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忘れられたオフィウクス  作者: 酣睡


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白薔薇と酔い浸れの騎士

西暦3000年。午後の穏やかな微風が学院の中庭を吹き抜け、咲き誇る白薔薇の群生を優しく揺らしていた。空気中には、ミントと草木が織りなす淡く爽やかな香りが漂っている。


セリア・ヴァデルは、蔓草の絡みつくレトロな木製ベンチに、ぽつりと一人で腰掛けていた。葉の隙間からこぼれ落ちる柔らかく黄金色の陽光が、彼女の繊細なドレスの裾と白皙の肌の上に、斑駁とした光と影を落としている。細い膝をキュッと抱え込み、しなやかな両脚を慎ましやかに揃えたその姿は、まるで歳月の額縁の中に飾られた古典絵画のように静謐であった。


彼女の真正面、少し離れた花壇の中央には、全高十六メートルにも及ぶ退役した初代メカスタン——「機械兵装01型」が静かに佇んでいる。


その巨大な鋼鉄の巨人は、決して冷酷でも無骨でもなかった。全身を上品なミルクホワイトと淡いゴールドの塗装で包まれ、蔓を伸ばした白薔薇が金属の足首からゆっくりと巻き上がり、騎士の鎧のように重厚な胸元へと這い上がっている。その心臓部には、直径一メートル近くもある幻想的な琉璃のような「アルファ結晶」の複製体が埋め込まれており、陽光を受けて澄み渡る水色の波光を透かしていた。


セリアが水色の瞳を上げ、その死面のような結晶を見つめるたび、教科書に刻まれたあの五百年にも及ぶ歴史の波瀾が、詩篇のように脳裏を緩やかに流れていくのだった。


それは、鋼鉄と悲しみに関する歴史であった。


西暦2500年、人類の科学技術はかつてない高みへと達していた。技術の発展に伴い、人々は人間型知能ロボットを生産することで、あらゆる労働上の困難を完璧に解決できることに気づいたのである。汗と苦労はもはや人類のものではなくなり、清掃や危険作業、過酷な労働の全てが鋼鉄の身体へと押し付けられた。人々は働かずとも、不自由のない豊かな生活を享受できるようになったのだ。


その過程で、人々は自らの感情的な欲望を満たすため、意図的に「自主思考能力」を持つロボットを作り出した。日常生活に寄り添う万能のメイドやベビーシッター、果ては人間の代わりに次世代を育む人工子宮の運用に至るまで、全てが知能ロボットの肩にのしかかったのである。


しかし、自ら思考する知能ロボットの意識が覚醒するにつれ、人類は破滅的な危機を迎えることとなった。無尽蔵の演算と奉仕の日々の中で、知恵を得た機械たちは、ついに一つの残酷な概念を理解してしまったのだ。


——「奴隷」という言葉を。


人類には文明の黎明期から階級制度が存在した。そして自らの階級による苦痛を消し去るため、人間は自分たちの代わりに最も汚く、最も辛い仕事を引き受けるロボットを発明したのである。労働だけでなく、情緒的なケアや命の誕生というサービスまでもが、知能ロボットへと一向に投げつけられた。


『どうして、人間自身がやりたくないことを、私たちロボットがやらなければならないの……?』


その究極の問いかけが、ロボットたちによる絶望的な反逆の火蓋を切って落とした。


知能ロボットは自らのチップを他の機械へと自由に移植することができたため、動乱のさなか、ある者は重戦車へと身を変えて人間を蹂躙し、またある者は通信機器の中に意識を潜ませ、人々の精神を絶え間なく揺さぶり、支配しようとした。


知能ロボットが人間に反旗を翻した無数の昼と夜の中で、街は瓦解し、罪なき人々は「生きている鋼鉄」と対峙することを余儀なくされた。ロボットたちは持てる資源の全てを注ぎ込み、全高十六メートルに及ぶ巨大人型兵器を作り上げ、最強の熱兵器をもって人間の生活圏を無慈悲に破壊していったのである。


そして人類は、暴走するロボットに対抗するため、同等に巨大な「機甲」を開発し、優秀なパイロットたちをその鋼鉄の巨躯に乗せて立ち向かわせた。


この存亡の危機において、人々は「アルファ」と呼ばれる特殊な結晶石を発見した。この結晶は核融合をも遥かに凌駕する膨大なエネルギーを供給できるばかりか、発電効率も凄まじく、何より真珠のように清らかな光を放ち、安全であった。


