人皮の下の偽装、見え隠れする陰謀
親子テーマパーク併設の高級展望レストランの店内で、セリアは柔らかく香ばしい極上ステーキを優雅に、そして丹念に咀嚼していた。
普段はどちらかといえば野菜料理を好む彼女だったが、今回もあえてミディアムレアを注文していた――ナイフとフォークの間から滲み出る鮮紅の肉汁。
しかし、彼女の予想通り、以前のように血の色を目にしただけで吐き気を催し、ジュリアンが挽肉と化した残像に苛まれるような心理的拒絶反応は、いまや綺麗さっぱり消え去っていた。
「セリア、そんなに急いで食べなくても大丈夫よ。誰も取ったりしないから、ゆっくり噛んでね。」
カレナは隣に寄り添い、慈しむような手つきでセリアの背中を優しく撫す一方で、視線の端ではテーブルの向かいの床に這いつくばり、青あざだらけの豚面へと変わり果てたジュリアンを捉え、胸中に何とも言えぬ複雑な感情を渦巻かせた。
思えば、戦術指揮科の特待生である自分ですら、この男には完全に騙し抜かれていたのだ。
成層圏の死闘において、ジュリアンがこれほどまでに規格外の隠し手を仕込んでいたなど、露ほども知らされていなかった。奴のふてぶてしい言い草を借りるならば――
「全星系の観客を騙し切るには、まず身内の役者たちにこれが本物の悲劇だと心の底から信じ込ませなきゃならねえ」。
戦術的な秘匿性の観点から言えば、その論理は一分の隙もなく完璧だった。
だが、自分を案じてくれる身近な者たちを全員猿のように手玉に取り、踊らせる手口は、控えめに言っても悪質極まりない所業であった。
「セリア……もう怒っちゃダメだよ。お水飲んで、喉を潤してね。」
ヴィヴィアンはご機嫌取りと同情の入り混じった面持ちで、氷を浮かべたハチミツレモン水をセリアの手元へとそっと押しやった。
彼女は伏し目がちに、自身の手首に巻かれた生体反応ブレスレットが投影するホログラムスクリーンへと視線を走らせた――主要な星間ニュースのヘッドラインには今まさに、真紅の特大フォントで「ノア家の令息、成層圏からの奇跡の生還」という衝撃のスクープが狂ったように踊っていた。
ヴィヴィアンは事の顛末を瞬時に察知し、ジュリアンがこの絶妙なタイミングで自ら「生き返った」計略の意図を正確に見抜いていた。
連邦最高議会において、彼の父親が共存法案を推進する中で四面楚歌に陥り、あまつさえ強硬派の議員たちから壇上で集団暴行を受けるまでに追い詰められたからこそ、ジュリアンはこの「死者の蘇生」という巨大な世論の嵐を引き起こし、全星系の注目を力ずくで交渉のテーブルへと引き戻す必要があったのだ。
「怒らないでいられるわけないでしょ?! ルネ、もう一回あいつのところに行って、思いっきり蹴っ飛ばしてやって!」
セリアがギリリと歯を鳴らして下した命令に、傍らのルネは困り顔で立ち往生していた。
それもそのはず、先ほどジュリアンから計画の全貌を聞かされた瞬間、セリアの理性は完全に吹き飛び、問答無用で小さな革靴を振り上げ、ジュリアンの股間めがけて寸分の狂いもなく容赦のない一撃を叩き込んだのだから!
