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忘れられたオフィウクス  作者: 酣睡


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街灯に揺れる生存本能と、響き渡る愛の鞭

シシリス大学へと通じる必経の道の傍らで、セリアは講義の前に少し足を止め、教室で口にするためのお菓子でも買い求めようと考えていた。


しかし、ルネを連れて賑やかな市街地の通りへと足を踏み入れた瞬間、彼女たちの視界に飛び込んできたのは、巨大なホログラムニュース光幕にトップニュースとして実況中継されている、全星域を震撼せしめる奇観であった――


連邦の名だたる星間財閥において権勢を誇り、誰もが知る錚々たる当主や名門の族長たちが数十人も、あろうことか揃いも揃って尊厳をかなぐり捨て、太い麻縄で市街中央大通りの街灯に簀巻きにされて縛り付けられ、無数の一般市民たちが目を丸くして見上げる白日の下で公開処刑のように晒されていたのだ!


画面の中で、普段は傲岸不遜な大物たちが風に煽られてガタガタと震え、この世の終わりと言わんばかりの絶望を顔に張り付かせているその惨状を目の当たりにし、セリアの口元は微かに引き攣った。そして瞬時にすべてを察した――


……これは間違いなく、昨日自分がやらかしてしまった事態が引き起こした連鎖的な大災厄である、と。


時間は昨日の夕刻、エスペル本邸のあの豪奢極まりない執務室へと巻き戻る。


セリアがついに心の防壁を解き、自らイレーナの胸へと飛び込んだ瞬間、生涯を冷徹な殺伐の中で生きてきた最高女当主は、失われた我が子を取り戻した途方もない幸福感の前に完全に酔いしれていた。


常に鉄血の冷酷さをもって知られるイレーナが、愛娘を抱きしめた瞬間に堰を切ったように涙を流し、言葉を詰まらせて嗚咽するその姿――二十年の歳月を越えて結実したその深遠なる母の愛は、通信会議のモニター越しに見守っていたすべての当主たちの魂を激しく揺さぶった。


静寂が支配する空気の中、ある当主がこの奇跡のような温情の光景に深く心を打たれ、思わず自発的に手を打ち鳴らして拍手を送ってしまったのだ。


彼にとってみれば、母娘の長きにわたる氷解の瞬間はあまりにも美しく神聖で、記録映像として永久保存し、あの氷山のような女魔頭が溶けた貴重な姿を幾度も噛みしめる価値があると思えたのだ。


しかし、そのたった一つの乾いた拍手の音こそが、ドミノ倒しの最初の一個を倒す引き金となってしまった。


モニターの向こうで長年にわたり政財界の修羅場を潜り抜けてきた古狐たちは瞬時に我を取り戻し、争うようにそれぞれの王座から立ち上がると、我先にと割れんばかりの拍手を送り始めたのである!


『おめでとうございます、エスペル奥様! この母娘の深き情愛、誠に感無量でございます!』


『左様でございますとも! まさに全星域を挙げて祝うべきこの上なき慶事ですな!』


当主たちは手のひらを真っ赤に腫らすほど必死に拍手喝采を送りながら、内心では抜け目なく計算を巡らせていた――この千載一遇の好機を逃さずイレーナの機嫌を取っておくことは、各々の家の権益にとって百利あって一害なしである。


何よりも、もしセリアがこの女魔頭の心を溶かす良薬となり、イレーナが母親としての柔らかな精神状態を保ち続けてくれるならば、今後のあらゆる星間貿易や利権交渉において、エスペル家の冷酷な手腕がほんの僅かでも軟化してくれるかもしれないのだ。


これほどの好機に媚を売らずして、いつ売るというのか?


