●33
(2)
これで何度目のお見合いだろう。短期間に玉砕しまくったあたしだけれど、なんだか今日は上手くいく気がする。
だって今日はこれまで以上に化粧ノリが良いし、髪型だってばっちり決まった。
それにこれまでと違って今日はお見合い相手の年齢が若いから、おじさん相手よりも俄然やる気が湧いている。
「初めまして。ストラウスです。本日は私とのお見合いを了承してくださってありがとうございます」
「ごきげんよう。メイジー・エバンズです。こちらこそ、あたしとのお見合いに立候補をしてくださってありがとうございます」
あたしは彼に向かって恭しくカテーシーをした。
あたしは今日のお見合い前に、目の前の彼が伯爵令息だという事前情報を得ている。伯爵令息と結婚できるなら、両親は何も文句を言わないだろう。むしろ条件が良すぎるくらいだ。
「あの……本日はお日柄も良く」
「はい、良いお天気ですね」
しかもストラウス伯爵令息は穏やかそうな人柄に見える。まだ出会って数分しか経っていないから、本当のところはどうか分からないけれども。
……となると、気になるのはあたしとのお見合いに来てくれた点だ。
こんなに条件の良い相手が、わざわざただの男爵令嬢とお見合いをするなんて普通ならあり得ない。
……もしかして、何かものすごい性癖を持っているせいで結婚が出来ない、とか?
「お伺いしたいのですけれど、ストラウス伯爵令息はどうしてこのお見合いを受けてくださったのでしょうか。あたしはただの男爵令嬢ですので、その点が気になってしまうと申しますか……」
あたしは失礼な心の声は口に出さず、当たり障りのない聞き方で質問をしてみた。
するとストラウス伯爵令息は目をキラキラと輝かせ始めた。
「もちろんエバンズ男爵令嬢の器量が良いからですよ」
「ええっ!? ありがとうございます!」
あたしは心からのお礼を述べた。
そうだ、あたしは美人なのだ!
クライン子爵はあたしのことをチヤホヤ美人扱いはしてくれないから、久しぶりの感覚だ。やはり見目を褒められるのは気持ちが良い。
あたしは褒めてくれたお礼とばかりに、ストラウス伯爵令息に向かって天使の微笑みを授けた。すると分かりやすくストラウス伯爵令息が顔を赤くしてくれた。あたしより年上のはずだけれど、なんだか可愛らしい人だ。
「実は前々からパーティーで見かけるたびにエバンズ男爵令嬢のことが気になってはいたのですが……どうにも私は出遅れがちで。気付くとあなたの周りには別の男性がいるので、これまで話しかけられませんでした」
「まあ。そうだったのですか?」
伯爵家にこのような奥手な男性がいるなんて。
……って、考えてみれば家柄がどうであろうとその人本来の性格は様々のはずだ。けれど爵位の高い人は自信満々に女性を誘うと思っていたから、意外に感じてしまう。
「そんな折、エバンズ男爵令嬢が見合い相手を探しているという話を耳にしまして。これしかないと思って、見合い話に飛びついたというわけです」
「ふふっ。前々からあたしに興味を持ってくださっていたなんて、嬉しいです。これは運命の出会いかもしれませんね」
「そうであってほしいです!」
「けれど良いのですか? 再度申しますけれど、あたしはただの男爵令嬢ですよ?」
「私は伯爵家の三男ですから。ある程度は自由にさせてもらっています」
なるほど。伯爵家の当主になるわけではないから、家柄で結婚を決める必要は無いと言うことか。
とはいえ、さすがに男爵家のあたしが結婚相手として伯爵家へ行ったら、ひと悶着ありそうな気はする。まあどこの家でも結婚に関してひと悶着はあるだろうから、彼に限ったことでもないのかもしれないけれど。
「こういうわけで、今日のお見合いに至ったわけです……三男なんて嫌でしたか?」
「いいえ。そもそもあなたが長男でしたら、男爵令嬢とのお見合いなんてさせてもらえませんもの。あなたが三男で良かったです。そのおかげで今日こうして出会うことが出来ましたので」
「エバンズ男爵令嬢……!」
うん、良い感じ。
今日のお見合いは成功間違いなしだ!!
