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(1)
「ちょっとメイジー! クライン子爵から大量のプレゼントが届いたわよ!」
「大量って大袈裟な……うわっ、大量」
町で購入したものだけが届いたのかと思ったら、屋敷の前にはとてもそうは思えない量の箱が積まれていた。さらに色とりどりの花まで運ばれている。あの日は花屋に立ち寄ってなどいないと言うのに。
「メイジーはクライン子爵と喧嘩別れをしたと言っていなかった? この前のお出掛けと言い、普通に仲が良さそうに見えるのだけれど?」
大量の貢ぎ物を見たお母様は、クライン子爵があたしと良い関係なのだと信じて疑っていない眼差しをあたしに向けてきた。
そんな目を向けられても困る。この量のプレゼントは、あたしだって予想外だったのだ。
「婚約者に贈るような量よね、これは。実はそういう話が出ているんじゃない?」
「そんな話は出ていません! 婚約者どころかクライン子爵とあたしは付き合ってすらいないんですからね!?」
「でも仲が良くもない相手に、こんなにプレゼントを贈るかしら。お金の有り余っている公爵ならまだしも、相手は子爵だし……今のはメイジーが子爵家に嫁ぐのが嫌だという意味ではないわよ?」
お母様が要らないフォローを入れてきた。
そんなフォローをしてくれなくても、あたしはクライン子爵のところに嫁ぐ予定は無いから機嫌を損ねるわけもない。
けれど確かに、お金が有り余っているわけではないだろうにこの量のプレゼントを贈ってくるのは、お母様が勘違いをするのも当然かもしれない。
あたしがそんなことを考えていると、お母様が二枚の手紙を手に取った。
「あら。今回はメイジーだけではなくて、お母様に宛てた手紙もあるようね」
「クライン子爵がお母様に?」
「いいえ、違うみたい。クライン元子爵夫人、クライン子爵のお母様からね。お母様と年頃の子どもを持つお母様同士の交流をするつもりかもしれないわ」
お母様が自分のことを「お母様」と呼ぶせいで、若干ややこしい。
要するに、クライン元子爵夫人がお母様と母親同士の交流をしたがっているのではないか、と言いたいのだろう。
「でもどうして今さら。これまでは送ってこなかったのに……もしかしてクライン元子爵が、ついに元子爵夫人を抑え込めなくなったとか?」
前に、暴走しそうな元子爵夫人のことをクライン元子爵がなだめているという話を聞いた。
今日手紙が送られてきたと言うことは、クライン元子爵は元子爵夫人の行動を止めることを諦めたか、もしくはクライン元子爵の堤防を元子爵夫人が乗り越えてしまったのだろう。あたしにとっては厄介なことに。
ということは、あの手紙には元子爵夫人の暴走した内容が綴られている?
何が書かれているのか想像することすら怖い。
「お相手のお母様とは、お母様も仲良くしておきたいわね。感じの良い人だと良いのだけれど」
あたしの心中など知らないお母様が、呑気なことを言ってきた。
「クライン元子爵夫人のことを『お相手のお母様』と呼ばないでください! クライン子爵とは、付き合う予定も結婚する予定も無いんですから!」
「はいはい。それで、メイジーは元子爵夫人と会ったことがあるのよね? どんな方?」
「はいはいって……ええと、元子爵夫人は感じの良い方ですよ。かなり癖の強い方でもありますけれど」
癖の強さで感じの良さが消えてしまう程度には、癖が強い。
しかし変な先入観を与えてしまうのは元子爵夫人に悪いような気がして、あたしは中途半端な情報だけを伝えることにした。
「ふーん。手紙には何が書いてあるのかしらね」
「あの。何が書いてあるのか、あたしも知りたいです」
「でもお母様に宛てられた手紙を勝手に見せるのはねえ」
あたしが手紙の回し読みを頼むと、お母様が常識的なことを言ってきた。
しかしここで諦めるあたしではない。もしも手紙に結婚間近とでも書かれていたら、お母様の勘違いが強化されてしまうのだから。
「じゃあ音読! お母様がうっかり音読したものをあたしが聞いてしまったというのはどうでしょうか!?」
「そんなに手紙の内容が気になるなんて、やっぱりメイジーはクライン子爵のことが」
「違いますからね!?」
「そう? あっ、メイジーに宛てた手紙もあるわよ。クライン子爵から」
「ええー……」
嬉しそうなお母様から、あたし宛ての手紙が渡された。
当然プレゼントと一緒に手紙も送られているだろうとは思っていたけれど、いざ手にすると疲れが出てしまう。果たして何が書かれていることやら。
「メイジーったら、嫌そうなフリをしちゃって。素直じゃないんだから」
「フリではなく本心です」
「ふふっ。本当に嫌なら、メイジーは手紙を読もうとはせずにすぐに燃やすでしょう? それなのに今は自分宛ての手紙を大事そうに持っている上に、お母様に送られた手紙の内容まで気にしているじゃない」
「それは、変なことが書かれていたら困るから……」
「素直じゃない令嬢は可愛くないわよ。クライン子爵に可愛いと思われたいなら、素直にならないと」
「だから違うんですってば! もういいですっ!」
あたしは自分宛ての手紙だけを持って自室へと向かった。
後ろからお母様のくすくすと笑う声が聞こえてきたけれど、そんなものは無視だ、無視。
自室に入ったあたしは、さっそく手紙を開封した。
手紙には当たり障りのない時候の挨拶と、あたしに出席を頼みたいパーティーの詳細と待ち合わせ日時。それに少々の雑談が書かれていた。
ここまではいい。問題は手紙の最後に書かれていた文言だ。
「『追伸。今までは父が母の暴走を止めていたが、今後は誰も母を止めないと思ってほしい』……って、なによそれ!?」
意味が無いと分かっていながらも、手紙をにらみつける。
「元子爵が止めないなら、クライン子爵が止めればいいじゃない!」
この文言から察するに、クライン子爵には元子爵夫人を止めるつもりがない。元子爵夫人を止めなければどうなるか、想像できないわけでもないだろうに。
「まずい。お母様が読む前に手紙を回収しなくちゃ!」
あたしが急いで部屋から飛び出すのと、お母様の嬉しそうな声が飛んでくるのは同時だった。
「メイジー! 元子爵夫人の手紙に、近々クライン子爵が求婚状を送るだろうから良い返事をしてほしい、って書いてあるわよ! やったじゃない!!」
「……もう手遅れだったみたい」
あたしは痛む頭を押さえながら、とぼとぼと自室へ戻ることにした。




