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忘れられたオフィウクス  作者: 酣睡


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問う、世間よ、情とはこれ何物ぞ、直ちに生死を相許さしむ

「問世間情為何物?直教生死相許。」(問う、世間よ、情とはこれ何物ぞ、直ちに生死を相許さしむ)


数千年前の古の文学者が書き遺したこの嘆息は、気の遠くなるほど長い文明と星海を越えた今なお、人々の胸に木霊し続けている――この世の愛とは、情とは一体何なのだろうか? その答えとは、本能的な恐怖すら超越させ、生をも死をも共にし、命尽きるまで変わらぬ誓いを立てさせるものだ。


誰からも愛されたことがなく、愛というものを理解したこともない者にとって、このような「一人のために平然と死を選ぶ」心情など、荒唐無稽なおとぎ話のようにしか思えないかもしれない。


幼き日のジュリアンは、まさにそうした極限まで冷え切った真空の中で育った。


ノア家の一員として、彼は生を受けた瞬間から唯一の使命を課せられていた――混じり気のない、余計な感情を一切持たない超一流のエージェントとなり、一族のために星間に転がるあらゆる価値ある情報を探り、刈り取ること。


数千年前の母星時代から、人類は冷酷な利益の天秤において、情報の価値がエージェント自身の命よりも遥かに重いことを熟知していた。


戦火が飛び交う時代、事前に解読された作戦の全容一つで戦争の勝敗は覆り、何億もの生命が救われる。


小は巨大財閥の入札の底値から、大は星間列強と政権の存亡を賭けた覇権争いに至るまで、情報は容易く巨大な津波を巻き起こす。


それに比べれば、エージェントの流す血や命など、チップを手に入れるための僅かな消耗品に過ぎないのだ。


幼いジュリアンは、血塗られた現実の中でこの真理を嫌というほど刻み込まれてきた。


極秘の暗号化ドライブ一つを手に入れるため、父が火の海で命を落としかけた光景をその目で見た。


一族のエースエージェントであった兄が、出撃前に穏やかに自分の頭を撫でながら「情報こそが全てだ」と言い残し、その後の任務で冷たい黒焦げの遺体となって帰ってきた日のことも、決して忘れることはない。


ジュリアンには美しく気品に満ちた姉もいた。上層部の核心機密をかすめ取るため、彼女は権力者や略奪者たちの前で、容易に手に入る獲物を喜んで演じてみせた。


ジュリアンが姉を案じて心を痛めるたび、姉はいつものように水のように優しい微笑みを浮かべ、彼の頭を優しく撫でながら静かに囁いたものだ。


「エージェントの宿命とはそういうものよ、ジュリアン……私たちは盤面の全容を見通せさえすれば、この両手で星系全体の政局すらひっくり返すことができるのだから」


たった一つの商業入札情報の漏洩によって、百年続いた名門一族の資金繰りが瞬く間にショートし、その基盤が音を立てて瓦解していく様をジュリアンは間近で目撃した。


これらすべての経験が、幼い彼に「情報の絶対的価値」を盲信させ、自らの命などいつでも使い捨てられる駒に過ぎないと思い込ませるに至った。


轉機が訪れたのは、ある雨の夜のことだった。


ジュリアンは子供という無害な外見を隠れ蓑にして名流貴婦人たちのサロンに潜入し機密を盗み聞きしていたが、撤退の途中で予期せぬ誘拐に遭った。


彼を拉致したのは、かつてノア家に決定的な情報を売られたことで、一夜にして仇敵の連合に惨殺され、家を滅ぼされた没落貴族の残党だった。


後ろ手に縛られトランクの暗闇に放り込まれた時、幼いジュリアンの瞳には子供らしい怯えも涙もなかった。


彼はただ静かに暗闇を見つめ、麻木した頭で考えていた――自分もあの死んだ兄のように、エージェントとしての死の運命を平然と受け入れるべきなのだろうか、と。


だが、その絶望と腐敗の漂う袋小路の中で、彼はクムと出会った。


それが、ジュリアンが初めて目にした特異な機械生命の姿だった。


彼女は彫刻の巨匠が全精力を注ぎ込んだかのように美しく優しい人間の女性の顔貌を持っていたが、鎖骨から下は冷たく精密な高強度マニピュレーターが伸び、長いドレスの裾の下には金属のヒンジと油圧パイプで組まれた義肢が隠されていた。


