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(1)
あのあと正式にクライン子爵との婚約解消が成立したと、カーリーからお礼の手紙が届いた。謝礼はいらないと伝えていたはずだけれど、お礼の気持ちを込めたお茶会も開いてくれるらしい。カーリーとのお茶は楽しいから、ありがたく招待されることにした。
これで一件落着……と思いきや、しばらくしてカーリーには新たな悩みが生まれてしまったらしい。
クライン子爵から浮気をしたことのお詫びの品が家に送られてきたようで、浮気をねつ造したカーリーはいたたまれない状態になっているらしい。
申し訳ないからと贈られたものを送り返そうとしたけれど、事情を知らない両親にはお詫びの品をもらっておくように言われてしまい、板挟みなのだとか。
そんなもの、堂々ともらっておけば良いものを、カーリーは善良すぎる。
一方であたしは、クライン子爵から届いた手紙をなかなか開封できずにいる。
「何が書いてあるのかは分からないけれど、あたしとの浮気のせいで婚約破棄になったから償いをしろとか、シャツの弁償をしろとか、良い手紙ではないことだけは分かるわ」
これまで別れさせ屋で婚約破棄をさせた貴族は、貴族自らがあたしに手を出そうとしていたから自業自得ではあった。
そのためこのような手紙をもらったことはないけれど、今回のクライン子爵は怒っても仕方がない。身に覚えのない浮気での婚約破棄なのだから。
あの場ではクライン子爵は混乱してしまっていたけれど、数日経って冷静になったことで、あたしに騙されたと気付いたのかもしれない。
そこであたしに何らかの形で制裁を……。
あたしは手紙を前に身震いをした。
請求金額はあたしに払えるような額だろうか。金額次第では、今度はあたしがカーリーに相談をすることになるかもしれない。
「ええい、女は度胸よ!」
あたしは覚悟を決めて手紙を開封した。
こういうものは先延ばしにすればするほど状況が悪化するからだ。謝るならきっと早い方が良い。
「なになに……あたしを屋敷に招待したい……?」
まさかクライン子爵は自分の屋敷内であたしに制裁を加える気だろうか。クライン子爵邸には拷問器具が揃っているのかもしれない。
えっ、うそ。あたし、拷問されるの?
……いや待て。制裁を加える気なら、手紙という証拠が残る形で誘い出すだろうか。
クライン子爵は真面目そうだったから、その辺のことはしっかりしていそうだ。
それなら考えられるのは、もっと別のこと。
「あのときクライン子爵は落ち込んだ様子で帰って行ったわよね。ということは、もしかして」
クライン子爵は、あたしたちの嘘を信じてしまっているのでは!?
あたしと致してしまったと、本気で思い込んでいるのでは!?
「もしかして、手を出した責任を取るとか、そういう話!?」
そんな誠実さは求めていない。
カーリーがクライン子爵との婚約が嫌なように、あたしだって婚約相手にクライン子爵はご遠慮したい。
「でもこの手紙だけじゃ目的が分からないわ。制裁の可能性だって消えたわけじゃないもの。目的が分からない以上、呼び出しをお断りするのは悪手かもしれない」
クライン子爵は軽い制裁を加えるつもりだったのに、あたしが招待を受けなかったことで制裁が激しくなっても困る。
致した責任を取りたいという話なら、謹んでお断りをするのだけれど。
「クライン子爵は全体的に言葉が足りないのよね。何でもかんでも相手に察してもらう姿勢では、対応する側が大変だって気付かないのかしら」
文句を言いながらも、あたしは手紙の返事を書いた。
もうさっさとクライン子爵の屋敷へ行って、とっとと蹴りをつけてこよう。
(2)
気合いを入れてクライン子爵の屋敷へ行ったのに、通されたのはティーセットの並ぶテラスだった。
「屋敷の中に通そうかと思ったのだけれど、今日は晴れているからテラスの方が気持ちが良いと思ったの。お花も綺麗に咲いてるしね。でも、もしかして屋敷の中の方が良かったかしら?」
「いいえ、とても綺麗な庭園で驚いていただけですわ」
しかもなぜかクライン子爵の母親である元子爵夫人も同席している。
「母様がいるから困惑するのは当然だ」
「あら、いいじゃない。ローガンが自ら女性を屋敷に呼んだのは初めてだから、母親としてどんな子を呼んだのか気になるのよ。カーリーさんに婚約破棄をされたから、自分で相手を見つけてきたのね?」
「そういうのではない」
そういうのではないということは、少なくとも責任を取るという意味であたしを屋敷に呼んだわけではなかったようだ。
少し安心した。
では、制裁の方だろうか。
……こんなティーセットの並ぶテラスで? 紅茶を飲みつつ爪を剥ぐの?
イマイチ状況の飲み込めないあたしは、一人で首を傾げていた。
「あの、あたしは今日、何の用事で屋敷にお呼ばれしたのでしょうか。頂いた手紙には内容が書いてありませんでしたので……」
「事実確認がしたい」
クライン子爵は大真面目な顔をあたしに向けてきた。
そして一言、端的に述べた。
「俺は君を抱いたのか?」