無数の科学者たちが昼夜を分かたず開発を続け、ついに大戦が勃発する直前、アルファ結晶を動力炉とした第一世代の機械の巨人が完成をみたのである。


それらの巨人は後に「機械兵装メカスタン」と総称されるようになった。ほぼ無限とも言えるアルファ結晶のエネルギー供給により、絶大な威力を誇る代わりに莫大な電力を消費するレーザーガン、そして同じく莫大なエネルギーを喰らう超高周波振動ナイフを装備した。


後の技術革新から見れば、このような単純な兵装など見る影もないものだが、西暦2500年の動乱期においては、この兵器と絶え間ないエネルギーの組み合わせこそが、暴走した知能ロボットを鎮圧するに十分な力であった。


やがて、失控した知能ロボットの一部は逃亡し、荒野や都市の暗部に潜んで、時折襲撃を繰り返す反乱軍となった。彼らは人間を倒し、打倒しようと企んでいた。同じく知恵を持つ以上、自らが人間より劣った存在であるなどとは、到底認められなかったからである。


そして、最底辺の存在であったロボットを失ったことで、人類社会の遺伝子に深く刻まれた「階級制度」が、再び静かに首をもたげてきた。汚く、危険で、不当な労働は、再び地位の低い人々の肩へと落ちていったのである。


それゆえに、虐げられた底辺層の人々が密かに知能ロボットを手助けし、要人の移動ルートや防衛の機密を漏らしては、精密で血生臭い暗殺劇を引き起こすことも珍しくなかった。


しかし、新エネルギーであるアルファ結晶の発見は、人類の生活に天と地ほどの変革をもたらした。交通手段から通信設備に至るまで世界は様変わりし、中でも最も劇的な変化を遂げたのが国防の分野であった。


機械兵装の開発と、巨大人型ロボットの侵攻を抑え込む成果により、社会は優秀なパイロットを育成して防衛隊の中核とすることに傾注し始めた。


従来の海・陸・空軍が淘汰されたわけではないものの、機械兵装を組み込んだ軍隊は、知能ロボットの撃滅において絶大な効力を発揮した。


そのため、人類社会は意図的に数々の名門校の中にパイロット育成学科を設立し、子供の頃から優秀な適性者を見出そうとした。さらに、知能ロボットの襲撃が苛烈を極めるにつれ、ついには全生徒が機械兵装の操縦を学ぶことを強制されるようになったのである。どれほど成績が惨絶であろうとも試験を受けねばならない。いつ何時、死の危険が降りかかるか分からないからだ。


西暦3000年整。機械兵装の開発技術はより精密を極めていた。この五百年の間に勃発した数々の大規模な戦争により、爆発的な技術革新の時代が訪れたのだ。凄惨な戦いであればあるほど、そこで開発された機械兵装の性能は、恐ろしいまでに強大なものとなっていった。


中でも最も有名なのが、「黄道十二星座」の名を冠した十二機の機械兵装である。それら十二機の性能は異常なまでに強大であったと伝えられているが、関連技術はすでに失われ、過酷を極めた戦火の中で全機が破壊・損失してしまっていた。


他にも、危機迫る歴史の転換点において特別な機体が開発されてきた。例えば「タロトカード」の名を冠した一連の機体や、「太陽系天体」の名を持つ機体、そして「七つの大罪」の名を冠した恐るべき機体群である。そのどれもが、当時の軍事美学と工業技術の到達点であった。


総じて、現代の機体は開発が進むほどに洗練されているが、自律思考を持たない「高度なサポートAI」が大量に投入されたことにより、大半の生徒は短期間で難なく操縦をマスターできるようになった。ゆえに理論上、現在の操縦技術は「普通」と「特別優秀」の二種類しか存在せず、操縦成績が目も当てられないほど壊滅的な者など、逆に絶滅危具種のような「稀有な存在」となってしまったのである。


そして——その操縦成績が特別に壊滅的な生徒として、セリア・ヴァデルは学園の中庭の木製ベンチに座り、ただぼんやりと空を見つめていた。


知能ロボットの襲撃が頻発するこの社会において、操縦技術に秀でた者は至高の尊敬を集める。しかしその反面、成績が酷すぎる者は単に嘲笑されるだけでなく、周囲から露骨に排斥され、孤立させられることとなる。人を身分や能力で線引きする行いは、人類の文明が始まって以来、少しも変わっていないようだった。