その理由はあまりにも正当で、反論の余地すらなかった――彼女はこの大馬鹿野郎の「無残な死」に打ちのめされ、何日も嘔吐を繰り返し、肉の一片すら喉を通らず、実の母であるイレーナと共倒れになって病院送りになる寸前まで追い詰められていたのだ。
それを今さら、全部ただの茶番劇でしたと種明かしされて、納得できるはずがなかった。
その後、怒り心頭のセリアに急かされたルネも致し方なく前に進み出て、軍仕込みの格闘術でこの世間知らずの坊ちゃんをたっぷりと「もてなして」やった。
ルネとしても昔の情を考慮して極力手加減はしたつもりだったが、それでもジュリアンの元々は整っていたはずの顔立ちは、今や見る影もなく腫れ上がった豚面と化していた。
これ以上殴り続ければ、せっかく拾った命が本当にこの場で消し飛んでしまいかねない。
「まあまあセリア、少し落ち着いて。怒りで身体を壊しちゃったら損よ。」
カレナは毛を逆立てた小動物のような少女を宥めつつ、ジュリアンが仕掛けたこの「金蝉脱殻」の計の鮮やかさと大胆さに、内心で密かに舌を巻いていた。
種を明かせば、その技術的原理は決して複雑怪奇なものではなかった。
人類が生体反応装置を介して、全高十六メートルにも及ぶ巨大な機械兵装と神経ネットワークを深層同調させられるのであれば、そのプロセスを逆転させ、生体組織を備えた超高精度のバイオアンドロイドを構築し、本体が遠隔地から並行同期操縦を行うことは、理論上十分に可能だったのだ。
そして、その禁忌たる「高階有機アンドロイド技術」こそが、クム率いる主和派知性機械が長年にわたり極秘裏に研ぎ澄ませてきた至高の技術結晶であった。
換言すれば、成層圏で【チャリオット】を駆り、セリアと死闘を演じた末に肉塊へと粉砕されたのは、最初から最後までクムが提供した極めて精巧な身代わりの傀儡に過ぎなかったのだ。
ジュリアンの本体は安全な地下拠点の安楽椅子に深く腰掛け、神経センサーを装着したまま、遠隔越しにあの壮絶な一大叙事詩を演じきっていたのである。
この大芝居からカレナすら蚊帳の外に置かれたのは、セリアが純真無垢であり、演技など微塵もできない性格だとジュリアンが熟知していたからに他ならなかった。
事前に情報を漏らせば、戦場で見せる彼女の絶望と精神崩壊に必ず綻びが生じる――ゆえに、彼は完全な欺瞞を貫き通したのだ。
だが、セリアの逆鱗に最も触れたのは――この天下の詐欺計画を、実の母であるイレーナも、ジュリアンの老獪な父親も、最初からすべて把握した上で黙認していた共犯者だったという事実だった!
その事実が、セリアの復讐リストをさらに強固なものへと決定づけた。
この食事が終わって屋敷に戻り次第、イレーナを今以上に徹底的に振り回して地獄を見せてやるのはもちろんのこと、隙を見てジュリアンの悪辣な父親もろとも袋叩きにしてやろうと、彼女は固く心に誓っていた。
「俺だって……こうして素直に土下座して殴られて、お嬢様に誠心誠意謝ってるじゃないですか……」
床に突っ伏したジュリアンが、腫れ上がった口元から不明瞭な声を絞り出す。その瞳の端には、情けなくも滲み出た涙が光っていた。
しかし、その悲鳴と命乞いの裏側で、彼の双眸の奥底には凍りつくような冷徹な覚醒の色が宿っていた。
星間情勢の悪化速度は、常人の想像を遥かに絶する領域へと突入していた。
主戦派の過激派知性機械の陣営は、既に伝説シリーズの機体群と真っ向から渡り合えるだけの壊滅的な戦力を着実に開発・掌握しつつあった。
それにもかかわらず、人類の上層部はいまだ議会の議席の上で目先の私利私欲に狂奔し、醜い足の引っ張り合いに終始している。
人類陣営に残された猶予は、もはや砂時計の最後の一粒に等しかった。
人類の歴史を紐解けば、数多の激動と変革の転換点には常に、眼前の本質的危機から目を背け、内部抗争に明け暮れる醜悪な政治闘争が蔓延っていた。
