強者として振る舞おうと必死なのに、周りは私の百合展開しか見てくれない件
演習場の仮想天幕に覆われた広大なる上空において、深遠なる漆黒と妖艶な桃色が交錯する断裂の閃光が、肉眼では捉えきれぬ極限の鋭角機動を描きながら、ヴィヴィアンの重装防御要塞型機体――ウォッチャーを死角なく包囲していた。
いま、オフィウクスの密閉式コックピットに身を置くセリアは、自らの現状における短所を痛いほど自覚していた。
類稀なる天賦の才と鋭敏な知覚により、彼女は常人を遥かに凌駕する動体視力と戦場洞察力を備えている。
しかし、幾重もの実戦で磨き抜かれた高速近接白刃戦の真の技量という点においては、体系的な訓練を受けていない彼女には、いまだ埋めるべき大きな溝が存在していた。
オフィウクスが生体共鳴率100%以上を維持している限り、高度な戦闘知能を備えた自律コアへと操縦を完全に委ねることが可能である以上――セリアは決して無茶をせず、機体の戦闘機動および回避ルートの制御権を、躊躇なくオフィウクスへと委譲した。
そうして「バックグラウンド待機」状態へと退いたセリアは、全景ホログラムスクリーンの一隅に優雅にサブウィンドウを展開し、目前の対戦相手に関する背景情報を悠然と調べ始めたのである。
指先を軽く滑らせ、シシリス大学と各高等学府が共有する統合データベースへとアクセスする。
このような星間学府の公開プラットフォームには、生徒の基礎プロファイルと公開戦績のみが記録されており、過度な個人情報は厳重に秘匿されていた。
セリア自身のメインページと同様に、そこには清冽な表情を浮かべる証明写真、専用機オフィウクスの公開スペックと武装規格、そして「平民街区の出身を経て、名門エスペル家へと帰還」という簡潔極まりない経歴が記されているに過ぎない。
セリアは検索リンクを辿り、シシリス大学の姉妹校のページを開いた――そこは理論研究の才に乏しいものの、実戦における殺伐と単兵戦術において極端な偏向的才能を持つ者たちを集めた特殊軍学校、【ガイウス戦術大学】であった。
当初はその鉄血と狂熱をもって鳴らす校名を目にし、さらにヴィヴィアンのあの好戦的で凶暴な立ち振る舞いを思い合わせ、セリアも納得がいったように感じていた。
しかし、ヴィヴィアンの学生証の顔写真を開いた瞬間、光幕に表示されたその姿に、セリアは操縦席で思わず呆然と固まってしまった――
画面の中にいたのは、やや乱雑に切り揃えられた桜色のショートヘアを揺らし、まるで小学校を卒業したばかりの幼子のように小柄で、本来ならば純真さに満ちているはずの大きな瞳をレンズの前で恥ずかしそうに伏せている、どこまでも内気で儚げな少女の姿であったのだ。
「……」
セリアは光幕に映る「桃髪ロリ」の写真からゆっくりと視線を外し、メインキャノピー越しに、下方に鎮座して狂乱の火力を撒き散らす鋼鉄の巨獣を見下ろした。
そしてコックピットの中で、人類という種の多様性とギャップの凄まじさに、深い感慨を抱かずにはいられなかった。
写真の中では大声を出すことすら恥じらいそうな可憐な少女が、機甲に乗り込むや否や、実体兵装で他人のコックピットを突き刺すことすら厭わぬ狂暴な戦神へと変貌するなど、一体誰が想像し得ただろうか?
「ドオォォォンッ――!!!」
下方において、中距離へと追い込まれたウォッチャーが、移動弾薬庫の如き壊滅的な威力を爆発させた!
両腕の複合重装甲シールドのラッチが一斉に跳ね上がり、門並ぶ高周波電磁徹甲集束砲が過負荷限界で一斉射撃を開始、逃げ場のない真紅のビーム火網を形成する。
間髪を入れず、両肩の装甲が跳ね上がり、連装の熱源誘導小型対装甲ミサイルポッドから白煙の尾を引く追尾弾が数十発放たれ、四方八方からオフィウクスを包み込むように殺到した!
しかし、制御権を委ねられたオフィウクスは、芸術的とすら称すべき超常の機動を披露した――
暗色の魔神は背部のマルチベクタースラスターから短く精密な桃色の烈火を噴き上げ、慣性力学を完全に無視した鋭角の軌跡を空中に刻みつける。
機体はさながら漆黒の燕のように軽やかにロールし、ミリ単位の紙一重で致命的なビームと徹甲弾頭の群れを置き去りにし、背後に無数の仮想の火球を咲かせた!