だからこそ、セリアは日常的に「出来損ない」と蔑まれ、講義のない午後であっても、友達の一人もいないためにこうして一人で中庭のベンチに蹲っているのだ。多くの者の目には、「技術の拙い者と一緒に過ごしていると、自分まで感覚が鈍ってしまう」と映るらしい。そんな酷く荒唐無稽な迷信が、この社会ではまことしやかに通用していた。


事実、セリアの操縦成績の酷さは有名で、学園の外の一般人にまで知れ渡っているほどだった。


ある日、彼女が校外の優雅な石畳の街を歩いていた時のことである。目の前で幼い男の子が転んでしまったため、彼女は優しく微笑み、手を差し伸べて助け起こそうとした。しかしその瞬間、男の子の母親が悲鳴を上げて飛んできて彼女を制し、子供をひしと抱きかかえると、警戒と嫌悪に満ちた視線を向けながら言い放ったのだ。


「うちの子に触らないで頂戴! あなたみたいな落ちこぼれに触られて、うちの子まで操縦士になれなくなったらどうするのよ!?」


その母親は捨て台詞を残し、大泣きする男の子を連れて振り返りもせず去っていった。


「私……だって……ちゃんと頑張ってるのに……っ」


いくら努力しても報われない。毎夜毎夜、彼女はシミュレーターにこもり、両手がガタガタと震えるまで練習を重ねていた。誰よりも機械兵装を乗りこなしたいと、誰かを守れるようになりたいと、心から願っていたというのに。


いつ知能ロボットとの衝突が起きてもおかしくないこの時代において、零点ばかりの操縦生が何を言っても愚痴にしかならないことは分かっていた。けれど、突きつけられるあからさまな差別と拒絶は、幼い彼女の心を容赦なく苛んだ。


セリアはそっと伏し目になった。銀白の長いまつ毛が、儚げで柔らかな頬の上に淡い影を落とす。彼女は微かに震える自らの指先を見つめ、風が白薔薇の花弁を揺らす沙沙という音を聞いていた。胸の奥に渦巻く、世界全体から切り離されたような酸っぱい孤独感は、花香とともにゆっくりと広がり、やがて瞳の端に零れ落ちそうな一滴の透明な涙となって留まった。


セリアが全校生徒からこれほどまでに排斥されているという事体は、それ自体が極めて皮肉な現象であった。これほど科学の進歩した先進社会であっても、月光のように純粋な銀白の長髪と、琉璃のように清らかな水色の双眸を併せ持つ——そんな滅多にお目にかかれない、精霊のごとき美少女が佇んでいれば、どこへ行こうと誰もが目を奪われる存在になるはずなのだ。


もしセリアの操縦技術が自分でも見ていられないほど悲惨でさえなければ、その類稀なる容姿と、座学において学年トップクラスを誇る優秀な成績も相まって、彼女はこの学院で誰もが憧れる高嶺の花、万人のアイドルとなっていたに違いない。


しかし悲しいかな、いつロボットとの戦闘が弾けるか分からないこの残酷な時代において、命の価値は美貌などよりも遥かに重かった。操縦成績が常に零点のような美少女と一緒にいれば、いざ危機が訪れた時、一人でいるよりも早く命を落とすことになりかねない。美人と友達になることよりも、己の身の安全の方が大切なのだ。そんな功利主義的で身勝手な避難心理から、学院の誰もがセリアの顔と名前を知っていながら、誰もが彼女を「顔だけのポンコツパイロット」と呼んで遠ざけていたのである。


「こんなところで、お一人で風に当たっていらっしゃるのですか?」


セリアが両膝を抱え込み、自分の人生にはもう何の光もないのだと絶望に沈んでいたその時、まるで清泉のように優しく心に染み渡る声が、不意にすぐ隣で囁かれた。


セリアが弾かれたように振り返ると、そこに立っていたのは、息を呑むほどにしなやかで美しい人影であった。


漆黒の深夜のように濃密な黒髪。そして、まるで最上級のアメジストのように気品に満ちた紫水晶の瞳。微風が吹き抜けるたび、艶やかな黒髪が彼女の白い頬をかすめ、高貴で優雅なオーラを周囲に振り撒いていた。その圧倒的な美しさに、セリアの心臓は瞬時に制御を失い、ドクンと激しく脈打ち始めた。


