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待て待て待て。
いよいよ状況について行けない。
なんだこれ。あたしは今、愛の告白をされている!?
そんな流れ、どこにあった!? ここまでムードの欠片も無かったじゃないか!!
「うーむ。ここへ来て順序がおかしくなってしまった。何事も計画通りには行かないものだな」
「ここへ来て!? ずっとおかしいですけれど!?」
あたしの混乱をよそに、クライン子爵は呑気な顔をしている。
「まあ何でもいいか。大切なことが変わらなければ」
「大切なこと?」
「俺の気持ちだ。俺は君と結婚を前提に付き合いたいと思っている」
「!?!?」
また愛の告白をしてきた。何なんだ、この人は! 何なんだ、この告白は!
あたしの知っている愛の告白とはまるで違う。こんな告白、どんな恋愛小説にも載っていなかった!
愛の告白というのは、もっと良いムードを作って、相手が告白を了承しやすい環境にしてから、ここぞというタイミングでするもののはずだ。少なくともこんな口喧嘩の最中にするものではない。愛の告白はもっとロマンチックであるべきだ!
「クライン子爵は乙女心をこれっぽっちも理解していません。愛の告白は、二人きりの夜にロマンチックなシチュエーションで行なうべきです」
「二人きりでパーティーから抜け出して夜風を浴びているシチュエーションは、告白に適していないと?」
「そうですよ…………あれ。そういう風に表現されると、シチュエーション的には正しい……?」
決してロマンチックなムードではないけれど、事実だけを並べるなら愛の告白に適した状況と言えるのかもしれない。
ああ、ダメだ。また混乱してきた。
クライン子爵に流されるな。自分をしっかり持て、メイジー・エバンズ!!
「結婚に不安を感じている君に言っておきたいのは、俺は君に、夫に付き従う妻になれ、と言うつもりはない。俺は君の物怖じしない性格を好んでいるからな。幸せ……を感じるかどうかは君の感性だから何とも言えないが、少なくとも虐げられる結婚生活にはならないだろう」
やめてくれ。告白を重ねないでくれ。ストップだ、ストップ!
さすがは元子爵夫人の息子だけある。暴走が止まらない。
「どうか、結婚を前提に付き合ってほしい」
「……きゅ、きゅう」
「キュウ? 小動物の真似か?」
「急展開すぎます!!」
あたしは大きく手を広げて、止まってくれというジェスチャーをした。
急展開に驚いている間にあれよあれよと話を進められて、あたしの頭はもうパンクしそうなのだ。
「急だっただろうか。俺としては、ある程度は順序を踏んでいたつもりだったのだが」
「どこがですか!?」
「町を連れ歩いて君が俺の良い人であることを町民にアピールしたし、パートナーとしてパーティーに同行させて貴族へのアピールもした。手紙や贈り物で両親への根回しもしたし、横からかっさらわれないように直接見合い相手を牽制もした」
「言われてみるとどれも心当たりが……って、待ってください。見合い相手を牽制って何ですか!?」
「言葉通りの意味だが?」
澄ました顔でなんてことを言っているのだ。
あたしはてっきりお見合い相手が勝手にあたしとクライン子爵の仲を勘違いして交際お断りの連絡をしてきたのだと思っていたけれど……お見合い相手が勝手に勘違いをしたわけではなかった?
クライン子爵が、お見合い相手があたしたちの仲を勘違いするように直接働きかけていた!?
「あたしのお見合いが玉砕し続けていたのは、クライン子爵のせいだったということですか!?」
「君が好きだ。付き合ってほしい」
「今の流れで告白が成功するとでも!?」
「成功しないのか?」
「当たり前です!!」
一体どこの世界に、お見合いを邪魔してくる男に惚れる女がいるというのだ。
これで告白が成功すると思われているなんて、あたしも舐められたものだ。
「ふむ。まだ外堀埋めが足りないのか」
「外堀ではなく、あたしの気持ちの問題です! あたしがあなたと付き合いたいとは思っていないんです!」
「そうなのか? 誰もがエバンズ男爵令嬢は俺のことが好きだと言うのだが、違ったのか?」
「誰もが、って何ですか! 誰からそんなことを聞いたんですか!?」
「最近は口調も砕けてきているから、信憑性があると思ったのだが……」
クライン子爵は考えるような仕草をしてから、あたしの目を真正面から覗き込んだ。クライン子爵の目にあたしの姿が映る。怒っているはずなのに、彼の目に映ったあたしは、ニヤけるのを我慢しているような顔に見える。
「まあいいか。好きではないと言うのなら、これからじっくり好きになってもらえば」
「あたしの質問に答えてください! と言うか、あなたはいつからそんなにポジティブになったんですか!?」
「君と関わるようになってから、だろうな。俺を変えておいて、付き合わないと言われるとは思ってもみなかったが」
「あたしはクライン子爵のことなんか、絶対に好きにはなりませんから! せいぜい振り向かないあたしにアタックをする無駄な時間をお過ごしください!」
「無駄な時間……俺にとっては幸せな時間だろうな」
言い返す言葉が見つからず悔しくなったあたしは、クライン子爵から目を逸らして空を眺めた。
すると空には満天の星が浮かんでいた。
ああ、この上なくロマンチックだ。




