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忘れられたオフィウクス  作者: 酣睡


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鏡像の双眸と、報われぬ愛への渇望

カレナ先輩のしなやかで優美な後姿に続いて訓練場へ足を踏み入れたとき、セリアが真っ先に目にしたのは、先ほど大勢の前で自分を怒鳴りつけたデイン教官であった。


デイン教官は相変わらず厳めしく冷酷な表情を崩していなかったが、細かく観察してみれば、微かに赤くなった耳たぶから、その鉄面皮な教官が今まさに極度の気まずさと緊張の中にいることが見て取れた。


実のところ、場にいた上級生の数人や教官たちは、セリアの抱える奇妙な状態について薄々察していたのだ。普段彼らが時折セリアを冷やかしたりするのは、決して悪意からではなく、ただ単にこの銀髪の少女が可愛らしくてたまらないからに過ぎない。何十トンもの重量を誇る巨大人型兵器を、まるでサーカスの舞台で喜劇でも演じているかのように動かしてみせる——そんな「極芸」をやってのけられる者など、世界広しといえどセリア一人しか存在しないのだから。


もっとも、こんな功利主義的な社会において、話題の渦中にいる美少女と進んで親しくなろうとする一般生徒など存在しなかった。変な噂を立てられるのを恐れてのことである。……しかし実際のところ、メカスタンを真に理解している専門家やトップパイロットたちの間で、セリアを心から見下す者など一人もいなかったのだ。


その頃、セリアはすでに整備台の上に佇む、金属質のグレーの輝きを放つ練習用メカスタンへと登り込んでいた。操縦席に腰掛け、専用の革手袋を丁寧に装着していく。


特筆すべきは、彼女が今、重苦しく無骨な耐G限界スーツを着用していないという点であろう。身に纏っているのは、普段着ている柔らかく快適な私服の運動着だけであった。というのも、登機する直前、カレナ先輩が少しだけ腰をかがめ、「優しく致しますから、パイロットスーツをお召しにならなくても大丈夫ですわよ」と春風のように温かい声で囁いてくれたからだ。セリアは胸をときめかせ、顔を赤らめながら、そのままコクピットへと乗り込んだのである。


「あの子は……本当に、生まれてくる時代を間違えたな」


訓練場の端にある観客席の上から、デイン教官は金属グレーの練習機を見下ろし、遠い目をして複雑な嘆息を漏らした。


「あと数百年遅く生まれて、技術が彼女の領域に追いついてさえいれば……間違いなく人類の頂点に立つパイロットになっていただろうに」


傍らに立っていた他のベテラン教官たちも、黙って深く頷き、その瞳に同等の深い情けと惜しむ色を浮かべた。


現代のメカスタンは、制御システム内のサポートAIだけに頼っているわけではない。その中核をなす技術こそが、「生体反応システム」であった。パイロットは搭乗前、細いスカーフのような特殊感應装置を首元に優しく巻き付け、先端にある繊細な金属ボタンを留めるだけでセットが完了する。


このスカーフが、人間の脳波から放たれる神経信号をリアルタイムで検知し、巨大な鋼鉄の機体に相応の敏捷な動きを行わせるのだ。しかし、パイロットはこのシステムに過度に依存してはならない。一瞬の油断が命取りとなる局面で、大脳の指令と実際の操縦レバーの入力に食い違いが生じれば、機体のコンピュータは一瞬にして論理混乱に陥ってしまう。


そしてこれこそが、すべての優秀な教官やカレナのような強者が、セリアの致命的な問題を一目で見抜けた理由であった。


——この銀髪の少女の反応速度は、あまりにも恐ろしい領域に達していたのだ。


セリアの反射神経と大脳の演算速度は、現在この時代に存在するすべての脳波感應装置の限界を遥かに超越していた。言い換えれば、彼女が操縦席に座っているとき、過剰に活性化した大脳はミリ秒の単位で怒濤のような情報量を一気に吐き出してしまう。落後した生体装置はその情報量を処理しきれず、結果としてメカスタンの受信部を極度の混乱状態へと陥れてしまうのだ。


サポートAIの基本プログラムは、機体が過剰な情報によってバランスを崩し倒れるのを防ぐため、強制的な緊急補正を繰り返し、どうにか機体を立たせようとする。だからこそ、第三者の目には、セリアが機体を動かした瞬間に鋼鉄の巨人がフラフラと揺れ動き、千鳥足となって、まともに直進することすらできない悲惨な姿として映るのであった。


ちなみにデイン教官だが……彼自身、胸の底ではセリアの才能を心から惜しみ、感嘆していたものの、先ほど激昂して大声で怒鳴りつけてしまったのは別の理由があった。少し前、セリアがフラフラとメカスタンを訓練場の外へ歩ませた際、その巨大な金属の足が、実に精密かつ絶妙な角度で、デイン教官がローンを組んで購入したばかりのピカピカの新車をペシャンコの鉄くずに踏み潰してしまったからである。


この「大惨事」により、セリアの伝説(笑い話)にまた濃厚な一筆が加わることとなった。デイン教官が怒り狂ったのも当然で、訓練場を出そうになっていることに気づいたのなら、なぜすぐに操作を止めなかったのか。頭を空にして両手をレバーから離せば機体は自動でブレーキがかかる——それくらい、パイロットにとって初歩中の初歩の常識操作なのだから!