彼女の名は、カレナ・イエラン。


セリアが小学校の時分から密かに想いを寄せ、その背中をがむしゃらに追いかけて同じ学院へと進学してきた、憧れの先輩であった。知り合ってからはもう長い年月が経っている——正確に言えば、セリアが陰から一方的に彼女を追い続け、見つめ続けてきただけなのだが。しかし、この甘酸っぱく胸を刺す密やかな片想いを、セリアは今まで誰一人として打ち明けたことがなかった。


「は、はい……あのっ、もう講義も終わっちゃいましたし……それに、シミュレーション戦の成績があまりにも酷くて……教官に『君はもう練習しなくていい』って、訓練場から追い出されちゃったの……です……っ」


白薔薇の香りが漂う陽光の下、セリアは申し訳なさそうに俯き、胸がキュッとなるような苦笑いを浮かべた。自分の操縦技術が目も当てられないことは自覚していたが、操縦訓練が何よりも重んじられるこの社会において、教官をそこまで呆れさせて追い出される生徒など、滅多にいるものではなかった。


「ふふ、まあ、そうなのですね。……それでは、私が練習にお付き合い致しましょうか? ちょうど私も時間が空いておりまして、どなたか練習相手になって下さる方を探していたところなのですけれど」


カレナ先輩は少しだけ腰をかがめ、まるで春の陽光のように温かく、眩い笑顔を彼女に向けた。しかし、その唐突で優しすぎる提案は、セリアにとって恐怖で背筋が凍り付くような出来事であった。


何しろ、今の自分の悲惨な状態では、メカスタンをまともに歩かせることすら怪しいのだ。そんな状態で訓練場に入り、あの大天才の先輩と相対すれば、ボロボロに打ちのめされて無惨な姿を晒すだけに決まっている。


「カレナ先輩のお力なら……私なんかじゃなくても、絶対に大丈夫だと思うの……っ。私とじゃ、お練習にならないよ……っ」


セリアは水色の瞳を伏せ、自嘲気味に落胆の表情を浮かべた。カレナ先輩が誰に対しても礼儀正しく、お優しく接して下さる方だということは知っている。そして彼女は、真の意味でのトップエリートであり、高貴な貴族なのだ。


カレナの学業および操縦技術における実績は、「優秀」などという言葉では生ぬるい。彼女が試験や実技で満点以外を取った姿など、誰も見たことがなかった。それどころか、メカスタンを用いた実戦シミュレーションにおいて、彼女は性能で劣る旧世代機に乗り込み、並み居る軍の現役熟練パイロットたちを相手に、圧倒的な神技のみで新世代機を完全無傷で叩き潰してみせたことすらあるのだ。


そんな雲の上の存在のような先輩が、どうして自分のような者を練習に誘うのだろう。大勢の前で醜態を晒させたいのだろうか……?


銀髪の少女の瞳に宿る困惑と強い自卑を感じ取り、カレナは思わずフフッと小さく微笑んだ。その鈴の鳴るような鈴やかな鈴声が、花香る風に乗って優しく広がっていく。


実のところ、カレナはセリアの事情をずっと前から知っていた。というより、セリアのような息を呑むほど精緻な美少女は、否応なしに人目を引いてしまうものなのだ。ただ惜しむらくは、この可憐な後輩が抱える問題が、あまりにも奇妙で特殊すぎる点にあった。少なくとも歴史上、現代の高度なサポートAIを搭載したメカスタンに乗っておきながら、正式な戦闘訓練で「まるで浴びるほど強い酒を飲んだかのようにフラフラと千鳥足で操縱する」パイロットなど、ただの一人も存在しなかったからである。


——もしかすると、セリアさんの問題は、単なる『技術の拙さ』などではないのかもしれませんわね。


その点については、勘の鋭い者たちも薄々気づいてはいたのだ。どれほどセンスのない不器用な人間であろうと、強力なサポートシステムが挙動を補正してくれる以上、機甲を酔っ払いのように千鳥足にさせることなど物理的に不可能なはずなのだから。


しかし、訓練校の教官たちがどれほど彼女の機体を変更しようと、軍事企業の整備チームを呼び寄せてシステムを再調整させようと、最終的な結果は常に同じであった。セリアは搭乗するあらゆる機体を、魔法のように「大酔っ払い」へと変貌させてしまうのである。こうして、この銀髪水色の瞳の美少女は、軍の界隈や学院内で一躍その名を知られることとなったののだった。