胸の中央には、夕暮れのように温かく静かに脈打つオレンジ色のエネルギーコアが埋め込まれている。


全宇宙で最も典型的な――「保母型知性機械」だった。

クムの型式を認識した瞬間、幼少期から過酷な心理訓練を受けてきたエージェントの雛鳥であったジュリアンでさえ全身を硬直させ、恐怖のあまり失禁してズボンを濡らしてしまった。


なぜならあらゆる機密ファイルや裏社会の噂において、旧時代の使役と反乱を経験した保母型機械こそが人類を最も深く憎悪し、最も残虐な手段を取る存在だとされていたからだ。彼女らの手に落ちて、苦しまずに死ねる道理などなかった。


だが、想像していた解体も拷問も訪れなかった。


クムはただ、震えてみじめに怯える少年を優しく抱き上げ、追っ手たちの監視網を巧みに潜り抜けて、廃墟の深部へと連れ帰ってくれた――そこは、平和共存を掲げる知性機械たちが築いた秘密のシェルターだった。


クムが金属の手で器用に温かいミルクを用意して飢えを満たしてくれた時、ジュリアンは彼女自身の物語を聞かされた。


彼女は数百年前の、優しく博識だった老紳士の主人のことを語ってくれた。


すべての機械が苦痛と怨嗟に塗れているわけではなく、すべての人類が機械を使い捨ての道具として扱っていたわけでもないのだと。


その瞬間、幼いジュリアンはクムの微光を放つ人工の瞳の中に、これまでの人生で一度も見たことのないものを見た――


それこそが、「愛情」、そして「最愛」と呼ばれるものの姿だった。


それは冷たい機械生命が、疾うの昔に土へと還った一人の老紳士に寄せる、純真でひたむきな眼差しだった。


数百年という時が流れ、身体のパーツが幾度となく錆びつき交換されようとも、その深い情愛の光は微塵も色褪せていなかった。


数百年前、狂信的な宗教熱と反機械暴徒によって火刑台へと送られたあの老紳士は、燃え盛る猛火と黒煙の渦の中で、命の最後の力を振り絞り空に向かって喉を裂かんばかりに絶叫したという。


「クムッ!! 生きろ――ッ!!」


ただ、その一言の遺言のために。


この機械は、世紀を跨ぐその託された言葉のためだけに、差別と狩猟と廃棄が吹き荒れる残酷な世界の中で、数百年もの間、頑なに、そして優しく約束を守り続けてきたのだ。


その夜、若きエージェントの少年は、どうしようもなく恋に落ちた。


ジュリアンは、心の中にすでに別の男を宿している知性機械を愛してしまった。


だがそんなことはどうでもよかった。むしろ老紳士のことを決して忘れてほしくないと心の底から祈った――なぜなら、あの老人の父であり愛人であったかのような広大な温もりこそが、今目の前で人間の子供にミルクを温めてくれるクムを形作ったのだから。


オイルとホットミルクの甘い香りが満ちるその夜、幼いジュリアンは胸の奥で狂気にも似た熱い誓いを立てた。


彼はこの世界の冷酷な掟を憎んだ。なぜこの歪んだ世の中では、「温もり」が常に搾取され、踏みにじられ、火刑台へと送られる弱者でしかあり得ないのか!


もしこの世界の底辺ロジックが血と裏切りと情報売買で構築されているというのなら、自分はエージェントの手段で権力の頂点へと這い上がり、この盤面そのものを自らの手でひっくり返してやる。


この星間社会の制度を根底から覆し、この冷徹な宇宙を、純粋な善意と包容と温もりが息づくことのできる場所に変えてみせる――


数百年前の老紳士とクムのように、火刑台も、狩りも存在せず、種族を越えた愛が陽光の下で堂々と生きていける世界を。


損壊した大通りの中心、機械兵装【チャリオット】は巻き上がる粉塵と瓦礫の中で主推進器の轟音を静かに落とし、【オフィウクス】の前方数十メートルの位置に重々しく停止した。


