
「これ……なんで表面がでこぼこしてるの?」
沈黙。
「……分からない」
ハルミは、正直だった。
争いの、アーチ。
壁に、立てかけてあった。
箱は、ない。
説明も、ない。
アーチ。
大きい。
変だった。
「……これ、何?」
サイコが聞いた。
「あっ!!」
ハルミが、元気になった。
「風船のアーチを作るやつ!」
「組み立て方、分かる?」
「……分からない」
「やってみた?」
「……まだ」
イズミが、それを見た。
「これ、壊れるよ」
「壊れない!!」
語り手は、知っている。
壊れる。
飾りつけの、混沌。
そして。
本当の中身が、出始めた。
バネつきの、カチューシャ。
ポンポンつきの、カチューシャ。
キャラクターつきの、カチューシャ。
「すっごく好き!!」
サイコは、もう三つつけていた。
光るブレスレット。
「これは、危険だね」
イズミが言った。
すでに、一つつけながら。
コップ。
大量の、コップ。
顔つき。
カラフル。
いろいろな表情。
「どうして、こんなにキャラクターがいるの?」
イズミが聞いた。
「みんな、大事だから!!」
ハルミが答えた。
「まだいるの!?」
サイコは、本当に楽しそうだった。
好きなキャラクターたちが、次々と目の前に現れていた。
自分のパーティーでも、ないのに。
「サイコちゃんの誕生日の飾り、もう用意できたね」
ハルミが、イズミへ囁いた。
変わった形の、ストロー。
飾りつきの、紙ナプキン。
テーブルクロス。
そして。
「……これ?」
イズミが、まったく関係なさそうな物を持った。
「割引を受けるため」
「だよね」
「当然」
もう、散らかっていた。
物が、あちこちに。
箱は、開けっ放し。
真ん中に、ハルミ。
明らかに、嬉しそうだった。
ものすごく、落ち着きがなかった。
「ハルミ」
イズミが呼んだ。
「はい!」
「等身大のキャラクターは、どこ?」
沈黙。
ハルミが、固まった。
「……最後の方の箱だと思う!!」
「ふうん」
サイコが、小さめの箱を開けた。
取り出す。
止まる。
「……あれ」
「どうしたの?」
イズミが聞いた。
「この小さい人形……」
「それ!!」
ハルミが答えた。
沈黙。
「……この……ちっちゃいやつ?」
「そう!!」
「……これ、等身大?」
「本当に、あの子たちの大きさだよ!」
沈黙。
「……人間くらいの大きさだと思ってた」
イズミが言った。
「私も!!」
サイコが、悲しそうになった。
「……アニメ、見てないの?」
「見てない!!」
「見た!!」
ハルミが、にっこり笑った。
「あの子たち、ゼリーだよ!!」
沈黙。
「……そりゃ、そうだよね」
イズミが答えた。
この先、何が出てくるのか。
信じられなくなっていた。
「……ハル」
「何?」
「『リアルな』キャラクターは、どこ?」
沈黙。
ハルミが、見た。
あの顔で。
あの。
危険な、顔。
「ここ」
一つ、残っていた。
最後の、箱。
イズミが、腕を組んだ。
「今度こそ、見せてもらおうか」
サイコが、首を傾げた。
「私も見たい」
ハルミは。
様子が、おかしかった。
怪しい、笑顔。
何かをやらかした人の、目。
開けた。
ゆっくり。
ものすごく、ゆっくり。
引っ張り出したのは。
衣装。
沈黙。
「すっごく好き!!」
サイコが、叫んだ。
もう、一つ取っていた。
「推しの衣装がある!!」
「推し、一人じゃなかった?」
イズミが聞いた。
「これは、別の人格の私の推し!!」
「そりゃ、そうだよね」
ハルミが、もう一つ引っ張り出した。
そこで。
目が、輝き始めた。
宝物を見つけたみたいに。
「……うそ」
「どうしたの?」
サイコが聞いた。
「……うそ……!」
持ち上げた。
衣装。
空気で、膨らむ。
巨大。
丸い。
黄色。
「……ピポだ!!」
沈黙。
「……空気で膨らむ着ぐるみ、買ったの!?」
「二着!」
「……」
「可愛かったんだもん!!」
イズミが、背を向けた。
「もう、諦めた」
居間は、戦場になった。
風船。
カチューシャ。
リボン。
衣装。
関係のない、いろいろな物。
そして。
三人の、女。
笑っていた。
大きな声で。
止まらないくらいに。
「いっぱい、あるね!!」
ハルミが、喜んだ。
「多すぎるんだよ!!」
イズミが、訂正した。
「全部、使うよ!!」
サイコが、決めた。
沈黙。
三人が、顔を見合わせた。
そして、笑った。
その瞬間。
それは、ただのパーティーではなかった。
任務だった。
そして、三人は。
まだ、始めたばかりだった。
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