「セリアさん、準備はよろしくて?」


カレナの優しく磁性のある声が、微かな電波の質感とともに、通信チャンネルから柔らかく響いてきた。その語調には、隠しきれない深い慈しみと心配が込められている。


カレナはよく分かっていた。今日、この可憐な後輩に過剰な大脳神経波のコントロール方法を教え込まなければ、将来万が一知能ロボットとの武装衝突に巻き込まれた際、セリアは己の身を守る術すら持てなくなってしまうのだと。


操縦席の中、セリアは全域感知のモニター越しに、特製の練習用長剣を構えた対面のメカスタンを見つめていた。その機体のどこか丸っこく重苦しい水桶のような胴体と、短く太い機械の脚を目にして、セリアは思わず思考を逸らし、どうして軍事企業は練習機を設計するときにいつもこんなコロコロとした奇妙な形にするのだろう、と呑気に疑問を抱いていた。


しかし、彼女が操縦レバーを押し込んで一歩踏み出そうとした瞬間、金属グレーの機体は案の定、激しく横揺れを始め、大酔っ払いの巨人のように千鳥足で傾いでしまった。


この制御不能の混乱感は、セリアにとってすでに日常茶飯事であった。結局のところ、自分でも自分の問題は嫌というほど分かっているのだ。だからこそ、先ほども中庭のベンチで落ち込んで丸くなっていたのである。……そういえば、デイン教官の踏み潰してしまった新車、まだローンが残っていたみたいだし、すごく高かったんだろうな……。


セリアが焦って呼吸を整え、機体の異常な揺れを抑え込もうと悪戦苦闘していたその時、突如として観客席の高所に設置されたスピーカーから、突き刺さるような嘲笑が響き渡った。


「あらあら〜? これってうちの学院のサーカス団の大スターじゃないの? 今日もそんなに熱心に喜劇の練習をしてらっしゃるのねぇ?」


その棘のある言葉が落ちると同時に、観客席からはどっと大きな笑い声が巻き起こった。


セリアの華奢な身体が微かに強張る。この声には、嫌というほど聞き覚えがあった。


声を上げていたのはルネ・エスペル。彼女の腹違いの、一歳年下の妹であった。


セリアは生後まもなくして大脳の神経波が異常なほど強烈であったため、その影響で今なお赤ん坊の頃の記憶を鮮明に保持していた。彼女の記憶の奥底には、母であるエレナ・エスペルが自分を優しく抱きかかえながら、かつての思い出を囁くように語りかけていた声が残っている。


ずっと昔、セリアの父であるエルウィンとエレナは、まるでおとぎ話のように甘く情熱的な恋に落ちた。しかし、セリアを生んでまもなく、エレナは突如として起きた謎の事故によって記憶を完全に失い、そのまま冷酷に幼い娘と夫のもとを去っていってしまったのだ。


成長したセリアは、勇気を振り絞って母と名乗り出ようとしたことがあった。しかしエレナの態度があまりにも冷淡で頑なだったため——彼女は本当に、自分がセリアという娘を生んだことすら覚えていないようだった。


後にセリアが知ったところによれば、彼女が生まれて一年あまりの後、母は家柄の顕著な貴族のもとへ嫁ぎ、一歳下の妹であるルネを生んだのだという。よく考えれば、母は実家を飛び出した後、ほとんど間を置かずに名門貴族と結婚したことになる。つまり当時、エレナは実家の重圧を背負いながら、未婚のまま自分を生み落としたのだ。


エレナは直視することすら憚られるほどの高貴な名門の出身であったため、当時、貴族の令嬢であった彼女と平民のエルウィンとの恋は、当然ながら一族からの凄まじい反対と妨害に遭った。


なにせ、セリアの父であるエルウィンは、当時はただの地位の低い平民の機械技師に過ぎなかったのだ。いくら彼がメカスタンの改造や整備において類稀なる天才的な才能を持ち、国家の次世代機秘密開発プロジェクトに度々招かれていたとはいえ、富豪の令嬢と貧しい青年の物語など、所詮は虚構の絵本の中にしか存在し得ない。