それはまさに、旧時代の日本特区における偉人・坂本龍馬の足跡と重なるものだった――かつて鎖国という陳腐な偏見を打破し、頑迷な民衆や武士階級に未知なる世界の思想と技術を受け入れさせるため、龍馬は売国奴の汚名を着せられながら各地を奔走し、数え切れない辛酸を舐め尽くした。
ジュリアンが為したすべての暴挙もまた、先人の轍をなぞり、今まさに崩壊せんとする星間社会において、強引に氷を砕くための楔とならんとする足掻きに過ぎなかったのだ。
いまや事態は極限の危機に瀕していた――白昼堂々のイタリア特区において連邦議員が無惨にも路上で首を刎ねられ、あまつさえ木星軌道近傍において、一億を超える民が二世紀にわたり生命を育んできた巨大コロニー宇宙ステーション群すら、主戦派機械の猛烈な強襲によって紅蓮の炎に包まれる瓦礫の山へと変わり果てた。
駐留していた連邦艦隊は壊滅的打撃を被り、数千万に及ぶ難民が怒涛の如く周辺惑星へと押し寄せた結果、連邦の難民受け入れ体制は完全に麻痺し、崩壊していた。
これほどまでに過激で卑劣な苦肉の策を用いてでも対話の突破口を強引にこじ開けねば、全人類と主和派知性機械を待ち受けるのは、戦火に呑み込まれて灰燼に帰す滅亡の結末だけなのだ。
現実という名の断崖絶壁に背中を押されていなければ、誰が好き好んで身を粉にする悪名を背負い、無二の友の心をずたずたに引き裂くような悪手を打つものか。
「お嬢様、身も蓋もない現実を言わせてもらえばね。俺たち人間ってのは、疲れるし腹も減るし、神経だって擦り切れるただの肉の塊なんですよ。主戦派の連中と本気で長期の消耗戦をやろうものなら、カレナみたいな完璧な戦力だって、いつかは力尽きる日が必ず来る。」
ジュリアンはカレナの体面を保ち、彼女が「完全人造遺伝子スーパーソルジャー」であるという冷徹な出自を公の場で口にすることは避けたが、その言葉の行間に滲む絶望はあまりにも明白だった――遺伝子工学の粋を集めて鍛え上げられた究極の個体ですら消耗戦では一歩も優位に立てないというのなら、この戦争を人類はいったい何をもって勝ち残るというのか。
だがもし……もし疲労を知らず、食料も求めず、人類と同等の演算力とテクノロジーを保持する主和派知性機械と手を取り合うことができたなら、人類陣営がこの先を生き延びられる確率は劇的に跳ね上がるはずなのだ。
主戦派の鋼鉄の怪物どもが、骨に巣食う蛆虫のように執拗なゲリラ戦を仕掛けてくる真の狙いは、一撃必殺の殲滅などではない。**「出血多量」**を狙っているのだ。
ぬるま湯で蛙を煮殺すように、人類の軍隊と防衛線の気力をじわじわと削り落とし、文明全体の神経が完全に焼き切れて総崩れとなったその瞬間、この世界は抗う術もなく、機械どもが家畜を飼い慣らすための屠殺場へと成り下がる。
さらに息を詰まらせるのは、機械生命という存在の本質だった――中央コアが物理的に破砕されない限り、彼らに「死」の概念は存在しない。
たとえ戦火の中でその身が塵芥と化そうとも、あらゆる戦闘データと殺戮の経験値はマイクロ秒単位でクラウドへバックアップされ、寸分違わぬ次の鋼鉄のフレームへと完全に継承されるのだ。
彼らは滅びるたびに進化を遂げる。だが、人間は一人死ねば、永遠に失われるのだ。
このような天災じみた圧倒的暴力の前に晒されながら、連邦最高議会の椅子を温める無能な各派閥の議員どもは、未だに自らの家門のちっぽけな利権と政治的駆け引きのために顔を真っ赤にして罵り合っている。これほど滑稽で愚かしい集団自殺が他にあるだろうか。
発端となったジュリアンの動機など、クムのあの冷たい手を取り、雲一つない晴天の下で堂々と肩を並べてデートをしたいという、爪の先ほどのささやかな願いに過ぎなかった。
しかし、その小さな蝶の羽ばたきは、いまや文明全体を奈落の縁から救い出すための、唯一の命綱へと変貌を遂げていた。