だが……名門の夜会での作法に慣れきっていた権力者たちは、夢にも思っていなかった。その山鳴りの如き熱烈な拍手と賛美の歓声が、立体音響システムを通じて静まり返った執務室の中に轟然と響き渡った瞬間、温もりに浸っていたセリアを唐突に現実へと引き戻してしまったということを。


少女の全身は瞬時に凍りついたように硬直した。そして、遅まきながら思い出したのだ――先ほどまで、母が極めて厳粛な最高首脳陣による閉門会議を開いていた最中であったという事実を。


セリアは錆びついたゼンマイ仕掛けの人形のように、ぎこちなく少しずつ首を巡らせた。そしてその澄み渡る蒼の瞳は、ホログラム光幕の向こうに並ぶ数十名もの連邦の巨頭たちが一斉に向けてくる、ギラギラとした熱烈な視線と真正面から衝突してしまったのだ。


『おお! お嬢様のそのお顔立ち、若い頃のエスペル奥様に瓜二つではありませんか!』


『全くだ! まさに国を傾けるほどの美少女であらせられる!』


当主たちがセリアの類稀なる美貌に興奮冷めやらぬ様子で感嘆の声を上げ続ける中、数十人もの星域の巨頭たちと無数の側近秘書たちの注視の的となる中で、公然と「自ら胸に飛び込んで抱擁をせがむ」という極限の甘えを晒してしまったという途方もない羞恥心が、超新星爆発の如き勢いでセリアの脳内で炸裂した!


「――きゃああああああっ!!!」


怯えた仔猫のような甲高く短い悲鳴を上げ、顔面を真っ赤に染め上げて湯気を噴き出さんばかりになったセリアは、イレーナの温かな抱擁を力任せに突き飛ばした!


もはやモニターの向こうを一瞥する勇気すら残っておらず、両手で火照る顔面をきつく覆い隠すと、吹き荒れる突風のように足をもつれさせながら執務室から逃げ出してしまったのだ。


「バタンッ。」


執務室の重厚な扉が無情な音を立てて閉ざされると同時に、通信会議の場は完全なる死の静寂へと沈んだ。


その一刹那、先ほどまで満面の笑みで媚を売っていた当主たち全員の心臓が激しく跳ね上がり、冷汗が一瞬にして背中の正装をびっしょりと濡らした――


彼らはこの期に及んで、致命的な事実を思い知らされたのだ!


名門貴族の家庭で育った令嬢や御曹司であれば、衆目を集めることにも賛美を浴びることにも慣れきっており、このようなあからさまな賞賛や囃し立てを当然の栄誉として受け止める自信を持ち合わせている。


しかし、セリアは断じてそのような環境で育った娘ではない! 彼女は市井の平民街区で、あのいい加減な父親エルヴィンの手によって育てられた普通の少女であり、生まれつき内気で人見知りなのだ。


そんな彼女が、権勢を誇る数十人もの見知らぬ中年男女に囲まれ、公衆の面前で公開処刑のように弄り倒される状況に耐えられるはずなどなかったのだ!


……完全に終わった。


その絶望的な予感が、極寒の絶対零度の冷気となって、すべての当主たちの脳裏を一斉に駆け巡った。


モニターの向こう側、胸の中にあった温もりを突如として奪われたイレーナは、両腕を宙に浮かせたまま硬直していた。


二十年ぶりに溶けかけた女当主の極限の優しさは瞬く間に霧散し、その深い蒼の双眸からは一切の光が失われ、万物を呑み干す底知れぬ漆黒の深淵へと変貌を遂げていた。


彼女は物言わぬ死神の如く、極めて緩慢に、恐ろしいほどの静けさで顔を上げると、空間そのものを凍結させんばかりの濃密な殺意を、画面の向こうにいる身の程知らずな元凶たちへと正確にロックオンした。


魂すらも凍てつかせるその絶対的な威圧感を前に、当主たちは息をすることすら忘れて硬直した。


もはやイレーナが口頭で断罪を下すまでもなく、生存本能を極限まで研ぎ澄ませた数名の当主たちは、カメラの前で顔面を蒼白に染め、傍らの特務秘書に向かって早口で怒号を飛ばし始めていた。


『早くしろ! 直ちに頑丈な太い麻縄を用意するのだ!!』


『今すぐ中央大通りの街灯を空けろ! 自分で自分を吊るしに行く!!』


何しろ、この女魔頭の苛烈な手腕を知り尽くしている権力者たちにとって、イレーナ自らが手を下しに来る前に、一族の重鎮を引き連れて自ら街灯に縛り首となって謝罪の意を示すことこそが、命を拾い、受ける苦痛を最小限に抑える唯一の生存戦略であったからだ!