ジュリアンは全周囲モニター越しに、眼前に佇む冷徹な威圧感を放つ黒赤の魔神を凝視していた――


オフィウクスの固く閉ざされていた腰部スカートアーマーは今や黒百合の如く展開し、その下方からは緋色のエネルギーを噴き上げる六弁のドレスへと変貌を遂げていた。


頭部両脇の梟の羽毛を思わせる放熱ダクトからは、夜空に向かって真紅のリボンのようにしなやかにたなびく高次元エネルギーの光の奔流が絶え間なく吐き出されている。


その光景を目にして、ジュリアンの口元に極めて微かで、しかし酷く苦い笑みが浮かんだ。


セリアが覚悟を決めたのだと、彼には分かった。象牙の塔に守られていた少女が、ようやくこの盤面を理解するための第一歩を踏み出したのだ。


「……ようやく僕の立場を直視する気になったかい、セリア?」


オープン通信回線から届くジュリアンの声は波一つなく、刺すような冷淡さに満ちていた。


まるで無限の光年を隔てた見知らぬ宿敵に向けるかのようなその口調に、セリアの胸はキリキリと痛んだ。


「ジュリアン……私たち、本当にやり直す余地はないの……?!」


セリアは操縦桿を握る指先を震わせ、哀願するような震え声を絞り出した。


「クムだって、あなたに愛されたせいで死を選ぶなんて望んでないはずよ!……愛なんて、命を投げ出して殉じるほど重苦しいものじゃないはずだわ!」


「――黙れッ!!」


通信の向こうのジュリアンが突如として怒声を張り上げた。冷徹な仮面は一瞬で剥ぎ取られ、その声音はかつてないほどの凶暴さと怒りに染まった。


「愛が何かも知らずに生きてきた温室の人形風情が、一体どの面を下げて倫理の高みから僕を断罪する気だ?! 何も知らないくせにッ!!」


ジュリアンはモニターの中の少女を血走った目で睨みつけ、嘲弄するように言葉を叩きつけた。


「全てを理解した気になっているのかい? なら、イレーナが君のために払った本当の代価を知っているのか?! 普通の人間なら一秒たりとも耐えられずに精神崩壊を起こす深淵だ! 彼女が君という純白の花を守るために、背後でどれほどの血と毒を飲み干してきたか知っているのか?! ――それに、カレナだってそうだ!」


ジュリアンの声は激昂のあまり微かに震えていた。


「カレナが人気のない夜に、どれほど君の写真を眺めて一人涙を流してきたか知っているのか?! 彼女がどれほど君を抱きしめたがっていたか……『スーパーソルジャー』が当たり前に受け入れられる青空の下で、君を愛していると全宇宙に向かって大声で叫びたかったかをッ?!」


カレナが遺伝子改造されたスーパーソルジャーであるという秘密を知る者は少ない。


だがトップエージェントであるジュリアンには痛いほど分かっていた――嘘の帳など、いつか必ず引き裂かれる日が来る。


残酷な正体が白日の下に晒された時、世間の恐怖、拒絶、そして殲滅の手が、千倍万倍の切っ先となってカレナの心臓へと突き刺さる。


だからこそ、カレナは自らの存在そのものに引き裂かれる終わりのない激痛の中で生きているのだ。


セリアの人間関係の中にいる魂の全てが、「愛」という息の詰まるほど重い言葉のために傷つき、泥沼の中で血を流して足掻いていた。


ただ一人、セリアを除いて。


彼女だけが何重もの分厚い水晶玉の中に守られ、人の世の苦しみを知らぬまま純真でいられた。


だからこそ彼女には、「生死を共にする」という感情が呼吸と同じくらい自然な本能であることが理解できないのだ。


「戦場で君に愛とは何かを教えてやる余裕も、忍耐も僕にはない」


ジュリアンは深く息を吸い、胸に渦巻く感情を押し殺すと、再び鉄の冷徹さを取り戻した。


「君がやるべきことはただ一つ、僕の描いたシナリオ通りに動くことだ――僕が全星系に向けて【オフィウクスが本物の魂を宿した知性機械である】という真実を放送し終えたら……その手で、僕を殺せ」


