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「え……今なんと?」
「おばあちゃんと話がしたいって言ったの」
ユキちゃんの一見以来、娘の私に対して戦々恐々とする母親を仁王立ちで睨みつける。
大人っていうのは極端だ。自分の生き方を曲げられない故に、凝り固まったその頭では柔軟に対応できないのだ。だから私と普通に接することも出来ない。
こいつらの場合は大人の中でも酷いもんだけれどな。
「わ、私めの母に何か御用ですか?」
「娘に対して敬語使うなっての。あんた親なんだからドンとしてなさい。おばあちゃんに、おばあちゃんの叔母さんの話が聞きたいだけなんだから」
「おばあさんのおばあさん……?」
「おばあさんじゃなくて、おばあちゃんの叔母さん。確か戦時中に行方不明になったとか言ってたじゃん?」
おばあちゃんは、毎年終戦記念日に戦争の話をする。決して呆けてるわけじゃないけれど、彼女には突然話したくなるような、そういうスイッチがあるらしいのだ。
当時まだ幼かったおばあちゃんには、年下の叔母さんがいたらしい。おばあちゃんのお父さんの、歳の離れた妹らしい。けれどもはたから見たら叔母と姪と言うよりも、仲のいい姉妹だったとか。
けれどもある日、叔母さんの両親、つまりおばあちゃんの祖父母が亡くなった。同じ日に、何故か叔母さんも姿を眩ました。
詳細は耳にタコができるほど聞かされた。けれども私が知りたいのはそこじゃない。
私が知りたいのは、まだ幼かったその少女のプロフィールだ。
もしかして、もしかすると。
私の思った通りならば、これで真実にまた一歩近づいたことになるだろう。
そんな期待を胸に抱き、母親から教えてもらった電話番号でおばあちゃんに電話をかけた。
ビンゴだった。
おばあちゃんの叔母さん。
当時はまだ5歳だった少女。
名前は、「藤井雪子」。
渾名は、「ユキちゃん」。
予想通り、彼女は見事に「時計屋」になっていたのだ。
それから私は、火がついたように「時計屋」について調べ上げた。
「アイ」と接触したという、例の台本を書いた卒業生との接触に成功すると、彼女の家系についての詳細を聞き出した。
すると、彼女の先祖に「愛原」という苗字の人間がいたことが発覚した。
苗字に「愛」がついているというだけでも結構目立つ。今そうでなくても、昔そういう人がいたというだけで渾名になるきっかけには十分なり得る。
じゃあ、「イト」はーー?
こうしちゃいられないと、自殺に巻き込まれた「鷹原」の家を尋ねることにした。
犬飼くんには散々止められたけれど、私の好奇心はそんなものじゃ止められないんだから。