……


ホログラムニュースの画面で、風に吹かれて頼りなく揺れる見知った顔ぶれを見上げながら、セリアはこの世のすべてを諦めたように深々と頭を垂れ、重いため息を吐き出した。


ほんの一時の恥ずかしさから逃げ出しただけの行為が、巡り巡って人類連邦の最高支配層全体を自発的な街灯吊るしへと追い込んでしまうなど、彼女自身、夢にも思っていなかったのだ。


「おはようございます、お嬢様。朝早くから随分と刺激的で目の覚めるような星間トップニュースをご鑑賞ですね?」


聞き覚えのある戯れの混ざった軽妙な声が、不意にセリアの背後から響いた。


セリアが勢いよく振り返ると、そこには両手をトレンチコートのポケットに突っ込み、人を食ったような爽やかな笑みを浮かべるジュリアンと、その隣で水も滴るような柔らかな微笑みを湛えたカレナが佇んでいた。


セリアが昨日の赤面から立ち直る間もなく、カレナは優雅かつ淀みのない足取りで歩み寄るや否や、自然に両腕を広げ、淡い幽香を纏うその胸の中へとセリアをしっかりと抱きしめた。


「……んっ!」


その唐突な親愛の情動に、傍らにいたルネは尻尾を踏まれた猛獣のように即座に毛を逆立て、翠の瞳をカレナに向けて激しく睨みつけながら、喉の奥で威嚇するように低く歯軋りを鳴らした。


しかしカレナは苛立つ小さな猛獣を完全に無視し、愛おしげにセリアの艶やかな銀髪を優しく撫で、その頭頂部に顎を預けながら、心の底からの称賛を囁いた。


「セリア、本当に偉かったわ……二十年もの長きにわたる心の澱を乗り越えて、かつて自分を突き放した母親を許す道を選ぶなんて。昨日のあなたは、誰よりも強くて勇敢だったわ」


カレナの惜しみない賛辞を耳にした瞬間、セリアの身体は微かに強張り、奇妙極まりない違和感が胸の内に湧き上がった。


待ってほしい……。


昨日の自分は確かに大勢の前で醜態を晒したが、あの通信会議は連邦の最中枢に位置する権力者たちだけが集う最高機密の閉門会議だったはずではないか?


なぜカレナが、昨日の執務室で起きた出来事の一部始終をそこまで詳細に知っているというのか?!


「……カレナ、どうしてあなたが昨日の執務室での出来事を知っているの?」


セリアは胸の中に疑問を溜め込むことを良しとせず、澄んだ青の瞳を持ち上げて率直に問いかけた。


しかし、セリア自身が思いもよらなかったことに、その至極真っ当な疑問に対する答えは、彼女を地面に大穴を掘って逃げ込みたくなるほどの羞恥の底へと突き落とすことになったのである!


カレナは何食わぬ顔で、その白くしなやかな指先をすっと持ち上げると、市街地上空に広がる遮光性の超大型実体レスホログラム光幕を指し示し、極めて平然とした口調で告げたのだ。


「セリア、見えなくて? 中央大通りのど真ん中にある二本の街灯に仲良く吊るされているの……私の父と、ジュリアンの父親ではなくて?」


「……」


セリアはその場に完全に石化し、脳内が再び真っ白に染まり、今すぐ消滅してしまいたい衝動に駆られた!


自分がただ一時的な羞恥心に耐えかねて母を突き飛ばして逃げた結果……その凄まじい余波によって、目の前にいる御曹司と令嬢の実の父親までもが、イレーナの怒りを鎮めるために自ら街灯に吊るされる羽目になっていたとは!