父エルウィンが当時、母の乗った黒い高級車が無情に走り去るのを静かに見送っていた、あの深遠で諦めを含んだ表情を思い返せば、父がとっくにその苦しい過去を吹っ切っていたのだとセリアには分かっていた。


それ以来、あのつつましい小さな家には、彼女と父の二人だけが残された。エルウィンは開発の仕事で連日深夜まで帰れないことが多かったが、セリアは父の疲れた、けれど温かい笑顔から、いつでも溢れんばかりの父性を感じ取っていたのだった。


結局のところ……自分はただ、決して手に入らない、鏡花水月のような「母の愛」を惨めにも追い求めていただけなのだ。


「セリアさん、大丈夫ですか……?」


カレナの案じる声が、柔らかい電波の音とともに通信機器から流れてきた。カレナはよく分かっていた。今、セリアの心がルネの刺々しい嘲笑によって深く傷ついているということを。


セリアの過去に思いを馳せると、カレナの胸には痛烈な愛おしさと切なさがこみ上げてくるのだった。


かつてセリアは、現役の正規軍における「最も反応速度が速い」強襲用特化型の専用機に、秘密裏に試乗させられたことがあった。しかし、誰もが息を呑み、期待を寄せる驚愕の視線の中で、その軍用王牌機体はセリアの操縦のもと、やはりフラフラと千鳥足の酔っ払いダンスを踊ってみせたのだった。


この時代を超越した神経反応速度は、果たして天から与えられた祝福なのか、それとも逃れられぬ呪いなのか。


そして父エルウィンがこれほどまでに昼夜を問わず駆け回り、生涯の力を注ぎ込んで次世代機の開発に没頭しているのも、その最大の執念は「娘の抱える難題を根本から解決したい」という一心からであった。セリアが世間から笑いものにされる程度ならまだいい。しかし将来、本当に悲惨な機械衝突が勃発した際、メカスタンを操縦して身を守ることすらできないという致命的な危険こそ、父としてエルウィンが最も恐れる悪夢だったのだ。


「私……大丈夫です、カレナ先輩」


練習用のメカスタンをどうにか停止させると、セリアはコクピットのハッチを開いた。安全ロープを腰に固定し、彼女の華奢な身体は巨大な金属の躯体から、ロープを伝ってするすると地上へと降り立っていった。


今回も、やっぱり失敗してしまった。


「メカスタンを上手く操縦する」ということに対して、現在のセリアの心にはもう一欠片の自信も残っていなかった。もし将来、空を覆い尽くすような機械衝突が起きてしまったら、自分はきっと他の無力な避難民たちと一緒に右往左往して逃げ惑い、一生「出来損ないの笑い話」として人々の口に上り続けるのだろうか。


「セリアさん……」


地上へ降り立った銀髪の少女が顔を上げ、その唇に痛々しく胸が締め付けられるような壊れかけた笑顔を浮かべたのを見て、カレナは目元を細め、胸の奥が締め付けられるような酸っぱさに耐えていた。


昔、幼かったセリアは、無数の名士や貴族が集まるパーティーの席で、期待に胸を膨らませて母エレナに駆け寄り、親子の名乗りを上げようとしたことがあった。しかし最終的に返ってきたのは、エレナによる大勢の前での冷酷無情な拒絶であった。その悲劇は、セリアを長い間、社交界全体で「高貴な名門にすり寄ろうとした愚かな笑い草」として嘲笑わせることとなってしまったのだ。


だが、勘の鋭い者たちの多くは、すでに不審な点に気づいていたのである——。


現在、貴族社会で誰もが持て囃すルネは、非常に派手で目を引く金髪と、眩いエメラルドグリーンの瞳を持っていた。……しかし、その母であるエレナが持っているのは、月光のように純粋な銀白の長髪と、琉璃のように清らかな水色の瞳なのだ。


身分や立場を考慮に入れず、単純に外見の遺伝子だけを見れば、まともな人間なら誰もがセリアこそがエレナの実の血分かち合っていると直感するはずであった。


ただ、当時のエレナの見せた冷徹な態度を前に、わざわざ余計な口を挟んでルネやエスペル家の顔に泥を塗ろうとする貴族など存在しなかったのだ。それゆえにルネは、セリアの姿を見るたびに執拗な嘲笑を浴びせずにはいられないのだった——ルネの心の最深部では、実の母の生き写しのようなあの美少女が、いつか自分の手から母の愛を奪い去ってしまうのではないかと、片時も絶え間なく恐怖していたからである。


昔、真実を知ったルネがパニックを起こし、泣き叫んで「あんな女を娘と認めないで!」と死ぬ気で母に迫らなければ、彼女は己の絢爛たる貴族生活が崩壊する恐怖に耐え切れなかったことだろう。


本当のところ、ルネも本心からセリアを憎んでいるわけではなかった。けれど、自分が独占していたはずの母と恵まれた生活を、ある日突然現れた別の少女に奪われるかもしれない恐怖に、耐えられる子供が一体どこにいるというのだろうか?


