第103話――夜はまだ始まったばかり
【速報】池は完成、庭は水上戦場に!? 夜はまだ始まったばかり!
――魚臭い少年二人、二十四件の不在着信、そして昼寝で完全復活した大人たち――
台所はきれいだった。
奇跡。
洗剤と小麦粉と尊厳による化学戦争の末、床はぴかぴかになっていた。
鍋は積み重ねられていた。ケーキは……存在していた。
そしてどうやら、少年たちは『株式会社・お庭の池』の正式な設置作業を生き延びたらしい。
午後を丸ごと使った。
丸ごと。
日が沈みかけ、空がくたびれたオレンジ色になった頃、ソラとタケルが縁側に現れた。
死んでいた。髪もぐしゃぐしゃだった。
魚と餌と、割に合わない少年労働の匂いがした。
そして、家の中では……
ハルミとサイコが畳に寝転がっていた。
扇風機の風を、顔に直撃させて。
三日間眠っていない人のように、熟睡していた。
サイコのスマホが鳴っていた。
鳴っていた。
鳴っていた。
「……」
まぶた一つ動かなかった。
ハルミは口を開け、よだれまみれでお腹をかいていた。
寝返りを打った。
また打った。
相変わらず、完全に意識がなかった。
ソラは、その光景を見た。
「俺も寝よう」
床に飛び込む寸前、タケルがシャツの襟をつかんだ。
「正気か? そんな魚臭いままで? 先に風呂入れよ、野生児」
ソラは、心の底から傷ついた顔をした。
劇的な間。
その目が変わった。
タケルは、その目を知っていた。
知りすぎていた。
「だめだ」
「ホースで水浴びしようぜ!?」
タケルは深呼吸した。
「やだ――」
顔面に、放水。
ソラはすでにホースを構えていた。
「ソラァァ!! ギプス濡らすな!!」
「もうギプスしてないだろ!!」
タケルは、きっかり三秒間、冷静でいようとした。
失敗した。
一分もたたないうちに、
二人とも、びしょ濡れになっていた。
五分後には、
庭中を走り回っていた。
十分後には、
完成したばかりの池が、正式に「中立地帯」になっていた。
四十分後には……
二人は、きれいになっていた。
ただし、今度は泥だらけだった。
そして、ホースに二十メートルの戦略的射程があるかのように叫んでいた。
家の中。
サイコが突然、起き上がった。
何かに呼ばれたかのように。
天井を見た。
それから、スマホを見た。
沈黙。
ロックを解除した。
不在着信、二十四件。
イツキ。
半秒、固まった。
息を吸った。
電話に出た。
「もしもし?」
「あああ、やっと出た!」
「何なの、イツキ!」
「どこにいるか知りたいんだよ! 一緒に買い物に行くんじゃなかったの!?」
半秒の沈黙。
サイコは目を閉じた。
「あ、そうだった。今日はハルミちゃんの家に来てるって、言い忘れてた」
向こうが黙った。
重い沈黙。
「……なんで?」
聞いたのは、それだけだった。
でも、その声。
何かがあった。
「なんとなく」
「なんとなくって何?」
「え? なんとなくは、なんとなく」
「サイコ」
「イツキ」
「今、どこ?」
「ハルミちゃんの家。そうだ、迎えに来て!」
「車は?」
サイコは反射的に唇をとがらせた。
「エアコンつけてもらうために、整備工場に預けてる」
「預けたの!? 先に言ってくれよ!」
「二十四回も電話しなくたっていいでしょ! 預けたものは預けたの!」
「誘拐されたのかと思った」
「私、誘拐されそうに見える?」
「けんかして、そのまま行方をくらましそうには見える」
彼女は黙った。
なぜなら。
そのとおりだった。
「忙しかったの」
「何してた?」
外から。
「タケルゥゥ! 顔を狙うな!」
「謝る気はない!!」
サイコは窓の外を見た。
ため息をついた。
「危機管理」
イツキは一秒、黙った。
短い沈黙。
「あ! 迎えに来るとき、リズも連れてきて!」
「今、こっちを見てる。殺されそうなんだけど」
「まだ二か月だよ、イツキ! しっかりしなさい!」
イツキは、巨大で、重く、どう見ても普通の飼い猫ではない「猫」を見た。サイコによれば、生後「二か月」らしい。
「二か月ね……」
ソファにいる猫を見た。
リズも見返した。
威圧的に。
「分かった。じゃあね」
「仕事が終わったら迎えに行く。そのあと買い物だからな。分かった?」
「ありがとーーー!」
彼は電話を切った。
そして、重いため息をついた。
サイコはようやく、辺りを見回した。
ハルミ。
完全に意識がなかった。
少年たち。
庭を水上戦場に変えていた。
そして、サイコは笑った。
さらに、笑みを深めた。
とても大事なことを知っていたから。
教師と人事担当者は、二十分眠れば完全復活する……そして、一晩中でも戦える。
ハルミに飛び乗った。
そのまま、顔をのぞき込んだ。
「起きてーー!」
ハルミが片目を開けた。
焦点が少しずれていた。
自分の唾液でむせた。
前髪が目に入った。
起き上がろうとした。
まさに、その瞬間――
庭から、放水。
ハルミは振り向いた。
そこに、二人がいた。
びしょ濡れで。
泥だらけで。
でも、池は……
ちゃんと機能していた。
三匹の鯉は、何事もなかったかのように楽しそうに泳いでいた。
サイコはハルミの両肩をつかんだ。
揺さぶった。
「もうすぐ帰るんだから、起きてーー!」
ハルミはまばたきをした。
「え?」
「起きてーーー!」
外から。
「滑る! 滑るって!」
「待って!!」
滑る音。
悲鳴。
笑い声。
サイコは、その大騒ぎを見た。
それから、ハルミを見た。
二人の子どものように、目を輝かせて。
ここまで読んでくださってありがとうございます!♡
現在、日本語訳の表現や、改行・段落の組み方を少しずつ見直しています!
日本語で読んでくださる皆さんに、もっと自然に、楽しく読んでいただけるよう、これからも工夫していきたいです。
更新が遅くなってしまって、ごめんなさい!
今回のお話も楽しんでいただけたら嬉しいです♡
ところで、皆さんなら最初の電話ですぐに出ますか?
それともサイコさんみたいに、不在着信が二十四件になるまで出ませんか?(笑)
(´▽`)
少しでも楽しんでいただけたら、下の☆から評価していただけると嬉しいです!
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キャラクターデザインやイラストは、Pixivにも投稿しています!
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それでは、また次のお話で!♡