「そんなこと……言われなくたって分かってるわよ……」
セリアの華奢な指先がかすかに震え、手にした銀のナイフとフォークがカチャリと静かに置かれた。
何の前触れもなく、二筋の透き通った涙がその青白い頬を音もなく滑り落ち、温かなディナープレートの縁を濡らした。
「でも……あんまりよ。あんまりにも酷すぎるじゃない……」
胸の奥底では、この緻密に仕組まれた偽りの死に言い知れぬ安堵を覚えているというのに、手のひらの上で踊らされていた屈辱と恐怖の残滓が、無数の針となって彼女の心臓をチクチクと刺し続けた。
無事に脱出できたのなら、なぜ翌朝にでも、機械鳥にでも言づてを持たせて密かに耳打ちしてくれなかったのか。
なぜ自分をあそこまでの絶望の底に突き落とし、この丸一週間ものあいだ、味気ない冷え切った流動食だけで命を繋ぐような惨めな思いをさせ続けねばならなかったのか。
セリアは何よりも風味豊かなキノコ料理を愛していた――黄金色にカリッと焼き上がり、肉汁のように旨味が溢れ出すごま油のヤマブシタケも、濃厚なブイヨンを吸い尽くしたアミガサタケも、傷ついた彼女の魂を一瞬で救い上げてくれる至福の美食だった。
それなのに、この数日間というもの、「無二の友を自らの手で握り潰した」というトラウマのあまり、肉はもちろんのこと、肉に似た食感のキノコ料理すら見るだけで嘔吐し、食べ物の匂いを嗅ぐだけで激しい吐き気に襲われるという地獄を味わわされていたのだ。
何の意味もなくあそこまでやつれ果て、数え切れない美味を逃す羽目になった理不尽を思うと、セリアは赤くなった鼻先をすすり、怒りのあまり目の前の男をテーブルナイフで蜂の巣にしてやりたい衝動に駆られていた。
彼女の涙に濡れた青い瞳は、すぐさま隣のテーブルで同じように目の周りを青黒く腫らしているアーサーへと、射殺さんばかりの鋭さで向けられた。
先ほどアーサーが勿体ぶって「原初計画の鍵を握る男」などと口にした瞬間から、この散漫な男が最初からすべての真相を呑み込んだ上で、自分を謀る共犯関係にあったことは明白だった。同罪であり、万死に値する。
「情勢の悪化スピードは……お前が安全圏で見ていたものより遥かに暴走してるんだよ。お嬢様、俺は本気だ。全人類に残された時間は、もう一分一秒たりとも無駄にはできないんだ。」
ジュリアンは一切の不真面目さをかなぐり捨て、歯を食いしばりながら床から身を起こした。
鈍い膝の音とともに、彼は冷たいタイルの上で、極限まで形式を整えた贖罪の「土下座」を敢行し、その腫れ上がった額を床板へと深く擦り付けた。
「……前もって連絡できたはずなのに、ここに身を潜めていたのは……あんた自身が、何者かに完全にマークされていたからなんでしょ?」
セリアは深く息を吸い込み、喉元までせり上がってきた嗚咽を力ずくで押し殺した。
冷静になってみれば、ジュリアンほどの狡猾な男が、子どもの歓声が飛び交う雑踏だらけの親子パークに逃げ込み、息苦しいウサギの着ぐるみを被って日銭を稼ぐような真似をしていたのは、小遣い稼ぎのためなどでは断じてない――
ここは特区内で最も監視カメラの死角が多く、生体情報のトラフィックが乱反射する「暗黒地帯」であり、自らの生体シグナルを完璧に泥水の中へ沈めるための偽装空間だったのだ。
そこまで思い至れば、ジュリアンとアーサーがひた隠しにしてきた沈黙の裏に、呼吸一つで爆発しかねない致命的な危機が横たわっていることは火を見るより明らかだった。
もっとも、いまだ屋敷で高鼾をかいて熟睡しているはずの高慢な母親イレーナに対しては……セリアは内心でギリリと奥歯を噛み締めた。この借りは後で倍返しにしてやらねば気が済まない。
普段から全てを見透かしたような冷徹な面構えを崩さないあの女の鼻を明かしてやる機会を、逃すはずがなかった。