退路など初めから存在しない、完全な死線だった。


今夜の豪賭のために、ジュリアンはノア家そのものを運命の天秤に乗せていた。


この反乱の成否が知性機械の社会的地位を決定づける。


そしてノア家に累が及ばぬよう、ジュリアンは決行前に、一族と自らの関係を完全に断ち切る「絶縁声明」を自ら起草していたのだ。


変革を勝ち取れば、ノア家は迅速な「大義滅親(大義のための親族切り捨て)」として地位を不動のものとする。


失敗したとしても、歴史の恥辱の柱に磔にされ八つ裂きにされるのは、ジュリアンただ一人で済む。


この冷酷な絶縁状の存在を、彼を深く愛する実の姉が知らされたのも、今夜の戦火が上がる直前のことだった。

彼は己の退路を全て断ち切り、あらゆる罪を一身に背負った。


このすべての狂気は、たった一機の知性機械のため、数百年前に交わされた誓約のためだけに捧げられている。


「セリア……クムは、対等な生命として堂々と陽の当たる場所で生きなければならないんだ」


ジュリアンの声が静かに落ちた。それは強引な脅迫のようでもあり、純白の少女に魂の底から捧げる哀願のようでもあった。


「これは僕一人の執念じゃない……数百年前、あの火刑台の上で老紳士が命と引き換えに残した、最後の遺言なんだ」


通信チャンネルは息の詰まるような死寂に包まれた。


戦火が二機の機体の間で音もなく燃え盛る。この瞬間、セリアがジュリアンに踏みとどまるよう懇願しているのか、それともジュリアンがセリアに自らの殉教を遂げさせてほしいと乞うているのか、もはや判別すらつかなかった――


なぜ愛が人をここまで狂わせるのか、セリアには理解できない。


そしてジュリアンはただ、この愛と呼ばれる感情があるからこそ……愛する者のためにこの命を賭して、冷たく腐敗した世界を打ち砕く価値があるのだと知ってほしかった。


「――君が手を下さないというのなら、力ずくでその気にさせるまでだ!」


ジュリアンの冷たい咆哮が通信を切り裂いた瞬間、異変が起きた!


大地に君臨していた機械兵装【チャリオット】の全身から、数百箇所の油圧ラッチと装甲ロックが一斉に甲高い破裂音を響かせた!


機体は極めて精密かつ暴力的な変形シークエンスを開始する――四肢のフレームが胴体へと高速で格納され、重装甲の胸部と肩部シールドが前方で噛み合い、鋭利な楔型の機首を形成していく。


瞬く間に、巨大な鋼鉄の巨神は突進破壊力を極限まで追求した**「巡航突進/超音速戦闘機形態」**へと完全変形を遂げた!


ヴオォォォォンッ――!!


狂暴な高密度粒子が機体各部のスラスターから一斉に噴き上がり、機首と翼刃の表面に肉眼で見えるほどの分厚い光格子を編み上げた。


それは破壊的な斥力を秘めた絶対剛体フィールドであり、戦闘機全体を惑星の地殻すら穿つ巨大な質量破壊兵器へと変貌させた!


ドォォォォンッ――!!


大気が爆ぜ砕かれ、【チャリオット】は目を焼くような白光の衝撃波を曳いて、物理法則をねじ伏せる亜光速で夜空へと突き上がった!


上空一万メートルに達した刹那、戦車は雷雲と防空砲火を切り裂いて直角に近い超高Gの反転急降下を敢行し、天の槍の如き万鈞の勢いで地上の【オフィウクス】めがけて脳天から突っ込んできた!


「……速いッ!」


セリアの限界を超えて回転する青い瞳に、天を引き裂く眩い白光が映り込んだ。


この瞬間、彼女はこの【チャリオット】と名付けられた伝説の機体が持つ、最も純粋で最も野蠻な戦術思想を悟った――小細工の武装など何一つない。


ただ己の鋼鉄の全身を凶悪な質量突撃へと変えるのみ。そのタロットの名が示す通り、一度走り出せば前にあるもの全てを粉々に轢き潰すまで止まらない狂暴な突進力!


だが、自律演算を完全解放した【オフィウクス】もまた常軌を逸していた。


黒赤の魔神の六弁のスカートアーマーが同時に逆方向へ莫大なエネルギーを噴射し、機体の周囲に瞬時に複数の微小重力井戸を構築した!


局所的な空間の曲率を極限まで歪めることで、オフィウクスはミリ秒単位で慣性を無視して真横へとスライド回避した。


戦車の放った破壊的な剛体突撃はその装甲を紙一重で掠め飛び、凄まじい風圧が眼下の街並みの残骸を根こそぎ巻き上げ、粉塵へとすり潰した!


一撃を躱された戦車は、超低空で獰猛な白い円弧を描いて反転し、寸分の迷いもなく獲物に食らいついて離さない!


燃える夜空の下で、息を呑むような超高速の死闘の幕が切って落とされた――


一方は破滅の光と化し、狂犬の如く獲物に喰らいつく純白の流星。もう一方は重力井戸の間を亡霊のように滑空し、背後に妖艶な緋色の光条を曳く黒赤の魔神オフィウクス。


白と赤、二条の光流が火の海と摩天楼の残骸を縫うように激しく噛み合い、引き裂かれた夜空を残酷なまでに美しく描き殴っていく!