思えば、先刻の近接戦において、ヴィヴィアンの戦術的直感は極めて鋭敏であった。
彼女は、純粋な実体刀による重斬撃の前では、オフィウクスのあの大刀による強烈な一撃をあと数度受ければ、自身の複合装甲大盾が完全に叩き割られることを瞬時に見抜いていたのだ。
それゆえに二度目の斬撃を受け止めた刹那、ヴィヴィアンは胸部に秘匿されていた広域熱源妨害スモーク弾を即座に起爆させ、光学センサーとレーダーロックを完全に遮断した
それによって、自律モードへの切り替え前だったセリアの不意を突き、強引に交戦距離を引き離すことに成功したのである。
アスクレピオス・システムを解放していない通常状態のオフィウクスは、重力井戸を歪曲させて空間跳躍的な転移を行うことはできない。
純粋な推進速度は圧倒的であっても、高水準の狙撃手から見れば、その機動軌跡には依然として弾道予測が成り立つ隙が存在していた。
『――貴様、いつまで私を舐め腐っているつもりだぁぁぁっ!!!』
通信チャンネルを通じて、屈辱と逆上によって裂けんばかりとなったヴィヴィアンの絶叫が響き渡る。
黒と桃色が交錯する魔神が、己の全力射撃の弾幕を嘲笑うかのように軽やかに舞い踊り、依然として変身前の通常状態を保ったまま、背中のもう一振りの大刀を抜こうとすらしない姿を見て、ヴィヴィアンは己の尊厳を土足で踏みにじられた激しい憤りに苛まれていた。
しかし、相手の咆哮を耳にしながら、セリアの胸中に去来したのは途方もない無力感だけであった。
彼女には相手を侮る意図など毛頭ない。
ただ……ラグナのような領域のパイロットと死線を潜り抜けてきた彼女からすれば、目の前にいる大学一年生の少女の力は、壊滅的な脅威と呼ぶにはあまりにも程遠かったのだ。
セリアが終始その力を抑え込み、一本の刀のみで立ち回っているのは、決して相手を辱めるためではない――
オフィウクスという機体の本質を、誰よりも理解しているからであった。
この寡黙に見える魔神の自律戦闘コアの深奥には、極めて残虐で血に飢えた闘争本能が渦巻いている。
もし今ここで完全にシステムを解放してしまえば、標的を肉片へと解体する魔神の殺法により……下手をすれば、あの写真に写っていた儚げな桃髪の少女を、機体ごと二度と修復不可能なスクラップへと叩き潰してしまうことになりかねないのだ!
『――本気を出せ! 人を愚弄するのも大概にしろぉぉぉっ!!!』
ヴィヴィアンの狂乱じみた悲鳴とともに、下方のウォッチャーの全身装甲が甲高い変形機械音を軋らせた!
大盾を前面に構えていた重装形態が一瞬にして再構築される――両腕の実体シールドと下半身の両サイドスカートが跳ね上がり、寸分の狂いもなく剛性結合されると、背部から四枚の細長い複合導能装甲プレートが展開し、それらが噛み合って全長十数メートルに及ぶ超長距離重型収束メガキャノンへと組み上がった!
大地に杭を打ち込んだ鋼鉄の砲台と化した機体の砲口の奥底で、壊滅的な高エネルギー粒子電流が狂暴に渦巻き、装甲の表面を銀色の稲妻が激しくスパークする!
セリアの目にも、ヴィヴィアンが先ほどの挑発によって理性の限界を完全に失い、この最大出力の要塞砲をもって、自分ごと演習場の仮想天幕を撃ち抜くつもりであることは明白であった。
だが、その天をも裂くような一撃を前にしても、セリアの瞳には何の波紋も生じなかった。
むしろ――一切の機動力をかなぐり捨て、一点の火力にすべてを賭けた「固定砲台形態」など、超高速機動を誇るオフィウクスにとっては、致命的な急所を自ら晒し出しているに等しかった。
普段は暴力を好まぬセリアであったが、膨大な書物を読み解くことで培われた冷静な思考力と極限の集中力は、この瞬間に遺憾なく発揮された。
彼女が戦局を冷徹に洞察して隙を見出し、オフィウクスが神域の執行力と怪力をもってそれを断つ――この「冷徹な頭脳」と「暴虐の魔神」の奇跡的な補完関係は、一足す一が二を遥かに凌駕する圧倒的な統治力を生み出していた!
「――刀を投擲せよ。」
首筋の生体反応装置が放つ微光の共鳴を通じて、セリアの神経指令が零点零一秒の刹那に機体深層へと刻み込まれた。
その時、ウォッチャーのメガキャノンが変形を終えてから僅か一秒、エネルギーキャパシタの充填ゲージが半分にすら達していなかった――
空中のオフィウクスの右腕関節が爆発的な駆動力を発揮し、筋繊維の如き超伝導束が限界まで張り詰めると、手にした冷徹な光を放つ実体野太刀を漆黒の槍と化し、下方へと狂暴に投げ放った!
