第106話 靴下と絵の具と秘密
【号外・靴下アート界に激震!!】少女三人、靴下を飾るはずが自分たちまで芸術作品に!?
――絵の具! 刺繍! 謎の魚! 部屋中が大騒ぎの中、まさかの誕生日プレゼント情報が流出寸前!? さらに芽衣の何気ない一言で、親友二人が大興奮!!――
アイコの家の近くの公園は、誰もいなかった。
三人の女の子が、その場所にある元気を全部使い切ってしまったから。
滑り台。
ブランコ。
かけっこ。
鬼ごっこ。
それから。
「世界で一番高い木に登ろう」という挑戦。
ヒナが枝の上で三分間、動けなくなって終わった。
そして、今。
三人は、限界だった。
アイコが家のドアを開けた。
「お母さん、ただいま!」
台所から、お母さんが顔を出した。
笑顔で。
「まだ生きてる?」
三人が、足を引きずって入ってきた。
メイは、玄関の床に倒れた。
「私……足の感覚がない……」
ヒナは、壁にもたれた。
「私……何も感じない……」
アイコが、劇的に指を一本立てた。
「私は、お腹が空いてる」
お母さんが笑った。
「よかった。今日は夕飯、ハンバーガーよ」
沈黙。
三秒。
そして。
「ハンバーガー!?」
三人が、即座に生き返った。
「きゃああ!!」
「ハンバーガー、大好き!!」
「私も!!」
アイコのお母さんが、階段を指さした。
「先に少し休んでおいで。もうすぐできるから」
三人が、階段を駆け上がった。
疲れたことなんて、一度もなかったみたいに。
アイコの部屋に着くと。
止まった。
見つけたものが、あったから。
最初は、メイ。
「絵の具!!」
アイコは、別の方を見た。
「新しい靴下!!」
ヒナが、引き出しを開けた。
「私の服!!」
沈黙。
ヒナは、大事な服を取りに向かった。
「なくしたと思ってた……」
アイコとメイが、顔を見合わせた。
目が、輝いた。
そして、同時に。
「いいこと思いついた!!」
沈黙。
二人が笑い始めた。
「先に言って!」
メイが言った。
アイコが、白い靴下を持ち上げた。
トロフィーみたいに。
「靴下を、可愛く飾らない!?」
メイが目を見開いた。
「私も、それ考えてた!!」
ヒナは、引き出しの奥にいた。
引っかかった服を取り出そうとしていた。
「ああ……私も、それ考えてた……」
こつっ。
棚に、頭をぶつけた。
「いた……」
ほかの二人は。
完全に、無視した。
五分後。
部屋のローテーブルは、手芸店が丸ごと来たみたいになっていた。
糸。
針。
ボタン。
布用の絵の具。
型紙。
ラメ。
布の切れ端。
シール。
多すぎた。
三人は床に座った。
作業を始める。
メイは、自信満々だった。
「コラージュなら、やったことある!」
靴下へ、直接描き始めた。
「でも、靴下には初めて!!」
アイコも、楽しそうだった。
糸と針を取る。
「私は、刺繍する!」
五分後には。
完璧な、小さな花ができていた。
ヒナは。
靴下を見た。
絵の具を見た。
天井を見た。
絵の才能は、なかった。
でも。
海が、大好きだった。
だから、海を描くことにした。
三人は、集中していた。
笑って。
話して。
やがて、アイコがヒナの靴下を持ち上げた。
「あああ、これ好き……!」
首を傾げる。
「……羊?」
ヒナが、赤くなった。
「魚だよ、アイコ」
沈黙。
「あっ」
「……」
「……でも、可愛い」
メイが、ヒナの靴下を持ち上げた。
「ヒナちゃん、この海、大好き!!すっごく綺麗!!」
ヒナの顔に、大きな笑顔が広がった。
「あ、ありがとう、メイちゃん!!」
メイの靴下を指さす。
「でも、メイちゃんの絵も見て!!すっごく綺麗!!」
メイが、赤くなった。
「ありがとう……」
ヒナが、アイコへ向き直った。
