●22
ほら、かかった。
ラッセル伯爵がいやらしく口の端を上げながら、あたしとの距離を詰めてきた。
「そんなことはございませんわ。誰にでもこんなことはしませんもの」
「今のは、僕相手だからしたってこと?」
「うふふ。そのようにお受け取り頂いても構いませんわ」
妖艶な笑みを努めて浮かべる。
するとラッセル伯爵の手が腰に回ってきた。
「ここは少しうるさいから、二人で静かなところに行かないかい?」
「ええ、構いませんわ。バルコニーへでも行きましょうか」
「いいや、バルコニーは夜風で冷えるかもしれない。二人きりになれる別室へ行こう」
あたしは会場から出る際に、マイヤーズ伯爵令嬢に目配せをした。
あたしが別室に入ってから十五分後に部屋を訪れるよう、彼女には伝達済みだ。
きっとこっそりあたしたちのあとを追って、あたしたちがどの部屋に入るのかを見ておいてくれるだろう。
* * *
「君のような美しい女性と二人きりになれるなんて、僕は幸せ者だね」
部屋に入るなり、ラッセル伯爵が甘い言葉を囁いてきた。
なんだかすべてが早い人だ。
ハニートラップを仕掛ける前に勝手にハニートラップに引っ掛かってくるから、仕掛け人のはずのこっちが困惑してしまう。
「ありがたいお言葉ですわ。本当にラッセル伯爵はお上手ですこと」
「社交辞令じゃなくて、僕は本当にそう思ってるんだよ?」
そう言いながら、ラッセル伯爵があたしの腰を抱いて引き寄せた。
「君のこの薄紅色の唇を奪ってしまっても良いかな?」
うわっ。この男、あまりにも手が早い! かつてこんなにも手の早い男がいただろうか!?
マイヤーズ伯爵令嬢が部屋に入ってくるのは十五分後という約束なのに、このままでは十五分経過した頃にはドレスをはぎ取られていそうだ。
なんとか時間を稼がないと!
いつもとはまったく違う状況に混乱しつつも、冷静を装いながら言葉を紡ぐ。
「ラッセル伯爵。部屋に入るなり口付けなんて、あまりにも性急ですわ。あたし、まだそういう気分ではございませんの」
「では唇は、そういう気分にさせてから奪わせてもらおうかな」
「ちょ、ちょっと、ラッセル伯爵!?」
ラッセル伯爵がその場で屈んだと思ったら、あたしの背中と太ももの裏に手が回された。
「……へ?」
あたしが驚いた隙に、ラッセル伯爵はあたしのことを軽々と持ち上げた。いわゆる姫抱き、お姫様抱っこだ。
ラッセル伯爵はそのままあたしをベッドまで運ぶと、ベッドの上にあたしを下ろした。
そしてベッドに沈んだあたしの上にのしかかってくる。
「あの、待って、待ってください、ラッセル伯爵!?」
ちょっとちょっとちょっと! まだ十五分なんて全然経過していない。
十五分経たないと、マイヤーズ伯爵令嬢はこの部屋を訪れないというのに!
このままでは、十五分経過する頃にはあたしはドレスを剥かれるどころか、ラッセル伯爵に美味しく頂かれてしまう。
何とかして場を繋がなくては!
「あのっ! ラッセル伯爵には婚約者がいるとお伺いしています。こんなことをしても平気なのですか!?」
「へえ、知ってたんだ。知っててここまで来たなんて、君も遊ぶつもりってことだよね? あとくされの無い関係は僕としてもありがたいな」
ちっがーう!!
でもラッセル伯爵からしたら、婚約者のいる男性と別室に来たあたしは、そういう遊び人に見えるのか!?
「お互い遊ぶ気なら、何も気にする必要はないよね。さあ、婚約者に気付かれる前に、さっさと始めてしまおう」
「待ってください。こういうことには雰囲気が必要で……」
「すぐにそういう雰囲気になるさ。僕にまかせて」
ラッセル伯爵にまかせたら、あっという間にあたしの貞操が無くなるのだけれど!?
精一杯抵抗をしようとラッセル伯爵を押し返すものの、あたしの腕力ではびくともしない。
この伯爵、鍛えてやがる……!
「うん? 君はそういう無理矢理っぽい感じが好みなのかい? いいよ、それならその設定に付き合ってあげる」
ちょっとちょっと、変な理解を見せなくていいから!
ああもう、どうすればいいの!?