ズバァァァンッ――ドォォォンッ!!!
空を裂いて飛翔した大刀は、狂気の運動エネルギーを纏って寸分の狂いもなく、粒子の奔流が放たれる直前の複合要塞砲の根元を貫き、凍土へと深々と縫い止めた!
常軌を逸した先読みと雷霆の如き投擲に、全観覧席の生徒と教官たちから一斉に息を呑むどよめきが上がった!
だが、誰もがセリアが背中の二振目を抜いて追撃を仕掛けると思ったその瞬間――
セリアに刀を抜く気配は一切なかった。
オフィウクス背部のダークマター推進器が鮮烈な桃色の衝撃波を炸裂させ、超重力加速の下で瞬間移動の如き暗色の流光となって、凄まじい風圧を伴いながらウォッチャーの頭上へと降臨した!
急降下したオフィウクスの左手が砲台に突き刺さった野太刀の柄を逆手に掴み取るや否や、腰部関節が強烈に旋回し、突進の慣性をそのまま乗せた円弧の薙ぎ払いを叩き込んだ!
バギィィッ――ガギィィィンッ!!!
背筋の凍るような金属の断裂音と悲鳴が演習場全体を揺るがす!
二枚の大盾と重装スカートが結合していた巨砲の砲身は、オフィウクスの無慈悲な一閃によって、薄いトタン板のように根元から両断され、四散して演習場の泥濘へと転がった!
相手の火力脅威を完全に排除したオフィウクスは、刀身を一瞥することすらなく、漆黒の重装甲に覆われた魔神の巨手を、ウォッチャーの胸元に位置する脆弱なコックピットブロックへと無造作に伸ばした。
鋼鉄の爪が「グシャリ」とハッチの隙間へと食い込み、液圧駆動システムが低く不気味な唸りを上げるや否や――あろうことか全校生徒の目の前で、相手のコックピットを素手で**「力任せに引きずり出す」**暴挙に出たのである!
メインモニターに映し出されるその暴力的な解体劇の特写を見つめながら、操縦席のセリアは痛むこめかみを押さえ、心の底から深いため息を漏らした――
……この機体は、一体誰に似てこんな悪癖を覚えたというのか?
なぜ毎回、最後に行き着く行動が、他人のコックピットを生きたまま引きずり出すことばかりなのだ!
――バシュゥゥゥッ!!!
けたたましい金属の断裂音と高圧エアの噴出白煙とともに、球形の脱出コックピットブロックは、オフィウクスの圧倒的な握力によってウォッチャーの胸部フレームから「根こそぎ」引きちぎられた!
引きちぎられた光ファイバーケーブルが空中で激しく跳ね回り、青白い火花を撒き散らす。
オフィウクスは手首を軽く払うと、中の桃髪の少女が目を回しているであろうコックピットを、どうでもいいボールのように後方の凍土へと無造作に転がした――
そして「人質」の安全が確保されたその瞬間、この眠れる魔神が深層に秘めていた凶悪な加虐性が、ついにその仮面をかなぐり捨てた。
中枢を喪失した【ウォッチャー】は、心臓を抉り取られて地に膝をつく、首のない鋼鉄の骸へと成り果てていた。
オフィウクスの妖しい光を宿したツインアイが怪しく明滅する。
片膝でウォッチャーを凍土の窪地へと力任せに踏みつけると、漆黒の巨腕が、まるで「機械の生体解剖」とでも言うべき残虐な解体劇を開始した!
ドガァァッ――バキィッ!
オフィウクスの右手がウォッチャーの右肩に残るサーボ関節を鷲掴みにし、油圧ポンプの悲鳴とともに、太い右腕を駆動軸ごと胴体から**「生々しく引き裂いた」**!
動脈の破裂のように噴き出す高温の青い合成冷却液が、オフィウクスの冷徹な漆黒の胸部装甲へと飛び散り、生々しい油染みを広げていく。
だが、それは単なる幕開けに過ぎなかった。
引きちぎった腕部を鈍器のように振り下ろして装甲板を粉砕すると、鋭い指先がメスのようにウォッチャーの胸部空洞へと突き刺さり、内部の主エネルギーパイプ、放熱ラジエーター、予備炉心コイルを**「一網打尽に掴み出し、無残に引きちぎった」**!
色とりどりの光ファイバーと合金配管が宙を舞い、引きずり出された鋼鉄の内臓の如く、深坑の周囲へと撒き散らされる。
最後には手だけでは飽き足らず、背部の桃色推進器を短く吹かせて重厚な装甲脚を持ち上げると、ウォッチャーの動力炉の残骸へ向けて――冷酷かつ侮辱的に、何度も、何度も、容赦なく踏み砕いた!
