第102話 午後4時56分、バケツ一杯、鯉三匹、尊厳ゼロ
【悲報】鯉を三匹買っただけなのに、なぜか池の管理者になりました。
――買った。運んだ。資格まで取った。あとは池を作るだけ。なお、二人とも「生態系」の意味は知りません。――
リビング。
静か。
扇風機。
稼働中。
ぶぅぅぅぅぅぅん。
ハルミ。
ソファ。
ごろん。
寝転がっている。
片手。
巨大な。
スイカ。
一切れ。
目。
半分。
閉じている。
完全。
休息モード。
「……あぁ。」
「なんて。」
「平和な一日……」
満足。
その時。
コンコン。
「……」
動かない。
コンコンコン。
「はーい……」
ハルミ。
ゆっくり。
起きる。
足。
ずるずる。
玄関まで。
移動。
がちゃっ。
開ける。
「……」
沈黙。
ぱちっ。
瞬き。
玄関。
そこには。
サイコ。
髪。
ぼさぼさ。
ソラ。
汗だく。
シャツ。
ぺったり。
そして。
タケル。
顔。
真っ赤。
疲労。
限界。
さらに。
もう片方の腕まで。
折れそうになりながら。
持っていた。
十二リットル。
バケツ。
その中。
巨大な。
鯉。
三匹。
「……」
そして。
三人の後ろ。
袋。
箱。
ホース。
網。
パック。
その他。
名前すら。
よく分からない。
何か。
何か。
何か。
山。
いや。
壁。
荷物の。
壁。
ハルミ。
停止。
「……タケルくん。」
「だ、大丈夫ぅぅ……?」
「ソラくんも……」
「っていうか……」
もう一度。
見る。
バケツ。
見る。
箱。
見る。
二人の。
罪人みたいな顔。
見る。
すぅぅぅぅ。
深呼吸。
「何これぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」
ソラ。
ひゅ~。
口笛。
タケル。
天井。
見る。
サイコ。
すっ。
手。
上げる。
「私が説明する。」
ソラ。
即。
「説明しないで!!」
小声。
必死。
サイコ。
無視。
「この二人。」
「池のために。」
「ほぼ。」
「店ごと。」
「買ってきた。」
「それから。」
「大沢くん。」
「池の管理講習。」
「修了証。」
「もらった。」
「あと。」
「十二リットルのバケツに。」
「鯉三匹。」
「持って帰ってきた。」
一拍。
「土曜日。」
「午後四時五十六分に。」
「……」
沈黙。
ハルミ。
口。
開いている。
ソラ。
すでに。
タケルの後ろ。
避難済み。
タケル。
バケツ。
必死に。
支えながら。
足。
そろぉぉぉ。
箱。
後ろへ。
隠そうとする。
無理。
ものすごく。
無理。
「……へへ。」
「まあ……」
「そういう日も……」
ハルミ。
ぱちっ。
一回。
ぱちっ。
二回。
「……」
停止。
完全に。
電源。
落ちた。
サイコ。
「ハルミちゃん?」
「……」
反応。
なし。
「ハルミちゃーん?」
「……」
サイコ。
肩。
つん。
再起動。
完了。
「危ないでしょぉぉぉぉぉ!!」
爆発。
「何なのこれぇぇぇぇ!?」
「いくらしたの!?」
「どのカードで払った!?」
「デビット!?」
「魚は!?」
「なんでこんな遅くなったのぉぉぉぉ!?」
小規模。
パニック。
発生。
タケル。
慌てる。
「だ、大丈夫です!」
「ちゃんと。」
「全部。」
「大丈夫……」
ソラを見る。
「だよね。」
「ソラくん……?」
ソラ。
瞬き。
ゼロ。
「も、もちろん……!」
「あはは……」
一歩。
前へ。
姿勢。
ぴしっ。
自信。
だけは。
ある。
「おばさん。」
「俺たちが。」
「店員さんに。」
『これ必要ですよ』
「って言われただけで。」
「こんなに。」
「買うと思う?」
間。
ものすごく。
嫌な。
間。
ソラ。
「……それか。」
「俺たち。」
「何も分からなかったから。」
「全部。」
「店員さんを信じたとか……」
ハルミ。