セリアは申し訳なさで胸を痛めながらカレナが指差す先を見上げた。


ホログラムの拡大映像の中では、イエラン家の現当主が十数メートルの高さの街灯に太い麻縄でぐるぐる巻きにされ、上空の気流に吹かれててるてる坊主のように左右に揺れていた。


しかし、常に鉄血と冷徹をもって鳴らしたあのイエラン家当主が無様に風に弄ばれている姿を見つめているうち、セリアの脳裏に、少し前にカレナを冷酷に追い詰め、反乱を起こすよう強要して破滅の淵へと突き落とそうとしたあの男の非道な行状が鮮明に蘇ってきた。


そう思い至った瞬間、セリアの胸の内にあった微かな罪悪感は綺麗さっぱり霧散した。


少女は同情の光を瞳から消し去り、心の中で冷ややかに鼻を鳴らした――


一族の利益ばかりを優先し、実の娘すら政治の駒として平然と使い捨てるような冷血漢など……頭を冷やすためにも、あと数日はあの場所で風に吹かれていればいいのだ、と!


セリアが「あの冷酷な父親たちなら少し晒し者になっていた方が世のためかもしれない」と内心で毒づいていたその時、ジュリアンが何気なく口にした問いかけが、彼女を短時間の現実逃避から過酷な現実へと引き戻した。


「そういえばお嬢様、本日の対校模擬戦には出撃なさるのでしょう? 先ほど名簿にお名前があるのをお見かけしましたが……オフィウクスはすでに本邸から大学の格納庫へと移送されているのですか?」


「……えっ?」


唐突に突きつけられた疑問に、セリアの身体がピシリと固まった。


彼女は慌てて個人端末を操作し、教務通知の画面を開いた。そして、未読ボックスの片隅に埋もれていた緊急の赤色通知の存在に、今になってようやく気づいたのだ――


総合教養学科から出場予定だった生徒が突発的な高熱で倒れ、大学側は止むを得ず、全校に名を轟かせた彼女を第一補欠に繰り上げ、他校のエリートたちを迎え撃つ代表として選出していたのである!


その報せはあまりにも唐突で、セリアを激しい狼狽へと突き落とした。


シシリス大学の厳格な規約において、対校模擬戦は各学科を独立した単位として戦うことになっている。


セリアが所属する「総合教養学科」は、カレナの「指揮戦略系」、ルネの「実機操縦専科」、そしてジュリアンの「情報分析系」とは完全に体系が異なっていた。


つまり、傍らにいる三人のエースたちがどれほど彼女を庇おうと望んだところで、ルール上、代理として出撃することは絶対に不可能なのだ!


すべては昨日のあの赤面劇のせいで頭の中が掻き回され、時間割の確認すら完全に失念していたせいだった。


さらに致命的なことに、彼女は今、オフィウクスの機体メンテナンスや神経同調の調整がどこまで完了しているのかを全く把握していなかった。


極度の混乱の中、セリアは微かな一縷の望みに賭け、あの頼りにならない父親エルヴィンへと緊急メッセージを送信し、オフィウクスが今まさに万全の出撃態勢にあることを祈るしかなかった。


もっとも……あの男が今、地下格納庫で汗を流して機体と向き合っているのか、それとも本邸のどこかでイレーナに捕まり、いわゆる「人生と理想」について語り合わされているのか、セリアには知る由もなかったが。


エスペル邸に戻って以来、セリアの鋭い嗅覚は、イレーナの身に纏う高価なオートクチュールドレスから、微かな冷却液と潤滑油の匂いを捉えることがしばしばあった――それは、重機甲の格納庫に入り浸っているエルヴィンだけが放つ特有の匂いであり、ここ最近はその頻度が目に見えて増していた。


イレーナの身体に残る自傷や加害の痕跡が次第に薄れ、新たな傷が増えなくなっていることからも、エルヴィンが彼なりの不器用で頑ななやり方で、イレーナの歪んだ支配欲を正し、真の愛の表現を必死に教え込もうとしていることは明白であった。


