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……と、思っていたのに。
お茶会の数日後、クライン子爵からの花束が屋敷に届いた。
「すごいわ、メイジー。クライン子爵の心を掴んだのね!?」
「いいえ、これはきっとクライン元子爵夫人からの贈り物です。クライン子爵はあたしのことなんて、別に何とも思っていないようでしたから」
「それでも千載一遇の好機じゃないか。早く話をまとめて子爵家に嫁ぐんだ」
「それはちょっと……」
花束を見た両親が、あたしをクライン子爵家に嫁がせようとしてくる。
なんとか元子爵夫人から逃れたと思ったのに、悪夢再びだ。
「お前は姉と同じように美人なのに、貴族たちにちっとも相手にされずに困っていたんだ。知り合いに紹介をしても縁談がまとまらないし……何をしたらそんなことになるのだか」
「でも、これでやっとメイジーも結婚できるのね。お母様は安心したわ」
お父様とお母様が、嬉しそうに笑い合っている。
しかし喜んでいる二人には申し訳ないけれど、クライン子爵もあたしも、特にお互いを好いてはいない。
「二人とも、勝手に話を進めないでください。これはただの社交辞令の花束ですので」
「そうかしら。じゃあ一緒に届いたお手紙を読んでみたらどう? 愛の告白が書かれているかもしれないわ」
「そんなわけ……」
あたしは愛の告白ではないことを証明するために両親の前で手紙を開封した。
その手紙に書かれていたのは。
「あら、次のお茶会の誘いじゃない。良かったわね、メイジー」
「どうして」
「気に入られたようだな。でかしたぞ。子爵が相手なら上々だ。お前の結婚は半ば諦めていたからな! いざとなったら大安売りをするつもりだったくらいだ」
そう言ってお父様が豪快に笑った。
あたし、諦められていたのか。と言うか、野菜のセールみたいに言わないで。
確かにお姉様はあたしの年齢の頃にはすでに嫁いでいたけれど、まだまだあたしだって結婚適齢期だ。
それなのに浮いた話題の一つも無いのが悲しいところだけれど。
「早く返事を書いてね。もちろん良い返事を」
「……やっぱり、お茶会に行かなきゃ駄目ですか?」
「当然だ。早いところ子爵との婚約を決めてこい」
「これを送っているのは十中八九、元子爵夫人で、クライン子爵はあたしに興味が無いんですよ?」
あたしがそう言うと、お母様が手紙の署名部分を指さした。
「ここにクライン子爵の署名があるわよ?」
「たぶんクライン元子爵夫人が書かせたものだと思います。ニコニコしながら強引に話を進めがちな方でしたから」
「元子爵夫人が味方なんて心強いじゃない」
「味方ではないです」
だってあたしは、クライン子爵と結婚をしたいわけではないから。
味方どころか、むしろ敵だ。
「丁重にお断り……」
「ならん!」
お父様が厳しい声を出した。
これはお父様が絶対に意見を変えるつもりのないときに出す声色だ。
「……分かりました」
面倒くさいけれど、あたしはまた子爵邸に行くしかないらしい。
それにしても、好きでもない相手とのお茶会に付き合わされるクライン子爵にも少し同情をしてしまう。
お互い親の先走りで苦労をしているようだ。
* * *
「メイジーとクライン子爵は、そんなことになっていたのですか」
クライン子爵とのお茶会の話を聞いたカーリーは、目をまん丸にしていた。
「これまでは別れさせ屋をして、こんな事態になったことはないんだけれどね。付き合ってほしいと言われたことはあるけれど、一度一緒に食事をすると勝手にあっちから逃げていくから」
ハニートラップ当日にどれだけ盛り上がった相手でも、冷静になって会話をすると、気の強いあたしが嫌になるらしい。
「何をどうしたらそんなことになるのですか」
「自分に正直に過ごしただけよ。好かれる気が無かったから、いつもよりちょっぴり余計に正直になりはしたけれど」
「でもクライン子爵と元子爵夫人には通用しなかったのですね」
そう。あたしは前回のお茶会でクライン子爵に言い返したりもしていたのに、またお茶会の誘いが来てしまった。
彼らの心が広いのか、彼らの趣味が悪いのか。
「元子爵夫人もなかなか癖の強い人ですからね。笑顔で自分の意見を通してきますから」
そう言ってカーリーが苦笑した。
「やっぱり? 柔和なように見せかけて結構強引よね?」
元子爵夫人はお茶会の間中、終始笑顔だったけれど、押しが強いとは感じていた。
気弱なカーリーでは、元子爵夫人の言うことをすべて受け入れてしまいそうだ。
「それで、メイジー。別れさせ屋の成功報酬はいくらでしょうか。ある程度の用意はしてありますが」
「そんなものはいらないわ。カーリーは友人だもの。特別に無料よ。と言うか、このお茶会がお礼なんじゃなかった?」
「メイジーがこんなに大変な目に遭っているのに、それでは割に合いません」
別れさせ屋は半分あたしの趣味みたいなものだから、気にしなくて良いのに。不幸な令嬢を減らせるだけであたしは満足なのだから。
しかし真面目なカーリーはそれでは納得しないだろう。
「うーん。じゃあ他の令嬢に、別れさせ屋の話をこっそり広めておいて。宣伝費と成功報酬を相殺させましょう」
「宣伝……分かりました。いろいろなお茶会やパーティーで広めておきますね」
「分かっているとは思うけれど、こっそりでお願いね。男性に話がバレたら、別れさせ屋はお終いだから」
男性側に別れさせ屋の話が回ってしまったら、騙せるものも騙せなくなる。
別れさせ屋の今後を考えるあたしに、カーリーが控えめに、しかしとんでもない言葉を口にした。
「メイジー、このままクライン子爵と婚約する気は……」
「無いわよ!?」
「そうですよね。変なことを聞いてすみません」
クライン子爵だってあたしと結婚する気は無いように見えた。
ただ周りが勝手に盛り上がっているだけだ。
「……あの。クライン子爵はメイジーと寝たと勘違いをしているままなのですか?」
「最後まではしていないって伝えたわ。責任を取ろうとしていたから」
「へえ、誠実なのですね。クライン子爵は何を考えているのか分からない方なので、知りませんでした」
「そんな誠実さはこれっぽっちも求めていないけれどね」
あたしは早くクライン子爵との縁を終わらせたいのだ。
このままではあたし自身がクライン子爵との会話で嫌な思いをするだけではなく、クライン子爵とあたしが結婚しそうだといううわさが流れてしまう。
そうなると今後、別れさせ屋を遂行することが難しくなる。
あたしだけではなく、クライン子爵だってあたしと一緒にいる時間は楽しくもないだろうし。互いに良いことが一つも無い。
だから。
「次のお茶会で決着をつけるわ」
「決着って」
「クライン子爵にも元子爵夫人にも嫌われまくって、二度とお茶会に呼ばれないようにするのよ!」