目。
見開く。
ソラ。
即。
「いや。」
「大丈夫。」
「全然。」
「問題ない。」
そして。
タケルを見る。
顔。
完全に。
『俺に合わせて。』
『頷くだけでいい。』
タケル。
こくっ。
頷く。
もう一回。
こくっ。
「……うん。」
共犯。
成立。
ソラ。
「じゃあ!」
「おばさん!」
「失礼します!」
「俺たち。」
「外で。」
「全部。」
「準備してきます!」
「あははは……!」
退却。
二人。
外へ。
笑顔。
ただし。
完全に。
引きつっている。
バケツ。
運ぶ。
鯉。
ぱしゃっ。
ぱしゃっ。
そして。
リビング。
沈黙。
サイコ。
腕。
組む。
「で。」
「ケーキ。」
「うまくいった?」
ハルミ。
まだ。
魂。
半分。
外。
「ケーキは……」
「たぶん。」
「できた……」
一拍。
「できなかったのは……」
「キッチン……」
サイコ。
「……?」
見る。
ゆっくり。
顔。
キッチンへ。
「……」
戦場。
床。
小麦粉。
ボウル。
山積み。
壁。
スプーン。
なぜか。
張り付いている。
天井。
何か。
甘そうな。
何か。
付いている。
「……」
サイコ。
ぼそっ。
「やっぱり。」
「あの。」
キッチン掃除用の。
「なんか。」
「すごそうなやつ。」
「買っとけばよかったね……」
ハルミ。
「……うん。」
敗北。
完全に。
沈黙。
二人。
疲労。
限界。
気力。
ゼロ。
魂。
ほぼ。
ゼロ。
その時。
突然。
バケツ。
水。
登場。
「ん?」
ばしゃあああっ!!
「きゃあああああ!?」
ハルミ。
びしょ濡れ。
一秒。
「……」
もう一個。
バケツ。
掴む。
ばしゃあああっ!!
「きゃあああああ!!」
サイコも。
びしょ濡れ。
二人。
「……」
すぅぅぅぅ。
深呼吸。
見る。
お互い。
拳。
ぐっ。
「よぉぉぉぉぉぉちゃ!!」
ポーズ。
完全に。
ヒーロー。
エネルギー。
二百パーセント。
回復。
「オペレーション!」
「キッチン!!」
「徹底清掃ぉぉぉぉぉ!!」
「よぉぉぉし!!」
二人。
走る。
全力。
キッチンへ。
◇ ◇ ◇
その頃。
庭。
ソラ。
タケル。
しゃがんでいる。
二人の前。
植木鉢。
その上。
スマホ。
動画。
再生中。
『完璧な池の作り方――完全解説【43:12】』
動画の男。
ものすごく。
穏やか。
『まずは。』
『池の生態系のバランスを。』
『確認しましょう。』
「……」
ソラ。
「生態系って何?」
タケル。
「知らない。」
鯉。
ぱしゃっ。
ソラ。
鯉を見る。
「……こいつら。」
「俺のこと。」
「見てない?」
タケル。
鯉を見る。
「たぶん。」
「俺たちを。」
「責めてる。」
「……」
ソラ。
動画。
見る。
「pH。」
「測れって。」
タケル。
「pH測るやつ。」
「ある?」
「……」
二人。
荷物。
見る。
「ない。」
動画。
続く。
ソラ。
「魚を。」
「水に慣らせって。」
タケル。
「どうやって。」
「魚を。」
「水に慣らすの?」
「知らない。」
「……」
沈黙。
ソラ。
ため息。
「タケル。」
「何。」
「もし。」
「失敗したら。」
「……」
ソラ。
真顔。
「先生の。」
「計画だったことにしよう。」
タケル。
考える。
一秒。
「……それでいこう。」
共犯。
二回目。
その時。
家の中。
遠くから。
「よぉぉぉぉぉちゃ!!」
「その壁ぇぇぇ!!」
「拭いてぇぇぇぇ!!」
「拭いてるぅぅぅぅぅ!!」
「……」
ソラ。
家を見る。
タケルを見る。
「お前の家族。」
「元気だね。」
タケル。
「……」
「まだ。」
「何も。」
「見てないよ。」
鯉。
ぱしゃっ。
ぱしゃっ。
スマホ。
動画。
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