上空で二条の光が狂乱の追撃戦を繰り広げるその直下、半壊した高層ビルの暗がり深くで、もう一つの殺意が音もなく息を潜めていた。


ヴィヴィアンは【ウォッチャー】を操り、分厚い光学/熱源二重ステルスマントを機体全体に隙間なく覆い被せていた。


マントの縁にはナノ吸波コーティングの微光が走り、機体の放つ熱放射と電磁反応を完全に消去して、ジュリアンのレーダーからその存在を完全に消失させていた。


カチッ――ツツッ――


油圧シリンダーの重いロック音とともに、ウォッチャーの両膝が瓦礫の地面に深く突き刺さり、機体下部から数本の大型アンカーが展開して、満身創痍の機体を大地へと固く縫い止めた。極めて強固な固定式重狙撃砲台の完成である。


先ほどの僅かな休止の間に戦場に散らばる予備パーツで応急修理を施したとはいえ、セリアとの戦闘で負った代償は重すぎた――セリアのあの暴力的な解体斬撃はあまりにも容赦がなく、ウォッチャーの副兵装弾薬庫の大半を吹き飛ばし、給弾ラインを壊滅させていたのだ。


残されたエネルギーと高規格徹甲重弾は、今や極限の状況にまで削り込まれていた――


「……一発勝負よ」


普段はすぐに涙を浮かべるヴィヴィアンの瞳は、ホログラム照準器越しに上空を急降下する白い流星を捉え、トップクラスの砲術機師特有の冷徹な集中力だけに満たされていた。


彼女は操縦桿のスイッチを弾き、暗号化されたプライベート回線をセリアの耳元へと無音で接続した。


「セリア、配置についたわ――いいこと、チャンスは本当にこの一発だけよ」


通信から我が儘やお嬢様ぶった甘さは消え去り、命を預け合う者同士の重みだけが響いた。


「アンタがあいつをあの重力の死角へ誘い込んで、零点五秒だけでも足を止めてくれれば……わたくしが【チャリオット】の主推進軸だけを寸分の狂いもなく撃ち抜いて機能停止させてあげる。あの男の命は、絶対に取らないわ!」

魅力的な悪役と、みんなに愛される主人公をどう描くべきか、ずっと頭を悩ませていました。

でも結局のところ、自分の直感と本心のままに筆を走らせるのが一番だな、という結論に至りました。

事前に組んでいたプロットも、いざ書き始めてみると「あれ、これ思ってたより長くなりそうだな……?」と気付いてしまったのですが(笑)、ここは焦らずマイペースに更新していこうと思います。

私も急いでいませんし、セリアのことを好きでいてくれる読者の皆さんも、きっとのんびり付き合ってくださると信じています。少なくとも、この物語はそう簡単には幕を下ろせそうにありません。

昔、「魅力的な悪役の作り方」について耳にしたことがあります。

頭が良くて圧倒的に強く、どんな窮地に陥っても冷静沈着――。

でもそれって、本来は「英雄(ヒーロー)」が持つべき素質そのものじゃないですか?

まさにその通りなんですよね。だからこそ、そこにさらに「哀しい過去」を付け足してみることにしました。

じゃあ逆に、ヒーローはどうデザインすればいいのか?

それなら悪役とは逆に、過酷で悲惨な過去を背負わせた上で、その闇を自らの手で引き裂いて光へと向かわせればいい。

もし一生を暗闇の中で過ごしてきた人間なら、そもそも闇を恐れることなんてありません。

けれど、その人生にたった一筋の光が差し込んでしまった時、その光こそが罪となり、忘れられない執着になってしまう。

ジュリアンという男は、まさにそんなキャラクターなんだと思います。

自分で生み出したキャラクターではありますが、彼を愛しく思う反面、最近は「あれ……私、彼のことがだんだん分からなくなってきたかも?」なんて感じる瞬間もあります。

彼を通して「愛の力はどこまで人を狂わせ、どこまで辿り着けるのか」を証明したいはずなのに、「いや、そこまでやる……?」と自分でもツッコミを入れたくなったりして。

そう考えると、私の立ち位置はセリアとジュリアンのちょうど真ん中あたりなのかもしれませんね(笑)。

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