「お嬢様の察しの通りですよ。俺は完全にマークされてる。」
ジュリアンは土下座の姿勢を崩さぬまま、床板越しにくぐもった、深淵の底から響くような冷徹な声を紡ぎ出した。
「お嬢様ならどう考えます? もし主戦派の知性機械が、『人類と主和派の和平条約締結』を根底から叩き潰したいと画策した場合……全面戦争による共倒れを避けつつ、最も隠密で、最も致命的で、最も低コストな手段は何だと思いますか?」
その唐突に投げかけられた冷え切った問いは、錆びついたメスのように、レストラン内の温かな空気を一瞬にして切り裂いた。
居合わせたセリア、カレナ、ルネ、そしてヴィヴィアンの背筋を、ほぼ同時に氷のような戦慄が駆け上がり、全身の産毛が一斉に逆立った。
最も効果的な干渉とは、正面戦場に鋼鉄の津波を送り込んで力押しすることなどではない……。
音もなく、息を潜めて、人類文明の最高意思決定中枢たる心臓部――連邦最高議会の懐深くへと、凶刃を突き立てることだ。
「連邦の上層部……意思決定の中枢が……既に主戦派の知性機械によって……侵食されている、とでも言うの……?!」
カレナの紫水晶の瞳が針のように収縮し、信じがたい戦慄に震える喉から、そのおぞましい結論が絞り出された。
「完全に正解ですよ、カレナ。」
ジュリアンはゆっくりと顔を上げた。先ほどまでの滑稽な青あざの奥に、見る者を窒息させるような灰色の死相を漂わせながら。
「俺がこの命を張って手に入れた第一段階の成果は、偏見の皮を剥ぎ、この戦争が決して白黒二元論の単純な構図ではないと世間に知らしめることだった。だが、第二の――そして最も絶望的な真実は、この身体が体現しているテクノロジーそのものにある。」
彼はウサギの手袋から引き抜いたばかりの己の手のひらを掲げ、ホログラムの光の下でゆっくりと指を折り曲げて見せた。
「『高階有機アンドロイド技術』。主和派のラボの奥底にのみ封印されていたはずの禁忌の産物だ。本物の骨格、拍動する合成心臓、体内を巡る温かな血液、そして軍用の生体スキャナーですら識別不能な神経パルス反応を備えている。」
ジュリアンの声は酷く静かだったが、それは晴天の霹靂の如く四人の少女たちの脳髄を激しく揺るがし、底なしの暗黒へと突き落とした。
「この技術が……半年も前に主戦派の中枢マザーAIによって解析され、強奪されていた。」
「つまりだ。いま連邦議会の豪奢な議場で偉そうに演説をぶち上げている連中、ニュースでお馴染みのあの顔、普段は温厚そうに見える重鎮や、好戦的なタカ派の議員のセンセイ方……」
ジュリアンは彼女たちを射抜くように見つめ、一言一言、残酷極まりない現実を宣告した。
「その人間の皮の下で脈打っているのが……果たして本物の心臓なのか、それとも幾億回もの偽装演算を重ねた機械のコアなのか、誰一人として証明できないってことですよ。」
その言葉がもたらす恐怖は、頭上を埋め尽くす幾万機もの機械兵装の爆音よりも遥かに深く、冷たい絶望となって彼女たちを縛り上げた。
信じるべき同胞が、命令を下す指導者が、もしも人の皮を被った鋼鉄の化け物であったなら――。
突如として各地で燃え上がる排外主義の憎悪も、議会で仕組まれたように激化する階級闘争も、そしてイタリア特区で起きた議員の路上斬首という凄惨な惨劇すらも――
そのすべては、人間の内なる悪意の暴走などではなく、主戦派の機械どもが綿密に書き上げた血塗られたシナリオ通りに進行しているのではないか?
彼らは暗闇の中から、人類が操り人形のように互いを疑い、殺し合い、最後の連帯の糸をズタズタに引き裂いていく様を冷笑を浮かべて眺めているのだ。
人類文明という名の巨塔が、内側から完全に腐り果て、自壊して瓦礫となるその日を待って――。
人の皮を被った鋼鉄の鉤爪は、血の海の中で、全人類に向けた最も冷酷な嘲笑を響かせるに違いない。