惜しむらくは、精神の平衡を疾うに失っているイレーナが、その教えをどれほど聞き入れているかはなはだ怪しいという点であったが。この頭の痛い女を相手に、あの飄々とした機甲整備狂の父親も、裏では並々ならぬ気苦労を重ねているに違いなかった。


しかし模擬戦の開始時刻は刻一刻と迫っており、メッセージの返信を待っている猶予などない。焦燥に駆られたセリアは通話ボタンを直接タップした――直接エルヴィンと話して機体の状態を確かめるのが、最も確実で迅速な手段だからだ。


だが、通信が繋がった刹那、光幕の向こうから響いてきたのは、父親のあの野太く気だるげな声などでは断じてなかった。それは、妖艶にして気高く、極限の溺愛と危険な気配を孕んだ、聞き紛れもない女の声であった――


「……私の一番愛しい可愛い娘かしら? どうしたの、何か助けが必要なのに……真っ先にママを頼ってくれないなんて、どういうことかしら?」


その声が耳朶を打った瞬間、セリアは全身を石のように硬直させ、隣にいたルネに至っては信じ難いものを見るようにその翠の瞳を見開いた!


ルネの頭の中で警報がけたたましく鳴り響いた――今は真っ当な勤務時間中であるはずなのに、エルヴィンのあの不届き者は、白昼堂々と本邸に潜り込んで自分たちの気まぐれな母親と良からぬ破廉恥に及んでいるというのか?!


しかしセリアには事態に囚われている余裕などなかった。通信の向こうから漂う窒息しそうな威圧感に耐えながら、彼女は切羽詰まった現状を一息に捲し立てた。


「マ、ママ……今日、急に対校模擬戦に出場することになってしまって……でも、オフィウクスの調整状態が出撃可能なのか分からないから、お父さんに確認したくて……」


セリアの慌てふためいた弁明を聞き終えたイレーナは、怒るどころか、骨の髄まで凍りつくような優雅で低やかな忍び笑いを漏らした。


「ふふっ……聞こえたかしら? 私たちの最も愛らしいセリアが、今日模擬戦に出るそうよ……父親であるあなたから、何か申し伝えることはあるかしら?」


言葉が途切れた瞬間、通信の背景から何の前触れもなく、空気を鋭く引き裂いて肉を打つ凄まじい破裂音が炸裂した――


「パァァァンッ――!!!」


直後、エルヴィンの腹の底から絞り出されたような、筆舌に尽くしがたい激痛と何故か奇妙な陶酔の入り混じった凄絶な絶叫が、立体スピーカーを通じて響き渡ったのだ!


「オ゛ホ゛ォォォォォッッ――!!!」


唐突に響いた鞭の唸りと父親の官能的な悲鳴は、寸分の狂いもなくその場にいた全員の耳へと突き刺さった。


一瞬にして、先ほどまで騒がしかった通りは鳥肌が立つような静寂に包まれた。


その場にいた四人の表情は、一秒の間に目まぐるしく変化した――セリアは顔を真っ赤にして固まり、今すぐ端末を叩き壊したい衝動に駆られ、ルネは怒りのあまりギリリと歯を噛み締め、カレナの優雅な微笑みは完全に凍りついた。


そして、常に冷静沈着を誇る特務の御曹司ジュリアンですら、頬を引き攣らせて何とも言い難い奇妙な表情を浮かべていた。


イレーナという女魔頭の恐ろしさは誰よりも熟知している――あの御仁の機嫌を損ねれば、今まさに街灯で揺れている自らの父親がその最たる見本なのだから。


しかし同時に、四人の若者たちの胸中には、触れてはならないと知りつつも抑えきれない強烈な衝撃と困惑が渦巻いていた――


真昼間から……なぜ通信越しに鞭の音が響いてくるのか?!


エルヴィンは本邸の深奥で、一体イレーナとどのような恐ろしい「やり取り」を繰り広げているというのか?!


最高学府に通う大学生であるとはいえ、常識の範疇を遥かに超越した刺激的で荒唐無稽な大人の世界を前にして、恋愛においてはいまだ青臭さを残す少年少女たちの頭脳は、完全にフリーズせざるを得なかったのである。

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