「学校の外に、ケーキがとても美味しいカフェができたと伺いましたの。よろしければ、少しお茶でもして休んでいきませんか?」


カレナはステップを進め、自然に、そして優しくセリアの微かに冷えた小さな手を包み込んだ。


その軽やかで温かい光景は、観客席にいたデイン教官や上級生たちの目にも映り、誰もが胸の内で深い惜哀を覚えていた。皆、セリアの大脳がいったいどれほど恐ろしい反応速度を持っているのかと密かに驚嘆していたのだ。最新の練習機すら、彼女の神経波の衝撃によってあそこまで狂わされてしまうというのか、と。


もし将来、生体感應技術が飛躍的な突破を遂げることがあれば、セリアは史上最強の王牌パイロットへと覚醒するのかもしれない。しかしその頃には、きっとセリアはこの世にいないのだろう——それこそが、その場にいた誰もが最も悲しく、やりきれないと感じる部分であった。


それはまるで、百年、千年に一人の絶世の天才が、あまりにも時代遅れで己の翼を広げられぬ泥沼の中に生まれてきてしまったかのような悲劇。才能を愛する者であれば、誰だって胸を痛め、やるせなさに唇を噛むに違いなかった。


セリアは首元から生体感應スカーフを静かに外し、それを消毒用の金属キャビネットへと丁寧に戻した。


今の彼女の心は、解きほぐすことのできない絡まった糸のように複雑に乱れていた。誰よりも自分を証明したいと望みながらも、どんなに努力しても無駄なのだと残酷なほど冷徹に理解している。人類側の生体インターフェース技術が短期間で爆発的な進歩を遂げない限り、自分は永遠に人々の口に上るポンコツパイロットのままなのだ。


白薔薇の清らかな香りが漂うキャンパスの道で、セリアは生まれて初めて、自分がこの世界でどれほど孤独で無力であるかを痛感していた。


実の母親にただ一度抱きしめてもらうことすら、これほどまでに贅沢で叶わぬ願いだというのか。自分だってエレナの実の子であるはずなのに、二人の娘を前にして、母はためらいもなくルネを選び、自分を捨て去ったのだ。


そして恋心においても、自分は惨めなほど愚かであった。カレナ先輩がただの教養と優しさから自分に親切にしてくれているのだと、頭では痛いほど分かっている。その温もりは甘く甘美で、けれど致命的な毒薬のようだった。カレナが誰に対しても分け隔てなく温かく接する人だと知りながら、自分だけは救いようもなくその毒に毒されてしまったのだから。


カレナが他の生徒たちと楽しそうに歓談し、可憐に微笑む姿を見るたび、セリアは残酷な現実を突きつけられるのだ。自分はカレナの数ある「友人」の一人に過ぎないのだと。耀かしいカレナの周りにはいつでも優秀な友人たちが溢れており、先輩の隣には自分のような不器用な後輩の居場所など、最初から必要とされていないのだと。


言葉にできない酸っぱい不甲斐なさが、蔓草のようにゆっくりとセリアの胸を締め付けていく。


メカスタンにおいては一敗塗地、挙句の果てに世界中の笑いものとなってしまった。


身内との絆においては、父からの深い愛があるとはいえ、実の母を抱きしめることすら叶わず、ただ公の場で物陰からその背中を盗み見るのが精一杯。


そして、あの甘く切ない密やかな初恋に至っては、あまりにも儚く、惨めなものであった。少なくともカレナにとって、自分は「手のかかる奇妙な後輩」でしかないのだろう。要するに、あの人の心の中に、自分の席など一箇所だって存在しないのだ。


夏の微風が優しく吹き抜け、冷や汗に濡れたセリアの銀白の前髪を揺らした。彼女は白くしなやかな指を伸ばし、力なくそれを整えた。落日の中に佇む彼女はまるで舞い降りた精霊のように美しかったが、その瞳の端に宿る消し去れぬ憂鬱は、彼女の驚世の美貌をも遥かに凌駕するほどに儚げであった。


訓練場を抜け出たキャンパスの小道で、誰の視線も自分に向いていない隙を見計らい、セリアは小さく首を垂れ、静かに、誰にも気づかれぬよう涙を零した。


彼女のすすり泣きはあまりにも静かで、あまりにも抑制されていた。それはまるで、秋の枯れ葉がそっと静かな湖面へと落ちていくかのように。微かな波紋を静かに広げるだけで、湖の上に優雅に遊ぶ白鳥の眠りを、何ひとつ乱すことはないのだった。

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