ドスッ! ドスッ! ドスッ! バキィィィッ――!!
莫大な価値を誇る名門の重装甲機甲が、黒煙を吹き上げる歪な鉄屑の山へと変わり果てるまで、オフィウクスは満足げにその破壊を続けた。
そして、食事を終えて口元を拭う冷血な解体人の如く、手首に付着した冷却油を優雅に払い落としてみせたのである。
数十メートル外の凍土に転がされたコックピットの防弾ガラス越しに、ヴィヴィアンはシートに縮こまり、自らの愛機が白日の下で「八つ裂きに解体される」惨劇を呆然と見つめていた。
強気で好戦的だった少女の整った顔からは血の気が完全に引き、紙のように蒼白になり、華奢な身体をガタガタと震わせていた――
もし……もしあの漆黒の魔神に真っ先にコックピットを引きずり出されていなければ……
今あのように生きたまま引き裂かれ、肉片に変えられていたのは……自分自身だったのではないか、と。
そしてオフィウクスのコックピット内では、セリアが額に手を当て、外の凄惨な事件現場のような残骸を見つめながら、再び深くため息をついていた。
「……ただの模擬戦なのだから、少しは手加減をしなさいと言ったでしょうに、オフィウクス」
セリアの胸中には、深い無力感と悲壮感が満ちていた。
彼女は心の中で自らの数奇な運命を呪わずにはいられなかった――なぜ自分の周囲には、ただの一人もまともな人間が存在しないのか?
母イレーナは気に入らぬ者を街灯に吊るす狂人であり、カレナとルネは独占欲に狂った偏執的な猛獣、頼りになるはずの実父エルヴィンすら裏では官能的な悲鳴を上げる変人……そして今や、魂を分かち合った自律思考の専用機オフィウクスまでもが、他機を「解体してコックピットを引き抜く」ことに快感を覚える快楽殺人鬼の如き暴虐者なのだ!
ただ平穏に生きたいだけの唯一の常識人である自分は、一体どこへ向かえばいいというのか?
セリアは深く息を吸い込み、乱れた心を無理やり現実へと引き戻した。
一面に散らばる残骸を見つめ、先ほどのオフィウクスの凶悪な「解体デモンストレーション」が、威嚇としてすでに致死量を越えていることを悟った。
セリアは機体の完全な主操縦権を取り戻した。彼女の操作に従い、漆黒の魔神は優雅かつ緩慢に振り返り、妖しい光を宿すツインアイで、破損した脱出ポッドから這い出して腰を抜かしているヴィヴィアンを冷徹に見下ろした。
機外スピーカーを通じて、セリアは普段の柔らかさを完全に消し去り、冷ややかな声音を静まり返った演習場の上空へと響かせた。
「――今回は警告に留めておきます。エスペルに仇なす者の末路を、その身に刻みなさい」
セリアがこのような傲慢な仮面を被ったのは、平民街区で育った普通の少女が、突如として最高峰の星間世家の継承者へと登りつめたことに対し、同年代の貴族たちから不服や反発が噴出することを警戒していたからである。
自身と家への無用な火種を未然に摘み取るため、彼女はエスペル家の至高の令嬢としての冷徹な手腕と威圧を示さねばならなかったのだ。
しかし……
セリアは、この星間貴族たちの奇妙極まりない思考回路を完全に見誤っていた。
事実として、その場にいた者はおろか、星網の生中継を見届けていた特権階級の子弟たちの中に、彼女のエスペル復帰の正当性を疑う者など誰一人としておらず、その地位を妬む愚者など皆無であった――
彼らが裏で真に熱狂し、血眼になって注視していた焦点は、最初から最後までただ一つしかなかったのだ。
類稀なる美貌と儚げな気品、そして狂暴な戦闘力を兼ね備えたこの白髪の令嬢は、果たしていつ、いかなる美女によって完全に「攻略」され、屈服させられるのか?!
三大世家の令嬢たちの社交界においては、腹黒い名門の娘たちがすでに情報網を総動員し、セリアの食の好みや香水の系統、日々の行動パターンを徹底的に洗練させ、この苛烈なる「セリア争奪戦」へと名乗りを上げようと虎視眈々と狙っていた。
正当性などどうでもいい。誰もが待ち望んでいたのは、あの気高き令嬢が強烈な女の腕の中で堕ち、羞恥に染まるその瞬間であった。
何よりも滑稽だったのは……全星域の観衆が「セリアは百パーセント女性しか愛せない」と疑いもなく信じ込んでおり、彼女が「男性を愛する可能性」などという選択肢を、完全に忘却の彼方へと置き去りにしていたことであった。