* * *
無事にお見合いを終了させたあたしは、それから数日の間そわそわとし続けていた。
だって求婚されるに違いないから。求婚まで行かなかったとしても、恋人にはなれるに決まっているから。
「メイジー。ストラウス伯爵令息からの手紙が届いたわよ」
「本当ですか!?」
待ち望んでいた言葉を聞いたあたしは、すぐに手紙を持つお母様のもとへと飛んでいった。
しかしワクワクするあたしとは対照的に、お母様は渋い顔をしている。
「あのね、メイジー。お母様は、あなたの結婚が決まってほしいとは思っているのよ。でもクライン子爵という良い人がありながらお見合いをするのはどうかと思うの。その行為は、クライン子爵にもお見合い相手にも失礼ではないかしら」
お母様はクライン子爵とあたしが喧嘩別れをしたと思った際に、見合い相手探しで動いてくれた。そのときに見つかったのがストラウス伯爵令息だ。
しかし先日クライン子爵から大量のプレゼントが届いたことで、お母様はあたしのお見合い否定派になってしまったのだ。
とはいえ、先方が乗り気なこともあって今さらお見合いを断ることも出来ない、とあたしをお見合いに送り出してくれた。
これの何が問題かと言うと、お母様の懸念していることがすべて勘違いだと言う点だ。
「お母様。何度も言っているように、クライン子爵とあたしは何でもないんです。元子爵夫人が一人で盛り上がっているだけで、あたしたちの間で結婚の話なんて上がっていません。だからお見合い相手にもクライン子爵にも失礼なわけではないんです」
するとあたしの言葉を聞いたお母様が、困惑した様子でぽつりと呟いた。
「クライン子爵とは今のところ何でも無いけれど好意はもらっておく。つまり……クライン子爵はキープ相手ということ? 子爵相手によくやるわねえ」
「人聞きの悪いことを言わないでください!」
何がどうしてそうなる……クライン子爵からのプレゼントをちゃっかり受け取っているから、そう思われてしまうのかもしれないけれど。
しかしプレゼントを返却したらしたで面倒くさいことになるのは目に見えている。きっとクライン子爵は戻ってきたプレゼントをもう一回あたしのもとへ送ってくる。何度突き返されても、受け取るまで送ってくる。その様子が目に浮かぶようだ。
そのような無駄なことをするくらいなら、最初から受け取ってしまった方が、周りに迷惑を掛けずに済む。
そういった合理的な判断の上で、あたしはプレゼントを受け取っているのだ。
あと、ドレスもアクセサリーも綺麗だし。
「ねえ、メイジー。結婚相手を吟味したい気持ちは分かるけれど、二兎追うものは一兎も得ずと言うわよ。不義理が判明したら、両方から捨てられちゃうと思うわ」
「そんなことにはならない…………片方には捨てられましたけれど」
ストラウス伯爵令息からの手紙を開封すると、交際お断りの文言がオブラートに包まれた状態で並んでいた。
あたしの手紙を覗き込んだお母様が、自身の口元を押さえた。お母様は少し前に、他人宛ての手紙を勝手に読むのは良くないと言っていた気がするのだけれど、気のせいだろうか。
……って、今はそんなことよりも。
「どうして!? あんなに良い雰囲気だったのに!?」
今回ばかりは勝ったと思っていた。絶対に交際を申し込まれると確信していた。
それなのにふたを開けてみたらどうだ。丁重にお断りをされている。
「お断りの文言のあとにもいろいろ書いてあるみたい。『エバンズ男爵令嬢。交際相手がいる状態での見合いは推奨されるものではありません』……って、なにこれ!?」
お断りの文言でショックを受けていたあたしが手紙の続きを読むと、さらにショックな文言が並んでいた。
一方でお母様は納得したような顔で頷いている。
「ほら、言ったじゃない。不義理が判明したら捨てられちゃうって」
「だからあたしとクライン子爵は何でもないんですってば!」
あたしは交際お断りの文字が並んだ手紙をぐしゃりと握り潰した。