「それに、アイコの花!!完璧!!」
アイコが、誇らしげに靴下を上げた。
「ありがとう!!」
少し、考える。
「ここに、木を作ろうかなって……」
空いている場所を指さした。
「ブランコも、つけようかな?」
メイが、両腕を上げた。
「あああ、絶対いい!!」
ヒナも頷いた。
「木にブランコがあるの、私の夢!!」
メイが、自分の靴下を見た。
「ねえ、二人とも……」
白いところを指さす。
「ここ、何を描こう?」
アイコが考えた。
「絵文字にしたら?」
ヒナが、一つまねしてみせた。
笑っている顔。
普通より、ずっと大きな笑顔。
「これ、描いて!」
次に、アイコが別の顔をした。
目を、ぎゅっと閉じて。
舌を、ぺろっと出す。
メイが笑い始めた。
「二人とも、最高!!」
でも。
ちゃんと、描いた。
三人は、そこにいた。
描いて。
話して。
笑って。
その時、ドアが開いた。
アイコのお母さんが入ってきた。
そして。
固まった。
三人は、絵の具だらけだった。
手。
顔。
服。
床まで。
でも。
幸せそうだった。
お母さんは、怒らなかった。
ただ、聞いた。
「アイコ、明日のために包んでおきたいんだけど……メイちゃんへのプレゼント、どこにある?」
沈黙。
女の子、三人。
彫像、三体。
「……」
「……」
「……」
アイコが笑い始めた。
「お、お、お母さん!!……あはは!!プレゼントって、何で!?……あはは!!」
ヒナも、笑い始めた。
緊張して。
メイは、瞬くだけだった。
分からなかった。
アイコのお母さんは、三人を見ていた。
何も、分からないまま。
「……そう。もうすぐ夕飯、できるからね」
出ていった。
アイコが、ゆっくりドアを閉めた。
深呼吸。
「あはは……ごめんね。お母さん、ちょっと忘れっぽくて。名前を間違えたんだ……」
メイが、穏やかに笑った。
「大丈夫!」
小さく笑う。
「うちのお母さんも、いつもやる!!」
でも。
その呼び方が、三人の頭に残った。
お母さん。
お母さん。
お母さん。
お母さん。
「……」
沈黙。
アイコとヒナが、メイを見た。
同時に、同じことを思った。
『言った……』
『本当に、初めて言った!!』
メイが、固まった。
顔が赤くなる。
「あ、あの……ち、違くて……」
言葉が、絡まった。
「わ、私……今のは――」
でも。
二人は、笑っていた。
アイコが、メイの隣に座った。
ヒナも近づいた。
先に話したのは、ヒナだった。
「大丈夫だよ、メイちゃん!!」
微笑む。
「私たち、すっごく嬉しいんだから」
アイコが頷いた。
「ものすっごーーく、嬉しい」
身を乗り出す。
「さあ、全部話して!!」
取り調べが、始まった。
「泣いた!?」
「大沢さんも、泣いた!?」
「一回で言えた!?」
「今、どんな気持ち!?」
「大沢さん、絶対いいお母さんだよね!」
「前の名前は何だったの!?」
「今の名前は!?」
メイは、完全に混乱していた。
でも。
とても、嬉しかった。
その時、気づいた。
一人じゃない。
友達が、いる。
すごく素敵な、友達が。
自分のことを、喜んでくれる。
一緒に、喜んでくれる。
たくさん、笑って。
たくさん、質問されて。
たくさん、話した後。
階下から、アイコのお母さんの声がした。
「みんなーー!!」
「夕飯、できたよーー!!」
三人が立ち上がった。
嬉しそうに。
階段を下りていく。
笑いながら。
メイにとって。
その夜は、もう特別だった。
でも。
アイコとヒナにとっては。
一番いいところは、まだこれから。
だって。
二人は、ちゃんと知っていた。
明日、何が起こるのかを。
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