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見合い情報の収集をブライアンにまかせている間に、俺も俺で動かなければ。
そう考えた俺は、さっそくエバンズ男爵令嬢を誘って町へと繰り出すことにした。
「あの……今日あたしはどうして町に誘われたのでしょうか。来てから聞くのもあれですけれど」
エバンズ男爵令嬢は自分が町に誘われた理由が分からないようで、困惑した表情を浮かべている。
親しい相手とは一緒に出掛けることに疑問を持たないだろうから、彼女の中で俺はそういう位置付けはされていないらしい。
それはそうだ。エバンズ男爵令嬢と俺は、会っても喧嘩をしてばかりなのだから。喧嘩をするのは不本意なのだが、なぜか彼女とはすぐに言い合いになってしまうのだ。
「今日あたしが誘われた理由を教えてはもらえませんか?」
だからエバンズ男爵令嬢がこういった疑問を持つことは当然と言える。
そのため俺は考えておいたもっともらしい回答を口にする。
「先日はこの町の良くない面を見せてしまったから、名誉挽回をしておこうと思ってな」
「わざわざそんなことをしなくても、今後あたしがこの町に近付くことはないと思います。うちの屋敷からはかなり遠いので、ここ」
確かにこの町は、エバンズ男爵邸からは距離がある。しかしクライン子爵邸からは目と鼻の先だ。
「今後は、そうではなくなるかもしれない」
エバンズ男爵令嬢が子爵邸で暮らすことになったら、この町へは頻繁に来るようになる。
……などと考えるのは、時期尚早だろうか。
「領地拡大を狙っているということですか?」
しかし当のエバンズ男爵令嬢は、何を勘違いしたのか見当はずれのセリフを述べた。
「そんな予定は無い」
「それでは……自身の治める町が社交界で悪く言われるのが嫌だということですかね? それならご心配なく。あたしはあえてこの町の悪い評判を広めようなんて思っていません」
そういう意味でもない。
もしかしてエバンズ男爵令嬢は察しが悪いのだろうか。もう少し俺の言葉の意味を汲んで、会話に反映させても良いだろうに。
「君は会話が下手だな」
「あなたにだけは言われたくないのですけれど!?」
俺の言葉を聞いたエバンズ男爵令嬢が、ムッとした顔で言い返してきた。これは彼女のよくする表情だ。
ムッとした顔を見慣れているのもどうかと思うが、俺のよく知る表情になった彼女を見て、笑みがこぼれてしまう。
「くくっ」
「……なんですか」
「いつもの調子が戻ってきたな、と思って」
「いつもの調子ってどういうことですか! あたしがいつも怒鳴っているとでも!?」
否定はしない。
そして俺はそんなエバンズ男爵令嬢を、悪くは思っていない。
「言いたいことを言わずにいるより、本音で話してくれた方が良い。本来の自分を見せてくれた方が良い」
「本来のあたしが、ずっと怒鳴るような人間性だと言うことですか!?」
「違うのか?」
「違……わないですね。あたしは怒鳴ってばかりだと思います」
ここまで言った彼女は、何を思ったのかしゅんとした顔になった。
「どうかしたのか?」
「……申し訳ありませんでした」
まさか彼女に謝られるとは思っておらず、面食らってしまう。
「何の話だ」
「この前、危ないところを助けてもらったのに酷い対応をしてしまったので。これでも反省したんです」
「なんだ、そんなことか」
「そんなこと!?」
そんなことは、そんなことだ。
エバンズ男爵令嬢が俺に跳ね返りのような態度を取るのは今に始まったことではない。だからそれに対していちいち腹を立てたりなどしない。
あのとき俺が腹を立てたのは、彼女が危険な行為をやめるつもりが無い、という点に対してだ。
「でも怒っていましたよね、あのときのクライン子爵」
「俺は、君が危ない真似を続けるつもりだという点を怒ったのであって、君の対応に腹を立てたわけではない」
「それは……」
今回も、エバンズ男爵令嬢はあの行為をやめるとは断言しなかった。
しかし見合いをしているということは、身を固める意思はあるのだろう。さすがに婚約相手が見つかったらやめるつもりだとは思うが、それまでの間にもう一度か二度はあの行為をするつもりなのかもしれない。
だがこの話を始めると、機嫌を損ねたエバンズ男爵令嬢が帰りかねない。だから今日はこの話題はやめておこう。
「エバンズ男爵令嬢、今日はその話をしに来たわけではない。一旦その話は忘れよう」
「は、はあ。ありがとうございます?」
エバンズ男爵令嬢は疑問形ながらも礼を述べると、今度は普通の雑談を始めた。
* * *
「あの、ここは」
「仕立て屋だ。この町で一番センスが良いらしい」
「そうではなく。あたしはどうして仕立て屋に連れて来られ、ドレスを選ばされているのでしょう。という意味です」
先程もそうだったが、エバンズ男爵令嬢は事が始まってから疑問を持つ性分らしい。仕立て屋に入った瞬間にするべき質問を、ドレスを着せ替えられてから述べている。
「なぜ仕立て屋でドレスを選ばされているのか? 簡単なことだ。仕立て屋に入らなければドレスを購入できないからだ。それともエバンズ男爵令嬢は、屋敷に仕立て屋を呼び寄せたいタイプか?」
「そういう意味ではなく。クライン子爵と一緒にドレスを買いに来ているという、今の状況に疑問を抱いているんです!」
「何を今さら。最初に話しただろう。この町の良いところを見せて名誉挽回をはかりたいのだと」
「それが、これ……?」
エバンズ男爵令嬢は自身に着せられたドレスを眺めながら、首を傾げている。
今彼女の着用している紫色のドレスは、彼女に似合ってはいるものの少し地味かもしれない。こういう場合はアクセサリーで華やかさを足すのが良いのだろうか。女性の装いには詳しくないからよく分からない。宝石店に入ったら、彼女が自分でそういった品を選んでくれるだろうか。
「この後は宝石店に立ち寄るつもりだが、他に見たい店はあるか? どんな店にでも連れて行こう。俺はこの町には詳しいからな」
「自分の治める町ですものね」
「それか疲れたなら一旦喫茶店に入るのも良いだろう。腹は減っているか?」
「いえ、訳が分からなすぎてお腹を空かせる余裕が無いと言いますか……長時間馬車に乗っていたので特に座りたくも無いですし……」
「それなら喫茶店は後回しにして、先に宝石店へ行こう」
うんうんと頷くと、俺はエバンズ男爵令嬢が元の衣服に着替えている間に、彼女が着用したドレスを購入して彼女の屋敷へ送る手配を済ませた。