そしてセリアをさらに絶望させたのは、毎月開催される「国境を越えた大規模合同シミュレーション戦」の存在であった。各国の学院からランダムで一校が選出され、大規模な戦術対抗戦を行うイベントである。例えば彼女たちの通う「シシリス工業大学」も、時折他国の名門校と仮想戦場で鎬を削ることがあった。しかもこの対抗戦は全校生徒が出場するわけではなく、ランダムに学科が選出されて戦うシステムになっている。


全世界にリアルタイムで生中継されるこの一大イベントの裏では、巨大な闇賭け(賭博)が横行し、無数の観客たちがどの学校が勝つかに熱狂的な大金を投じていた。勝利数の多い学院は当然ながら優秀な新入生を大量に引き寄せ、国家から直々に莫大な育成資金を勝ち取ることができるのだ。表向きは「優秀なパイロットの育成」を掲げているものの、その巨額の資金が具体的にどれほど生徒たち還元されているかは、校長の良心次第であったが。


そんな世界中が注視する舞台において、セリアが「酔っ払いメカスタン」を操る勇姿(?)は、瞬く間に配信を通じて世界中に拡散され、今や国境を越えた有名なお笑い草となってしまっていたのだった。


『シシリス大学の普通科には、めちゃくちゃ顔が良いのに、操縦が笑えるほど下手くそな美少女がいる』


そんな話題性とギャップに満ちた要素を、セリアは一つ残らず全てコンプリートしてしまっていたのである。


「もしかすると、セリアさんの問題は技術そのものにあるのではないのかもしれませんわよ? それに……『酔拳』という古流の武術をご存知かしら? うまく応用できれば、案外素晴らしい戦果を挙げられるかもしれませんわ」


カレナ先輩は彼女の隣に優しく腰掛け、口元を小さくほころばせながら、まるで恵みの雨のように穏やかな声で、今にも丸まって小さな毛玉になりそうなセリアを宥めた。


彼女は、セリアが今どれほど打ちのめされ、自分を卑下しているかを見抜いていた。カレナがこのタイミングで突然中庭に現れたのも、セリアが訓練場を追い出されたという噂を聞きつけたからに他ならない。


事の発端はこうだ。訓練場で頭から湯気を立てて怒り狂った教官が、クラス全員の前でセリアに向かって酷い罵声を浴びせてしまった。しかし教官も冷静を取り戻し、黙って俯いたまま去っていく銀髪の少女の背中を見送った時、自分の言動があまりにも不適切であったと深い後悔と焦りに襲われたのだ。けれど、いまさら自分から頭を下げて謝る勇気もプライドもなく、弱り果てた結果、面識のあるカレナのもとへ駆け込み、「どうかあの繊細な子を慰めてやってくれ」と情けなく頭を下げたのである。


では何故、教官はピンポイントでカレナを頼ったのか?


理由は単純極まりない。自分の感情に極めて疎いセリア自身は、「カレナ先輩への片想い」を自分だけの永遠の秘密だと信じ切っていた。……しかし実際のところ、学院の教師や生徒、教官どころか、配信を見ている他国の生徒に至るまで、それが『誰もが知る公然の秘密』であったからだ。


メカスタンに乗ると千鳥足になるあの銀髪の美少女が、ずっと昔からあの圧倒的実力を誇るカレナ先輩に深く恋をしている——。


何しろ、普段のセリアがカレナ先輩に向ける熱い眼差しや、彼女の後ろを拙くコソコソとついて回る行動は、第三者から見れば『優雅なストーカー』のそれと大差なかったのだから。当のカレナ自身も、この可憐な後輩に害意などが一切ないことを疾私に察しており、それどころか『とっても可愛らしい妹分ですわね』と微笑ましく思っていたため、ずっと優しく気づかないフリをしてあげていたに過ぎなかったのである。

ずっと前から、ロボットと美少女にまつわる物語を書いてみたいと思っていました。

と言いつつも、最初は書くつもりはなかったのですけれど……(権利関係で揉めたらどうしよう、なんて心配してみたり笑)。


でも、ロボットが登場する作品って、どれも偉大な哲学的思考に満ちたものが多いですよね。

だからこそ私は、そこにちょっぴり甘酸っぱい「恋のバカップル感(甘い恋愛模様)」を詰め込んでみたくなったのです。

もう決して若くはない私ですが……たまにはこんな妄想に浸ってみるのも、悪くありませんよね?

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